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第4章:記者会見という戦場(6)2-5 外国メディアの質問(8時05分)

◇ 2-5 外国メディアの質問(8時05分)


「外国メディアにも質問の機会を」


塩田が仕切った。


CNNのジェームズ・ハリソンが立った。彼は英語で質問を始めた。


「Prime Minister, James Harrison from CNN. How do you think the international community will receive this statement, particularly from the perspective of women's rights?」


(総理、CNNのジェームズ・ハリソンです。国際社会はこの声明をどう受け止めると思われますか。特に女性の権利という観点から)


塩田が通訳を始めようとしたが、石原が手で制した。


「I will answer in English」


石原は英語で答え始めた。流暢ではないが、意味は通じる。


「I understand your perspective. Women's rights are fundamental value we share. However, I must respectfully disagree with characterization that our policy violates these rights. Japan faces unprecedented demographic crisis. In 30 years, our working population will be half. Our social security system will lose sustainability. This is not about controlling women. This is about ensuring sustainable future for our society.


We respect individual choice. But we must also create environment where people can choose to have children. Many young people want children but cannot afford. We must change this situation.


Each country has different history, different challenge. Nordic countries have different model. America has immigration. But Japan must find Japanese way. We cannot simply copy other countries. Our culture, our society structure is unique. We need solution that fits our reality.」


(ご指摘の視点は理解いたします。女性の権利は我々も共有する基本的価値です。しかしながら、我々の政策がこれらの権利を侵害するという評価には、謹んで異議を申し上げます。日本は前例のない人口危機に直面しています。30年後、我々の生産年齢人口は半分になります。社会保障制度は持続可能性を失います。これは女性を支配することではありません。これは我々の社会の持続可能な未来を確保することなのです。


我々は個人の選択を尊重します。しかし同時に、人々が子供を持つことを選択できる環境を作らなければなりません。多くの若者は子供を望んでいるが、経済的に難しい。この状況を変えなければなりません。


各国にはそれぞれの歴史、それぞれの課題があります。北欧諸国には異なるモデルがあります。アメリカには移民があります。しかし日本は日本の道を見つけなければなりません。単に他国を真似ることはできません。我々の文化、社会構造は独特です。我々の現実に合った解決策が必要なのです)


BBCのサラ・チェンが続けた。BBCは日本支局が充実しており、彼女も流暢な日本語を話す。


「総理、BBCのサラ・チェンです。これは普遍的人権の問題ではないでしょうか。特にヨーロッパでは、出産の強要は女性の自己決定権の侵害とみなされます」


石原は日本語で答えた。


「チェンさん、人権には『持続可能な社会で生きる権利』も含まれると私は考えます。今の子供たちが将来、崩壊した社会で生きることになれば、それこそ人権侵害ではないでしょうか」


「しかし、個人の選択の自由は...」


「選択の自由は尊重します。しかし、選択には責任も伴います。社会全体の持続可能性も、考慮すべき責任の一つです」



◇ 2-6 中国メディアの挑発(8時12分)


中国中央電視台の王磊記者が立った。日本語で質問する。


「CCTVの王です。中国では、この談話を『日本の敗北宣言』と報道しています。少子高齢化で、もはや日本は立ち直れないと。どう思われますか」


石原は穏やかな表情を崩さなかった。40年の政治経験は、このような挑発への免疫を与えていた。


「各国メディアには、それぞれの視点があることは理解しております。ただ、私どもは『敗北』を認めているわけではございません。むしろ、課題を直視し、対策を講じる段階に入ったということです」


「しかし、現実的に日本の衰退は...」


「王記者、日本は確かに困難な局面にあります。それは否定いたしません。しかし、我が国は歴史上、幾度となく困難を乗り越えてまいりました」


石原は淡々と続けた。


「戦後復興、オイルショック、バブル崩壊。いずれも当時は『日本の終わり』と言われました。しかし、我々はその都度、新たな道を見出してきた。今回もまた、日本らしい解決策を見出すでしょう。それは『敗北』ではなく、『適応』と呼ぶべきものです」


数名の記者が小さくうなずいた。挑発に乗らず、冷静に応じる総理の姿勢が、かえって説得力を持った。



◇ 2-7 シンガポールメディアの質問(8時18分)


Straits Timesのマイケル・タン記者が手を挙げた。彼は英語で質問を始めた。


「Straits Times, Michael Tan. Prime Minister, Singapore achieved higher birth rate through immigration and incentives, not through moral pressure. Why choose this controversial approach?」


(ストレイツ・タイムズのマイケル・タンです。総理、シンガポールは道徳的圧力ではなく、移民とインセンティブで出生率を上げました。なぜこのような議論を呼ぶアプローチを選んだのですか?)


塩田広報官が通訳を始めようとしたが、石原が手で制した。


「I will answer in English」


石原はゆっくりと、しかし明確に英語で答えた。


「Mr. Tan, Singapore has achieved remarkable success with its approach. I respect that. However, scale matters. Singapore needs perhaps tens of thousands of skilled migrants annually. For Japan to maintain its population through immigration alone, we would need hundreds of thousands annually, accumulating to millions over time.


