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「バショウ隊長……いや、でもそんな!」


 オレは自分の頭を抱える。


(こんな近距離で、気が付かないなんて事があるか?)


「いやあ、見事に騙されてくれると、こちらも変装のし甲斐があるよ、オレちゃま」

「変装って……そんな……だって毛皮の色まで変えることなんて不可能ですよ」


 オレは狼狽えたまま言う。


「さっきまで……確かに白銀の毛色だったはずなのに……」


 それなのに、ベールを脱ぎ、隊服をまとった瞬間、変化した。


「こんな、落ち込んでいる日の曇り空みたいなくすんだ灰色に……」

「なんだその表現は。失礼だよ。言葉を包んでくれってレベルじゃないよ」

「いや、でもどうして?」

「まあ、錯覚と言うヤツだね」


 バショウ隊長は、いつも通りにひょうひょうと答える。


「前にも言っただろう? あたくし達は皆、誤解を重ね着しているんだって。そいつを利用してやったのさ」

「誤解って……」


 そこでオレは、花屋の店員から教わった事を思い出した。


 一輪の花に合わせる包装紙。

 その色によって、花びらの色がより美しく見える事もあれば、逆にくすんで見せてしまう事もある。


 何で包むかによって、見え方が変わってしまう。


「こんな……布一枚で……」

「お手軽な変装だけどね、まあ姫様の姿なんてほとんどの獣人が見た事ないだろう? だからこそ可能とも言えるな」


 口をパクパクとさせているオレに、トキワ隊長がとりなすように言う。


「今のところ、誰も見破った事がないからな。わからないのも無理もないよ」

「なんで……そもそもオレの前で姫様の演技を続ける必要ありましたか?」

「観客がいると、もてなしたくなるんだ。役者のサガだねぇ」

「あなた役者じゃないでしょ! トキワ隊長も、なんでバショウ隊長の演技に合わせていたんですか?」

「ああ、すまない。あれは、姫様と話す時用の予行練習だ」

「練習? 何言ってるんですか?」

「姫を守る騎士のように、スムーズに会話できていただろうか」

「騎士っていうか、従僕って感じでしたよ」

「それはそれで悪くないな」

「悪いです!」


 オレはヘビワタリの中で絶叫する。


(なんて……なんて厄介な人達なんだ)


「しかしなぁ、オレちゃま。さっきの言葉は嬉しかったぞ」


 バショウ隊長はニヤニヤと笑う。


「『バショウ隊長は、お前達なんかと全然違う!』なんて、感動しちゃったよ。あたくしは」


 オレは、これでもかと言うぐらい、全力で顔をしかめる。


(あれを、本人に聞かれるなんて……)


「まあ、お前達なんかと違うって言われても、実際はあたくし本人なんだけどね」

「ちなみにな、すまないが言っておかなくてはならない。ミオ君!」


 トキワ隊長が真剣な顔して立ち上がった。


(なんだろう。これからの事について、さらに説明があるんだろうか)


「月の化身のごとく美しいリア姫は、バショウとは全然違うからな。口調はまあまあ似ていたが、姫はもっとおしとやかであり、たおやかであり、その清廉なる内面がにじみ——」

「わかりました。了解です。承知しました」


(全然重要じゃなかった……こんな時まで厄介な人だな)


 ガクン、とヘビワタリの車体が揺れた。


「そろそろだな」


 トキワ隊長がそう言って窓の外に目をやる。

 山肌に、星を撒いたような光の粒が瞬いている。


「——あれが、工業都市トープ……」

「そうさ。そして、反乱組織の根城——そうは言っても、クーデターに加担させられている自覚のある奴なんて、ひと握りだろうけどね」


 バショウ隊長はスイと目を細める。


「さあ、オレちゃま。あたくし共の出番だ。北の不祥事、南の不合理、東の不都合、西の不始末。この国の全部を、あたくし共でお包みするぞ」

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