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9 シウタからアーレイン

シウタ


営業の世界を舐めてもらっては困る。

だが、入社したときはすぐ転職しようと思ったものだ。


オフィスに響き渡る怒号。

木刀を持って机を叩く地獄のリズム 「デスマーチ! デスマーチ!」 と、叫び散らかすデスシャウトは行進曲にピッタリで、卓上の灰皿は宙を飛び交い、コピー機は文明の唸り声を24時間出し続ける。

パワハラと言う言葉が生まれるきっかけの労働基準監督署の夜明けはまもなくだ。

今は、大分時代的に良くなったかな?


そう。舐めてもらっては困る。

我々は、謝罪のプロでもあるのだ。 

例え前年比が足りなくて、恫喝され詰められても 「申し訳ありませんでした!」 と大きな声で言いながら、昼飯の今日どこいこうかな~? と、考えれるぐらいの鋼のメンタルを持っている。


そして客先では、劇場型シリーズの謝り方だ。 謝罪を言葉にかぶせるのだ。

「あの今日『本当に申し訳ありませんでした!』」 「いやだから『本当に申し訳ありませんでした!』  「話聞いてる?『本当に申し訳ありませんでした!』」

数々の難題を巧みな話術で、解決してきた。


さて、冷徹にマジギレしている。上司たち。

未来世界の軍人文化に通用するのだろうか。


――


ヴォルテクスの編隊が拠点のゲートを通り抜け巨大な格納庫に戻っていく。

ノクターンの指定場所に戻りコクピットを開くと格納庫の内側から漏れる光と歓声が包み込む。


整備班、そして物流部たちが走り寄り、歓声が湧き起こっていた。

周囲には拍手喝采の嵐。誰もが自分の活躍を讃える声が聞こえる。


コクピットから降りると、戦友の部隊のやかましい先輩達が寄って来て、声をかけてくれた。


「王子、やるじゃない。お礼にチューしてくれるんだっけ? ほっぺにお願い」 「私は、王子のほっぺにするわ」 「私の分がないじゃない。通報するわ。私以外が幸せになるのは気にいらない」


「色々とありがとうございます。チューは、今度先輩たちのヴォルテクスにも乗らせて頂いた時にでもさせてください」


「逆ナン!」 「エロ!」 「チョロい系王子?! 妄想の産物では無く、存在するのか」


やかましい。

人のヴォルテクスに乗らせてくれるならチューぐらいしてやるわ。


戦果への歓心はこんな所か。

さて・・・、来るぞ。嵐が。


――


「シウタァアアアアアア!!!! 」 


ミリ軍曹の黒髪のぼさぼさロングが荒々しく揺れ、その高身長から繰り出す、金属の床に響くブーツの音が怒りの波動を直に体に伝えて来る。

いつの間にか着替えたのか、赤と黒のカラーリングの軍服

その中で引き締まった筋肉の流れは、美しい。

その背後からは、空間がゆがむような陽炎が揺らめいていた。


あかん、〇される。 〇されるって。

ヴォルテクスの装甲を素手でへこますんだぞ。

てぃっ! ってやられたらお終いなんだぞ!


営業の謝罪の自負とか、全て吹き飛ぶ。

なぜ、あの当時のメンタルが維持できたかと言うと 「どうせ失敗しても、クビになっても死ぬわけでもないし」 と、言う高を括っていたからだと、心で分かった。

直接的な原理主義者には、敵わない。


これ、舐めた事言ったら〇されるわ。戦場と同じ雰囲気だわ。

全力で行かないと。


「命令違反だぞ! 自分の立場が分かってるのか!? シウタの仕事は、ここを守ることだ! コクピットから出て、敵兵を助けるなんて、正気じゃないぞ! 戦場を理解してるのか!? どんな目に合うと思っているんだ!! ああ!? どんな目に合うと思っているんだ!!」


逃げるわけにもいかない。これは、マジで冗談抜きで首が飛ぶかもしれない。

今後ヴォルテクスに乗れない事は、絶対嫌だ。

本気で謝ろう。


「大変申し訳ございませんでしたぁああああああ!」


ミリ軍曹に飛びつき抱き着く。

頭一つ違うので、首あたりにポスンと着地する。


「ミリ軍曹! 本当に申し訳ありませんでした!  軍曹、嫌わないでください! 恩人を裏切った真似をして申し訳ない! おっしゃる通り、正気じゃなかったんです。フレーム越しに見る世界から、実際の生々しい現実。 生命の終わりを見届ける程、強くありませんでした! 軍曹、心から尊敬してます。許して下さい!」


