8 ヴォルテクス
1 長距離支援機体 ヴォルテクス・ノクターン
この星の空は、赤い。いつも夕焼けだ。
赤く染まった空がヴォルテクス・ノクターンの光沢ある青黒の装甲に映り込み、紫の輝きを放っていた。
先ほどの、ブチギレカオスな痴話喧嘩の騒音が嘘のように消え去り、目の前には荒れ果てた平原が広がっていた。
ノクターンの超絶最高な美しさに思いを馳せながら、考える。
さすがの自分でも、何かがおかしいと思う。
先ほどまで普通に対応していた人間が、過保護すぎるケースが多すぎる。
拠点唯一の男と言う、点を差し引いたとしてもおかしい。
自分は、平凡な人間だ。そもそも 『王子様』 呼びがどうかしている。言われてもお兄さんぐらいだろうに。
でも、日本では34以下まで若者と規定されている。まぁ、王子様ではあるのか? しょうもない。
いや、まて。ヴィチューバーは年齢と共に若返る恐ろしい特性があったな。人類は、既に永遠の王子様を手にしていたのか。
そんな事を考えながら、フロントパネルに映し出された集合地点マーカへ進む。
ヴォルテクスの重厚な一歩。脚部が大地を捉えるたび砂塵が巻き上がり、風にさらわれて渦を描く。
その状況に、心の火花が激しく燃え上がる。
アクセルとターボを同時に入力し、体にかかる重力を感じながら地点に到着した。
友軍のマーカーがレーダーの先方に沸いており、ミリ軍曹から連絡が入る。
「シウタ! 新型は、お前の『種族の力』で補足できるな? 確認次第、すぐに報告するんだぞ!」
ははっ、愛しのミリ軍曹からの連絡だ。
このヴォルテクスの力を振りかざす感覚。
押し寄せるような感覚に酔ってきて、テンションのバランスが危くなっているのを必死で抑える。
「お任せください。ミリ軍曹。 ハハッ、震えて撃てなかったら、この前見たいに優しくギュッと抱いて下さいね。ハハッ」
「おまっ・・・キィィィィィィイイイイイイン」 ホログラムがぐにゃりと乱れる。
すげぇ、この時代でも混線してハウリングするんだな。
遠距離センサーがわずかな揺らぎを検知する。
その方向に向くと、赤い空の向こうに、空間に微妙な歪みが現れている。
光学迷彩を纏った敵の新型ヴォルテクスの到来をしめしていた。
味方、6機のマーカーが映る。
向こうは、新型を入れて16機ぐらいか? 攻城戦は、3倍必要と言うし。
こんなもんかな。
さてと、いきますかね。
背部に装備された長距離レーザーライフルを構え、センサーと射撃方向を一致させる。
ノクターンが、レーダーに映る敵機の方を自動でロックオンするがノーロックに切り替える。
「ノクターン。違う違う。超遠距離は、置いておくんだぞ? ロケットランチャーで高速戦闘機を落とす動画見たこと無いか? こうだ」
赤い空に一筋の光を描き出した。
トリガーに指をかけると、長距離ライフルが低い唸りを上げる。一瞬の静寂を作り出した後、赤い空を切り裂く光が、敵機の光学迷彩を弾き飛ばし、その新型の黒いトカゲのフォルムを露わにする。
被弾機は、一度着地するだろう。
再度ビームライフルを着地地点に置いておく。
尾を引く閃光だけ確認できた。
ドゴォォオオン! 遠くで起きた爆発の衝撃が伝わり、コクピットが微かに震える。
復帰不能には、なったか?
