7 シウタ
シウタ
スクランブルの警報が鳴る中、格納庫に向けて走る。
一緒に走っているサリステア伍長が、凄い早い。マジ早い。
ブラウンのセミロングの髪をなびかせて、シュタタタタと走っている。
ちょちょ、っと。置いてかないで? 伍長おいてかないでぇええええ!
「サリ伍長! 手を繋いでください! おいてかないで!」
サリ伍長にグイッと引っ張られる。
「・・・私はこんなにも節操がなかったのですかねー。こんな状況で、脳が一時的な欲を優先しろと指示を出して来てます。そして直感と本能がそれもいいなと思っているのが情けないですねー」
なんか、聞いたことがある台詞だ。
自分も情けない。もう少し体を鍛えてれば良かったなと思っています。
「ハハッ、このまま伍長を抱きしめるストーリーは、これが終わってからですかね。・・・あの、緊急時なもので、ほんとすいません。笑いでごまかせずにハズしましたか、すみません。セクハラで糾弾は勘弁してください。 あの、冗談とスキンシップは、緊急時なものですいません」
調子に乗って居た。これは、セクハラに入るだろう。謝らなければ。
緊急時は、どうしても男の価値観が前に出てしまう。
「ミリ軍曹が、これに耐えていたとはさすがと言う所ですかねー。私は、明日の第一号のせくハーラるの懲罰予定者でしょう。あ~。アーレ大佐がなぜ全財産を男に貢いだか、分かります。 目の前の天を焦がす様な思いの熱に比べたら、お金の価値なんてカスですねー」
不穏な台詞が出てきた。男女間のどうこうは、お金じゃ買えない・・・?
ふぅ~。厳密には買えますが。 色々な愛の形があると思う。
――
施設全体が警報とサイレンに包まれる中、格納庫へと駆け込んだ。
すでにミリュネ軍曹がヴォルテクスの整備班に指示を出している姿が見えた。
骨折セクハラ軍曹では無いのは、分っていたが。ここまで頼もしいのか。
「シウタ、急げ! 時間がないぞ!」
ミリュネ軍曹が振り返り、手招きしてきた。
ミリ軍曹からは熟練の落ち着きが宿っていて、超かっこいい。
「軍曹! 流通部のシウタ王子ですよ! なおかつ結婚適齢期の男ですよ! どうする気ですか? えっ、もしかして王子が褒賞ですか? ああああ! 命をチップにして、武功を上げて参りますぅううううう! 魂を燃やせええええ!」
「王子の見送りだけでも超嬉しい。 チューぐらいしてくれるんでしょ? あれ? 脳がおかしい。王子が褒賞!? 命を燃やせぇええええ!」
ミリ軍曹の熱血な部隊員たちの視線が、自分に集中していた。
「サリステア伍長、引継ぎありがとう。 シウタ、遠距離援護機体に乗れるな? 無理はするな、後方から新型の光学迷彩を剥ぐだけで良い。 後は、私達に任せろ」
視界に光がおりてくる。戦い前の高揚の光だ。
地球では、もうスポーツでしか味わえないだろうか。
でも、知っている。ゲームの乱入の時の感覚に似ていると思う。
「ミリュネ軍曹! 承知致しましたぁあああああ!」
「そのポーズは大丈夫だ。出来たらやめれてくれ、朝の地獄の挨拶を思い出す。あっ、繰り返さなくてもいい。気を悪くしないでくれ。部署と雇用形態が違うからな、そう違うからだ」
ビシッと敬礼を決めるが、なんか違うみたいだ。
もう少し、軍隊っぽくやりませんかね。
この職場、意外と規律が緩くて、とても働きやすい職場環境だと思いますけども。
最前線の基地なんですよね? 今後の進退がかかってるんですよね? ゆるいと思いますが??
日本の人格否定の営業の詰めの方が100倍キツイですけども??
