甘い関係……?
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ピッ
「三谷の馬鹿……何で出ないの!」
街路樹がおおい茂るなか、真夏の積乱雲とともに待ち惚け。
それもその筈。相手はあの三谷収蔵――もとい、本名・三谷金治郎なのだから。
三谷収蔵は僅かデビュー一年でベストセラーを出した今話題のミステリー作家であり、我が社『幸読社』の期待の星。私は『幸読社』の編集担当だ。私が編集する本の内、既に五冊はベストセラーである。社内での実績も上昇中だ。
三谷は、二十五と若く、そのルックスはスタイル・顔共に抜群なため、女性からも多くの指示を受ける。
……が。奴の性格は最悪!口癖は
「ダルい」
。この口癖が出ると、全く作業したがらなくなり、いつも私は困り果てるのだ。そのせいで、雑誌の連載を中止されたこともしばしばある。
お陰で同じ年ってだけでこの一年間ずっと担当をしてきた私は色々と苦労を強いられている。
社内でも同情の眼差しで見られるようになった。
「あぁ、もういや……何で三谷はこうなの?売れてなくても同期の正人君のほうがまだ良い人だよ」
ミーンミーン……少しの沈黙。蝉の声が尚、背中の汗を思わせる。
「それは難儀だな」
突然、その涼しげな声が私の鼓膜をくすぐった。
「難儀すぎ。もう辞めたい」
それが何とも露知らず、凛とした声で三谷を罵った。涼しげな声は続けた。
「働きどころがなくなるぞ。お前は出版社が一番良い」
「そうかな……って三谷!いつから居た!?」
後ろには声同様涼しい顔で腕を組む三谷。
「最初からいた」
「……も」
なんとかしてよ。背中にかいた汗が、嫌な感覚と共に落ちた。
「もうコイツやだぁぁぁあ!!」
この日、この通りにいた人々は西村頼の奇声を聞いたとか聞かないとか。
散々三谷は私を待たせた挙げ句、場所は三谷のマンション。三谷は時々……否毎回といって良いほど、私が来るとファミレスにいきたがるのだが。
いくらいくつものベストセラーを生んだ担編集当でも新人の私と違い三谷はベストセラー作家そのものなため高級マンション住まいだ。
「……いつきても何もない部屋」
「そこにデスクと観葉植物がある」
いや有るけど。なんというか、夏と言う今の季節に合うくらいサッパリしてるとか、冬来たときはそう言えばソファあったなとかそう言う問題じゃない。
まぁいいわ。原稿取りに来ただけだしね。
「それで、原稿は?」
ニッコリ笑って見せた。
「……まだ」
更にニッコリ
「原稿は?」
更にニッコリ……!
「……まだ」
「聞こえてますか?三谷金治郎さん。げ・ん・こ・う・は?」
三谷の担当になってから、私は微笑む事で相手にプレッシャーをかけるを覚えた。
「……クク。見飽きると頼の微笑みも怖くない」
「えっ」
なにこいつ……でも三谷はハナから怖がってる感はなかったけど。
「……あぁダルい」
「でたー!」
先程話した様にこの『ダルい』が出ると三谷金治郎と言う男はまるでヤル気を起こさないのだ。
「頼」
それとコイツは私を下の名前で呼ぶ。好意なのか否か。……それとも上から目線なのかな?
「何よ」
私は観葉植物を諦めたようにつついた。
「俺は今から買い物に行く」
「はぁあ!?」
いきなりなんなの。
「前からほしかったマウス買うぞ。着いてこい」
「ええっ……ちょ」
西村頼、それでも頑張ります。
そしてなぜか三谷と共に街にいる私。
「頼、見ろ。この万年筆なかなかのデザインだな」
黒に美しい彫刻が施されているそれは、光沢を放っている。
「はぁ」
万年筆を良く知らない私は興味を見せるそぶりもしない。三谷は、そんな事はお構い無しに手に取った万年筆を誉めた。
と言うか、マウス買うんじゃ……? とかツッコミたかったけど、どうせ『気分だ!』とか熱弁されても(経験済み)困るし、ツッコまなかった。
日頃から万年筆を愛用する古風スタイルな三谷は繁々とそれらを品定する。その目はまるで玩具を品定する子供だ。
不覚にも、可愛いと思った。顔はまぁ、認めたくはないけど綺麗だしね。そんなんが一生懸命に万年筆を眺めて真剣に悩んでる。買う筈のマウスも忘れて。
要するに、コイツは衝動買いするタイプなんだろう。見つめてみると、やっぱりカッコイイ横顔。
不意に三谷が私の視線に気付き、顔を上げた。
「?」
そんなキョトンとした可愛い顔しないでよ。ちょっと、ドキドキしてしまう。今流行りの、ギャップ効果。クールな三谷は実は可愛い部分もある。
「なんだ、俺に惚れたか?」
普通の人が言ったら興冷めなセリフもコイツが言うと様になるからいけない!
「んなわけ……んなわけ……」
しかも私、満更でもなくも……なかったり。で急にはほら! 戸惑うし!
「クク、お前はつくづく俺の嫁にぴったりだな。おい、俺の嫁になれ」
「え?」
い、いきなりすぎない?戸惑う私を三谷は愛しい者を見る目で見つめた。
うぅ……ノックアウトゥ!
「解らないのか?一応、プロポーズと言うやつだ」
わかるから戸惑ってるんです! とか言いたいのに言葉にならない。
そんなこと言いながら、アイツはポケットに手を入れてあるものを取り出す。
「エンゲージリング、受け取ってもらえるか?」
早すぎだよ……!で、でも……
「……はい」
そうだ。今頃気付いた。
本当に君が凄く好きな事に。そして私はそんな君がといる時間が一番好きだってこと。
私達の関係が甘いと言うかは知らない。でも、結婚の理由を話す度に、甘ったるいと言われるのは事実だったりする。
おわり
読んでいただきありがとうございました。
あまりたいしたことない話でしたが、キャラの個性を目立たせた小説のつもりですので、キャラが好きになっていただけたなら、幸いです。
尚、私が松原志央として投稿する作品はこれが最後です。
事情があり、名前を変えさせていただきます。
小説は残しておきますが、松原志央としての作品はこれが最後です。今までありがとうございます!
また別の名前でテーマ小説に参加させていただきます。