⑤
「バショウ隊長……いや、でもそんな!」
オレは自分の頭を抱える。
(こんな近距離で、気が付かないなんて事があるか?)
「いやあ、見事に騙されてくれると、こちらも変装のし甲斐があるよ、オレちゃま」
「変装って……そんな……だって毛皮の色まで変えることなんて不可能ですよ」
オレは狼狽えたまま言う。
「さっきまで……確かに白銀の毛色だったはずなのに……」
それなのに、ベールを脱ぎ、隊服をまとった瞬間、変化した。
「こんな、落ち込んでいる日の曇り空みたいなくすんだ灰色に……」
「なんだその表現は。失礼だよ。言葉を包んでくれってレベルじゃないよ」
「いや、でもどうして?」
「まあ、錯覚と言うヤツだね」
バショウ隊長は、いつも通りにひょうひょうと答える。
「前にも言っただろう? あたくし達は皆、誤解を重ね着しているんだって。そいつを利用してやったのさ」
「誤解って……」
そこでオレは、花屋の店員から教わった事を思い出した。
一輪の花に合わせる包装紙。
その色によって、花びらの色がより美しく見える事もあれば、逆にくすんで見せてしまう事もある。
何で包むかによって、見え方が変わってしまう。
「こんな……布一枚で……」
「お手軽な変装だけどね、まあ姫様の姿なんてほとんどの獣人が見た事ないだろう? だからこそ可能とも言えるな」
口をパクパクとさせているオレに、トキワ隊長がとりなすように言う。
「今のところ、誰も見破った事がないからな。わからないのも無理もないよ」
「なんで……そもそもオレの前で姫様の演技を続ける必要ありましたか?」
「観客がいると、もてなしたくなるんだ。役者のサガだねぇ」
「あなた役者じゃないでしょ! トキワ隊長も、なんでバショウ隊長の演技に合わせていたんですか?」
「ああ、すまない。あれは、姫様と話す時用の予行練習だ」
「練習? 何言ってるんですか?」
「姫を守る騎士のように、スムーズに会話できていただろうか」
「騎士っていうか、従僕って感じでしたよ」
「それはそれで悪くないな」
「悪いです!」
オレはヘビワタリの中で絶叫する。
(なんて……なんて厄介な人達なんだ)
「しかしなぁ、オレちゃま。さっきの言葉は嬉しかったぞ」
バショウ隊長はニヤニヤと笑う。
「『バショウ隊長は、お前達なんかと全然違う!』なんて、感動しちゃったよ。あたくしは」
オレは、これでもかと言うぐらい、全力で顔をしかめる。
(あれを、本人に聞かれるなんて……)
「まあ、お前達なんかと違うって言われても、実際はあたくし本人なんだけどね」
「ちなみにな、すまないが言っておかなくてはならない。ミオ君!」
トキワ隊長が真剣な顔して立ち上がった。
(なんだろう。これからの事について、さらに説明があるんだろうか)
「月の化身のごとく美しいリア姫は、バショウとは全然違うからな。口調はまあまあ似ていたが、姫はもっとおしとやかであり、たおやかであり、その清廉なる内面がにじみ——」
「わかりました。了解です。承知しました」
(全然重要じゃなかった……こんな時まで厄介な人だな)
ガクン、とヘビワタリの車体が揺れた。
「そろそろだな」
トキワ隊長がそう言って窓の外に目をやる。
山肌に、星を撒いたような光の粒が瞬いている。
「——あれが、工業都市トープ……」
「そうさ。そして、反乱組織の根城——そうは言っても、クーデターに加担させられている自覚のある奴なんて、ひと握りだろうけどね」
バショウ隊長はスイと目を細める。
「さあ、オレちゃま。あたくし共の出番だ。北の不祥事、南の不合理、東の不都合、西の不始末。この国の全部を、あたくし共でお包みするぞ」




