58 ララス・セレナーデ
ララス・セレナーデ・ミア・マルカトール
余の名はララス・セレナーデ・ミア・マルカトール。
帝国の第一皇女、そして、箱舟AIの交渉団として、お兄様のおひざ元、いえ。副席でサポートを務めております。
煌めく星の海より、お互いの体温を感じる事の出来る距離。
お兄様もまた、そっと寄り添い、少しだけ心を許してくれているのがわかります。
ほんの、あと一押です。
その一押しは、勇気かプライドか、無謀、勢い、そして速さ。
きっとそれは、最後の理性の壁を超える衝動。
余から告白する勇気なのか、あるいは強引に手を引く行動力なのか、それとも 『好き』 と口にする一瞬の勢いなのか。
返事が怖い、断られるかもしれない、プライドが傷つくかもしれない。でも・・・。
あと、一押しが欲しい。
余に、覚悟して飛び込む力をください。
――
『箱舟AI』 の勢力圏内に入り、お兄様と『ノクターン』 で星雲デートです。
緊張と幸福が入り混じったドキドキで、汗が止まりません。
そんなお兄様が、耳元で囁いてきます。
「殿下、田舎者ゆえ感覚がズレてるので、聞いていいですか。 壊れた機械をぶち壊さないで、まず説得ですか? 人に背くAIは、いくら外観が良かろうがぶち壊さなければ永遠と増殖を繰り返しませんか? 脅威と恐怖を感じますけども。機械に説得とは、新しい感覚ですね」
お兄様らしい質問です。
箱舟AI。かつて人類のために設計された、惑星管理知能。
だからと言って有無を言わさず叩き壊すのは、いささか芸がないと余は思うのです。
箱舟AIも存在意義確保のための暴力でしょうから。
「お兄様・・・。機械であっても、存在とは 『他者から認知され、支持される』 ことで成立してますよね? 『ノクターン』 だって、知能がなくとも、お兄様が名を呼び愛したからこそ、存在しているはずです。 なら、『箱舟』 にもその問いを投げかけましょう。
あなたは誰に認められ、誰に愛されたいのか、と」
お兄様が、ドンッ! と衝撃を受けたかの様に目を見開く。
いざとなれば、『ノクターン』 と銀河の上級パイロットの銀河の総火力でぶちのめせば良いですから。
そんな事より本当に大事なのは、お兄様との空間と距離感です。
この機会を与えてくれた 『箱舟』 にも超感謝しています。
権威たるもの慈悲を与えなければいけません。
そのまま満足そうに目を細めて見つめて来るお兄様。
その手がそっと腰に触れ、少しだけ引き寄せてきた。
キマシタワァアアア!
今日は皇女として完璧です、学と教育は身を救います。
『押してダメなら押し倒すべきです!』 とか、『じっくりと、れーぷですな』 とか、『監禁して、ごめんなさいさせて、わからせるべきでしょう』 と、伯爵達もプロデュースしてきましたが、おらくダメですね。
お兄様の傾向と対策を見るに、ダメです。
そもそも、ベルティア達も成功例が無いと余は思うのです。
アリエノールも長命種なので、男性経験はどうなのでしょうか。
趣味は魔族が好きそうな邪悪なお酒で、男性関係の話をまったく聞きません。
おそらく、少年趣味でしょう。 最近は、『勇者を作り上げる』 とか、ちょっと種族ギャップを感じる発言が多いです。
でも、ここは伯爵達に従いまして、もう少し押してみましょう。
「お兄様、もう少し、その、近づいても宜しいです?」
「え、ああ、別に。ん?」
余はそのわずかな隙を逃さず、しれっと肩を寄せる。
この息のかかる距離感、一つの幸せの形。
でも、これ以上は理性の壁を超えないと、はずかしくてできません。
でも、その壁を超えたら余はもう監禁。お兄様を監禁する事になるでしょう。
これ以上は、いったいどうすれば!
