65 謀反
シウタ
今日はバーカウンターで、夜会を過ごすつもりだった。
『情報はな、酒場で集めるのが基本だぞ』 と、異世界物の酒場のみたいなノリでさ。
そして、パーティを組んでください! と、叫ぶ猫耳少女。大柄な男たちに手厳しく断られるのを見て、途方に暮れている少女に、素知らぬふりして接し 『組んでくれるですか?』 と、こんなやりとりから始まる異世界生活。
可愛い子へ下心を隠し近づく、チャンスを物にするとっても邪悪なストーリー。
そんな生活を期待していた。
だが現実は甘くないね。
異世界生活は、意外にも厳しい。
「シウタさん、もしもし? そこまでよ?? 手を上げてグラスを置いて」
「シウタそろそろ主催者席に移動だぞ。やはり、アルコールは邪悪だな。シウタをこんな姿にしてしまう」
「もう夜会始まりますよー! その邪悪な飲み物を置いて早く来てください」
と、何か基礎体力が高すぎるネコ耳様に強制的にパーティへ加入させられるとは、思っていなかった。
多分、アルコールの効力を力説しても無駄だ。この銀河では通じない。
中学の時にゲームを通じて得た大切な人生観を親に力説しても、通じない絶望と同じ。
最悪口論になり、ゲーム関係を一切捨てられる暗黒の儀式。
本は良くて、ゲームがいい理由がわかんないよね。
こっそりやるしかない。
と、思った瞬間、手に持っていたグラスが消失する。
「ああああああ! どこへいったグラス!? 今消えたぞ?! ブレて消えた!? 現実改変する技術まだねーだろ、どーなってんだよ!?」
隣に座る宰相は、ワイングラスを傾かせながら指をひらひらさせて 「この度のご婚約関係、おめでとうございます」 と、夜会への回答をくれる。
連行の寸前に、バーテンが 「あ、これお渡ししますね。ヒヒヒ、後で連絡くださいね」 と、連絡先の書いた小瓶を渡された。
はい、連絡でも何でもします。絶対に逃がさねーからな。
気づけば、腕と背中と足を掴まれ、ずるずるとバーカウンターから祝宴のテーブルに連れ去られる。
目の前のテーブルに置かれている肉料理は、どれも豪華でおいしそうである。
黒のスリットドレスのミリさん。なんかフワリとしたドレスを着ているサリさん。
そして、赤いドレスと銀髪が際立つアーレイン大佐。
スタイルが宜しく、地球なら夜会の花だろうな。
そして中央にマルカトール帝国皇帝のイザベル陛下が鎮座している。
その隣に座るララス殿下が、じーっとこっちを見ている。
瞬きもせずこっちを見ているで、とりあえず頷くとウンウンと頷き返された。
その時に口上が始まったのか、女帝イザベル陛下がコップを掲げて静かに口を開いた。
「今宵の夜会、平和と繁栄を。そして若き勇者たちの友情に祝福を」
乾杯~。
とは、ならない。拍手だけなんだね。
会場に拍手が起こり、クラッシック的な音楽が流れ始める。
金色の瞳がのぞき込んできて 「シウタさん、折角ですから踊りましょ?」 と、アーレイン大佐が誘ってくる。
いえ、無理です。踊れません。と言おうとしたところ、大佐の白い手が自分の手を握りしめていた
「あの~。踊った事ないですよ」
両脚の間に大佐の足が入ってくる。
「大丈夫よ、右足動かします。そう筋肉の筋に沿って動かすから安心して? そう、それでいいわ」
体が勝手に動く。
何この技術、凄いね。
まさに踊るマリオネット。ロマンシング英雄譚2のボスに操られる気分。
リメイク面白かった。スーファム版はクリアーしたことない。
HP999にしても勝てない、子供がやる設定にしてないよね。
「キャー! 私も抱いて!」 と、周囲から歓声と黄色い声が入り混じる。
大佐に息が詰まるほど密着され 「んっ」 とか 「あっ」 とか声が漏れる。
やはり、この銀河ではこれが目的か?
