66 きっと人は
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ララス・セレナーデ
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帝都の空襲警報が鳴り響いた瞬間にアリエノールの 『種族の力』 黒いモヤモヤに余とお母さまが包まれました。
「まずは、御身のご安全を第一になさってください」
10代前から帝国に仕えている魔族 『アリエノール=ポレット』
彼女は星間ゲートを通じて別の銀河から召喚されることが文化になっている宙域から来たらしいのです。
余が子どもの頃からまったく歳を取らず、それどころか年月とともにますます美しくなっていく。まさに種族値のバグのような存在です。
帝国の諸侯は 『魔族、ずるくない?』 と心の中で思っている事を余は知っています。
なにより彼女には男性を狙うのに、時間制限が無いのです。
ズルです。ズルしてると思います。不老不死はこの銀河では禁止され禁忌とされています。
なぜなら必ず滅びが待ち受けているのがわかっている。
この銀河の果てには、不老不死を得たがゆえに科学や文化の発展が停滞し滅びた宙域や、人工知能が極限まで発達した結果、箱舟AIのような 『パーフェクトワールド』 と化した星々がいくつも打ち捨てられている。
それらが常に繁栄し続ける銀河においては、すべての種族にとって関心を持つ意味すらないため、誰もが放置しているのですけれど。
そんな銀河の理を超えた長命種にもかかわらず、約束と契約に対して揺るぎない忠誠を示すアリエノール。
アリエノールの浮いた話でもあればいいのですが。
昔から子供の教育が好きなのは分りますが、手から火炎渦を出す練習をさせるのは、どうなのでしょうか。
余は肉体を鍛えて物理で殴った方が、早いと思います。
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「「「決闘を受けてください!」」」
アリエノールに守られながら、外の声が聞こえる。
決闘、その心の叫びが各国の貴賓が集まる迎賓館を貫いた。
このまま 『正妻連合』 の場を固め、お兄様との婚約発表をする瞬間の事だった。
正式にお付き合いと言う事を通達する。もうお兄様の席は埋まっていると全銀河に告げる場だ。
・・・寝た以上、婚約が嫌だと言っても、そうですね、許しません。もう絶対に。
ですが、どちらかと言うと、もう少し追わせて欲しい乙女心がむくむくと出て来て困ります。
追い詰めて困らせて、余の事しか考えられなくしてしまいたい。
ですが 『正妻連合』 を組んでしまった以上、聞き分けなければなりません。
そんな中、賊を討伐のため 『ノクターン』 に搭乗しに行ったお兄様。
搭乗すると出て来る人格、もう一人の隠れた殺意のお兄様。
今思えば余はアレに射抜かれてしまったのだ。
あの声、あの異物、あの温かい手に。
「この決闘、受けて立ちます。 帝国の演習場の提供をお願いできませんか。手続きは全部お任せします」
お兄様のその一言で空気は一変した。
誰もが、いいえ。銀河中の誰もが!! この決闘を見届けたいはずです。
なぜなら彼女達の名を知らない者はいないから――
帝国の嵐を何度も防ぎぬいたパイロットたち。
連邦の拠点部隊。戦争の終わりと同時に、その結束は伝説となった。
連邦拠点は、圧倒的な物量差を幾度も覆し、その名を銀河に刻んだ。
余の目の前で帝国ヴォルテクスを蹴散らして突っ込んでくるマジにゴリ・・・、いえいえ、ミリュネさん。
赤のフェリシア、イーリス、ミラグロ。
そして、本当に残虐、そして慌てて余を救い、心臓を奪ったお兄様。
誰もが知っている、3人が帝国でデートしている姿が銀河中にリアルタイムで流れ、町を歩き、笑い合い、お兄様と健全な友人デートを何度も重ねてきたこと。
どんな宇宙ドラマより眩しい、等身大の青春が心に刺さる。
自分達と重ね合わせ、銀河中が目を奪われた日々は、ここで結末を迎えるのでしょう。
でも、余はいつも胸を妬かれていた。
あの3人が昔からの親友の様に肩を並べ、笑いあっている光景。
余には見せないその安心した笑顔。
余が、そして銀河が。憧れた仲間と言う関係を、絆を手にしていた。
大炎が胸を焦がす。
嫉妬、今となってはくだらない感情のはず。でも余の身を焼き続ける。
余は、生まれ育ち、立場、力、命を賭けてお兄様を得たのだ。
生まれながらに全てを手に入れた者が、ただ一つを望んで何が悪いのか。
たとえ、友人の段階を踏まなくても。
でも、彼女達は真っすぐな思いをぶつけてきた。
皇女の特権に甘えていた間も、真正面から来た。
余のこんな未熟さを今日で終わりにしましょう。
この決闘に心からの承諾をしなければ、銀河の覇者として失格でしょう。
これを否定することは、余を否定すると同じ。
今日のこの銀河の舞台をお兄様と彼女達に委ねましょう。
私は皇帝である母、イザベル陛下の前に進み出る。
「母上、余に、私に、お任せください」
お母様の紫水晶の様な目が涙に濡れる。
「――ララス、そうですか。お前も大人になったのね。 ララちゃん。見事、こなして見せなさい」
涙をこらえながら、大きく頷く。
「後、ララちゃん? 妹か、あわよくば弟ほしいわよね。欲しいわよね? ね?」
恐ろしい事をいいますね、お母様?
相手は誰です? まさか娘の旦那とか狙ってませんよね?? 正気じゃないです!
