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第2章 決断(5)◆8 野党党首との極秘会談

◆ 8 野党党首との極秘会談


3月27日 土曜日 午後9時 都内某ホテル スイートルーム


石原は、極秘に野党第一党・共立党の党首、蓮見玲子と会っていた。


蓮見玲子、59歳。元ニュースキャスター。歯に衣着せぬ発言で人気を博し、10年前に政界入り。


「石原総理、お忙しい中、ありがとうございます」


蓮見の声は、相変わらず美しかった。キャスター時代に鍛えられた、聞き取りやすい発音。


「蓮見党首、今日は野党党首としてではなく、一人の政治家として話がしたい」


「ほう」


蓮見は、紅茶を飲みながら石原を観察していた。


「4月1日に、重要な発表をする」


「どんな?」


「詳細は言えない。でも、日本の未来に関わることだ」


蓮見の目が鋭くなった。


「年金ですね」


石原は驚いた。


「なぜ」


「最近の動きを見れば分かります。山市厚労大臣の頻繁な官邸入り。富沢官房副長官の徹夜続き」


さすが元ジャーナリスト。観察眼が鋭い。


「それで、私に何を?」


「国会で、過度な批判は控えてほしい」


蓮見は笑った。


「それは無理な相談です。野党の仕事は、政府を批判することですから」


「でも、これは与野党を超えた問題だ」


石原は、身を乗り出した。


「蓮見党首、あなたにも分かっているはずだ。このままでは、日本は終わる」


蓮見の笑顔が消えた。


「...ええ、分かっています」


「なら」


「でも、総理。『3人産め』は受け入れられません」


石原は驚いた。内容まで知っているのか。


「情報は漏れるものです」


蓮見が言った。


「問題は、その内容です」


「説明させてくれ」


「どうぞ」


石原は、30分かけて説明した。年金の現状、将来予測、そして談話の真意。


蓮見は、黙って聞いていた。時折、メモを取りながら。


説明が終わると、蓮見は言った。


「総理、気持ちは分かります。でも、方法が間違っています」


「では、どうすれば」


「まず、女性の働く環境を整える。保育所、育休、すべて」


「それは談話に入れる」


「順番が逆です。環境を整えてから、お願いすべきです」


石原は、考え込んだ。


確かに、蓮見の言うことも一理ある。


「でも、もう時間がない」


「だからといって、女性に負担を押し付けるのは」


「押し付けるつもりはない」


「でも、そう聞こえます」


二人は、しばらく沈黙した。


そして、蓮見が言った。


「総理、一つ提案があります」


「聞こう」


「談話の後、超党派で少子化対策を議論する場を作りませんか」


「超党派で?」


「はい。これは、与野党関係なく取り組むべき問題です」


石原は、蓮見の顔を見た。


批判一辺倒かと思っていたが、建設的な提案をしてくる。


「分かった。検討する」


「ありがとうございます」


蓮見は立ち上がった。


「総理、4月1日の談話、私は批判します。それが野党の役目ですから」


「分かっている」


「でも、その後は、協力します。日本のために」


二人は、握手を交わした。


政治的立場は違っても、日本を思う気持ちは同じだった。



◆ 9 3月31日の家族団欒


3月31日 水曜日 午後7時 総理公邸


久しぶりに、家族全員が集まった。


健一家族、雄二家族、そして石原夫妻。


「おじいちゃん!」


孫たちが駆け寄ってくる。


健一の長男、中学2年生。

健一の長女、小学5年生。

雄二の長男、小学3年生。


「おお、みんな大きくなったな」


石原は、孫たちを抱きしめた。


この子たちの未来のために。


そう思うと、明日の決断に迷いはなかった。


「お父さん、なんか今日は機嫌がいいね」


健一の妻が言った。


「そうかな」


「うん。いつもより優しい」


雄二の妻も頷いた。


「確かに。何かいいことでもあったんですか」


石原は微笑んだ。


「家族が集まってくれた。それが一番いいことだ」


恵子が料理を運んでくる。


「さあ、食べましょう」


すき焼き。みんなの好物だ。


「いただきます!」


孫たちの元気な声が響く。


食事をしながら、他愛もない話をする。学校のこと、仕事のこと、趣味のこと。平凡で、幸せな時間。


石原は、この光景を目に焼き付けた。


明日から、こんな穏やかな時間は、もう来ないかもしれない。


「お父さん」


健一が言った。


「明日、何かあるんでしょう」


石原は、息子を見た。


「なぜ分かった」


「分かりますよ。お父さんの顔を見てれば」


雄二も言った。


「僕も、何となく」


石原は、家族を見回した。そして言った。


「明日、日本が変わる」


全員が、石原を見つめた。


「詳しくは言えない。でも、覚えていてくれ。私は、日本の未来のために、家族の未来のために、最善を尽くしたと」


健一が立ち上がった。


「お父さん」


そして、深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


雄二も立ち上がり、頭を下げた。


「お父さんを誇りに思います」


妻たちも、孫たちも、みんな立ち上がった。そして、石原に向かって頭を下げた。


石原の目に、涙が浮かんだ。


「みんな...」


恵子が、石原の手を握った。


「慎吾さん、私たちはずっと一緒よ」


石原は、涙を拭った。そして言った。


「ありがとう。みんな、ありがとう」


家族の絆。それが、石原に勇気を与えた。


明日、何が起きても、後悔はない。



◆ 10 4月1日未明


4月1日 木曜日 午前3時 総理公邸 書斎


石原は、眠れなかった。


書斎で、一人、原稿を読み返している。


あと15時間後、この言葉を国民に語る。


日本の歴史が変わる瞬間。いや、変えなければならない瞬間。


石原は、窓を開けた。


春の夜風が、顔を撫でる。


桜の香りがする。満開の桜。美しい。でも、散るのも早い。


日本も、このままでは散ってしまう。


それを防ぐために。


石原は、決意を新たにした。


午前5時。


石原は、最後の推敲を始めた。富沢が書いた原稿は素晴らしかったが、一箇所だけ、自分の言葉を加えたかった。


『各家庭において、可能な限り、複数の子どもを持つことをご検討いただきたい』


この後に、石原は書き加えた。


『これは、国家のためではありません。皆様ご自身と、皆様の家族の将来の生活を守るためであります』


国家のためではない。これを強調したい。



◆ 11 運命の朝


4月1日 木曜日 午前7時 総理公邸


「おはようございます」


恵子が、いつものように朝食を用意していた。


「おはよう」


「よく眠れた?」


「まあまあかな」


嘘だった。一睡もしていない。でも、恵子に心配をかけたくない。


「今日は、大事な日なのね」


恵子が言った。


「ああ」


「頑張って」


「うん」


朝食を食べながら、石原は思った。


これが、普通の朝食を取る最後の日かもしれない。


明日からは、マスコミに追われ、批判にさらされ、脅迫に怯える日々。


でも、それでいい。日本のためなら。


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