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第一層:間章 英雄

5年前、僕が10歳になったばかりのころ、世界は突如として変貌した。


世界中の15歳以上の人間にとって、眠りは安息ではなくなってしまった。


睡眠と同時に夢を見るのが当たり前だった人類は、その日から夢を見る代わりに恐るべき怪物達へと挑まされることになった。


眠りに落ちると同時に、殺風景な白一面の部屋で意識を取り戻すのだ。その部屋を訪れると、不思議とみなが理解した。



これは100層からなるダンジョンである。


攻略したものには、望んだ力が与えられる。


1日に1階層ずつ、ダンジョンに挑戦することができる。


各階層には人類の敵対者たるモンスターが出現し、それを打ち倒すことで次の層へと進むことができる。


挑戦に失敗し、ダンジョンで命を失ったものは、現実世界で目覚めることがかなわない。


100層をクリアすることで手に入るエリクサーのみが、その蘇生を可能とする。



わけもわからぬまま突然ダンジョンに挑まされることになったほとんどの人類は、他人事として甘い想定をしていた。


一部の命知らずが好奇心からダンジョンに挑戦するかたわら、一般人は明らかに危険であるダンジョンに挑戦することを拒んだのだ。


5日も立たぬうちに、ダンジョンへと挑み、目を覚まさなくなるものが一定数現れた。


しかしながら、判断力に乏しい未成年は別として、自由意志でダンジョンへと挑戦を行ない目覚めなくなるものに対して、世間は熱心に擁護しようとは考えなかった。


白い部屋で目覚めても、挑戦しなければそのまま現実で目を覚ますのだ。なぜわざわざ命の危険がある殺し合いなどに身を投じるのかと。自業自得であると。




ダンジョンに対する考えが一変したのは1週間ばかり経ってからだった。


「強制エントリー」なるものが発生することが明らかになったのだ。


ありとあらゆる国で、強制的に現在の自身の階層に挑戦させられるものが発生した。それはろくに身動きの取れない老婆にも、か弱い少年にも発生した。


のちに統計的に明らかになったことだが、0.03%ほどの確率で強制エントリーは発生する。


1人の人間で考えるとおよそ10年に1日。


あるいは日本の人口1億2000万人のうち、毎日3.6万人。


未だダンジョンに挑戦したことのない人間であれば1層へ。


9階層まで攻略済みの人間であれば10層へ。


老若男女の区別なく、意思とは無関係に、平等に強制エントリーは発生した。


ダンジョンへと挑戦を行った場合、モンスターを打ち倒してクリアするか、失敗して現実世界で目を覚まさなくなるかの2択しかない。挑戦の途中で逃げ出すことも、一時中断することもかなわないのだ。


1層ならば心構えがなくともうさぎを蹴り殺すことさえできれば生きて帰れる。


5層であれば小学生ほどの体格のショートソードを持ったゴブリンと呼ばれる醜い小人を打ち倒すことでなんとか命を守ることができる。


しかし、10層は体長2.5m、体重5トンの熊であるグレートベアを倒すことができなければ生きて帰ってこれない。


人類の叡智の結晶たる銃をはじめとして、己の肉体をのぞいて現実世界の何もかもを持ち込むことができないダンジョンにおいて、階層を進めてしまうことは致命的なリスクとなった。


人の身では起こせない超常現象でありながら、他人事ではなくなったダンジョンは、世界中の話題を席巻することとなった。


危険視して慎重論を唱える学者、神からの試練であると断言する宗教家、法規制すべきと騒ぐ政治コメンテーター。あらゆるものが好き勝手に意見を発信する中、最も注目を集めたのは階層を進めた先でのモンスターとの闘争の実体験を語る攻略者たちであった。


階層ごとに決まったモンスターが出現することが明らかになり、好事家たちの間でダンジョン攻略法が研究され始める中、冒険の末10層を攻略したものたち、すなわち1対1で熊を殺傷せしめたものたちの間から、現実世界でも超常現象を引き起こすものたちが現れたのだ。


あるものは化け物じみた身体能力を発揮し、あるものは手から火を放ち、あるものは不思議な力で傷を癒やした。


スキルの獲得。スキルはダンジョン世界だけでなく、現実世界でも発現可能であった。


それだけではなく、みなが等しくポーションをも現実世界へと持ち帰った。10層のドロップアイテムであるヒールポーションは欠損を補うほどの効力はないものの、外傷を瞬く間に治す力を持っていた。


10層をクリアしたものはみなそれぞれに超常の力をその身に宿し、その力をダンジョン攻略の牙として研ぎ澄まして、当初不可能とされていた11層以降の攻略を推し進めていった。


スキルを得たものたちですら心が折れるもの、目を覚まさなくなるものが増加の一途を辿る中で、20層、30層と10の倍数に相当する階層をクリアするごとにさらなるスキルをその身に宿し、ついには100層をクリアするものが現れた。


人類が夢を奪われてから148日、およそ半年が過ぎダンジョンによる犠牲者が日本でも10万人を超えた頃、アメリカ軍出身でありながら、妻がダンジョンに囚われ目覚めなくなった男性が、自らの手でドラゴンを打ち破り、エリクサーを手にした。


エリクサーにより妻は意識を取り戻し、その男性は英雄となった。




それから4年と半年過ぎた今でも、100層を攻略し、超越者となったものは世界で1000人に満たないとされている。


日本では8人しか公表されていない、人類の希望たる超越者。


そのうちの1人が…




…僕が憎んでやまない父、五十河太陽(いそがわたいよう)、その人である。


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