大佐、その思想はダンスにとって邪悪だぞ。
「次は私の番ですよー!」
交代のタイミングも早い。
サリ伍長と大佐のすれ違いざまに、手を取られる。
グイッと引かれ空間がブレる。
細い手でグイグイとリードされ 「私ダンス得意なんですよね。ここで回りますよー!」
ぐるぐると回され、視界がぐにゃりと揺れる感覚が襲う。
鋭いステップ、背中からグッと押され、サリさんの顔が胸にしずむ。
満足したのか、ようやく解放されたところ。
「シウタ次は、私の番だな 『いや、無理です。ミリ軍曹、無理ですって。これ以上はバターになってしまう。有塩バター、ごめん、マジに無理です』」 と断りを入れる。
目の光が無くなった軍曹を横目に席に戻る。
少量のアルコールが加速し胃の中がバターになりましたので、本日の業務終了です。
お疲れ様でした。
ふらつくまま席に座り主催者席を見ると、ソワソワと座り直し我慢できなくなったのか、ドレススカートを翻しながら、空中をズッドドドドと駆けてきた。
「シウタお兄様! 私もお願いします、もう逃がしません!」
着地と同時に腕にしがみつかれる。
紫の髪が広がり、星の匂いみたいな香りを感じる。
「ダンスは中止・・・ 「「「「ぜひ我々もお相手をお願い致します」」」」
あれ、まずい。
多数の手がホラーゲームの様に周りから伸びて来た。
ララス、助けてくれ。バターにされてしまう。
ギュッとララスの手を握り返すと。
「安心してください、この場所は譲りません。ですが、お兄様その前に・・・」
ララスの視線の先には、いつの間にか壇上に立つアリエノール宰相の姿。
「諸侯の方々、ご歓談の中、しばしご清聴ください。ララス・セレナーデ殿下より、この度、重大な発表がございます」
突如、空襲の警報を知らせるランプが会場に鳴り響く。
「ララス、こういう宰相のイベント?」
「いえ、まったく違います」
――
ライザ・フェリシア
――
「はぁ~、このまま終本当におわっちゃうのかな?」
急襲警報が鳴り響く、赤ランプに照らされる帝都の会場を遠巻きに、そっとため息をつく。
コクピットに浮かぶホログラムの中で、唇を噛み。イーリスは真剣な瞳を向け。ミラグロは普段の飄々としている笑みを消して指を噛んでいた。
「世界の笑われ者になるかもね。でも今やらないと」
「絶対、一生、確実に。気持ちを伝えないと後悔するのがわかる」
――
――シウタくんが婚約発表する。
この知らせを聞いた時、ひざから崩れ落ちた。
卒業間もない訓練生から上級パイロットへなり争い事の絶えない拠点に突っ込まされた私達。
そして突如現れたヒーロー、シウタ君。
最初は少しだけ軽蔑してた。 『男だからって、ヴォルテクスに搭乗とか調子に乗らないでよ』 とか思ってた。
でも、真面目で、なんだろう。やばい。やばい王子。エロ。好き。脳が沸騰する。
ちょっぴり、残虐で。いえ、かなり残虐。でもそこに申し訳なさを感じているのがとても好きで、大切な仲間で戦友だった。
デートも何度もしたし、ひょっとしたら、いえ、確実にこのまま先に、奇跡が待っているかもしれないと本気で私達は信じていた相手だった。
「ここ気持ちを残したまま終わるのかな」
「フェリシア、諦めきれる?」
イーリスが聞いてくる。
もちろん無理、諦めきれるわけがない。
「でも、どうしよう。3人枠が4人に変更されて、もうわけわかんないよ。パンパンもパンパン、人数もオーバーしてるよ!」
呆然として上を向いていたミラグロが拳を握りしめやけくそ気味に天を突く。
「私達の武器は、ヴォルテクスだよ。学生の時から誰にも負けなかった。ミリ軍曹を除いて。シウタの隣で何度も戦ってきた。最後まで諦めないで勝負しようよ」
何度ものデートがミラグロに自信を与えたのか。
瞳に灯がともっているのがわかる。
「乱入するってこと? 確実に銀河の敵になるよね?」
「人生は一度きり、シウタに言われなかった? ふられたら潔く引くけど、挑戦しないで引きたくない。本気で叫ぼう 『ちょっと待った!』 を! 今しかない!」
無謀、それくらいわかる。
ドン! と心臓が激しく脈動し始めた。
やるしかない。
「よし、王子様をさらいに行くよ。そして気持ちを伝えようよ。みんな、いい?」
イーリスとミラグロは、顔を見合わせてうなずく。
「「了解!」」
――
ギリギリまで招待客の振りをして、帝国発着場で待機。
近接ソードのレイヴン、遠距離のエクリスプ、汎用型のアクア。
どんな修羅場も越えたこの機体で、最後の大勝負に出る時が来た。
「目標はただ一つ! シウタ君の奪還! 他はもう構わないで、行こう!」
