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第13章 国会の修羅場(5)2031年5月8日 木曜日 午前10時

◆ 2031年5月8日 木曜日 午前10時


◇ 国会議事堂 衆議院本会議場


議長が木槌を打つ。「これより首相指名選挙を行います」


圧倒的多数で石原総理が再選された。野党席からは拍手もない。共立党の冬月晴香が隣の議員に小声で呟く。「茶番だわ。もう結果は見えている」


石原が登壇し、深く一礼した。「国民の皆様から年金改革への力強い信任をいただきました。7月1日、臨時国会を召集し、速やかに法案審議に入ります」



◆ 2031年7月1日 火曜日 午前10時


◇ 国会議事堂 衆議院本会議場


開会のベルが鳴り響く中、議員たちが着席していく。与党席は満席だが、野党席には空席が目立つ。


国会前の歩道では、高齢者グループが「年金を守れ」と書かれた横断幕を掲げている。その向かいで、20代の若者たちがスマートフォンで国会中継を見ながら「やっと現実的な改革が」と話し合っていた。


石原総理が登壇する。「本日より、年金改革関連法案の審議を開始します」


野党席から怒号が飛ぶ。「差別法案だ!」「産めよ増やせよの再来か!」


議長が木槌を打つ。「静粛に。志茂野厚生労働大臣、提案理由説明を」


志茂野が立ち上がり、手元の原稿を確認しながら登壇した。野党席からの野次を無視し、淡々と説明を始める。年金移行債による個人資産化、厚生年金の出生数連動減免制度、それぞれの必要性と制度設計を詳細に述べていく。


提案理由説明が終わり、質疑に移った。共立党の質問者が立ち上がった。40代の女性議員、冬月晴香だった。


「志茂野大臣にお聞きします。年金制度の崩壊は、明らかに政府の失策ではありませんか?」


志茂野が答弁席に立つ。その堂々とした体躯が議場を威圧する。


「冬月議員にお答えします。これは失策ではなく、人口動態の必然的帰結です」志茂野の声が議場に響く。「1970年、65歳以上1人を現役世代9.8人で支えていました。現在は1.8人です。数学的に持続不可能な構造です」


「ではなぜ、抜本的な対策を講じなかったのですか?」


「講じております」志茂野は資料を示した。「石原内閣発足以来、出生数は91万人から152万人まで回復しました。しかし、彼らが保険料を支払うまで20年かかります」


野党席からヤジが飛ぶ。「責任転嫁だ!」


志茂野は動じない。「責任転嫁ではありません。過去50年間、歴代政権が先送りしてきた問題の清算です」


冬月議員が続けた。「大臣の厚生年金減免案は、事実上の産めよ増やせよ政策ではありませんか?」


志茂野の目が光った。ここからが本番だった。


「冬月議員、それは誤解です」志茂野は一歩前に出た。「現在の賦課方式こそ、不公平の極致です」


「どういう意味ですか?」


「賦課方式では、現在の高齢者の年金を、現在の現役世代が支払います。つまり、自分が負担した保険料に比べて、はるかに大きな給付を受け取るという構造的なバランスの問題があります」


議場がざわめいた。


志茂野は続けた。「5人の子供は40年間で、労使合計1億7,280万円の保険料を納めます。一方、夫婦への減免は月7.2万円×30年で2,592万円。投資利回り約6.7倍です」


野党席から怒号が上がった。「人間を投資で考えるな!」


志茂野は腕を組んだ。その姿は、まさに「不動産ゴリラ」だった。


「感情論ではなく、数字で議論しましょう」志茂野の声に迫力が増した。「制度の持続可能性を数字で示しているのです」


冬月議員が反撃した。「子育てを投資として考えること自体が問題です!」


志茂野は首を振った。「私は子育てを投資とは言っていません。ただ、制度の収支バランスを説明しているだけです」志茂野は冷静に答えた。「感情論では年金制度の破綻を止めることはできません」


議場が騒然となった。


志茂野は続けた。「現在の現役世代の子供たちは将来、私たちの年金を支えることになります。制度の持続可能性は、この世代間のバランスにかかっているのです」


「それは個人的な…」


「個人的な問題ではありません」志茂野は遮った。「制度の問題です。子供を産んだ人の子供が、子供を産まなかった人の年金も支える。これが現在の制度です」


「だからといって、出産を強要するのですか?」


「強要ではありません」志茂野は資料を示した。「選択です。子供を産まない自由もあります。ただし、その選択にはコストが伴うということです」


---



◇ 同時刻 YouTube「政治のツボ」リアルタイム配信


国会中継と同時配信している「政ツボ先生」の画面では、視聴者数が12万人を超えていた。


「うわあ…志茂野大臣、完全にキレてますね。この『選択にはコストが伴う』って発言、確実に切り取られますよ」


コメント欄が炎上状態:


『これは失言だろ』

『でも理屈は通ってる』

『産めない人もいるのに』

『現実的だけど言い方が』

『政治家として終わったな』


「おっと、今Twitter(現X)で #志茂野失言 がトレンド入りしました。でも一方で #志茂野正論 も上位に…世論が真っ二つですね」


別の政治系YouTuber「エコノ解説」も同時配信中:


「これ、政治的には完全にアウトでしょ。でも経済学的には彼の言ってることは正しいんですよ。外部性の内部化って概念で…」


スーパーチャットが次々と:


『先生、氷河期世代として辛いです』(3,000円)

『でも年金もらえるなら賛成』(1,000円)

『子育て罰ゲームじゃん』(500円)


TikTokでは「投資女子みゆ」が即座にショート動画をアップ:


「志茂野大臣の発言を10秒で解説!要するに『子供産まないなら年金保険料高くなるよ』ってこと。合理的?差別的?みんなはどう思う?」


---


野党席から「優生思想だ!」という声が上がった。


志茂野は動じなかった。「優生思想ではありません。経済原則です。社会保険は相互扶助です。扶助される側が、扶助する側に負担をかけるのは当然ではありませんか?」


冬月議員は言葉に詰まった。


志茂野は議場を見回した。「私は元不動産業です。物件の価値は立地で決まります。しかし、国家の持続可能性は人口バランスで決まります。人口減少社会で、従来の制度を維持することは不可能です」


議長が時間を告げた。冬月議員の質疑時間が終了だった。


志茂野は答弁席から降りながら、野党席を一瞥した。まだ序の口だった。本当の修羅場は、これからだった。


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