This raises ethical questions. These talented individuals, educated by their home countries for twenty years, could have contributed to their own nations' development. For Japan to solve its problems by attracting such massive human resources from developing nations... this contradicts our postwar principle of international cooperation and mutual prosperity.


Furthermore, immigration at that scale would fundamentally alter Japanese society in ways our citizens may not be prepared for. Every nation must find solution appropriate to its context, history, and values.」


(タンさん、シンガポールはそのアプローチで素晴らしい成功を収めています。それは尊重します。しかし、規模が重要です。シンガポールは年間おそらく数万人の熟練移民を必要とします。日本が移民だけで人口を維持するには、年間数十万人、累積で数百万人が必要です。


これは倫理的な問題を提起します。母国で20年間教育を受けたこれらの才能ある人々は、自国の発展に貢献できたはずです。日本が発展途上国から大規模な人的資源を引き抜いて問題を解決することは...これは我々の戦後の国際協力と共存共栄の原則に反します。


さらに、その規模の移民は、我々の市民が準備できていない形で日本社会を根本的に変えるでしょう。すべての国は、その文脈、歴史、価値観に適した解決策を見つけなければなりません)


「But moral pressure on women...」


(しかし女性への道徳的圧力は...)


「This is not about pressure, Mr. Tan. We are simply presenting the demographic reality our nation faces. What we propose is to expand genuine choices for our citizens. Survey after survey shows that young Japanese couples desire 2.4 children on average, but actually have only 1.2. The gap between desire and reality - this is what we must address. Our policy aims not to force decisions, but to enable families to have the children they already want to have.」


(これは圧力の問題ではありません、タンさん。我々は単に、我が国が直面している人口動態の現実を提示しているのです。我々が提案しているのは、市民の真の選択肢を拡大することです。調査を重ねるごとに、日本の若い夫婦は平均2.4人の子供を望んでいるが、実際には1.2人しか持てないことが示されています。この願望と現実のギャップ──これこそ我々が対処すべき問題です。我々の政策は決定を強制するのではなく、家族がすでに望んでいる子供を持てるようにすることを目的としています)


数人のアジア系記者が微かに苦笑した。シンガポールの出生率が1.05前後で低迷していることは、この場の誰もが知っている。「remarkable success(素晴らしい成功)」という表現に込められた外交的な皮肉を、タン記者も理解したはずだ。



◇ 2-8 韓国メディアの比較(8時25分)


KBSの朴正勲記者が手を挙げた。


「韓国KBSの朴です。韓国の出生率は0.72で、日本より深刻です。しかし、韓国政府はここまで極端な発言はしていません。なぜ日本だけが?」


石原は慎重に言葉を選んだ。


「朴記者、各国にはそれぞれの政治的文脈があります。韓国には韓国の、日本には日本の事情がございます。ただ、一つ申し上げられるのは、問題の深刻さに対して、対応の率直さが見合っているかという点です」


「つまり、韓国の対応は不十分だと?」


「そのような評価をする立場にはございません。ただ、0.72という数字と、1.26という数字。どちらも危機的ですが、その危機への向き合い方に差があるとすれば、それは各国の国民性や政治文化の違いかもしれません。我々は、もはや婉曲的な表現で問題を先送りする時間的余裕はないと判断しました」


石原の声には、雄弁会で学んだ修辞技法の粋が込められていた。



◇ 2-9 テレビ朝日の感情的質問(8時31分)


テレビ朝日の森本理恵(1990年生まれ、37歳)が立った。


「テレ朝の森本です。総理、私は2歳の子供がいます。正直、もう一人でも限界なのに、3人なんて...」


森本の声が震えた。


「毎日、仕事と育児でヘトヘトです。夫も協力的ですが、それでも限界です。これ以上どうしろと言うんですか」


石原の表情が和らいだ。40年の政治経験で、こうした個人的な苦悩への対応も心得ている。


「森本記者、まず申し上げたいのは、あなたのような方々のご苦労こそ、我々が解決すべき課題の核心だということです」


「でも、3人産めと...」


「いいえ、誤解なきよう。我々が申し上げているのは、『3人産みたいと思える社会を作る』ということです。現在の育児環境で3人は困難、それは当然です。だからこそ、抜本的な支援策が必要なのです。ただし、それは単に経済的支援だけではありません。社会全体の価値観、人生における優先順位、何を幸福とするか──そういった根本的な部分の見直しも含まれます」


「しかし総理の談話では、3人産まないと年金が...」


「統計的な現実として、社会全体で平均2.07以上の出生率が必要です。これは事実です。しかし、それを個々人への圧力と捉えるのではなく、社会システムの改革要請と理解していただきたい。森本記者が2人目、3人目を『産みたくても産めない』なら、それは政治の失敗です。その失敗を正すのが我々の責務です」


森本はまだ納得していない様子だったが、石原の答弁が単純な出産圧力ではないことは理解したようだった。


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