61 温泉回
温泉ですよー ~サリステア・フィオーレ~
すっぽんぽんで霧状の温水を浴び、髪に現生エッセンスを揉み込む。
美容荷電負荷で頬と腹筋を引き締め、星雲色のグロスで唇に色を足し、首すじへメガシトラス香を一吹き。
慌ただしく朝が過ぎて行く。
今日は温泉に入ると言うのに、デート前に温水に入る所が女性の悲しいサガですよね。
さぁ、決めますよ! 狙うはただ一人、シウタさんです!
鏡に映るカワイイ私に感謝です。
「さぁ! 上手くやってみます。行けるはずですよ。今まで沢山、エロを研究したはずですよね、私!
失敗したくないです。裏技本によると、まずは、ベットでリードして、キスからひざを股に入れて、抵抗されても逃げれないようにしなければいけません? 本当に上手くいきますかね。とっても不安です」
でも私、知っています。
一歩を踏み出さないと、『初めて』 は永遠に来ないって事を。
興奮が表情に出ないように、せいいっぱいの笑顔をしてくださいよ、私!
「「すっぽっぽんになったら呼んでくださいね、私。興奮の部分を担当しますねー!」」
もうイマジナリーは、エロい私しか出てきませんが、頼りになりそうですねー。
――
自立型惑星 『箱舟AI』 が、和解して人類に友好的となり、ドローンロボによる現生惑星の開発が一気に進みまして、世の中は現生惑星ブームです。
どこかの未開惑星に、男性部族中心の星があってスヌスヌしたり、されたり。
そんな刺激的な本で裏マーケットは溢れかえってます。
ハーレムです。夢がありますよね?
違いますね。
現生惑星の温泉ブームが流行しています。
『現生惑星で感覚をリセット!』 が売り文句で未開惑星の秘湯ツアーが、繁華星の富裕層の間で人気です。
先日、シウタさんに 「休日に温泉いきませんか?」 と。お誘い致しました。
もちろん、温泉以上の進展スヌスヌを狙っていたわけですが。
「未来に温泉とかあるの? いや、未来に来てなぜ温泉へ入るんですか? 確かに、サイゲデリックな医療ポットはもう十分堪能しましたが」
あれ、反応が渋く不評です。
私の下心を見破られてますかねー。
でも、何かに気づいたかのように反応してくれました。
「あ、やっぱり行きたいです。温泉に興味はないけど、旅館って言葉あります? 旅館ホテルに興味があります。 未来の旅館ですか、ホバー下駄に7色に光る畳とか? だめだ、想像がゴ〇すぎる。
自分の星だと、お土産は 『木刀』 でしたけど、当然、未来は 『ライトセーバー』 が売ってるはずだ。おお、やる気出て来きました。ぜひ、行きましょう。後、酒だな」
旅館はありますが、ライトセーバーとか言う古代武器はたぶん売ってませんよ。
骨とう品として、扱っている所に行かないとないんじゃないですかね。
「旅館ありますよー! いきましょう!」
きましたよ! 私とシウタさんの特別な旅になるはずですー!
――
と言う流れで、今からシウタさんをお迎えに行く所ですねー。
そんな時に玄関のチャイムが鳴る。
もう、出発しないといけないのに、こんな日に誰だろう。
と首をかしげ、ホログラム扉をタップする。
そこに映るのは、ホログラム越しでも伝わる鋭い金色の瞳。アーレ大佐だ。
わざわざ、このタイミングを狙ったとしか思えない立ち姿をしていますね。
うわあぁああああああ! 何しに来ましたか!?
和平後の軍事拠点の権限システムが違いますから、アーレ大佐関連のお仕事では無いですよね?
