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第一層:ホーンラビット

1億円あれば、大切な人の命を救えるかどうかのくじ引きに参加できる。


いつしか世界は、そんなふうに変わってしまった。








「やるしかない……やるしかないんだ。うさぎ一匹、どうってことない。僕はやれる。やってやる。」



鈍色に光る、15cmの刃物を頭から生やしたアンバランスなうさぎが呑気に木の実をかじっている。


生い茂った草むらの陰に隠れて、ダンジョンに与えられた唯一の装備である麻の服に身を包んだ僕、五十河翼(いそがわつばさ)は、震える手を強く握り締めながら、弱気な声とは裏腹に、うさぎを強く睨みつけていた。



「横から蹴飛ばす。必勝法は気づかれないようにできるだけ近づいて、突進を避けて蹴飛ばすこと。何回もシュミレーションさせられたんだ。やれる。コツはうさぎを白いサッカーボールだと信じて蹴ること。」



ホーンラビットは逃げない。敵対者、あるいは捕食者である人間を前にして、こちらに気づくと言葉通り脱兎の如く逃げるであろう野うさぎとは違ってモンスターであるホーンラビットは逃走しない。それどころか頭の刃を振りかざし、一直線に突進を行うのが奴らの特徴である。


緊張を誤魔化すために漏れた声がまずかったのか、草原を吹き抜ける気まぐれで生暖かい風の向きがうさぎに有利に働いたのかはわからない。20mは先にいたうさぎの耳がピクリと動き、振り返った真っ赤な瞳と確かに目が合った。



「ひっ……」



こちらが鋭く息を吸い込むのと同時に、習性通りホーンラビットは突進してきた。



「ああっ」



とりあえず、突進を避けることには成功した。うるさいくらいに鳴り響く鼓動を感じながらも、頭は冷静に突進のタイミングを見極めることができている。



「次は蹴る!」



通り過ぎたうさぎは反転し、再度こちらに向かって突進を開始していた。


先ほどよりも少し早めにホーンラビットの進路上から横に飛び跳ね、助走をつけて勢いよく裸足のつま先を白い塊に突き刺した。



「いっっ……」



鋭い痛みを訴える右足の中指に気を取られながらも、視線は吹き飛ぶホーンラビットから離さなかった。ピギィ!と声をあげながらサッカーボールのように飛んでいったうさぎは、草原を転がっていく。慌てて駆け寄り、もがく白い塊を眺めていると、数秒もしないうちにシャーンというガラスの割れるような音とともに、ホーンラビットはキラキラ輝くカケラとなって跡形もなく消えていった。



「やった……」



後には、消えたホーンラビットと引き換えに、茶色のカードが一枚残されていた。表面には先ほど倒したばかりのホーンラビットの刃のような角が描かれている。通称、ホーンラビットの刃角だ。初めて見るが、これがダンジョンカードか。ダンジョンでモンスターを打ち倒した勝者に与えられる、次の闘争を生き抜くための手札。



「コール1」



カードを手に取ると、話に聞いていた通り自然とその使い方が理解できた。発声に応えて、輝きながらカードは刃渡り15cmのナイフへと変化した。



「ははっ……すごい……!」



この憎くてしかたないダンジョンという世界から、武器を1つ自分の手で勝ち取った。



「あと99回、くり返ぜば楓は帰ってくる。帰ってくるんだ。」



自分で簡単なことのように声に出しておきながら、どうしてもその実現を信じ切ることが今はまだできない。たが、諦めることもできなかった。


達成感と疲労感が一気に押し寄せ、鉛のように重く感じる体を引きずるようにして、ホーンラビットがカケラと消えると同時にどこからともなく出現していた門へと向かった。



門を抜けた先、無機質な白い空間にぽつんと置かれたベッドに向かって飛び込みながら、僕は意識を手放した。

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