でも、確かに人材は伸びると思います。
そして現場のアタリが強くなってきた。
「ヴォルテクスに男が乗るとか正気なの? 『種族の力』 があっても普通、予備機か補給機担当なんじゃないの?」
「シミュレーターでちょっと成果出してるからって、あり得ないよ。普通、実践はもっと遠慮するもんでしょ?」
「いやいや、シュミレーターとか言ってる場合? あれは、ただ分かってないだけでしょ。無理やり乗らされて男猫だったら泣いて嫌がる場面だね?」
「無理やりを泣いて嫌がる王子様だって? ああああああああああああ!」
言ってくれる。
実力主義の世界は、どの世界も変らねーか。
いけ好かない先輩や合わない上司、その経験年数を超えるぐらいに仕事をして、初めて口を黙らす事が出来る。
その上で舐めた事を言った場合の 「お前さぁ、偉いのになんで仕事できねぇの? 給料高いんですよね。恥ずかしいとか思った事無いんですか? おい、どうなんだ?」 と、決定的な対立の言葉、下剋上を怖がるからな。
ストレスと自由を対価に仕事をすると、大体、うるさい奴は静かになるものだ。
喧騒を他所に、ミリさんが真剣に自分を見つめている。
あ~、なるほど。分かって試しているのか。
『これから、毎日がこんな感じだよ? やれる?』 ってことね。
そういう事か、毎日シュミレーターに押し込むわけだ。
守ろうとしていたのか。
でも、聞けることじゃないよな。地球で言う 『男職場だから、毎日こんなんでセクハラの嵐だよ? わざわざ嫌な目にあって続ける事無いと思うよ? 見合った職場があるって』 と、発言を公開されたら秒で抹殺されるかもしれないが、現実はこんなもんだよな。
覚悟を決めよう。
「ミリ軍曹、この度の機会をありがとうございます。このシウタ、ミリ軍曹とそして先輩方を守って見せます。 ミリ軍曹! この度の勝利へ導くために全力を尽くします!」
辺りを見回し、息を吸い覇気を出して続ける。
「敵が何であろうと、自分がここにいる限り、この素敵な職場を脅かさせはしません! ここを守るために、全力で戦います!」
腕を組みながら、じっと見つめて来て急に涙ぐむミリさん。
「ウウッ、グスッ。いいだろう、シウタ。お前の覚悟、しっかり受け取った。その言葉に恥じない働きを期待する」
煽ったけども、合格点の回答だったようだ。
「何様よ!? でも、あのセリフ、言い方がズルい!」 「いや、あんな言葉、普通は私達が言うものでしょ? 真顔で言われるとこっちの脳が持たない」 「なんか、悔しいけどちょっと応援したくなっちゃった」
反応もこんな所か。
これで結果を出さなければ、おしまいかもしれないな。
さて、行きますかね。
突如、殺意を帯びた罵声が現場をつんざく。
「ク〇ゴミ虫がぁああああ! うちの部下を愚弄し辱めましたねぇえええ! おまえら、許しません! 許さん!!男性だからと言う理由で、その扱いですか! シウタさんは、男です。それがどうしました? 仕事の出来悪しに関係ありますか? グレーなセクシャルのラインを越えましたね! 最低なゴミ〇ズ共がぁあああああ!」
殺意をはらむ、サリステア伍長の罵声。尋常な叫びでは無い。
一瞬で場の空気が凍りついた。
これは、いけない。
気持ちはわかるけども、上手くまとまった所の空気をよんで欲しい。
自分への扱いにブチ切れをする、サポートが難しいキレ方だ。
客先に 「うちの部下に何してくれてんじゃい! ボケ!」 と、丸く収めた所を上司が再燃させるケース、地獄からの使者。
でも意外にサリさん、仕事関係はフェミニストだったのか。そりゃ、キレるわ。
キレた人には、人間性を取り戻させることが先決だ。