イヤな予感がします。
とりあえず扉を開けると、第一声が
「きちゃった(ハート)」
「いやいやいや、それ女性が男性に言うセリフで、私の本だと男性が女性に言う夢のシチュですよね。 あああっ。この感じ、まさかですねー?! ついてこうと言う魂胆が見えてますよ! アーレ大佐!」
強敵が出現してきました。
確かに、シウタさんの3日3晩の独占は、何か言われそうな気がしてましたけど。
「サリ~。ズルいわよ? 二人で温泉なんて。誘ってくれてもいいじゃない。
寂しいからシウタさんに、ついてっていい? と、聞いたら 『いいですよ』 と、言ってくれたわよ」
困りました、先手を打たれましたよ。
「でもですねー、今日は私ですよー。明後日の順番は、ちょっとわかりませんけど」
金色の瞳が少し覗き込んできたので、思わず視線をそらす。
「サリ、いいじゃない。一番は、貴方に譲るわ。 3人の方が楽しいでしょう? これなら2、3晩使っていいと思うのよ。 どうかしら?」
相変わらず、やわらかく断れない様に提案してくると思います。
でも、1番を譲ってくれるなら、悪くない。後はミリ軍曹だけとなる。
帝国側は、法律を変えてねじ込んでくると思いますが、一番は一番です。
超強力なライバルが1番を譲ると言ってくれている。乗らない手は無いですね。
「わかりました!」
「うれしいわ、サリ」
アーレ大佐と軽く抱擁を交す。
今後もずーっと、アーレ大佐と上手くやれそうです。
――
シウタ
――
現生惑星までの道のりはレンタル輸送艦だ。
シートに腰を下ろすと、窓の外には無数の星々が輝いている。
左隣に座っている茶色のセミロング、サリステア伍長がひじ掛けへ、そっと手を重ねてくる。
右隣の銀髪ショートのアーレイン大佐が足を組み替え、ひじ掛けの手をぐっと握ってくる。
「逃げたらだめですよ」 「もちろん、離さないわ」 と不穏な発言が聞こえた様な気がする。
「あれ、何かいいました?」 と聞き返しても弾けんばかりの満面の笑みが帰って来た。
未来シートのやわらかさを堪能しながら、地球の時の圧を感じている。
「お前だけは、絶対に逃がさん」 みたいな。
なんだろう、熱血行進れいほうを使われたり、ダッシュベガでハメられたり。マグニートの小足で即死食らったり。FPSで3回以上同じやつを〇した時の様なあの不穏な雰囲気。
大人のお兄さんたちは、『ハメられる方が悪い』 と言ってたが、絶対にシステムが悪いと思う。
今の子にわかるように言うと、最速サンダースが、きのこほうしを使うやつもいたんだぞ。
改造ではない、階段からゲームぼういを転がすとまれに作成出来たんだよ。
それぐらいの圧だ。
そんな殺伐とする必要が現生惑星の温泉旅館にあるの?
輸送艦は大気圏へ降下しており、人工的な光が雲の下に瞬き始めた。
『帝国ご一行 大歓迎! ララス殿下が来られるとは、感謝感激の極み! 現生惑星一同より』
あれ、帝国のバカンスとブッキングしてる? 「あれ、帝国とブッキングしてますかー?」
サリさんと身を乗り出し外のぞき込むと、雲が投影スクリーンになっている。
白い雲に虹色レーザーが走り、巨大なホログラム文字が映し出される。
さらに 箱舟AIのドローン編隊が7色のサイゲデリック光線をまき散らしていた。
『ウエルカム人類、星々を食いつぶす悪魔の動物達め!』
やりすぎやね。旅は中止だよ、帰ろう。
中止の合図を送るためアーレイン大佐の方をちらりとみる。
「大丈夫よ、これは殿下の発作みたいなものね。皇帝陛下と血は争えないわね~。帝国とブッキングしている旅館はダミーで、本命の秘湯の旅館を押さえているわよ。 帝国と一緒じゃ、3人で楽しめないもの」
さすが、怖いほど知恵が回るアーレ大佐だ。
頼りになる。
「体力お化けのミリには、悪いけど。この旅館3人用なのよね」
――
輸送艦が反転し、遠くの瑠璃色に輝く光へ向かい滑空する。