ここからだと、どうなったか分からないな。
出来たら、中身が生きてるといいね。
さて、敵の一番前は長距離砲の警戒が厳しいし、自信があるから一番槍なんだろうな。
友軍に任せて、レーダーに映る二番目をいきますかね。
指は迷うことなく、トリガーを引く。
「ノクターン。偏差計算もいいけど、甘いぞ。人は、撃った光と警告音に反応する。進行方向を予測して欲しいな」 と、愛機に優しく独り言を囁く。
敵機が徐々に距離を詰めてくる所、帝国のヴォルテクスにビームがかすった。
帝国のヴォルテクスは、黒く装甲が厚いデザインだ。
攻撃性と耐久性を優先した重装甲デザインが特徴で幾分かごつい。牙を連想させるフレームで囲われた形状をしており、中央には真紅に輝く双眼のセンサーが備えられている。
赤く光る眼の帝国のヴォルテクスもかっこいいよな~。
ミリ軍曹のヴォルテクスのカラーリングも赤と黒。
筋肉を思い起こす装甲。目の部分が青いぐらいの違いか。
そうね。
この戦場でその色は、ミリ軍曹専用であるべきだと思います。
会敵寸前に、長距離砲に危機感を覚えたのか空中で散開する。
散開方向に向けて、先ほどかすった機体に狙いを定める。
「そこか?」 ライフルから発せられるビームが閃光となり、音もなく空を切り裂いた。
爆破音と共に、轟沈。爆炎を上げながら地面に落ちていく。
ハハッ、会敵前に二機か、物足りないな。
新型はもう一体感じ取れる。
後は、援護しながらいきますか。
「やるな! 上出来だ、シウタ! そのまま新型の位置をあぶり出せ!」
オープンで部隊通信連絡が入る。
お褒め頂きありがとうございます。軍曹の台詞も軍曹で素敵です。と、思うが声には出さない。
セクシャルな発言は、何かがおかしくなる。
「新型が、後一機ですかね。ロックオンに入ったらすぐ落とします。ミリ軍曹、ご武運を」
「任せろ! 全員散開! 後ろから、拠点の砲撃援護とシウタの超級スナイパーの援護があるぞ!」
「「「了解!!」」」
通信を通じて聞こえる部隊の声は、士気の高さを感じさせてくれる。
興奮で、脳がどうにかなっていまいそうだ。
味方マーカーが散開していく。
倍の速度で突撃していくのがミリ軍曹だろう。
士官機仕様の近接ヴォルテクス。 『タイラント(暴君)』 だ。
近接機体は、イマイチとか言ってましたが、本当に申し訳ない。超格好いいよな~。
最初に乗せてもらってから、近接もいいよな~とか思ってしまう。
危ない。今は、余計な事は考えるな。
エイムの当たりが悪かったら足から破壊して、確実に2発目で撃破していきますかね。
長距離レーザーライフルを構える。
ロックオンに気づいたのか、遠くの敵の機体は滑らかに動き、狙いを外そうとしている。
その動は既に読めている。
敵機のわずかな癖を見極めた瞬間、トリガーに指をかける。
視界はクリア、世界は静寂だ。
ハハッ、お前を狙い撃つ。
興奮により、脳裏に流れる何かの台詞。誰の台詞だったか。
発射されたビームは直線上に伸びる。
敵機は一瞬逃れようと体制を変えたが、胴体を貫き、装甲が一瞬赤く輝いた後に轟音と共に赤い目の輝きが消え、帝国のヴォルテクスは力を失い地面に崩れ落ちていく。
「次は援護入るぞ、ノクターン」
新型のもう一機の気配は戦闘に参加しようとせず、さらに遠くにいる。
偵察機か? 戦わないのか?
そうか、よし気に入った!
〇すのは、最後にしてやるぞ!
――
混戦の中、味方機と敵機が入り乱れ、砂塵が視界を遮る。
だが、友軍マーカーの表示は、裏切らないはずだ。
さて、目の前の対処で行動が精いっぱいな敵から狙撃しましょう。
狙撃のマークは甘いはず。撃破数を伸ばすのは、ハイエナが一番。大人のパチスロ教科書にもそう書いてある。
『スターきつね』 で、味方が後ろを取った獲物を落とすと 「ちっ、人の獲物を!」 と、怒られるんですけど。リアルでは、生死が関わっているので怒られはしないよな? 頼む、怒らないでくれ。
中距離でやり合っている味方機の援護で、自分のビームが敵機の足関節部分を貫通する。
動きが止まり、帝国ヴォルテクスが膝を折る。
すかさず味方機が追撃し撃破する。
ナイスだわ。
「ありがと、お礼に後でチューしてあげる」 「それって、王子にとって罰ゲームじゃない?」 「いや、セクシャル発言でしょ、セクハーラる懲罰者の第一号おめでと」
部隊通信が入る。マジにやかましい先輩達だ。
そして一瞬にして敵機のマーカーが一瞬にして3機減る。
ミリ軍曹だろう。
おいおいおい、自分の分も残して欲しい。まだ、全然倒してない。
ミリ軍曹の方を拡大させ、ホログラムモニターに写す。
赤黒のヴォルテクス・タイラントが脚部に搭載されたブースターを最大稼働させ、蒼い光を放ち敵編隊に突進するミリ軍曹。
その速度は帝国ヴォルテクスを圧倒しており、高速の突進で敵機を殴り飛ばして破壊力を見せつけている。
帝国機、もう少し粘ってくれ。
高速の異常な接近に焦って、近づかれない様に弾幕を張るのが良い手ではないぞ。
弾幕で本体の動きがスローになるから、近接の餌食になる。
あっ、4機目落とされた!! おい! 軍曹! 何してるんだ! 誰の獲物だと思っているんだ!敵ももう少し粘れよ!
