第13章 国会の修羅場(6)2031年8月25日 月曜日 午後2時
◆ 2031年8月25日 月曜日 午後2時
◇ 国会議事堂 衆議院厚生労働委員会
委員会室は報道陣で溢れていた。年金改革法案の詳細審議が始まろうとしている。
委員長の議事進行で、野党筆頭理事の質疑が始まった。共立党の神崎龍馬議員、50代のベテランだった。
神崎議員が質問をはじめる。「まず、年金任意減額制度について伺います。富裕層優遇ではありませんか?」
志茂野は振り返った。「これは政府への融資に20%のプレミアムを付けた制度です。減額分の1.2倍を相続税控除に加算。富裕高齢者から次世代への資産移転を促進します」
「つまり、金持ちを優遇する制度だと」
「逆です」志茂野は断言した。「富裕高齢者に年金を自主返納してもらい、その資金を現役世代の負担軽減に充てる。これは究極の世代間再配分です」
「しかし、アパート経営などで十分な収入がある高齢者限定の制度では?」
「その通りです。年金を使い切れず貯金が増え続ける層が対象です」志茂野は資料を示した。「例えば年金月額20万円を10万円に減額すれば、年間144万円の相続税控除が追加されます。10年で1,440万円。これは本人ではなく相続人への恩恵ですが、世代間の資産移転を促進します」
神崎議員が核心に迫る質問に移る。「大臣、そもそも基礎年金を廃止するということは、国民皆年金制度の終焉ではありませんか?」
委員会室に緊張が走った。
「神崎議員、重要な指摘です」志茂野は正面から答えた。「確かに賦課方式の国民皆年金は終わります。しかし、全国民が年金移行債という形で個人年金口座を持つ。これは新しい形の皆年金です」
「詭弁だ!」野党席から怒号が飛ぶ。
「現行制度こそが詭弁です」志茂野の声が議場に響いた。「払った保険料がどこに消えたかわからない。もらえる額も時期も不透明。これが本当に年金制度と言えますか?」
神崎議員が反論する。「しかし世代間扶助という理念が—」
「世代間扶助は美しい理念でした」志茂野は遮った。「人口ピラミッドが正常だった時代には。しかし現実を見てください。1人の若者が1人の高齢者を支える肩車社会。これは扶助ではなく搾取です」
「搾取とは何だ!」野党席から怒声が上がる。
神崎議員が声を張り上げた。「大臣!今年金を受給している高齢者は、40年、50年と真面目に保険料を払い続けてきた方々です。その方々への年金を『搾取』と呼ぶのですか?」
議場が騒然となった。与党席からも困惑の表情が見える。
志茂野は冷静に答えた。「言葉が不適切でした。訂正します。ただし、事実を申し上げます。現在の高齢者が払った保険料は、その時代の高齢者への給付に使われました。貯蓄されていません。これが賦課方式です」
「それの何が問題なのですか?」
「問題は人口構造です」志茂野はグラフを示した。「1970年、現役世代10人で高齢者1人を支えていました。2030年、1.8人で1人を支える。これは制度設計の想定外です」
神崎議員が畳みかけた。「では、今の高齢者を見捨てるというのですか?年金を奪うのですか?」
「奪いません」志茂野は断言した。「既受給者は現行通り受給を継続できます。さらに年金任意減額制度で、富裕高齢者には自主的な返納をお願いする。強制ではありません」
委員会室が騒然となった。野党席から罵声が飛び交い、与党席からも困惑の声が漏れる。傍聴席の記者たちが一斉にメモを取り始めた。
委員長が木槌を連打する。「静粛に!静粛に願います!このままでは審議を中断します!」
騒然とする中、神崎議員が深呼吸をして質問を続けた。時間も限られている。次の論点に移らなければならない。
神崎議員が話題を変えた。「では、年金移行債について伺います。大臣、年金受給権は国民の財産です。20-64歳の国民を強制的に年金移行債に移行させるのは、憲法第29条の財産権侵害ではありませんか?」
志茂野の表情が一瞬硬くなった。
「お答えいたします。年金受給というのは、従前より支給開始年齢、支給水準等を法に則り改定してきたものであり、一般的な財産権に当てはめて論じることは必ずしも適切ではありません」
