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64 夜会

シウタ


現生惑星の酒造所キッチン。


現地で獲れた、セイウチ程もある巨大な魚を捌き始める。

とんでもない重労働、まな板から余裕で飛び出ており、腕もげそう。

この逆転銀河の男性の価値は一億。家庭に入りこの作業を毎日やるなら1億だと思う。


そんな苦闘している背後をチラチラ、ソワソワと3伯爵が、調理場を覗きに来ている。

無骨な鉄骨で組まれたリビング、貴族の彼女達を迎えるにしては、少々品格が足りないかも。

この騒動が終わったら、お金稼いで人が呼べるぐらいにここを改修するから我慢して欲しい。


リビングから、声が聞こえる。

偉い人に連絡と報告をしている様子、おそらく殿下か宰相だろうか。


「はい、夜会へ誘うミッションは難航しております。必ずや当日までに連れてくることをご約束致しますわ。 えぇ、はい。 ウンと言うまで2晩でも3晩でもシウタ大使に頼み込む事になると思います」


「そういう事になりますな。あのような事があっては、シウタ大使も大衆の前に顔を出すのをためらうのは、当たり前かと思いますな。ですが、このままここに居てもらうと言うわけにもいきません、必ずや要望にお応え致しましょう」


「ええ、そうですわ。ですから 『宿泊戦艦:モテール』 を送って頂けます? ええ、少しばかり無残な暮らしでして。私の旦那としてふさわしい場所ではありませ・・・、いえ、泊まり込みで説得することになるでしょう」


あれ? 夜会への参加に快諾したはずけど泊まる気なの?

もう、夜会に超行く気だよ。とうぜん開始三時間前ぐらいに現地について、バーカウンターに居座るつもりだけども。


まぁ、地球の営業の出張の時、客先の仕事終わったら後は自由になりたい気持ちはわかる。

伯爵達もそうなのだろう。

とっとと、商談終わらせて午後は観光。神社仏閣めぐり。もしくは地方の名店へ直行で遊びに行く。

趣味は神社仏閣めぐりの人は、営業職の可能性が高い。

上長閣下殿、出張中の余った時間は待機時間、仕事時間であります。

つまり、こっそり部下のSNSを仕事中にチェックしないでください。


さて、かつての敵同士だった3人に、今はシンパシーを感じる。

だが向こうは、かつての敵をどう思っているか分からない、慎重に探りを入れよう。


そんな事を思いながら巨大な魚と格闘していると、ミリさんが入ってきた。

エプロン姿で長い髪を後ろでまとめてある。


「シウタ、調理場に一緒に立つのなんかいいな。お互いを尊重出来て協力と経験が共有できる気がする。魚、貸してみろ」


フワッと魚が宙を舞う。

まな板には、3枚に下ろされた切り身が綺麗に並んで着地した。


やだ、男らしい。


「それ同じ包丁です? 柵とり、ありがとーございます。上手ですね? なんだか、この銀河でやっていけるか自信喪失しそうです。 あの~、ビームサーベルとか高回転包丁欲しいんですけど? 通販でかえます? 正直、モンスター食材たちに刃が立たたない」