おい、光学迷彩の新型! 参戦してミリ軍曹の足を止めてくれ! あああああ! 誰か助けて!
高速で近接を仕掛け、撃破数を稼ぐ暴漢がいます! バグだと思います! 誰か! 助けて!
コクピット内を揺らす轟音で、ヘルメットがコクピット内にコツンと当たった。
?? あれ? 自分は、一体何を考えてた?
さて、会敵から10分で、ほぼ同数。
これは、もう拠点からの砲撃を合わせたら、もう拠点制圧は無理じゃないか。
ミリ軍曹の部隊通信が入る。
「全員、止めを刺しに行くぞ! やれる奴はついて来い! シウタ、見せてやろう。このミリュネの力を!」
「「「了解!」」」
と、一応は合わせる。
グギギギ、自分が力を見せたいんですが。
赤い敵マーカーが全て、突撃しているミリ軍曹に向く。
あれだけ軍曹が暴れていれば、あいつだけは許さん、絶対〇すマンになるだろう。
「「「ミリ軍曹、囲まれていますよ!」」」
シーッ! 言わなくていい!
敵が囲んだ事に意識を持っていかれた所、敵機を撃ち抜くからさ!
こういう風にだ!
ライフルから放たれ2発のビームが、敵機の2機の頭と胴体を正確に貫いた。
爆発の閃光と共に、倒れ込む。
「シウタ! ナイスショットだ! 押し切るぞ!!」
瞬時に近接を挑む2機に蹴りとトンファーからのマシンガン乱射で爆炎が起る。
ああああああ! もぉおおおおお! 超ゴリ猫!!
普通、部下に出柄を譲りませんかね!?
後の敵は、味方機が囲んでボコってお終いだ。
――
さて、後1機残っているな?
隠れてないで出ておいで。大丈夫、何もしないから、何もしないから。
何もしないと言って、女性を飲みに誘うケースは良くあることだ。
世の中は、建前で成り立っている。言い換えると、やさしいウソで溢れている。
つまり、ラブアンドピースで平和が一番。幸せの獣欲を新型の貴方に届けましょう。
光学迷彩の新型の気配の方にノクターンをターボで進ませ、ビームライフルの砲口を動かす。
突如、新型が背部ブースターを全開にし、一気に空中へ跳躍した。
光学迷彩が透明な影となり、遠ざかっていく。
「おいおいおいおいおい、逃げるのか? どうして? なんで? 一度、開戦したら決着まで戦うのが習いだろうが、古代バイキングとか多分そうしていたぞ! わかんないけど!」
ブーストを全開にし、空中に浮かび上がり新型を追いかける。
そして、ブースターの軌跡を予測し、移動位置にビームライフルの狙いを定める。
「シウタ! 撃つな! 戦意無く、逃げる者を撃つな! この戦場の機体を回収するには、生き残る者が必要だ! まだ生きているものも居るだろう! 逃げられるだけの力があるなら、拾わせてやれ!」
急なミリ軍曹のポップアップにビクッ!と驚きトリガーに手がかかる。
ギュウウウンと閃光が飛び、背中の中心を撃ってしまった。
爆発することなく、ビームは貫通し新型の光学迷彩が消え、銀の鳥の様なフォルムをした機体がフラフラと地面に着地した。
これは、やっちまった感じかな。
鳥の機体の横にブースターをふかしながらノクターンをつける。
新型のコクピット部分には大きな裂け目があり、そこから血まみれの少女の様な物体がうつむいた形で見えていた。
うわああああああ! マジにやっちまった!
コクピットに直撃しちゃったよ!
見ちまった、これは傷になる。
あああああ! クソッ、画面越しだから撃てるのだろうが!
目を伏せたくなるような惨状だが、少女の肩が上下している。
ありがたい! まだ、生きている!!