志茂野が額の汗を拭う。
神崎が畳みかけた。「大臣は以前、不動産業を経営されていたと聞き及んでおります。そこで伺います。あなたが誰かに土地を預けていた。そうしたら勝手に売却されて現金で返ってきた。それと同じではありませんか!」
野党席から「そうだ!」の声が上がる。
志茂野が言葉に詰まった。「…土地と年金制度を同列に論じるのは…」
「国民が40年間『年金』に投資してきたんです。それを勝手に『年金移行債』に変えるのは、まさに財産権の侵害だ!」
委員会室が騒然となる。志茂野の額に冷や汗が光る。初めて志茂野が答弁に窮した瞬間だった。
「……憲法違反とのご指摘は当たらないと考えますが、ご指摘の趣旨は理解いたします。移行にあたっては、国民の理解を得られるよう丁寧な説明を心がけます」
神崎が満足そうに頷いた。一矢報いたという表情だ。
「では次に、インフレ連動で年3%上限とのことですが、実質価値の目減りリスクは?」
「良い質問です」志茂野は資料をめくった。まだ動揺が残っている。「年金移行債は確かにインフレ連動型です。しかし、従来の賦課方式では、インフレが起きても給付額の調整は政治的に困難でした。今回の制度では、個人の選択で私的年金ファンドの成長投資型に振り替えが可能です」
「成長投資型への振り替えは金融機関の審査次第とのことですが、これは新たな格差を生みませんか?」
志茂野は首を振った。「最低10%は無条件で振り替え可能です。さらに、年金個人口座『ライフマネー』システムにより、自分の資産状況が常に把握できます。透明性が確保されています」
「しかし、運用リスクを個人に転嫁することになりませんか?」
「現行制度では、少子高齢化リスクを全員が強制的に負っています」志茂野の声が響く。「新制度では、リスクとリターンを個人が選択できます。これが本当の自己責任です」
神崎議員が質問を切り替えた。「では次に、厚生年金保険料の出生数連動減免制度について伺います。この法案は憲法第14条の平等原則に違反するのではありませんか?」
志茂野は落ち着いて答弁した。「神崎議員にお答えします。憲法第14条は『法の下の平等』を規定しています。しかし、合理的な理由があれば区別は許されます」
「子供の数による区別が合理的だとおっしゃるのですか?」
「極めて合理的です」志茂野は資料を開いた。「現在の賦課方式では、将来の保険料負担者を確保することが制度維持の前提条件です」
「しかし、子供を産めない人、産まない選択をする人への配慮は?」
志茂野の表情が厳しくなった。「配慮は既に十分です。現行制度では、子供を産まない方も、他人の子供が支払う保険料で年金を受給できます」
委員会室がざわめいた。
「つまり大臣は、子供を産まない人はフリーライダーだとおっしゃるのですか?」
志茂野は首を振った。「そのような表現は適切ではありません。賦課方式自体は、人口増加局面や平均寿命が短い時代には機能する制度でした」
志茂野は一歩前に出た。「しかし、過去50年間の出生率2割れにより、支払う側ともらう側の人数と金額のバランスが完全に崩れました。これが数学的事実です」
野党委員から抗議の声が上がった。
志茂野は続けた。「神崎議員、具体的な数字でご説明します」
志茂野は立ち上がり、ホワイトボードに向かった。マーカーで数式を書き始める。
厚生年金2階部分の構造
・現役世代の保険料で今の高齢者に給付する賦課方式
・将来の保険料納付者数が制度の持続性を決定
5人出産した場合の社会貢献
・夫婦:厚生年金保険料完全免除(夫婦で月7.2万円×30年=2,592万円の減免)
・5人の子供:40年間で労使合計1億7,280万円の保険料を納入
・投資効果:2,592万円の減免で1億7,280万円の保険料確保→利回り約6.7倍
志茂野は一歩前に出た。「しかも、これは保険料に限った計算です」
彼の声に重みが加わる。「労働力という観点で見れば、5人の子供が生涯で生み出す経済価値は数十億円規模。インフラ維持、技術継承、国防、介護——これらすべてを担うマンパワーです。次世代は究極の公共財なのです」