さて、連邦と帝国。
かつては敵同士、今はひとつの大きな輪を作ろうとしている。
私は高らかに宣言した。
「諸侯、今ここに、銀河最高のエースと余のシウタによる、本当の決闘を宣言します!」
拍手が嵐のように巻き起こる。
銀河全ての視線が、あの青春を駆けたパイロットたちへ注がれていた。
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ライザ・フェリシア
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決闘直前。
演習場へ向かう前、控室で最後の打ち合わせをする。
そこの机の上にモダンな3枚の置き手紙が置いてあった。
紙の書置きなんて、小学校クラスの男子に出したラブレターぐらいじゃなかったかな。
男子への100倍の応募率、就職試験でもそんなに難しくないよ。
手紙最初の一枚
ミリ軍曹からだ――
『シウタの強さの秘密は、心と体の機微を視覚的に読み取る偏差撃ちにある。
回避に動いた時こそ、動きを狙われ直撃となるからだ。
あの残虐性の雰囲気にのまれること無く、本能的な回避の瞬間に動かずに前に踏み込む狂気の一歩こそ、勝機がある。
これは、ホログラムデータに残したくない。紙に残す、読んだら消せ。これは、私の考え抜いた最後の切り札だった。
武運を―― ミリュネ・ベグハルト』
「「フェリシア。これって・・・」」
何も言わず、ただ私は頷く。
こんなの数え切れない程の夜を越えて、ずーっと考え抜かなければ出てこない。
プライドを賭けた攻略法に胸が熱くなる。
2枚目はアーレイン大佐だ。
『譲れても、年間3か月ね。これなら、少し丸く収まるかも。でも、幸せの形に正解は無いと思うわよ? あなた達の心がそれを許すか分からないわね。最後は自分の心で決めなさい』
そして、3枚目はサリ伍長
『船はいつでも出せます。銀河の果てでも逃走・拉致ルートはお任せあれ~!
強硬手段に出る時は、私も混ざりますので宜しくお願いしますね!
――なによりも後悔しない選択を』
手紙を握りしめた時、
私は、ふいに悟る。
この無限と思える銀河でも、人は1人では生きていないし。きっと一人きりにもなれない。
人は誰かの何かの思いの形に触れて生きている。
ヴォルテクスだって思いの結晶だ。
この結末も誰かにとっての物語となるだろう。
2人の顔を見ると、涙がこぼれている。
戦場でも泣いたことなんてないのにね。
「イーリス! ミラグロ! 準備はいい!?」
「もちろん!」 「フェリシア、決めてちゃっていいよ。勝った場合、そのままもらっていこう」
私達は、最後の決意を胸に出撃する。
いざ、決戦の舞台へ
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???
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はいはい。私が語り手ですか。
いいわよ。
星海の彼方、魂が行きつく場所に私は在りますよ~。
私は全てを見ていまして、え~と。なんでしたっけ。
最近は悪役令嬢転生ばかり見てたから、感覚おかしくなるものねぇ。
でも今夜はちょっと違う。
え~と、流れる銀河、その一粒にすぎぬ矮小な星の上で、今人の子達が命を燃やし、運命の夜を迎えようとしていた。
どうかしら? 女神、出来てるかしら?
私は皇女ララス推しね。
彼女の胸に燃える嫉妬も、恋も誇りも。
その~、心織りなす、光は星雲の煌めきに似ているかしら。
でもどう転んでもこの先の繁栄は決まった物よね~。
ほら、出撃するショウタの気炎に声をかけたくても、正妻たちが声をかけれない。
もし下手に転んだら取られちゃうし不安だから、ほんとは 『いかないで』 と言いたいのねぇ。
ショウタさんには過ぎた嫁たちよね~。
地球からの遺伝子だから、子供は5割で男性が生まれるはず。
繁栄おめでと~。未来視しなくても上手くいくのが目に見えてるわ~。
次の転生は、どこに行ってもらいましょうか。
ネコ耳やアニマル系が多めの世界がいいかしら。
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シウタ
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星明りの下、帝国の演習場。
夜風が装甲をなでる、そのコクピットの中で、ほくそ微笑む。
先輩達とやってみたかった。
こういうのは友達とやるべきだと思う。
本気モードで、最高じゃないか。
地球では女性をスマブラやマリカーでぼこぼこにしてはいけない。ブチぎれるから。
「なんなの! 空気読んで負けてよ!」 とリモコンが飛んでくる。
男女の友情なんて成立しねーよ。基本、脳の作りと習性が違うんだもん。
でも、この銀河は違う。
こうして本気で遊んでみたかった。
そして、今星明りに溶け込む3つの機影。
ホログラムに映る、ヒートソードを肩に担ぐレイヴン。電磁槍のエクリスプ、汎用型のアクア。
星明りに照らされ、幻想的だ。
足のブースターがいつでも飛べるよう、余熱が陽炎の様に揺らめいている。
やるやん。
不意打ちはだめそうだな。
スティックを前に倒し、修得した貴族式礼を入力して決闘前の口上を始める。
「えーと、これ終わったら先輩達とも結婚すればいいんでしたっけ。了解。じゃ、いきますね」
「はい」 「はい」 「はい」
勝負事の最後に当たるのは、いつも身内。
トーナメントで勝ち上がるといつもそうだった。
いつもありがとうございます。
コメントにいつも悩んでます。
どう返そうか、ウンウンと唸るからですね。
結果的に、ご返信の程勘弁してください。となりました。
ですが、コメント大丈夫ですと言いながら、もらうと凄い影響されてます。
要素を全部いれこんだんじゃないかな。
人間、発言と行動が伴わないものですね~。
そうそう戦闘シーンの描写いりますか?
このままプロローグに入って行こうと思うのですが。