「サリさん。ちょ、ちょちょ、ちょっとすみません」 と、断って、サリさんのわきの下に手を入れて半ば抱き着いた状態で壁際に移動させようとすると、大人しくついてきてくれた。
サリさんの顔横に肘を付き話しかける。
色々と部分接触しているが、人の感触が正常な思考に戻すことが仕事や身内関係の経験上分かっている。
「サリさん、ありがとうございます。自分のために怒ってくれて。頼りなく守られてばかりに見えているかもしれません、でもやってみたいんです。サリさんが自分を守ろうとしてくれた気持ち、嬉しいです。でも、それで傷つくのは自分が辛い」
色々と接触しているためサリさんのドクドクと心臓の動悸を感じる、そして猫耳がぴくぴくと動く。
「ですが! シウタさんが、あんな最低な扱いを受けるなんて許せませんー!」
「ありがとうございます。自分にはサリ伍長が怒ってくれるだけで十分心強いですよ」
耳元で囁くとサリさんは、一瞬硬直して、次第に力が抜けていくのを感じた。
そのまま、壁にずるずると座り込んでいった。
「分かりました。いってらっしゃい・・・」
ふぅ~、事なきを得たか。
「いや、ただものじゃないわね。王子に迫られて勝てる女猫いる?」 「感動ポ〇ノでしょ? 反則でしょ? これを見た後は恋愛ドラマとかフェイクにしかみえない」 「分かる。なんか、殺伐としてた空気が一瞬でふわっと甘くなった? あれ、私たちってなんかお邪魔してない? 〇にたい」
ドゴオオオオオンと、金属がひしゃげる轟音が響く。
もう敵襲か?! と、誰もが思っただろう。
ミリ軍曹の隣のヴォルテクスの脚部装甲が、蒸気を出しながらへこんでいる。
「シウタ! 行くぞ! 何をしているんだ! サリとイチャついてる暇があったら、乗れえぇえええええ! とっとと、搭乗服に着替えろ!」
ミリ軍曹からのブチギレ催促だ、行かなければ。
「では、行ってきます。吉報をお待ちください」
すっとサリさんから手を放し、ミリ軍曹の元に走る。
「ミリ軍曹、超分かりやすい! もう王子への嫉妬って言ってるようなもんじゃん!」 「私達も嫉妬もんよね、物流部が憎いわ。 ずるくない? 毎日一緒でしょ?」 「あれで脳が溶けなかったら、同性愛者だわ」
まだ煽るか、ミリ軍曹が怖くないのか??
素手で装甲へこませたんだぞ? 本気になれば、肉体を貫通してくるって事なんだぞ??
自分はまだ、文化に慣れていないと思う。
――
スクランブルの赤ランプが点灯する中で搭乗服に着替え、遠距離支援型機体 『ヴォルテクス・ノクターン』 を見上げた。
シュミレーターでずっと乗って来た機体だ。
早口で説明するから、よく聞いて欲しい。
神様、女神様、いいか、よく聞いてくれ。
本当にすごい。ヴォルテクスは、本当に凄いんだ。
ヴォルテクス・ノクターンのフレームは、装甲の重厚感としなやかさが融合していて、近接の装甲特攻使用のヴォルテクスよりもスマートで、脚部から背部にかけての流線型のフォルム。黒曜石のような深い漆黒と、アクセントに施された青白い発光ラインが、ひいき目にみても小夜を思わせてくれる。そうだよ、ノクターン、夜の調べ、小夜曲、正気の人間がこんな恥ずかしい名前を付けれるとは、思えない。いや、よく付けてくれた。マジにカッコイイ。自分が作った最強のガンダ〇を夜な夜な投稿する人たちの気持ちが分る。今思うと、編集局の怪異一つとかなのだろうか。「お前の勝手な妄想で俺の脳を汚すな」 と、そういう事か? いいや、許さん。見るのが仕事のハズだ。さぁ、自分が作った最強のガンダ〇を見ろ。そういう事だよ。ファンレターと一緒に今すぐ投稿だ。「いつも楽しく見させて頂いております、僕の考えたさいきょうのがんだ〇です」 想像しただけでも地獄だったのか。
今、自分は何を言っていた?