あれが目的の旅館だろうか。
そのまま2人に挟まれたまま、微重力のリフトで地表に着地した。
見上げると、瑠璃の塔が星空へそびえ立ち壁面か青く瞬いている。
塔の宿は、江戸風の家の様な想像と違い、未来が近くにあった。
テンションの爆上がり上がり具合に、2人に抱き着きたいぐらいだ。
この嬉しさを伝えるため、お礼を二人に言う。
「凄い。連れて来てくれてありがとうございます! 江戸の想像をした自分が恥ずかしい。想像以上ですね!」
「いけそうなムードですよー、このまま挟み込みましょう!」
「夕食を食べる暇ないわね、すぐにお布団ひきましょ?」
「うん? 何かいいました?」 と、聞き返すも満面の笑みが帰って来た。
塔の中に足を踏み入れた瞬間、敷石が半重力となり足を押し返す。
耳に届くのは、どこか変換されている方言が聞こえて来た。
『おおきに、いらっしゃいませー』
緑の髪をゆるくまとめたリューラーさんが漆黒のホテルスーツをきっちり着こなし、名札を指先で触りながら一礼する。
帝国の拘束から出てこれたと言う事は、機密情報の取引と共に許された感じだろうか。
『一体、ここで何を』 と聞くのも野暮だろう。
モガ大将との付き合いもある人だ、旅館への酒の仕入れも万全のはずだ。
素晴らしい、人選だ。
ありがとう、アーレ大佐とサリさん。
「ウエルカムドリンクの流星茶です。ゆっくり味わってや」
と、お茶をすっと差し出してきた。
同時に、アーレ大佐がそっと耳打ちをしてくる。
「あら、シウタさん驚くと思ったんだけど。リューラーはもう産業スパイやめて辺境へのホテルで儲けるそうよ」
「そうでしたか。拉致はどうかと思いましたが、結果的にオッケーでしたね。後でモガ大将の蒸留所について話したいことがあるんです。お時間下さい」
「えっ」 「あっ、はい」 「うん?」
全員の目が泳いでいる。
まぁ、返事したし良しとしよう。
「ありがとうございます。 じゃ、今日は前の事を水に流して。本日は宜しくお願いします!」
さて、それじゃ。やりますか。
「まずは、売店で酒類の購入から入りますか! 酒、風呂、宇宙飯だよ! さぁ、売店はどこですか」
全員が一斉に目をそらす。
おいおいおいおいおい。
ここまで来て、無しとかそりゃねーだろうよ。
――
アリエノール=ポレット
――
帝国ホテル、クリスタルが輝くロビー。
フロアが万華鏡の様に光を跳ね返し、赤絨毯の中央に立つララス殿下が立っております。
紫髪が怒気で発光しているが如く、オーラが揺れています。
「そうですか。ここまで来てシウタ兄様を見失ったと?
ベルティア、グランツ、オベール。余は、3伯爵を少しばかり買いかぶりすぎていたようですか」
漆黒の礼服に純白のブラウス、胸元に水晶のブローチで清楚感を表しつつ、袖に赤いシルクの包帯が殿下らしさを演出しております。
今日の殿下は、素晴らしいセンス! 人の切なる思いが一つ限界を超えた証拠です。
ホテルでの決戦仕様にしてきたと言う事ですか。
そして、目の前で震えあがっている3伯爵。
「はっ、はいっ! て、てっきりシウタ伯が当館にお越しの最中と思いまし・・・」
裏声で汗だくのベルティア伯爵。
「ど、どうかご安心を! 必ずやシウタ伯を――」
震えあがるグランツ伯爵。
「て、てっきり、もう殿下のお布団になっているかと。 いえ! 必ずや探し出しますっ! ハッ!」
すぐに土下座するオベール。
この銀河に土下座する文化ってあったのですね。
「必ずや、ですか。軽々しく使う言葉ではありませんね。では、猶予を与えましょう。15分以内に見つけ出さなければ・・・」
「「「ハハッ!」」」
これ、なんですか? もう帰っていいですか。
正直、仕事があるので帰りたいのですが。
伯爵3人でもう一台、星間航行機体を買って頂けませんかね。
これから、シウタ殿が身を隠す度に 『真・アケローン』 を出撃させなければいけないですか?
