第2話:【解説】投げ銭(スパチャ)は異世界の万能薬!?と、うるさい神様
ドラゴンが光の粒子になって消え去った平原で、私のスマホ――いや、異世界配信用にバグった私の配信端末は、スパチャの通知音をけたたましく奏で続けていた。
パラララ、ピコーン、ピコーン!と、途切れることのない電子音が草原に鳴り響く。
▶:『生存報告で脳汁ドバドバ出たから赤スパ投げるわ』
▶:『本当に生きててよかった。これで今週仕事頑張れる』
▶:『てかあの爆発、まじでどうやったの? 最新のARグラス?』
画面の上半分が、赤や黄色のカラフルな投げ銭で埋め尽くされている。
すると、私の体にじわじわと温かいエネルギーが染み込んできた。
ドラゴンに吠えられたときの鼓膜の痛みや、立ちっぱなしの足の疲れが、一瞬で綺麗さっぱり消えていく。
[システム:ギフティング・ヒールにより、ろいでの体力が全回復しました]
「あ、体がめっちゃ軽い。みんなスパチャありがとー! なんか投げ銭されるたびにHPとMPが回復するみたい。コスパ最強のドリンクバーかよ、この加護」
『ノリが軽いねぇ、ろいでちゃん! でもそれこそが僕の神権の真骨頂さ!』
ヘッドホンから、脳を直接揺らすようなテンションの高い声が響く。
無駄に耳に心地よいイケメンボイスなのだが、言葉の端々から漂うウザさが隠しきれていない。
『君のリスナーが放つ「熱狂」は、僕の神権を通じてすべて君の魔力や身体能力にダイレクト変換される。つまり、バズればバズるほど、君は文字通り「神」に近づくってワケ! ちなみに今ので君のライバーレベルが2になったよ! はい拍手! パチパチパチパチ!』
「はいはい、ありがと。てかりーくん、耳元で拍手されるとシンプルに耳障りだから音量下げていい?」
『冷たい! 歌姫が僕に対して氷点下の対応だよ!? そもそも僕は表現と芸能の神、いわば最高責任者だよ!?』
▶:『なんかヘッドホンから変な男の声聞こえん?』
▶:『ボイチェン使った運営の悪ノリ?』
▶:『声は無駄に良いのに、絶妙にうざそうなキャラしてて草』
▶:『りーくんって誰やwwwwww』
「あ、リスナーのみんなこれ? なんか「表現の神」を自称する、見た目がすっごいうるさいお兄さん。私のヘッドホンに居ろ居ろ居座ってるから、みんな「りーくん」って呼んであげてね。衣装の情報量が多すぎて目がチカチカするタイプのお兄さんだから」
『誰が見た目うるさいだ! このアシンメトリーなメッシュのこだわりと、ネオンベルトを交差させた黄金比率を今すぐ3時間かけて熱弁してあげようか!?』
「あ、いいです。てかさ、このスパチャの回復機能、ちょっと気になるから検証してみよっか」
私はカメラに向かって人差し指を立てた。
「みんな、今私のMP〈視聴者熱狂度〉がちょっと減ってるから、試しに一番安いスパチャ、100円のやつ投げてみてくれる?」
▶:『お、検証配信助かる』
▶:『100円でいいなら俺も投げるわ!』
▶:『はい、お賽銭チャリン』
――ピココン!
画面に青い100円のスパチャが灯る。と同時に、私の足元に「ぱちっ」と小さな静電気のようなピンクの火花が散った。MPが「1」だけ回復する。
「あ、なるほどね。100円だと足元で線香花火が爆発するレベルのショボいエフェクトなんだ」
『ちょっと待って! ろいでちゃん! 僕の神聖な神権をそんな実験動物みたいに扱わないで! スパチャの金額は僕への信仰心だよ!? 100円は低カロリーすぎるよ!』
「へー、じゃあさ。リスナーのみんな、今からりーくんが「うざい」って思ったら、一斉に100円スパチャ投げてみて」
▶:『了解wwwwww』
▶:『うざいから投げるわwwwww』
▶:『りーくん弾幕いくぞおおおおお』
『え? ちょっと待っ――』
次の瞬間、画面が真っ青に染まった。
ピコピコピコピコピコピコンッ!!!
狂ったような速度で100円スパチャが連射され、チャット欄が完全にバグる。
そして、私の頭上のヘッドホン(りーくんの依り代)の周りで、さっきのショボいピンクの静電気が、一斉に「バチバチバチバチバチッ!!!」と大爆発を起こした。
『ぎゃあああああああ!? 痛い! 痛くはないけど、耳元でクラッカーを1万発連続で鳴らされてるようなうるささだよこれ!! 脳がデジタルノイズでゲシュタルト崩壊するぅぅぅ!! ごめんなさい! 僕が悪かったです! ストップ! ストッーープ!!』
「あはははは! 頭の周りで花火大会始まってて草。みんなナイススパチャ!」
▶:『りーくんの絶叫きもちええええええ』
▶:『100円で神様を物理的にいじれる配信ここですか?』
▶:『スパチャの弾幕で神が蜂の巣になっててワロタwww』
「よし、りーくんのお仕置きも済んだところで、ミュートにするね。カチッと」
『ちょっ、まっ……』
頭上のステータス画面の隅っこで、りーくんの音量ゲージが「0%」のまま激しく上下しているのを無視して、私は前を向いた。
ずっとこの緑一色の平原にいても配信の「画」が変わらなくて、せっかくの視聴者が退屈してしまう。ストリーマーたるもの、常に画面は新しく、面白くなくてはならない。
「よし。それじゃあリスナーのみんな、まずはこの世界の「街」ってやつを探しに行こっか。初上陸の異世界観光配信、スタート!」
私はりーくんのミュートを少しだけ緩め、音量を5%に設定した。蚊の鳴くような声なら許してあげる。
『……うう、ひどい目に遭った……。でも、それならあっちの方角に大きな人間の街があるよ……。ちょうどギルドとかいうやつがあるんじゃないかな……』
「りーくん、珍しく有能。じゃあそっちに進みまーす」
平原を歩き出す私の頭上を、半透明なドローン型の神のカメラがふわふわと追いかけてくる。
1000万人のリスナーと、見た目はうるさいけれど少しだけ役に立つ神様を頭に乗せて。
私の異世界サバイバル配信は、これからもっともっとバグっていく。
(つづく)
【作者より】
ご視聴ありがとうございました!100円スパチャの弾幕で蜂の巣にされる神、爆誕です(笑)
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★次の第3話は、このあとすぐ【12:37】に配信(投稿)予定です!




