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プロローグ
私にとって、それはいかにも不思議な感情に思われた。
たった一秒、刹那の時間だけで。
どこか懐かしく。
どこか恐ろしく。
説明のつかない感情。
ふと思い出した、以前読んだ本。
「桜の下にひっそりと、冷たい、無限の虚空がひろがっていました」
読んでいたときは全く何も感じなかった。でも今なら、少しだけわかる気がする。それはきっと、私が失ってしまった心の欠片。今、その欠片はどこからかやってきて、私のぽっかりと空いた隙間を少しだけ埋めてくれた。
……手伝おう、この人を。
蝉の「音」が響き渡る、夏の日の夕方。
私はそう、決めた。