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「……え……?」


 オレの喉の奥から掠れた声が出た。


(クローが、ヘビワタリを墜落させる実行役だった……?)


「爆発音を合図に、ボクがヘビワタリの三号車を墜落させる手筈になっていた。だけど、失敗しちゃってさ」


 クローはへへっと笑った。


「ボク達はね、二つに分けられていた。クーデターの計画を詳しく知っている者。そして、クーデターの駒として扱われ、何も知らされていない者。ボクは、前者だった。そして、ボクに良くしてくれたクチナワ者は、後者だった」


 ヘビワタリには、大勢のクチナワ者が乗っていた。

 彼らは、何も知らされずヘビワタリに乗せられた。

 ただ、トープへ向かうように、と。

 そこで仕事があるから、と。


 自分達が、誘拐のカモフラージュのためだけに、殺されるのだと知らずにいたのだ。


「三号車に、その知り合いのクチナワ者が乗っていてさ。そのせいでボク、尻込みしちゃったんだ。計画は大失敗。あとで相当殴られたよ。計画が完全に狂ったせいで、七人の獣人が、突然消えた事になっちゃったからね」


 誘拐した獣人を売り飛ばした事を隠すため、落下事故に巻き込まれた事にしようという企み。

 大勢の死者が出るはずだった。

 でもそれは、クローが失敗したおかげで未然に防がれたのだ。


 気がつくべきだった。


 クローからの手紙には『《オロチ》の中に裏切り者』とあった。

『リア姫とトキワに警戒せよ』とあった。


 あれを読んで、オレはリア姫とトキワ隊長が、王国を裏切ったのだと思っていた。

 けれど、違った。

 二人はラウイの身辺を調査しているだけだった。


 つまりどう言う事か。


 リア姫とトキワ隊長が警戒すべき裏切り者と呼ぶのは、()()()()()()()()()()()()だ。


 リア姫とトキワ隊長の誤解が解けた時点で、オレは気がつくべきだったのだ。


(……でも、実際には、クローがクーデターを未然に防いだ事になる)


「君は……クーデターを防ぐため、ラウイ殿下を殺したのか?」

「そんなんじゃない。ボクはそんな奴じゃない。ボクは……()()()()さ」


 クローは暗い声で答える。


(……じゃあ、どうしてラウイ殿下を殺したんだ? それに——そもそも、どうしてクローは、計画の実行役なんていう重要なポジションを任されたんだ?)


「けだものだなんて言うなよ。クロー、君は、結果的にたくさんの人を救ったんだぞ!」


 なぜだか、口の中が乾く。

 押し寄せる不安に喉がひりつく。

 理由はなんだろう。

 向かい合ったクローの、暗い眼差しのせいだろうか。


「自分の事……けだものだなんて言わないでくれ……」


(何が、彼にそう言わせてるんだ。クーデターの共犯だった事か? ラウイ殿下を殺害した事か?)


 フッとクローが息を吐いた。

 笑ったのだろうか?

 ため息をついたのだろうか?


「仕事が終わった後に振る舞われるスープ……それが、ボク達の唯一の食事だった」


 唐突に話が変わった。


「あれは……あの日は、すごくキツい一日だったなぁ」


 過去を思い返しているような口ぶりだ。

「なんでかわかるかい?」と表情を失くした顔でクローはオレに問いかける。


「あの日の剥ぎ取りはね、黒い毛皮だったんだ。ミオ、君に似ていたんだよ」

「オレに?」

「小柄な獣人でさ。ナイフを差し込む時、まるで君に刃物を向けているみたいでさ。我慢できなくて、剥ぎ取り中に吐いちゃったよ」


 クローは、オレの黒縞をじっと見つめているようだった。

 もし自分だったら——とオレは想像する。


(もしオレだったら、例えばバショウ隊長にそっくりの死体に、ナイフを向けられるだろうか? 心を無にして、その毛皮を剥ぐ事が出来るだろうか?)


「それは……つらかったな……」


 絞り出した言葉はあまりにも浅く、オレは自分を殴りたくなった。

 けれど、クローは特に気にも留めず言葉を続ける。


「問題はその後さ。仕事終わりの食事の時に、周りのみんなに心配されちゃってさ。渋々『知り合いに似てた』って答えたんだ」


 一日の仕事終わりの食事の時間——。

 唯一、気を抜けるひととき——。


「そしたら『食っても大丈夫か?』ってさらに心配されるんだよ。まあ、吐き気も止まってたし、スープぐらいは食えそうだったから『いや、もう平気だよ』って答えたよ。本当は、まだ手が震えていたけどね。そうしたらなんて言われたと思う?」


 クローの瞳の中に、仄暗い焔が燃えている。


「『ああ、お前、()()()()()()()()』って言われたんだ」


 彼は声を絞り出した。


「ボク達が今まで食べていたスープ……あれにはさ」


 声が震えていた。


「……死体の一部が、一緒に煮込まれていたんだ」


 オレはその言葉を呆然と聞いていた。


 何度か瞬きをする。

 ゴクリと唾を飲み込む。

 息が上手く吸えない。


「……死体を……食べていた……」


 意図せず掠れた声で繰り返していた。

 嫌悪感が湧く以前に、頭が理解を拒んでいた。


 けれど、クローはオレの呟きを非難だと捉えたようだった。

 ぐしゃり、とクローの顔が歪んだ。

 一気にまくし立てる。


「そうでもしなきゃ《牙無し》は飯にありつけない。食材を売ってもらえないんだから、しょうがない。同胞食いは禁忌? ボク達の事を同胞だと思っているヤツがどれだけいる? 元々厭われていたんだ。蔑まれていたんだ。だったら、いいだろう。存在自体が禁忌なんだ。その通りの存在になってやろう。外側に中身を合わせてやろう。火葬されるんだから、バレないんだから——」


(これは——オレ達の罪だ)


 クローの言葉を聞きながら、いつしかオレは涙を浮かべていた。

 自分の存在自体が禁忌だと、そう本人に言わせてしまったのは、オレ達なのだ。


「それにさ——」


 クローは、吐き気を堪えるような顔でこちらを見ている。


「《慈命慰魂の令》だったよね?『命を大事にしよう』って。この国では『王国民は資源』なんだろう? だったら……その資源……腹の足しにしたっていいじゃないか……そうだろう?」


 細い身体が小さく震えている。


「……だからね……ボクは……ボクは、君にそっくりの獣人を……食べたんだ……()()()()になったんだ……」

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