仕事が終わったら、勇者の育成があるのです。
預かると 『約束』 した以上、どこの次元に渡っても大丈夫な様にしなければなりません。
契約ですからね。
無詠唱でファイヤーボールを撃てるようになれば何とかなるでしょう。
どこでも褒めてくれると思いますね。
さて、早く終わらせて帰るとしましょうか。
ですが、この茶番も帝国のためになりましたよ。
スッと会話に入り込む
「殿下。お怒りはごもっともです。ですが、この様な時のため、最強の協力者を仰いでおります。本日、帝国騎士としてご協力を頂いており。ここに待機頂いております」
殿下は、目を細め真意を測りかねる疑いの目を向けて来る。
「なんですって!? 正気ですか! これ以上、婚約者を増やしてはシウタ伯の命が・・・!」
「まさか!? 魔族の考える事は、えげつないですな。 ついに本性を表しましたな!」
「ハァハァ、医療ポットは、進化し続けています。もしかしたら、一考の余地はあるのかもしれませんね」
ほら、隙あらば、魔族をディスッている。
もう、勇者の村焼いて喜ぶイメージは、やめて頂けませんかね。昔話ですよ。
でも、この既知は大きいですよ。
帝国の繁栄に、大きな一歩になるでしょう。
「ウハハハ! ミリュネ・ベグハルト。 ミリさん、出て来て下さい」
何度も帝国の侵攻を退けた、連邦の英雄。
私の胃痛のタネがついに味方になってくれました。
クリスタルの逆光の中に立つ影は、かつて連邦が誇った超級エース。ミリュネ・ベグハルト。
漆黒を基調に帝国章を縫い足したジャケットが、今日だけの裏切りの烙印を示している。
「私も温泉行きたかった・・・・! 二人だけずるいよな」
低く吐き出された独り言。
「「「ま、まさか。連邦の英雄が帝国に寝返るというので 『伯爵達うるさい。静かに。もう、普通にやってもらっていいですか? シウタ殿の現在地を引き継いだら、私も仕事あるので帰ります。 では、殿下これにて失礼します』」」」
そして、ミリュネ・ベグハルトの斜めにつけた猫耳が怒気でふわりと浮いている。
「シウタ達は、この星の裏側にいるぞ! シウタ専用のビーコンがあるんだ。殿下もシウタの許可を得てもらったらいいと思います」
後は、何とかなるでしょう。大変お疲れ様でした。
私も、まさか無詠唱でファイヤーボールの成功を喜ぶ日が来るとは、思いもしませんでした。
いつもありがとうございます。
ヒロイン。
存在したり、存在しなかったりします。
ヒロインが居ないと言うお話もよくあると思います。
私自身も別にヒロインいらなくない? と思っていました。
でも、ヒロインはなぜヒロインなのか。
話の中で行き詰ったときや、どう展開したり何を書いたらいいのか。
カーソルだけが点滅し、無慈悲に消費される時間。
そんな時に作者を助けてくれる、舞台装置、ヒロインであります。
間を持たせてくれたり、パソコンの画面に座り、決めた投稿時間まで全然字数が埋まらない状態で『マジに何を書いたらいいんだ?』 と画面の前でポケモンの鳴き声の真似を比較的しなくて済む、作者、貴方様への間を助けてくれるマジにヒロイン。
ヒロインがいれば会話で間が持つ。
感情を動かすワンシーンを差し込めば、ページは自然に埋まる。
未来を考えるんだ、連載をする時の猶予時間と言っても過言では無い。
問おう、本当にヒロインなしで大丈夫?
いいから入れとけ、ヒロイン。