手を腰に回し、もう片方の手で軍曹の首元に軽く触れるように引き寄せる。

昔に別れた不安定で自傷癖の彼女も、これで何度も正気に戻した技だ。

人との接触は、人を正気に戻させる。


セクハラだとか、言っていられない。

自分の命がかかっている。でも、さすがに踏み込みすぎたか??


「・・・。いや、お前が本当に心配なだけなんだ。無事ならそれでいい。わけない。危ない、シウタ懲罰は、避けれないぞ。や・・・、いい。ごめん。いい。大丈夫だ。あぁ・・・、このまま時が止まればいいのにな」


その瞬間、軍曹の微かな体温、乱れた黒髪越しに感じる戦場の匂い、緊張が解けた空気が一気に伝わってきた。


多分、許された。


「はぁぁぁぁいいいい!? ミリ軍曹、何してるんですかー?! 今の会話は何ですかねー! この、実働部隊の指示不足である大問題中にイチャついてるってことでいいんですかー!!」


多分、許されてない。

サリ伍長の声だ。


「サリ伍長! イチャついておりません!! 許しを請うてました!」


ミリ軍曹からパッと手を放す。

直属の上司のサリ伍長の肩も持たねばならぬ。


拠点全員の前で起こる昼ドラ劇場。


「いや、イチャついてたぞ。シウタは、私がここに連れきたんだ。親密で何が悪いのか」


「ンググググッググググ! 私がちょっと目を離した隙に、何があったんですか!?  シウタさん、私の好意はどうなるんですか!?  あれほど健気に支えてきた結果がこれですか!? そうなんですかー?!」


地獄の釜の蓋が開きそうだ。

どうしたらいいんだ。流石にこんな経験は無い。

でも本能が教えてくれる。ここは、静かに第三者を気取るべきだと。


「王子の抱き着きエロすぎでしょ。はぁ~、何あの手の使い方。発禁ものよね」 「もうこの際、王子の懲罰部屋はみんなで共有すべきじゃない?  あ、私せくはーらるしました。一緒の懲罰部屋へお願いします」 「唐突なNTRだけど、超イケるわ。私もうダメかも」


周囲もやかましい。

戦場より、修羅場の方が恐ろしいとは。


「全員黙りなさい!! それぞれ職場に戻れ! ここは私が預かります!」


銀髪ショートを揺らしながらの、劇的入場(ドラマティックエントランス)。金色の目がギラリと輝く、アーレイン大佐。


ナイス仲裁! ありがとう! アーレ大佐!!


「これは何ですか? この私の拠点で争う暇があるんですか? それとも、私の指揮下で勝手な恋愛ドラマでも撮ってるつもりかしら? はぁ~、うらやましいわね。じゃない。シウタさん。ミリ軍曹、サリ伍長、沙汰を言い渡します。私の部屋まで」


