組合長
狩猟組合の穀物庫を回り込むように探していたが、ようやく痕跡を見つけた。
「オロドロメウスね」
大型犬が掘ったような穴が、壁の下をくぐるようにあった。
「なるほど、壁も扉も壊されていないのに、どうやって入ったのかと思っていたけど、あの子たちならこれくらいできるわよね……」
「アイリーンさん、ドロマエオサウルスの可能性はないんですか?」
「鈴木君、肉食恐竜が小麦を食い荒らすの?」
「……そうですよね」
たまたま狩猟依頼の掲示板とにらめっこをしていたハンターに頼んで、一緒に来てもらったけど、思った以上に新人だった。
動きには芯があって見込みはありそうと思っていたのだけど、これでは拍子抜け。
でも困った。
オロドロメウスはこうして作物を食い荒らす害獣だけど、数が多くてただ狩るだけではキリがない。
だからこういう時は電気柵や壁の補強で対策する訳だけど――。
「お金が足りないわ……」
「まあ、採算が取れていないですから――」
「あなたたちが大物を獲ってこないからでしょ?」
「うぐっ――」
鈴木君に当たるのは悪いけど、実際そうだ。
せめて大型の角竜くらい狩ってくれるハンターがいれば、狩猟組合としても依頼が入りやすくなる。
でも悲しいかな、最近は危険な仕事を請け負うハンターがいないのだ。ランベオサウルスやパラサウロロフスやコリトサウルスなど、狩りやすい恐竜ばかりを狙うのだ。あの子たちは群れで移動するが危険な地帯には近づかない。だから天敵たる人間に大きな危害を加えないはずだ。
本当に取ってきて欲しいのは頑固な角竜やオルニトミムスなどの小賢しい恐竜だ。
頭が痛い。
わたしが若い頃は、もうちょっと骨のあるハンターがいたのだけど、大型獣脚類に襲われ、命を落とすハンターのニュースが続いてしまって、狩猟組合に批判が集中するし、新規入会者が目に見えて減った。
あーあ、もうちょっと経験のあるハンターが来ないものかな。ゴビ支部とか凄く人材が豊富だし、アンデス支部も最近調子がいい。
それなのに、ロッキー支部としては、捕獲数が減っているのだ。この辺りの農家も、狩猟組合を信頼していないからか撤退しているところもある。
肝心の害獣になる恐竜を撃退できていないからだろうな。農作物が荒らされて、採算が取れないのだろう。
「さて、手伝ってくれてありがとう。ビールくらい奢るわ」
とりあえず、鈴木君に手伝ってもらって空いた穴を鉄板で塞いだ。まあオロドロメウスなら平気でまた穴を掘るだろうけど。食べ物の在り処を知ってしまった訳だし、少し駆除しておかなきゃ。
「あー、ダメっす。午後から狩りするつもりだったんですよ。冬になって恐竜がいなくなっちゃう前に獲っておかないと」
「あら、真面目ね。1杯くらいなら、大して判断鈍らないから大丈夫でしょ? 昔のわたしならいけるわ」
「スピノサウルスを倒しちゃうような女傑に敵いませんって……」
「あれはシュトローマー君と二人がかり。それに、図体は大きいけど、スピノサウルスってちょっと抜けてるから――」
スピノサウルスは基本的に魚しか食べない子たちではあるけど、人の味を覚えてしまった16メートル級の個体がいて、なんとしても駆除しないといけない事案があった。 水の中に潜ることもあるスピノサウルスを捜索するのは本当に苦労した。川の中から襲われるかもしれないから、深い水には近づけないし、ましてや船なんて使えないから、何日もかけての捜索。その間に行方不明者も出るし、散々だったな。
まあ結果的に、不器用なスピノサウルスは見つけてしまえばすぐに倒せた。こう、喉をスパッと。
「抜けてるって、パワーはすごいでしょ? 表皮も硬いし……」
「確かに硬かったわね。わたしが前線から退く遠因とも言えるわ」
スピノサウルスの前足の爪を避けつつ首を切りつけた時、体勢が悪かったのだろう、肩を痛めた。
それから大剣で戦うのが辛くなり、後方に回ることになった。
鉄砲で戦うことも考えたけど、わたしには合わなかったし、あれは効率が悪い。
恐竜の生命力は凄まじく、銃弾で空くくらいの穴では死なないのだ。思いっきり切りつけるか、重火器を使わないと倒せない。例え頭を切り落としても身体のほうがしばらく暴れるしね。
穀物庫が荒らされていたという事件は応急的に解決した。
鈴木君はやはり酒も飲まずに狩りに出かけた。
鉄柵で囲まれた基地の、重厚な鋼鉄の扉は、さながら戦時中。でもここまでしないとパキリノサウルスとか角竜たちの突進を食い止められない。
門番と挨拶を交わし、まるで公民館のような建物に入る。
一階の酒場では朝から酔っ払いがたむろしている。早く狩りに出かけろ。いや、あんなに酔っていたら逆に事故のもとか。まったく。
近隣集落からの依頼を張り出す掲示板は、コルクボードが大きく見えるくらいにスカスカ。で、残っているのは皆大物を駆除してくれという切実な要望。セントロサウルス、パキリノサウルス、ゴルゴサウルスなどだ。
でもわたしにはもっと厄介な駆除対象がいる。
二階の事務所に上がり、事務机を見てみると、書類の山が雪崩を起こしている。
「ホーナー組合長、先月のスワード農場の損害賠償の件ですが――」
既に山積みだった書類に、また分厚い資料が追加される。
いつからか、肉体労働者だったわたしは、管理職になってしまったようだ。




