魔法世界
プロローグ
世界が分離した時、魔力は、元々の世界以外にもいくつかに分散された。しかし、この世界以外の魔力は、全てファーザートムの中に吸収され、一般には広まらなかった。なぜ、そうなったかは、誰も知らない。
第1章 魔法とは
この世界、魔法世界の住民は、皆、多かれ少なかれ、魔力を有していて、それを利用して生活を成り立たせていた。この世界には、魔法の力を制御する事が出来ない人々も中にはいた。それを統制するために、作られた組織が、全世界魔法力統制委員会だった。12人の委員と2人の副委員長、それと、1人の委員長、計15名の委員によって構成されている、魔法関連の最高機関だった。全ての魔法に直接関連する法令は、この委員会でしか審議できない事になっていた。その委員長でもある、トム・ラナイツクは、この世界で最も魔力が高い人と言われていて、事実、そうであった。彼の一存は、世界を変える力を持っており、それゆえ、彼は、基本的に寡黙を好む男だった。
彼は、数十年前に、家族を持った。10年前、ようやく生まれた第1子。娘である、ジアス・ラナイツクは、彼同様に、魔力が非常に高かった。唯一、低い(と言っても、世間からみれば、相当高い)のは、トムの妻だけだった。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
娘が、家の廊下を走って、トムを迎えに来る。
「あなた、お帰りなさい」
妻が、ゆっくりと歩いてくる。
「ああ、ただいま」
家の中に入ると、ソファーに座り、夕ご飯を食べた。
「いただきます」
そして、食べ終わると、決まって、娘と遊んだ。
今日は、テレビゲームだった。2人1組でするオンラインゲームで、それぞれの実魔力が、ゲームの中のキャラの魔力に反映される仕組みだった。実際の魔力で、ゲームをすると、二人とも、向かうところ敵無しだった。
それを30分ぐらいしてから、再び、トムはソファーに座り、ニュースを見始めた。ジアスは、そんなトムを見ながら、ソファーの目の前に置かれている机で、学校の宿題をし始めた。時々、分からない問題が来ると、トムに聞いたりしていた。
第2章 ファーザートムの真実なる姿
翌日。トムは、出勤する時に、娘を連れていくことにした。本日は、学校の社会科見学会の日で、娘をはじめとして、さまざまな小学校からの見学者が来る日でもあった。トムは、全世界魔法力統制委員会委員長として、施設を案内する必要があった。
「さあみんな。自分についてきてね」
トムは、子供達をつれて、あちこちの施設を案内していた。その道順の中に、ファーザートムの部屋があった。
「この部屋は、この世界の魔力を司っていると言われている、ファーザートムがいる部屋なんだ。彼は、自分が所属している全世界魔法力統制委員会の委員の一人でもあるんだ。世界の魔法の制御をするために組織された、統制委員会の下部組織の、反社会的魔法使用者懲罰部隊の隊長でもある……」
その時、部屋の中央に置かれている機械から、光が放出された。そして、それは、1人の人の形を作った。
「トム・ラナイツクか…」
「ファーザートム。どうしてここに?」
生徒達は、その光景を写真におさめようとして、カメラを、ファーザートムに向けた。その瞬間、カメラは、機能不全を起こして、一時的に故障した。
「お前がいると言う事は、今日は、社会科見学の日なんだな」
「そうだよ。そうだ。ファーザートムから、この施設についての案内をしてもらえるかな?」
「別に構わんが、お前はどうするんだ。自分は、お前に用があって、ここに出てきた」
「なんで、自分に?」
「お前が、選ばれたものだからだ。ジアス・ラナイツク。前へ出てきてくれ」
ジアスは、ファーザートムに言われて、恐々と出てきた。
「で、何の用なんだい?さっさと、この案内を終わらせないと、仕事にも入れない。もっとも、これも仕事の一つだけどね」
「大丈夫だ…この世界では5分ほどしか時が過ぎないだろう…」
その時、ファーザートムが現れた時のように光が、トムとジアスを包んだ。
「なっ!」
トムは、最後の瞬間、聞いた。
「ファーザートムよ、これは一体何なのだ!」
「行けば分かる…往けば変わる…いけば知る…」
そして、音も無く、光は何かに吸い込まれるように消えた。
光が再び現れたのは、ファーザートムの言ったとおりに、ほとんど5分後だった。
「どうだった?」
ファーザートムは、トム自身に聞いた。
「ええ、大体分かったぞ。世界、ファーザートムの存続、そして、第5世界の神、スタディン神」
「やはり、憶えたか」
「憶えざるを得ないさ。あんなにあちこちに、宗教が生まれていて、さらに、戦争を繰り返ししているんだから」
「過去も未来も、人間のする事は変わらない。お前達も、それを知っただろう?」
ジアスの方は、身長がグーンと伸びており、トムよりも高いように見えた。体格的には、高校生と言われても問題はないだろう。
「結果的には、お前達は、未来を見た事になる。しかし、それはそれ。この世界の未来ではない。あの世界の未来は、この世界とは異質なものになる…」
「あそこの空気自体に、魔法を使うための物は入っていなかった。そう言う事?」
ジアスは、ファーザートムに言った。それに対して、トムが言った。
「そう言う事だが、それでも、力があれば、それも、精確に使える力があれば、魔法は使える。現に、自分達も使えただろ?」
「あ、そうか…」
身長が伸びたジアスは、他の人たちに比べて、頭二つ分ぐらい飛びぬけていた。それでも、彼らは、受け入れていた。それが、この世界の定めなのだ。
エピローグ
トムが、家に帰ると、妻が、ジアスの姿を見て表面上は冷静にしようとがんばっていた。トムは、妻に対して、こうなった経緯を話した。妻は、ため息を一つついて言った。
「なるほどね。つまり、別世界に飛ばされて、トムは、そのまま7年弱ほど過ごしたって言う事ね」
「簡単に要約するとそう言う事だな」
「…分かった。とりあえず、寝ましょ。もう今日も遅いですし」
そして、その後も、彼らは、どうにか結婚生活を運営していったそうだ。世界は、この世界も、何事も無く、受け入れる心がある人が選ばれたからこそ、世界は平穏のまま、続けられていた。何事も無く、何事も起きない。それこそが、全ての人が願う最上の願いではなかろうか。トムは、そう考えながら、眠りについた。