「通販で武器は買えないぞ、シウタ。包丁が切れる以上の、そんな破壊的な行動に出る必要あるのか? なんか、回転包丁とか料理がグズ肉状態でまずくなりそうだな」


なんか、ごもっとも。

スパイス振りかけて焼いて、煮て、すり身の鍋にしましょうかね。

喜んでいただけるといいけども。


――


現生惑星の数日間、それぞれの時間が流れて行った。

巨大魚は、大人気だった。そして毎日牛の様な現生ベヒンモスを、ミリさんと3伯爵が狩ってきてくれる。


「アウトドア、最高だな。シウタ、これだよこれ、こういう事がしたかった。最高だな、狩から戻ればシウタがいて、夜は運動会の予行練習をして・・・」


「狩は得意ですわ」 「この距離感、狩ったのも当然では」 「後、どこでガバッとイクかですね」


ベヒンモスの宇宙版、田舎飯。原始骨付き肉も、おおむね好評のようだ。

『骨付き肉はどうだい?』 骨付き肉で回復する過去のゲームと漫画達。

原始系の漫画から来ているあのデフォルメ肉は、いったい何だったのだろう。


その合間、宇宙へパトロールで射出リフトで打ち上げられるも、成果なし。

戦艦とヴォルテクスが中隊規模での現生惑星で待機。

この惑星群の周辺は平定されたのだろうか、それとも震えあがって大人しくしているのか。

出てこいや。


時間がゆっくりと、流れていく。

スローライフなんて望んでいなかったが、思ったより悪くない。


やる事もないので3伯爵に、ヴォルテクスの優雅な所作と品格マナーを指導してもらう事となった。


ヴォルテクスの儀礼所作は、覚えた。

緩急がカッコいいのでミリ軍曹とレッスンして、儀礼を学ぶ。

マナーも教えてもらったが 「ビームライフルをむやみに抜かない」 と言われた。

ビームライフルの存在意義は撃つことなので、はいはいと流しておいた。


「「「夜会には、ダンスがありますわ。ささっ、こちらの暗がりへ」」」


・・・ダンスも教えてくれるそうだが、断った。

ゲーセンの 『ダンスダンスラボリューション』 しかやったとこが無い、アイアイアー、サムライ。が得意です。

夜会は 『壁際の花』 でいい。

こっちの世界だと 『壁際に追い詰められた花』 だそうだ。

表現がリアルだよね、狂い咲きの花の様にダンスに誘う手が伸びて来るみたい。

そりゃ、男性陣逃げるわ。怖いもんね。


夜は、ヴォルテクスの話で夜が更けていく。

同じ目線で話せる友のいかに大切な事か。


全員でヴォルテクスに乗り込み、夜行性の狩と星空の流星群を見に行った。

宇宙そらの星も、地上の星も変らない。

海も世界中繋がっている、星の海もきっと、どこかで繋がっているのだろうか。


そんな風に気づけば社交界当日。


「では、先に向かっておりますわ。旦那様、会場では私の手をお取りくださいね。きっと銀河一の幸せにしてみせますわ」


「では旦那様、失礼致します。ぜひ、夜会では私の手を放さないでくださいな。必ずや幸せにして見せますぞ」


「一生の幸せを約束致しますわ、手を取りエスコート致します。夜会でお待ちしております、旦那様」


プロポーズのセリフだと思うが、ちょいと幸せを掴むには人数がオーバーしている。

ミリさんの相手、一人でも〇にそうだし、4人で天国行きが確定演出で女神様に会える。

詰んでる。 おそらく現世はそう長く生きられないだろうな。

医療ポットに入っても、空腹は満たされない。

『クロノ引き金』 で未来技術の限界を知っている。


世の中の男性陣が逃げ回るわけだ。

命に直結するからね。


女性比率が圧倒的に多く、男性は希少。

どうしても男性のお伺いを立てる風潮が生まれる。

自分の性格だろうが、自然に高く得た立場が時に申し訳なく感じる。

地球ではこの価値に気づいた順番から望む幸せを掴んでいたような気もする。


地球の男女半々の比率がいかに恵まれていているのか、今さら気づく。

きっとこの男性が少ない銀河より、よりよい道がとれるのではないだろうか。


3伯爵が帰還し、ミリさんと帝国へ向かう。

同じく招待を受けた、連邦のアーレ大佐と、ミリ軍曹が宇宙の輸送艦で待っている。


銀河の果て、数奇な巡り合わせの末に手にしたこの数日間は、争いも過去も、みんな遠く霞んで感じた。


――


「行ってらっしゃい、主役が遅れちゃいけないわね。殿下から大事なお話があるそうだから」

「私達もすぐ行きますよー! ミリ軍曹護衛宜しくお願いしますねー!」


「了解!」


さて、夜会でいかにミリ軍曹を巻いてバーカウンターに座るか。

もちろん、宰相に協力してもらうとしよう。

黒いモヤモヤに包んでもらえば、身バレしないはずだ。


サリ伍長の輸送艦から射出された 『ノクターン』は、会場の周辺の発着場に降り立つ。

左右の推進ブースターを同時に入力し、回転しながら機体はふわーりと腰を落として三点姿勢で静止した。


貴族がする儀礼的で取ってもカッコイイ。

発着場に詰め掛けていた、帝国の諸侯、連邦の重鎮達が一斉にざわめいた。


練習した甲斐があったもんだ。

降下リフトで降りると、青いマントを翻し金髪ウェーブのベルティア伯を先頭に伯爵が得意満面でやってくる。


「お見事ですね、友にして義兄様」 「優雅さとスリルは、両立可能と証明されましたな」

「さぁ! 各国の諸侯達! 今日はこの方を中心夜会は回りますわ!」


マウントを取りに来た感じがする。

手を差し出してくれるので、3人とギュッと握手をする。


「そうじゃないですわ」 「これはこれで」 「後で、ギュッとお返しを致しますわね」


貴族式の礼とは、違うみたいだ。

滞在中にこういうのも教えてくれても良かったじゃない。

恥をかいてしまった。


そのまま振り返ると、ミリさんが『タイラント』から降りてきている。

夜会用の黒いスリットドレスが新鮮すぎる。

そして、どこか照れくさそうに足元を見つめている。

「軍曹、エスコートしてくださいよ」と声をかけると、ミリさんは一瞬驚いた表情を見せ、すぐに悪戯っぽく笑い 「了解、義兄殿」と軽やかに腕を差し出してくる。

その腕を受け取る。

場の喧騒とフラッシュの中、肩を並べて宮殿ホールへ向かった。


――


水面の様な床に天井の宇宙ホログラムが映りこみ、素晴らしく綺麗な宮殿。

帝国の迎賓館ホールだ。


ホール中央では、拘束を解かれたリューラーさんと、モガ大将がおり、最終弁論のイベントが行われていた。


「混浴とは男女の融和を示す、古来からの祝祭や! ここにいる皆様の理想の信念を貫いただけやんか!」


「が、アフターサービスがやりすぎたわけだろ? リューラー、観念するんだ。 拉致計画を一緒にやったワタシは、もうダメだ。 最後は、一人じゃ寂しい。一緒に逝こうか」


民主主義的な公開裁判イベント、こんな簡単に〇刑支持が半数超えると〇刑囚になるってマジ?

