第13章 国会の修羅場(3)2031年1月25日 土曜日 午後7時
◆ 2031年1月25日 土曜日 午後7時
◇ SNS分析「まだ気づかない本質」
###YouTube「経済ニュース解説」
「年金改革、賛否両論ですね。子供5人で保険料免除は現実的じゃないという声が多いです」
コメント:『5人とか無理』『少子化対策にはなるかも』『でも負担大きすぎ』
「あ、ちょっと待って」配信者がコメントに気づく。
『23歳で結婚すれば勝ち組確定じゃね?』
「ん?これどういうことですかね…」配信者がスマホの電卓アプリを開く。「ちょっと計算してみましょうか…」
彼がその計算の真の意味に気づくのは、1ヶ月後のことだった。
◆ 2031年2月14日 金曜日 午前10時
◇ 国会議事堂 予算委員会室
通常国会での年金改革法案の審議が始まっていた。野党は徹底抗戦の構えを見せている。
共立党の幹事長、朝霧総一郎が声を荒らげた。「こんな暴挙を認めるわけにはいかない!審議拒否も辞さない!」
志茂野は冷静に答弁した。「建設的な議論をお願いします。このままでは年金制度は確実に破綻します」
◆ 2031年2月20日 木曜日 午後9時
◇ SNS空間「制度の本質を見抜く」
###YouTube「投資の達人」緊急配信(登録者350万人)
30代の投資系YouTuber「マネーの虎」が興奮気味に話している。
「みんな、1ヶ月考えてやっと気づいた。これ、早く結婚して子供産んだ奴の圧勝じゃね?」
画面にエクセルが映る。
【23歳結婚・5人出産モデル】
- 母親給付金:600万円(非課税)
- 厚生年金減免:
* 29歳〜31歳(3人目後):60%減免×2年=52万円
* 31歳〜33歳(4人目後):80%減免×2年=69万円
* 33歳〜65歳(5人目後):100%減免×32年=1,382万円
* 合計:1,503万円(非課税)
- 実質価値:額面2,300万円相当
【35歳結婚・2人出産モデル】
- 母親給付金:240万円
- 厚生年金減免:0円
- 実質価値:額面240万円
「差額2,060万円!これ気づいてる若者は絶対与党支持だろ」
コメント欄:
『マジかよ早く結婚しよ』
『婚活アプリ始めます』
『これ野党気づいてないの?』
『20代は与党一択じゃん』
###TikTok「恋愛コーチ」バズり動画
画面に派手なエフェクトと共に20代女性インフルエンサーが登場。
「緊急!婚活市場が激変します!」カメラに向かって指を差す。「皆さん、今から言うこと超重要だから最後まで見て!」
画面にグラフが表示される。女性の年齢と経済価値の相関図。
「23歳で結婚→5人産める→2,100万円の価値創出!」
「でも30歳スタートだと→3人が限界→たった900万円」
「この差、1,200万円!!」
顔をアップにして真剣な表情。「つまり何が言いたいかというと…」
「20代前半女子の市場価値、爆上がり確定なんです!」
コメント欄が爆速で流れる:
「やばい急いで婚活する」
「25歳、ギリセーフ?」
「男側からしても若い子選ぶ理由できたな」
「えぐい制度やん」
再生回数が24時間で500万回突破。シェア数も20万を超えた。
###Twitter(X)トレンド
婚活垢の女性たちが次々と投稿:
@婚活女子_24歳:
「プロフィール更新した!『5人産みたいです♡』って書いたら、いいね倍増w」
@アラサー独身OL:
「28歳…もう手遅れなの?でも3人なら1000万近くいくし、まだワンチャンある?」
@マッチングアプリ運営:
「本日のアクティブユーザー、前日比300%です。特に20代前半女性の新規登録が急増しています」
トレンドワード:
#早婚勝ち組
#5人産んで2000万
#年金改革で婚活革命
#適齢期前倒し
若者の支持が急速に広がり、反対派の声がかき消されていく。
◆ 2031年3月10日 月曜日 午後3時
◇ 首相官邸 記者会見室
石原総理が記者会見場に現れた。報道陣のフラッシュが一斉に光る。
「野党の審議拒否により、年金改革法案の成立が困難となりました。しかし、この改革なくして日本の未来はありません」
石原は一呼吸置いた。
「年金制度の抜本改革について、国民の皆様の真意を問います。本日、衆議院を解散いたします」
記者席から質問が飛ぶ。「総理、これは事実上の年金改革解散ですか?」
「その通りです。年金移行債による個人資産化、厚生年金の出生数連動減免、これらの是非を国民に問います」
別の記者が続ける。「SNSでは若者の支持が広がっていますが」
石原は頷いた。「2月以降、多くの方々が制度の本質を理解してくださいました。次世代という公共財を育成する、かけがえのない貢献をされる方々への正当な支援。これが日本の未来を救うと確信しています」
「野党は『産めよ増やせよ』政策と批判していますが」
「選択の自由は保障されています。ただし、次世代を育てる方々への支援は当然です。4月27日、国民の皆様の審判を仰ぎます」
記者会見場がざわめく。「年金改革解散」の幕が上がった。
◆ 2031年3月14日 金曜日 午前10時
◇ 志茂野の自宅
志茂野は書斎で選挙戦略を練っていた。妻の美佐子が差し入れのコーヒーを持って入ってきた。
「お疲れさま。選挙戦が始まるのね」
志茂野は眼鏡を外し、目元を揉んだ。「4月26日が投票日だ。この選挙で年金改革の是非が問われる」
「でも、あなたの案は理にかなってると思うわ」美佐子が椅子の背もたれに手を置く。「3人産んだら6割減免、4人で8割、5人で完全免除。分かりやすいじゃない」
「問題は、これを『出産の強要』として攻撃してくることだ」
「実際はそうじゃないのに」
志茂野は立ち上がった。「そうだ。賦課方式である限り、今の子供が将来の保険料を支払う。構造的に、保険料負担と給付のバランスが取れていない制度なんだ」
美佐子は夫の真剣な表情を見つめた。「そこまで考えてるのね」
「当然だ」志茂野は資料を閉じた。「制度の収支を見れば明らかなんだ」
美佐子は心配そうに夫を見つめた。「でも、それをストレートに言ったら大変なことになるわよ」
「炎上するだろうな」志茂野は苦笑した。「しかし、事実は事実だ。感情論に負けるわけにはいかない」
美佐子は心配そうに言った。「野党だけじゃなく、世論も二分してるじゃない。YouTubeでは連日分析動画が上がってるし」
「ああ、見ている」志茂野はタブレットを手に取った。「『年金チャンネル』は『騙されるな!年金移行債の罠』で300万再生。一方で『マネーの虎2024』は『年金革命!これで老後安泰』で200万再生だ」
「支持と反対、どっちが多いの?」
「微妙だ。20-30代は支持、40-50代は懐疑的、60代以上は猛反対というところか」志茂野はため息をついた。「インフルエンサーの影響力は政治家より大きい時代だからな」
「若い世代は支持が多いの?」
「当然だ。現行制度では彼らがいつから、いくら年金をもらえるのか全く不透明だ。移行債なら確実に資産が残る」志茂野はコーヒーを一口飲んだ。「政治家は人気取りのためにあるのではない。国家の持続のためにある」
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