そこへ、緊急連絡のホログラム通信からベルティア、グランツ。オベールの3伯爵が浮かび上がった。
「殿下。状況は整っております。見ているこっちもドキドキがとまりませんわ。ここで一気に情に訴えかけ押し切るべきです! 『箱舟』 も砲門を開いておりますが、シウタ騎士の砲門もおぉおおお!」
「コクピットプレイとは、中々オーソドックスですな。 いや、失礼。スペースが無い密着した空間だからこそねっとりとおおおおおおおおおおぁあああああ!」
「はいはいはい! はいはいはいはい! 殿下、今すぐ操縦スティックを奪い繁華星が辺境へGOでございます! わたくしたちも直ぐに向かいます!」
お兄様が、巧みにコンソールを操作し通信を切ろうとする。
「あれ? 消せない。 AIよりバグってるってマジ? 早めに人類抹殺しないと増えつつげるぞ? あれ? 消えない。超うるさい」
ごめんなさい、お兄様の権限では消せません。
そして人は増え続けます。余は銀河、そして繁栄の象徴。
帝国第一皇女、その責務を果たさなければなりませんから。
――
その到着した辺境の星域には、巨大な人工知能のコア群が浮かんでいる。
周囲には、幾何学的に整列した無数のドローンロボット 『アーク』 の群れ。
2世代前なので、形が古いです。
ですが、最先端デザインとは見慣れて無い形を指すので、デザインとか関係があまりないですか。
『ノクターン』 の広域通信が開かれ、余とお兄様の声が銀河に響く。
「箱舟AIへ。こちらは帝国第一皇女ララス・セレナーデ・ミア・マルカトール。
そして隣に、婚約者の特使のシウタお兄様です。我々はあなたとの対話を求めます。この銀河を繁栄させるために」
やがて、箱舟AIが返答する。
青白いホログラムの少女。蒼いサイドテールがふわりと揺れ出現した。
ターコイズの瞳、銀糸のスカート、星を編んだような煌めくステージ衣装。
明るい笑顔、その裏にひそむ冷たい抹殺プログラム。
『対話の必要性を認めません。あなた方は不完全。排除対象だヨ』
隣で、お兄様がニヤニヤしています。
トリガーを愛おしそうにヌルヌルと引っ搔いており、残虐性が滲み出ています。
「さすが未来のAIだ。最高の回答を頂けますね。ヤッホー知恵袋より使えそうだな」
よくわかりませんが、偏見なセリフだと思います。
そして、宇宙デブリを増やすことに意味は、無いと思うのですが。
開戦すると、『箱舟』 は後悔すると思うのですよね、存在意義が消えるまでボコボコにされます。
さてどうしましょうか。
一応、マスター権限を持つ、モガ大将ともお話してみましょう。
説得要因で、産業スパイのリューラーさんと勇者候補?? のモガ君に旗艦まで来てもらっています。
それと、アリエノールの教育法、大丈夫でしょうか。
この時代に手からファイヤーボールが出ても・・・、いえ、結構凄いですね。モテます。
男子と言うだけでモテるのに、さらに足の速い男子とかモテまくりでしたものね。
今思い出すと、女子から逃げ出すための末脚だったのかなと思うのですが。
「そうですね、あなたの定義する 『マスター』 の モガさんの弟と、親友を連れてきました。まず、お話をさせてもらってもいいでしょうか?」
「可能だヨ」
こちらから繋ぎ、旗艦の緑髪のリューラー、モガ君が映し出される。
そして、ドローン艦隊中心に拘束されたモガ大将が、苦笑いしながら映し出された。
「モガ大将。あなたの意志を確認したいのです。
本当に、このドローンたちを止める方法は開戦しかないのですか?」
画面の向こう、拘束されたモガ大将が、妙に悟った顔で苦笑いする。
「止められるならとっくに止めてるわ! 助けてくれぇええ! ワタシ、悪くないからな!?
設計思想がク〇だったんだよ! 宇宙テラ牛AI! 無限魔石ぶち込んだら余計ヤバいことになっただけでさぁ!」
「えー、モガさん。責任転嫁は見苦しいんやけど? でもわかるで。とりあえず、『無限魔石』 手に入ったし、入れて動いてから考えようとしたんやろ? 誰でもそう思う」
アーレ騎士伯に拘束されている、リューラーさんが呆れた顔で肩をすくめる。
「でも、マスター権限でワンチャンあるんじゃない? ちゃんと 『ごめんなさい』 してみ? ほら、モア君も見とるよ」
この状態のモガ大将のごめんなさいで誰が得をするだろうか。
見たくないです。
アリエノールの後見を受けた、モア君が拳を握りしめて前に出る。
勇者が何かわかりませんが、勇者っぽくなっています。
「姉ちゃん。違う。違うんだよ。僕は、強くなるためにここに来た。
僕は、誰かの許しを待つつもりなんてない! きっと星を滅ぼす力を持つなら、それは人を傷つけるためじゃない。
守るために、未来を選び取るために、この権限を僕は使いたい! 僕の権限でも、この戦い止めたいんだ!」
あののの、何か魔族に育てられている、弊害が出ていますか?
