⑮
隊長と別れたオレは《王の鉤爪》の宿舎に戻った。
そして、そのままぺたりと床に座り込んだ。
バショウ隊長から聞いた事の真相——。
それは、あまりにも衝撃的で、オレはすぐには飲み込めなかった。
(そんな……《長虫様》が……)
ふと、オレは思い立つ。
急いで故郷から持って来た鞄をあさった。
取り出したのは、クローから送られて来た手紙の数々だった。
行方不明になる直前まで何通も送られてきた手紙。
オレはそれを全て大切にとっておいたのだ。
もう一度、クローの手紙を最初から読み始める。
王都に着いて、宿の料金に驚いた事。
マルーンにはない洒落た店がたくさんある事。
物珍しい料理を出している食事処があったけれど、勇気が出なくて注文できなかった事。
トープに向かうため、ヘビワタリに乗る予定だと言う事。
——ミオは言っていたよね。『君の親は、君を捨てたんじゃなくて、王都で君を迎える準備をしてたんじゃないのか?』って。
——『きっとうまく行くよ。王都では、マルーンとは全然違う暮らしが出来るぞ』そう言ってくれたよね。本当にそうだったんだ。
別れの前にオレがクローに伝えた、偽りの言葉……。
(クロー……一体、君に何があったんだ……)
オレはクローからの手紙をじっと見つめた後、心を決めて立ち上がった。
(大切なのは……中身だけじゃない……)
オレの脳裏に、芝居小屋でイブキが言っていた言葉が蘇る。
『問題は中身じゃなくて、外側だ』
再度荷物をあさり、マッチを取り出す。
火をつけ、慎重に手紙へかざした。
(……何も起こらない、か)
今度は手紙の入っていた封筒を手に取る。
ゆっくりと、焦がさないように、マッチを近づける。
心臓が、ドクンと跳ね上がった。
文字が、浮き出てきたのだ。
——オロチに裏切り者あり。
最初の封筒に、そう書かれていた。
(……《オロチ》——王族に裏切り者? 裏切りって、何の事だ……?)
オレは震える手で、別の封筒に小さな火をかざす。
——トープに眠る竜。
(……竜? なんの事だ?)
炙り出された文章に、オレは首を捻る。
クローがここまでしてオレに伝えたかった事は、一体なんだろう。
オレは別の封筒を手に取って、新しいマッチを擦る。
そして、浮き上がった文字を見て、オレは危うく燃えたマッチを取り落としそうになった。
——クーデターの計画。
(クーデター? 裏切りってのは、その事か……待て、それはつまり——)
《オロチ》——王族の中に、クーデターを企んでいる者がいるって事か……。
オレは居ても立っても居られなくなり、部屋の中をぐるぐると歩き回る。
(クーデター……その計画が存在するとして、どうしてそれをクローが知ったんだ?)
(『トープに眠る竜』と言うのは何の事だ?)
(工業都市トープで、一体何が起こっているんだ?)
そして、オレは最後の封筒を炎にかざした。
じわりと文字が現れる。
オレは最後のメッセージを食い入るように見つめた。
(……なんだ、これは。どう言う事だ……)
マッチが短くなっていたのにも気が付かなかった。
「アチっ」と声をあげ、慌ててマッチの火を消して捨てる。
必死に冷静になろうとした。
(クロー……君は一体、何を調べていたんだ?)
オレは、封筒に書かれている文字を前に、頭を抱えた。
そこにはこう書かれていた。
——王族のリア姫と、第一部隊隊長トキワに警戒せよ。