男性の権利侵害にしては、蛮族すぎるイベントじゃないか?

許してあげていいと思うよ。ダメなの?


このままだと彼女達の結末は後味が悪いと思うし、今後の計画に大きく支障がでる。

民主主義も、覇権主義も恐ろしいな。


「伯爵、お願いします。何とか、アレ助かりませんか?」


「義兄様がおっしゃるなら、手配しますわ。宰相と戦ってきます」

「ベルティア伯、ついに魔族を倒す決意を固めたのですな」

「では、後でベルティア伯の家を訪ねてもらえますわね? ランチャーぶち込んだ家だからわかりますわよね」


とりあえず、了承すると3伯爵は 「では、失礼致します」 と下がっていった。

後は、ミリさんを巻いてバーカカウンターに座るだけだが、どうしよう。


「軍曹、ちょっといかれた民主主義的な私刑を見て、正気を失ってました。とりあえずいきましょう」


「任された」 と、軽やかに腕を差し出してくる。

この地獄のような、見世物を通り過ぎホールへ入る。


――


会場に入ると一斉に辺りが静まり返る。

ミリさんがすっと一歩下がり、壁に腕を組み寄りかかる、護衛モードに入った様だ。

これは、好都合。


「お兄様、心よりお待ちしておりました」


月の光を思わせるライトに照らされて、紫色のロングヘアがふわりと揺れている。

銀のドレスとティアラが光を反射して淡く輝いている。

ララス殿下が、こちらを見つめていた。

そんな彼女の元へ近づき、そっと挨拶をする。


「ララス殿下、素敵です。お姫様みたいですね。いえ、お姫様でしたね。 ララス、ごめん。ちょっと、また後で、ごめんごめん。ちょっとまた後で」


と、強引にスルーし。緑のバーカウンターを目指して一直線に向かう。

そこには、翼のシルエット。アリエノール宰相がグラスを差し出していた。


さすが、自分の敬愛する帝国宰相、仕事が出来る。


「早かったですね、シウタ殿。この一杯を飲んだら、すぐに殿下の所に行ってもらえると嬉しい。主催者をスルーしてバーカウンターを一直線。魔族や悪魔族もおびえるプレイです。ささ、早く行ってください」


ほのかに香琥る珀色の液体が、コポコポと注がれる。


同時に、カンカンカンカン! 背後では聞いたことのあるブーツの音、大佐、軍曹、伍長の足音が急接近してきて、危機感を覚える。


一瞬で琥珀色の液体を煽り、息をつく。


「転生させられる前に、マジに早く言った方がいいですよ」


幸せが、じんわりと胸に滲み出てくる。

今夜は、始まったばかり。


ララス殿下を見ると、瞬きをせずこっちをガン見している。

夜会は、始まったばかりでぇい。


「ささっ、宰相。刺される前にもう一杯・・・、きっと今後、色々と卒業させられると思うんですよ、せめて今日だけでも・・・」


「シウタさん? もしもし? 主催者をほったらかして何をしているのかしら?」

「シウタ?? さすがに、殿下が可哀そうだと思わないのか?」

「シウタさん、それは無いと思いますよー。もう私達、姉妹みたいなものなんですから、そういうの良くないと思いますよー!」


夜会は、始まったばかり。

説教一つで、酒が辞められると思うのかね。



いつもありがとうございます。


物語は終わりに向けて進みます。

こんな定型的な文を言う日が来るとは思っていませんでした。

ですが凄く洗練された言葉だなと、今初めて思います。


ここまで見て頂いた貴方様のおかげで、ここまで書くことが出来ました。

ありがとうございます。


またこんな感じの物を書きそうです。成功体験に引っ張られるとはこの事ですね。


正直、異世転生物はもう無理だって、貴方様も分かってると思うのです。

本屋の異世界ラインナップ見てみると、地獄だよ地獄。青ざめるぐらいの違和感。

どうやったら、こんなんで売れてんの? と素人が見てもわかるもん。

棚割どうなってんの? ねぇ、食の世界でも同じものは3規格までだよ。


が、人は味付けは飽きない。人は塩だけで食べれるものだったりします。

でも、これは食と話の方で、エンタメの比喩対象になるのだろうか。


なぜ、クリエイティブ的な楽しさを簡単に得るため動画作成に行かなかったのかと、思わない日はありませんが、まだまだ書いて行こうと思います。

引き続き、お楽しみください。

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