フレームの間から微かに見える青白いエネルギーが機体全体を巡って、一日中見ていられる。人を狂わせる魔性の光のせいだ。
次に背中に装備された巨大なライフルが目に飛び込む。
背部に装備された長距離レーザーライフルだ。連射が聞く精密射撃だけじゃなくて、高威力の狙撃モードにも切り替えられる。
副兵装として両腕にはマイクロミサイルランチャーが格納されてる。
接近されても自動追尾で応戦できる優れモノだ。
それに、肩部にはキャノン砲を搭載してるから、無理な近接攻撃に当ててやる仕事がある。
凄い、本当に凄い。
これで相手の機体を撃破したら、自分の脳はどうなってしまうんだ。
画面越しに押す引き金は、こんなにも軽い。
――
整備班の声に促され、深呼吸を一つし、コクピットに向かう。
搭乗用のハッチが滑らかに開くと、内部から薄い青白い光が漏れ出した。
コクピットはシンプルで、未来的な美しさがある。二本のスティック以外の操作パネルはすべてホログラム化されており、座席に腰を下ろすと、周囲に浮かぶ表示が一斉にフォン! と起動した。
「システム・オールグリーン」
この言葉を言えるだけで泣きそうだ。
心に火花が弾けるのが分る。
瞳孔がドーパミンにより広がり、視野が広がる。
刹那の時間は、1フレームごとにコマ送りだ。
「シウタ、聞こえるか?」
浮かんだホログラム通信にはミリ軍曹の声が乗っていた。
軍曹、損得抜きに好きな人だわ。
でも過保護すぎる、男の子だもん。もう少し自由にさせて欲しい。
必ず期待に応えるからさ。
「はい、ミリ軍曹。色々とありがとうございます。でも、自分勝手ながら、傷ついています。男だから守らなきゃ、という偏見は、逆に男性としてのプライドを傷つけますよ。必要以上に守られるのは屈辱的で対等では無いですよ、女王様」
「ちょっと待て、シウタ。それはダメだ。聞いたか? 聞いたか? 結婚だ。今のこれなんだ。こんな台詞を軽々と出してくるのか?! なんだ!? シウタのホログラム画面が唾液でベタベタだ! 脳と本能が言う事を聞かな『ねぇ! 分かってるのかしら? シウタさんはこの拠点全体の宝なのよ! その宝を、たった一人で独占するつもりなのかしら? そんなこと、部隊全員に説明がつくと思っているの?』」
アーレイン大佐のホログラムも飛び出してきた。
おい、出撃させろや。カオスってきたぞ。
「シウタさんが答えるべき相手は、この拠点全員の期待よ! あなた一人のためじゃない! それを個人的な感情にすり替えるなんて許されないわ。大佐として、そんな独占欲丸出しは断固却下します!」
「あの、頑張ります。出撃させて頂いてもいいですかね」
「ングッグ、出撃を許可します。新型を補足次第、戻ってきていいですわ!!」
聞いていましたか? アーレ大佐。
やさしさは、逆にプライドを傷つけるって。
機体の足元が静かに動き出し、巨大な格納庫の床をゆっくりと踏みしめる。
音は低く重い振動となり、周囲に響き渡った。
巨大なゲートが開き、一歩、また一歩と外の光の中へと進む。
外に広がる戦場の空気を纏いながら、ノクターンは戦闘の始まりを告げるように光の帳へ入っていく。
ランキングに乗ってしまった。
ひとえに、閲覧して頂いた方のおかげてあります。
ありがとうございます。
自信過剰と言われるかもしれませんが、ランキングに乗るは次の作品あたりを考えていたのですが、やっちまった。
昔、サイトを書いていた時。1位を取った事がある。
何よりも見られている事が嬉しくて、一日中ネタを考える。
伸びるのが嬉しくて、いつしか楽しく書くと言うバランスを崩した。
数字の魔力だ。なんて恐ろしい。
今だ抗うすべを知らない。
なぜなら、いつもより座る時間が長い。
推敲の時間が倍になっていた。
・・・と言う、同情を買うお話でした。
さぁ、評価をおしてますます話を面白くさせてみてください。