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二十二話 誰

 キトゥガを出発して三日目の昼前、そろそろセンティードに着いてもいいのではないかという話をしながら馬を進めていると、辺りの景色が様変わりし始めた。これまで町や村以外ではほとんど見られなかった瑞々しい青葉がぽつぽつ地面から生えている。空気も乾いたものから適度に湿度を含んだものに変わったように感じられた。


「センティードが近いってことなのかしら」


 手を前に伸ばして空気を掴むような仕草をする。もちろん何の感触もないのだが、何となくそうしたかったのだ。


「そうなのだろうな」


 雷華の動作を真似てルークも皮袋から前足を出したものの、いかんせん短いためほとんど見えていない。


「ライカ、見えた」


「ようやく着いたのね」


 少し先を行っていたロウジュの声を受けて、伸ばしていた手を手綱に戻し、木蘭の腹を蹴って速度を上げる。すると、まだ前足を下ろしていなかったルークが、体勢を崩し皮袋ごと落ちそうになった。


「ごめんごめん、大丈夫?」


 皮袋を掴んで元の位置に戻しながら謝る。


「あ、ああ」


 頭を撫でると、ルークはぷるぷると首を振ってから頷いた。

 ロウジュの横に馬を並べ、彼の視線の先にある光景を見る。


「へえっ、大きな湖ねえ。それに大きな町」


 雷華たちのいる場所から先は緩やかな下り坂になっていて、町が一望できた。まず眼をひいたのが、町の中央を通っている川とその先にある湖。町の南側――雷華たちからみて左――にかなり大きな湖があり、そこに川の水が流れこんでいる。湖の周囲、およそ半分程度は林になっていた。町は湖の三倍ほどあり背の高い建物がいくつも建っている。イシュアヌで通ってきたどの町よりも立派だということが、遠目からでも見てとれる。ただ、川を挟んだ手前と向こうで、町の様相が異なることが少し気になった。


「なるほど、確かに栄えているようだな」


「そうね。あ、そういえば、ロウジュの住んでる町、えっと確かアフェ……アフェダリアだったっけ、には泉があるって言ってたよね。こんな感じなの?」


 湖を見てロウジュの故郷のことを、ふと思い出す。


「少し似てる……かも。泉はこんなに大きくないし、町の形も違うけど。見たい?」


 無表情な顔のままロウジュが小さく首を傾げる。


「ふふっ、ええ、機会があったら行ってみたいわ」


 顔と仕草がちぐはぐなことに、ぷっと吹き出しながら雷華は頷いた。


「案内する」


「ありがとう。あれ、ルークどうしたの。眉間に皺が寄りまくってるけど」


 ロウジュから視線を外してルークに眼をやれば、彼は苦虫を限界まで口に入れて耐えているような顔をしていた。


「……何でもない。早く行くぞ」


 指で眉間をつつけば、ぷいっと顔を逸らされてしまう。可愛いとしかいえない仕草に笑いを堪えながら、雷華は手綱を握り直した。


「はいはい。前見てないとまた落ちそうになるわよ」


 ぴゅいぃぃぃ、ぴゅいぃぃぃ。

 澄んだ鳥の鳴き声がする。空を見上げれば一羽の薄緑色の鳥が、湖の方に向かって気持ちよさそうに飛んでいた。




「貴方たち旅人? この町が初めてなら、宿は『碧玉へきぎょくの安らぎ』がおすすめだよ。湖を一望できるからね」


 センティードの町に入り、どうしようかと思案していると、青年が声をかけてきた。雷華たちの装いから、町の住人でないと判断したのだろう。

 宿の勧誘かとも思ったが、屈託のない笑顔を向けてくる青年に強引さは全く感じられない。純粋な親切心から教えてくれているようだった。ならば、素直に好意を受けようと、雷華は青年と二、三言交わし、宿の場所を尋ねた。


「南ね。ありがとう、行ってみるわ」


「川の向こうには行かない方がいいよ。あっちに住んでるのは、貴族と金持ちだけだから」


 青年は去り際にそう言って、人ごみに消えていった。

 なるほど。川を挟んで町の様相が異なるのはそれが理由だったのかと納得する。どうやら忠告をしてくれたらしい。元より貴族と関わり合いになるつもりもないが、手掛かりがあるとなればそうも言っていられない。青年の言葉を心に留めておこうと思いながら、雷華は木蘭の腹を蹴った。

 馬車も余裕ですれ違える広さの賑やかな大通りを、南に向かって進む。結構遠いなと思い始めたころ、目的の建物が見えてきた。

 青年が教えてくれたのは、湖のほとりに建つ赤色の屋根が特徴の宿だった。白い壁に太陽の光が反射して眩しい。


「『碧玉の安らぎ』……ここみたいね」


 扉の前に掲げられている看板に書かれている文字を読んで、教えられた宿に間違いがないことを確かめる。


「良さそうな宿だな」


 町に入ってすぐに皮袋から出てとてとて歩いているルークが雷華を見上げた。


「値段も良さそうだけどね」


 建物の横にいた馬番に木蘭と璃寛を預け、雷華たちは宿に入る。受付にいた女性に案内された部屋は、広く開放的で、心地良く過ごすことが出来そうだった。大きな窓からは湖が一望できる。

 青年に教えてもらって良かったと、顔をほころばせながら雷華は外套を脱ぎ、長椅子に腰を下ろした。 

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