意外なカリスマの発揮に、思わず敬意を表してしまう。


「「「承知致しました」」」


――


アーレイン・フリュグリッド


――


指令室で、部下全員がヴォルテクスの会敵を今か今かと待っていた。


灰色がかった金属壁面の静かな空間。

外で激しい戦闘が行われていても、この部屋防音設備だけは静寂を保つことが出来る。

中央には大きなホログラムスクリーンが浮かび上がり、拠点の戦況を投影している。

敵味方のヴォルテクス位置、拠点の耐久、どれも厳密なデータ処理が行われ、正確な情報が一瞬で更新されホログラム表示されていた。


部下の優秀なオペレーターたちは各自コンソールにかじりつき、淡々と状況報告を行っていた。


「シウタ王子、異常なし」 「シウタ王子バイタルグリーン」 「シウタ王子、彼女の幻影なし!」


「「「うぉおおおお! やったぞ!!」」」


湧きたつ指令室。

まだ何もやってないわね。会敵もしていない。

緊急時に遊んでると、〇しますわよ、お前達。


後、ホログラム画面をぺろぺろするな。

私は、もうペロッたけど、味がしないわよ。

また騙されたわね、お金返して欲しいわね。


そして、中央ホログラムに映る、無駄な距離で砲撃を撃つシウタさん。

なってない、新兵プレイ丸出しですわね。

コクピットで震えているのかしら? とっても、そそるわね。


「敵機撃破?!」 「続いて超遠距離で敵機2機目撃破!」 と、報告が上がってくる。


イミフ。意味不明。

あの距離で当たれば苦労しないわよ。マジに狙っているのかしら。


すぐに援護に入りまた撃破。

なんじゃこりゃ。


ミリ軍曹が、続けて3機落としていたそうだが、誰も見ていない。

いつもの事だ。 ミリ軍曹が、ちゃんと補足できればこんなものよね。


「おい、ゴリ猫! シウタ王子の見どころが減るだろが! 何勝手に落としてんだ!」 「はぁ?! 10分もしない内に、シウタ王子の実況終わるんですか?! ゴリ猫自重しろ! 金返せ!」 「部隊員、色目使うな! パンぶち込むぞ!」


指令室は、不平不満で溢れかえっている。

地獄の釜の蓋が開いたかのように怨嗟が蠢いている。

正直もっと、シウタさんがどこまでやれるか見たいわね。


ミリ軍曹の突撃の援護で瞬時に連射で2機を落とすシウタさん。


青白い閃光が二筋、矢のように放たれた瞬間に敵機が火花を散らしながら地表に叩きつけられ、爆音とともに焦げた金属片が、赤く発熱し跳ね飛んでいる。

ホログラムが写すのは、砲口を向けた空の色に染まる紫の機体。ノクターン。

この臨場感に比べたら、ホログラム映画のワンシーンが安っぽく見える。


「はぁ~、シウタ王子最高!最高!」 「んぶぶぶぶぶ、主演の映画化決定! 全ての賞を総なめにするんだよ! ベットシーンから逃げるな!」 「ぺろぺろぺろ、ぺろぺろぺろぺろ」


これ、神話上の生物と言われる、ゴリラの誕生だわ。

いや、王子。リアル王子だわ。こんな存在ほんとにいるのかしら? レベル高すぎない?

あんな、元彼に貢いでた私の目が腐っていたのね。

ここに居るじゃない、黄金と同等の価値の男が。


そして、シウタさんは逃げる新型を追っている。

これは、そうとう良くない事。やってしまうと、戦場に禍根を残すわね。


――


敵は憎むべき存在ではあれ、同時に生きるため、お互い存在ために戦う者でもある。

敬意と正々堂々と言う考え方を無くしてしまうと、殺戮に発展し、撲滅まで行く可能性があるからだ。

『繁栄』 とは程遠い考え方だ。 この銀河で繁栄している種は 『道』 がある。

相手が光学迷彩で姑息な戦術を使おうと、決して侮りはしない。

人命が軽視されがちな戦局の中で、敵にもまた戦う理由があると理解することは、自分自身の心を卑劣さと残虐さから守る行為でもあるのだ。


『繁栄』 この銀河での種族達の最大の目標である。

銀河は今日も、大量消費、大量生産、量子コンピュータの閲覧管理によるエロの添削、もはやAI添削を抜けるため、本と宇宙対応のDVDの石器時代の伝達方法でしかエロは買えない。ものすごい制限がかかっているのだ。

エロの自由化は、『繁栄』 とは、結びつかないからである。

全ての種族達は、今日も抑制されているのである。


――


あっ、撃っちゃった。


閃光が放たれ、帝国ヴォルテクスの背後を直撃する。

敵機の背面が吹き飛び、フラフラと 『銀の鳥』 の機体は、砂塵の中に沈み込んだ。


こうなったら、敵兵の目撃者を消すしかないかしら。

王子を守るためだし、仕方ないわよね。


「あー、大佐。残兵やっちゃいます? 大気圏で待機している敵戦艦も落としますか?」 「目撃者は、消さなければ。王子に傷が残る事はありえません」 「新たな英雄の誕生であります。その眩しく光り輝く功績のため、われわれ影が働かなければ」


ねぇ、大丈夫? 貴方達、性格変ってないかしら?