「了解! 最悪の場合、泣いてせがめば同情してウンと言ってくれるよね。そのまま3人でひっそりと宇宙の片隅で暮らそうよ」
「了解~。宇宙海賊して暮らそう。うちらの腕ならいけるよね」
出撃の時、私達は一斉にブースターを吹かし、夜空を切り裂く。
帝国の迎賓館に急降下し、3機の着地で大地が震える。
帝都に響く強襲アラート、流星の様な衝撃が体に走った。
「「「その婚約発表、ちょっと待ったーー!」」」
私は叫んだ。心の限り。
トリガーを引き込み、ヒートソードを迎賓館に構え、3機で取り囲む。
何事かと、粒の様な会場の人々が乱入に目を見開いている。
見覚えのある3伯爵達の顔も映りこむ。
「私はライザ・フェリシア。帝国中心のその婚約発表に意を唱える者です」
「イーリス! エクリプス参上ぅううううう!シウタ王子、さらいにきたよ。お覚悟ぉおおお!」
あっ、イーリス。キャパ超えた。
そりゃ、そうだよね。
「あっはっは、警護。動くな。動いたら伯爵もろとも吹き飛ばす」
ミラグロ、そうだね、もう引き返せないね。
シウタくんを人質にとって、安全を確保して宇宙の片隅へ行こう。
そして、赤く染まる迎賓館。
銀髪の金の瞳、アーレイン大佐が私達の前に瞬時に出て来て、手首の端末で通信を取って来た。
「フェリシア、ミラグロ、イーリス。来たのね。
大勢は決したと言うのにね。そうよね、ハッピーエンドって難しいわよね。手に収まる幸せの大きさって決まっているし、どうしたものかしら」
「大佐。私達、どうしても諦めきれないんです」
涙がこぼれそうになる。
「ほんの少しの差、ほんの少しだけです。その差が埋まらなかった・・・! でも、ここで決めるッ!」
「大佐。ここまま、シウタ王子をさらっていきます、たとえ帝国を敵にしたとしても・・・。動かないでくださいね」
シウタくんも嫌とは言わないで、さらわれてくれるのが分る。
それぐらい戦友と心が通っている。
・・・が突如、体の全身が粟立つ。
「ミラグロ! シールド展開! 熱反応2時!」
空を裂き、青い閃光が走る。
ミラグロがシールドを展開し、その上を走るビームが「ギャリイイイン!」と鈍い音を響かせて弾かれた。
その一撃は、迎賓館の天井ギリギリを削る。
狙ったの!? この迎賓館事?!
現場の空気が激しい緊張に包まれる。
ビームの陽炎、その奥に見える警報ランプに照らし出された、紫に光る蒼黒の装甲。
ミリ軍曹と違う、異様な雰囲気。これは 『ノクターン』 だ。
戦場を震え上がらせた、恐怖の化身 『残虐騎士』。
地上に戻ると温和な性格で、いつも勘違いさせる人。
「ああ・・・、さすがですね。一撃目を防ぎますか・・・」
ポップアップから、低くつぶやく声。
このプレッシャー、汗が止まらない。
「さすが、先輩。戦友ですね。さて、謀反ですか? うれしいです。大変ありがた・・・、くない。あれ、と言う事は、敵ですか。今の反応期待できそうだ」
映るホログラム、シウタくんの口角がつり上がっている。
『ノクターン』 の目が光り、ライフルを構えている。
これを帝国は相手をしていたのか。
めげずに挑んでいた、殿下の狂気っぷりがわかる。
「これは想定外だよ・・・。性格変っちゃってるじゃん・・・」
「震えが止まらない、戦場に出てもどこかで 『おそらく〇なない』 と思ってたけど、これはヤバイね」
『ノクターン』 の隣に、筋肉を彷彿させる近接機体 『タイラント』 が立つ。
「フェリシア達か・・・。私にはかける言葉が無い。すまない、私は私の幸せを掴む事に精いっぱいだった」
「あっと、ミリさん。すみません。あの~、ちょっと。もうちょっと遅れてもらって来てもらっていいですか。すみません。ちょっといい所なので、やり直しで。あの~、見ててください。いいですね、見ててください」
慌てた様に、シウタくんが繋いでくる。
「先輩達。そこじゃ、被害がでる。証人もいる。何か伝えたいことがあるのでしょう? このままじゃ盗られるので、決闘を宣言しますよ。先輩も決闘を宣言してくださいよ。 シウタの名にかけて受けてくれるなら、なんでもしますよ」
あれ、一筋の光が転がり込んできた。
「シウタくん、そう・・・。 イーリス、ミラグロ。いい?」
「もちろん」 「おう、後輩。3機に勝てると思うの? 思い上がった考え叩き直しちゃる」
ミラグロ、煽るよね~。
最高の演出じゃん。
「決闘受けてください。シウタくん」
「受けて立ちましょう、フェリシア先輩。とっても嬉しいです」
いつもありがとうござます。
文章じゃないと感じられない心の叩き方があると思います。
それを求めて、ここに来て頂いているのではと思っております。