「公共財である次世代を産み育てることへの対価として、保険料減免が不当でしょうか?」志茂野は委員席を見回した。
神崎議員は反論した。「しかし、子育てには費用がかかります。保険料減免だけで相殺できるものではありません」
「おっしゃる通りです」志茂野は頷いた。「内閣府調査では子育て費用は1人当たり約800万円です。5人なら4,000万円の負担です」
「それなのに減免額は2,592万円。割に合わないではありませんか」
志茂野の表情が変わった。数字を語る冷静さから、一瞬、父親としての温かさが垣間見えた。
「神崎議員、『割に合わない』とおっしゃいましたが、それは部分的な見方です」志茂野は別の数式をボードに書き始めた。「確かに厚生年金減免2,592万円だけでは子育て費用4,000万円には届きません」
「しかし、母親給付金600万円、児童手当660万円も加算すれば、総支援額は3,852万円となります」
志茂野の声に感情が込もる。「純負担はわずか150万円。20年間で考えれば年7万円、月にして6千円弱です」
議場が静まり返った。
「5人の愛する我が子を慈しみ育て、人生をともに歩むことに月6千円の価値すらないとおっしゃるのですか?」
議場が凍りついた。野党席から怒号が上がる。
「何を言ってるんだ!」「子供を金で語るな!」「人権侵害だ!」
与党席も動揺している。何人かは頭を抱えた。
神崎議員は顔を真っ赤にして立ち上がった。「大臣!子育ては投資ではありません!愛情です!」
志茂野は動じない。「私は愛情を否定していません。愛情と経済的支援は両立します」志茂野は答弁席に戻った。「時に私は数字だけで政策を語ると非難されます。しかし、その数字の向こうには家族の絆があることを忘れたことはありません。数字だけでは語れない価値があることも理解しています」
神崎議員が立ち上がった。顔が真っ赤になり、拳を握りしめている。
「大臣!」神崎の声が裂けるように響いた。「志茂野大臣の主導する今回の改革案は、弱い立場の者に負担を押し付け、国の関与を放棄する、極めて無責任な改悪案であると言わざるを得ません!」
野党席から拍手と歓声が湧き起こった。
神崎は息を切らせながら続けた。「子どもを産めない人、産まない選択をした人、運用に失敗した人、病気で働けない人——こういった弱者を切り捨てる制度ではありませんか!ご自身が語られる数字の向こうに、これら弱者の姿を思い浮かべたことが一度でもありましたか!」
志茂野が答弁しようとしたが、神崎は手を振って遮った。
「これで私の質疑を終わらせていただきます!」
神崎は激昂寸前の様子で席に戻った。委員会室に重い沈黙が流れた。
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###同時刻 SNSリアルタイム反応
Twitter(X)が瞬時に炎上:
@子なし既婚_35歳:
「月6千円の価値すらない」って、マジで言った?志茂野やばすぎる
@3児の母:
正直、月6千円で5人は無理。でも言い方が…
@投資家パパ:
↑違う違う、月6千円は「純負担」の話。実際は保険料全額免除(月7.2万円)+母親給付金600万+児童手当660万もらえて、差し引き月6千円の持ち出しって意味だよ
@独身男性_28歳:
これ子供いない人への宣戦布告じゃん
@5児の父_42歳:
「5人の愛する我が子を慈しみ育て、人生をともに歩むことに月6千円の価値すらない」
>泣いた
やっと国が認めてくれた気がする
@4人目妊娠中ママ:
志茂野大臣の言葉に涙出た。子育ての価値をちゃんと数字で示してくれた。月6千円は安すぎるけど、それでも認められた感じ
@元保育士:
言い方はアレだけど、子育ての社会的価値を正面から語る政治家、初めて見た
→6,500RT
YouTube「政治のツボ」同時配信:
「うわあああ!これは失言!いや本音!?でも多子家庭からは支持の声も!コメント欄が真っ二つ!」
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