って、何コクピットから出ようとしてるんですか?


「おらああああああ! 遠隔でノクターンのコクピットをロックしろおおおおおお! 何してるんです!? 外に出る!? 馬鹿じゃないの!? 即座にれーぷされるにきまってる! 何を見せる気ですか! 早く、ロックしろ!」


「手動で開けてます!」 「ロックききません!」 「ああああああああ! ネトネトれーぷ! 脳があああああ!」


中央ホログラムは、ノクターンの外部カメラに切り替わる。


シウタさんがどっかで見た事がある、少女を治している。

記憶があっているなら、連邦王国の包囲前に貴族パーティで見た、一人娘の皇女じゃないかしら?

考えすぎ? 考えすぎない拠点の上長なんてぼんくらと同じよ。

これ、皇女だわ。 治った瞬間れーぷされるわ。 私だったらするわね。

もうおしまいね。 せめて記録に取って消される前にDVDに焼き直さなければ。


シウタさんが治療を半端にヴォルテクスに戻って来た。

反撃にあわないように、ギリギリの所で皇女の回復。エグイ事するわね。

シウタさん、知恵は回る様で安心したわ。


でもとうぜん、此度の行動は、許される事ではないわ。


ドゴォオオオオオオオンと、机を叩き。

指令室を出る。


シウタさん中心に、昼ドラが出来ている。

「いいから、ついてきて」 と、ミリサリ、シウタさんを私の部屋に連れて行きたのが一連の流れよ。


なんか、説明に疲れたわね。


――


部屋で、顛末を聞く。

俯いて泣いている。シウタさん。

おろおろと慰め始める、ミリ軍曹、サリ伍長。


シウタさん、ウソばっかり。

私のお金を取って見つかった時の、元彼の泣き方とそっくりよ。

やるわね。男の涙の価値に気づいているのね。


そう、沙汰は決まっているわ。


この基地に貴重なエースが2人、どっちか片方いれば事たりそう。

今回ボコボコにしたし、暫く帝国は来ないし。

ようやくミリ軍曹も繁華星で休日が取れるじゃないの。


「はい、シウタさん。形だけ懲罰房へお願いします。 その後、ミリ軍曹とかわるがわるの休日を命じます。 2人とも溜まっている休日消化をお願いしますね」


もちろん、シウタさんの休日を狙って繁華星に私もいくけど。


「シウタさん、サリにお任せくださいねー。こう見えても繁華星の統治者の家系なのです。超もてなします。もう全ての使える力を使いますから、休日一緒に私の星へ行きましょうー」


「私は負けたのかあああああああああああああああ! あああああああああああ!」


あれ? サリ伍長、家と関係切ってませんでしたか?



評価やいいね、ブックマークありがとうございます。

貴方様の好みを詮索しながら書く時間が無いため、ズレているかもしれませんが面白く感じて頂ける様にすすめていきます。


これ文章全体を半分にして、毎日投稿の方が数字が伸びると思います。

でも、この分量で出すと、満足感と疾走感を味わえて頂いてますかね?


また、貴方様のおかげで、全ての暗黒面の誘いの力を極力排除して、書いております。

SNSもしてない、相互もしていない。「お~、友人、携帯貸してくれや。よし、お前もかしてくれや」評価ポチポチポチと、数こそ力! もしていない。

ですが、数字の魔力に取りつかれた今、より強く暗黒面の力が魅力的に感じてきます。

親兄弟、親戚、女子供、友人、会社。一日に見るパソコンの数が黄金と同等に見えたりします。

何か、バズったら 「暗黒面の力は、素晴らしいぞ!」 と、ダークサイドに落ちたと思ってください。


SNSぐらいしたら? と、熟達のなろう系の友人に言われますが


つづく


でも、根本は暗黒面の話では、無い気もします。

はるか銀河の片隅で、こういう無名の作者をみて頂いている、貴方様にいつも頭が下がります。

一つの閲覧、評価、いいね、ブックマークが。作者の背中をどれだけ押す事か。

気軽に、気に入った作品があったら続けて閲覧したり押したりすると貴方様に返ってくるかもしれません。

甘く見ては、いけない。ライトサイド(善性)の力を。



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