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ロッキー恐竜狩猟組合  作者: 園山 ルベン


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8/8

報告

 ドアをしつこくノックすると、ウィリアムソン社長がやっと顔を出した。そしてわたしを見るなり、明らかに顔をしかめた。


「大丈夫か?」

「怪我したのはわたしじゃないから、心配しないで」

「腕を吊り下げているから聞いているんだ。しかも血まみれじゃないか」

「もう遅いから、シャワーする前にこれを渡したほうがいいと思ってね」


 左手で損害補償の申込書を手渡す。急いで仕上げたから、誤字があったりするけど、勘弁してもらおう。

 誰か雛形になるファイルを移動していたから、共有フォルダの中を探し回ったりしていた。おかげでもう夜9時。


「あー、……ありがとうな。綺麗さっぱり角竜がいなくなった。あんたのおかげだ。仕事が早くて助かるよ」


 夕方まであんなに怒っていたのに、いざ問題が片付くと、他人行儀。必要な時にだけ頼られて、期待に応えられないと罵倒される。慣れたものだ。 


「わたしの目測だけど、だいたい200ヘクタールくらいがやられてる。細々した被害はもうちょっとありそう。大豆1トン当たり80でどう?」


 被害に対する保証は、販売価格よりいくらか安めに交渉してみる。さすがに恐竜の食事代をまるまる払うのは馬鹿馬鹿しい。

 値切ったのは事実だけど、ウィリアムソン社長は頷いた。


「仕事を一日の内に終わらせたんだ。それくらいでいい。役所よりは対応が早いからな」


 うちも役所みたいなもんだけどね。



 社長に「おやすみなさい」と挨拶を済ませ、トラックに戻ると、荷台でオストロム君がアンバーに餌付けしていた。


「それはご褒美かしら?」

「ご褒美って。こいつセントロサウルスを1頭も追い払えなかったのに」

「駄目よ? この子だって頑張ったんだから、ちゃんと努力には応えてあげないと」


 鞄から、ランベオサウルスのジャーキーを取り出し、オストロム君に差し出す。


「干し肉なんていつ用意したんだ?」

「事務所に戻った時、この子のために取っておいたの」


 消費期限が迫っていたのは内緒だ。売店の売り物だったけど売れず、どうせ処分するなら、アンバーのような相棒恐竜にあげたほうがいいだろうと思ったまでだ。


 オストロム君がジャーキーをアンバーの口先に放ると、パクッと食いついた。でもあまり好きじゃなかったのか、仕方なく食べるという態度に感じた。ちょっと飲み込むまで時間があった。

 商品の改善をしないと。どうしたら食いつきがよくなるかな。


 オストロム君が何か言いたそうにわたしの顔を見つめる。


「どうしたの?」

「また仕事のこと考えてるんだろ」


 溜息混じりに彼は言った。


「これでも楽しんでるのよ?」

「俺には無理だ。机に座っているよりも、恐竜を相手しているほうがよっぽど楽だ」


 オストロム君の肩を叩きながら、ちょっと得意げになって諭す。


「本気になれば、なんでも楽しめるわ。さっ、帰るよ」



 オストロム君に運転を頼んで、トラックの荷台から飛び降りる。三角巾で吊った右腕がピリッと痛む。


「明日に持ち越したくない仕事があるから、早めに頼むわ」

「今日はもう休めって」


 アンバーは利口だから、走っているトラックから飛び降りたりしない。

 オストロム君はアンバーを荷台に乗せたまま、運転席に乗り込む。


 走り出してすぐに、無線機が鳴る。

 こんな遅くに何かな?


「組合長! 穀物庫が荒らされています!」

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