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その不祥事、お包みします  作者: 輪二
第一章 
9/52

 あれは二年前の事だった。


 オレは幼馴染のクローと一緒に家出を決行していた。

 目的地があったワケじゃない。

 ただ、クローを連れてどこかへ逃げ出したかった。

 オレ達を包む全てから逃げ出したかった。


 親のいないクローは田舎の港町で浮いていたし、一緒に遊んでいるオレを変な目で見る奴もいた。

 もちろん直接何か言ってくる奴には言い返したし、陰口を叩いている奴は真正面から睨みつけてやっていた。


 ある時、町で盗難騒ぎが起こった。

 真っ先に疑われたのがクローだった。

 庇ったのはオレと、おやっさんだけだった。

 クローの親代わりのおやっさんは猛抗議してくれた。

 

 結局盗んだ奴は見つかったけれど、クローに濡れ衣を着せた奴らは謝らなかった。


 憤るオレに向かって、オレの家族は困った顔をして言ったのだ。


『だってしょうがないじゃない。あの子は違うのだから』


 違うからなんだ。

 確かにクローはオレとは違う。

 クローは実の親に捨てられ、親代わりのおやっさんと町外れに住んでいる。


 違うからなんだ。

 確かにクローは周りとは違う。

 クローは上辺だけを取りつくろう周りの奴らとは、全く異なっていた。


 オレは何かを証明したかったんだと思う。

 でも方法がわからなかった。


 それで、どっちが言い出したのか忘れたけれど、オレ達は夜中に家を抜け出した。


 ただただ、ひたすら竹林を歩いていた。

 真剣な話をしたり、馬鹿な話をしたり。

 そうして歩き進み、オレ達は行き当たったのだ。


 竹藪の中の死体に。


 おそらく旅人か何かだったと思う。

 男性の獣人の死体。

 夜の匂いに混ざって、死臭がじっとりと漂っていた。

 クローの手前、冷静さを保とうと努力をした。

 息を止め、恐る恐る死体に近づく。

 干からびた毛に虫がたかり、腐った肉がのぞいていた。


 そこで、クローが息を呑む声がした。


「……? どうした?」


 振り返ったオレに、クローはジェスチャーでその場から動かないよう伝えて来た。


「なんだよ、どうしたんだ?」


 クローはささやいた。

 叫びそうになるのを理性でなんとか抑えているような、低い声だった。


「……ミオ……し…した……」


(下? なんだ? 足元か?)


 クローの視線を辿るように足元を見下ろした時、オレは思わずその場から飛び退いた。


 全身が総毛立った。

 恐怖のあまり喉が凍りつき、悲鳴は出なかった。


 今までいた場所には、ヌラヌラと光り、ズルズルとうごめく、細長い生物がいた。


 月明かりの中、赤黒いソレは死体の腹から草むらの影へと這って行く。


「《長虫様》だ……」


 オレはかすれた声で言った。


「まさか……」


 クローが、同じくかすれた声で答えた。


 死んだ生き物から這い出す魂。

 全ての命の原型《長虫様》。

 その長い身体がズッズッと引きずられて竹林の奥へと進んでいく。


 ふとオレは顔をあげた。


 急に飛び退いたせいだろう。

 オレとクローは《長虫様》を挟んで、こちら側とあちら側に分かれて立っていた。


 まるで気味の悪い川に隔てられたみたいだ。

 岸辺に取り残されたのは、オレの方か、クローの方か。


 急に不安が襲って来たオレは、クローに声をかけた。


「おい、クロー……こっちへ来いよ」

「イヤだ」


 クローはその時、なんだか泣きそうな顔をしていた。

 怖かったのかもしれない。

 寂しかったのかもしれない。


「ミオ。君がこっちに来るんだよ」


 クローはそう言った。


 オレは何度か瞬きをして、それから頷いた。

 数歩下がって助走をつけた。

 そんな必要なかったかもしれないけれど、万が一でも《長虫様》を踏みつけるなんて事は、したくなかったからだ。


 横たわった《長虫様》を飛び越えたオレは、勢い余ってクローにぶつかった。


「ごめん」


 オレがそう言うと、クローは笑顔になった。


「謝らないでよ」


 その時触れたクローの肌はひんやりと冷たかった。

 どこかから視線を感じた。

 《長虫様》だろうか。

 オレにはわからなかった。

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