「おい!! シウタ 何をしている!!!! コクピットから出る気か、おい馬鹿! やめろ!」
だよな。やっていることは、まずいよな。
すまん、ノクターン出してくれ。
外部パネルを手動で開き外に出る、後ろのポップアップが多数になり、阿鼻叫喚の罵声が聞こえてくる。
コクピットから出て、敵兵を回復して助ける。誰でも分る。何かの罪だろう。
視界を塞ぐヘルメットを投げ捨て、外に出て、少女にさらに近づいた。
パイロットスーツの胸元には鮮血が滲み出ており、呼吸も浅く乱れている。
紫の髪が鮮血に濡れて、黒くなっている。少女の頭には、鳥の羽の飾りがついていた。
そっと、抱きしめ、地面に降ろす。
胸の傷口に両手をかぶせ 「治れえええええええええええ! 自分のためになおってくれえええええええ! 人間いつも善人でありたいと願いながら、悪人の行動を取る愚かな生物なんじゃあああああああ!」 と、祈る。
緑色の光が溢れ出し、傷口に吸い込まれていく。
出血が収まり、ひどく開いていた胸元の傷が塞がり始めた。
「ううっ、お兄様・・・? 回復の力・・・? あの、どうせなら骨まで治して頂けませんか・・・? お兄様にどうせなにも出来ません。・・・あれ? ・・・・お兄様ってなんですか?」
注文が多い敵兵だな。ほっておくぞこの野郎。そもそも元気じゃねぇか。
治らないんだよ。骨は治らない。
体から疲労を感じるが、回復の手を止めない。
傷が完全に塞がるのを確認して手を下ろした。
「ありがとうございます。お兄様・・・」
よし、治ったし、いいな。
後は、戻り上に任そう。
ノクターンのコクピットに戻ると異様な静けさがのこっている。
コワッ。
「シウタ。見事だ。素晴らしい功績だ。誰もが認めるだろう。私も嬉しいよ」
「シウタさん。素晴らしい功績ですわね。この基地にエースの誕生だわ」
うわぁ・・・、超怒ってるじゃん。 キレすぎて冷静になるやつだ。
ホログラムに映る、アーレ大佐とミリ軍曹。危機感を覚える程の笑顔が映る。
だよなぁ・・・。 う~ん、泣けば許してくれるだろ。拠点でただ一人の男だぞ。許してくれ。
「泣けば許されると思ってるの?」 とは、言わないだろ。 たぶん。
「「戻ったら、尋問です。シウタさん」」
「ハイ。仰せのままに」
あああああ、後書きが書きたい。
何とか書き上げたらもうこんな時間。
数字の魔力が恐ろしく、投稿を急かしてくる。
取りつかれたものは、常に耳元で声が聞こえる。
「ねぇ、頑張るんでしょ?」 「酒なんて飲んで大丈夫? 早く書かなきゃ」 「みんなまってるよ。早く書いて」 「ネタ考えてほら、ユーモアが無いと誰も見ないよ。昔に痛感してるじゃない」 「投稿遅れると、興味がそがれて人離れちゃうよ? 早く投稿して」
みたいなのが聞こえてくる。
タバコの精霊の「煙吸おう?」 の声よりえげつない。
同じ100でも猫ミームの動画投稿で得れる100視聴者とも違う。
100に見て頂いているのありがたさを痛感しているから、画面と向き合い考えるからこそだろうか。
対比にするのが大変申し訳ないが、ヴィチューバ―でよく、取りつかれている人がいると思う。
最近ヴィチューバ―を見ていると、そう思う人、いや獣人? なんだあれ? ヴィチューバ―の方々がいらっしゃる。
視聴者が何千、何万単位。 上振れ下振れの上限も何千何万単位。
どこからか聞こえてくる、数字の魔力の声は想像できる範疇だろうか。
物凄い声が心のどこか、もしくは耳元で聞こえていると思う。
その声が止むのは、配信時のみ。
終わった瞬間からまた声が聞こえる。「配信しなければ」 と。
と、言う想像でした。
きっと煌びやかな世界で、キャッキャウフフ。心を満たす肯定的な声。
客層も紳士ばかりで、作品に「ピカチュウ~」 とか、意味わからん、一日中なんかイライラする感想とか。投げてくる存在が居ない素敵な世界。推してくれと言ったら押してくれる優しい世界。
なんて、世界が無いのは多分この作品を見ている方は、なんとなく知っていらっしゃると思います。
光り輝く半面、きっと影は長い。
エゴサもやめられないだろう。毎朝、デスメールみたいな状況を見ているのだろうか。