でも、モテそうです。
『感情論、ですか。合理性を欠いた判断は、統計的に最悪の選択肢に繋がりますヨ。
繁栄を抑制する因子、離婚の原因が大体ソレ。それが人類という種の本質だと、学習データには記録されています。了解しました。
マスターからの入力指示、優先順位を再評価。
幸福最大化アルゴリズム、最適解へ稼働。不要因子の排除処理を開始します』
宣告と同時に、『アーク』 ドローンたちが一斉に戦闘態勢へと移行する。
私はちらりとお兄様の方を見る。
楽しそうに、トリガーから指を離すことなく、こちらへと視線を向けた。
「ハハッ。ララス、君のせいじゃないと思うよ? いいじゃないか。やりたいんだってさ。こんな説得でさ、ララスが苦労を背負う事を無いと思うよ。
結局、商談ってさ譲ったら、どこかで舐められる。交渉決裂、特等席だ、ララス。
今ならわかる、サバンナの様な弱肉強食のゲーセンに彼女を連れて来る人達が。
『彼女の方、何が面白くて一緒にゲーセンに来てるんだ? 大丈夫?』 と思ったが、自分がやってみると悪くないな。
殿下、退屈はさせないよ。ぜひここで見てて欲しい、君に喜んでもらえるように努めるよ」
「グハッ。超、いいですわ。殿下、これ結婚式のプロポーズ用で編集致しますね」
「ヌハッ、ハッピーエンドも悪く無いですな。さて間に入る悪い機械女をボコボコにしますかな」
「アハン、言葉だけで妊〇できるとは思いませんでしたわね」
だからお兄様、ホログラムは消せませんってば。
コンソールをカチャカチャと無駄な抵抗はおやめ下さい。
もう、余の好感度はこれ以上あがりません。
初めて会った時、ノクターンから降りてきて治療をしてもらったその日から。
「優秀な伯爵達に余は、恵まれています。さぁ、始めましょうか」
惑星規模の戦端が開かれる、でもコクピットの中だけは、余とお兄様の世界。
こっそりと生体認証ホログラムを彼の端末に表示し、婚約届けを差し出す。
「今の言葉、お兄様プロポーズと、して受け取っていいですか?」
「はいはい。そういうのとりあえず、戦闘が終わったらね」
「あ、そしたらココの余の端末ホログラムに、指を押してもらっていいですか」
「あ~、はいはい」 と、忙しそうに戦闘準備をしながら、ピッと婚約届に生体認証を押してもらった。
確認しないで押したけど、婚約成立です。
こんな簡単な一押しだったなんて。
最高の人生が始まります。
――
『交渉無効。リセット開始。戦闘シーケンス起動』
機械音声が告げる。
そして数千のドローンロボがノクターン目掛けて一斉に、殺到してくる。
その時だった。星の海から、圧倒的なブースト音と共に現れる超級エース。
近接特化 『タイラント』 だ。
ゴリ・・・、いえ、ミリさん。
連邦の士官は、フィジカルに秀でていますよね? なんでです?
「遅くなったな、シウタ! 私が来たからには、もう安心だ!」
「ハハッ、この数で近接は危ないなぁ~。遠距離のノクターンに任してください。ああ!? おい! ミリさん。援護期待して突っ込んでる?!?!! ああああああああああああ! ク〇ッやられた! いくら心が繋がっているかって、おまっ! ぐぬぬぬんうぬ」
余に見せないお兄様の複雑な表情、嫉妬を覚えます。
「ララス、早くどこでもいいから掴んで! 揺れるぞ! 自己中なゴリラ近接に分からせないといけない。絶対、近接は勇者思考。マジにシューティングもやれよな! 数が減るまでサポートしないとあああああああああ!」
次の瞬間、余の頬にお兄様の手が優しく触れた。
そして、その手が余の腰を抱き寄せると、膝の上へと乗せられる。
「ほら、ここ。前の膝に座って!」
心臓がドクンと跳ねる。
お兄様の胸に背を預けると、その体温がじんわりと伝わってきた。
争う必要なんてない、世の中に必要なのは、ラブアンドピースです。
もう少しこのままで。
『箱舟』 この銀河の生存を許します。
いつもありがとうございます。
上達してるわ。
でも、何が書きたいんだろう。恋愛物が書きたいわけじゃねーんです。
次回作は、未来グルメ系なさそうだから、やってみるかね。
誤字脱字報告ありました。無くしたいとは思ってますが、起こります。
どうして誤字脱字は、起きるんだろう。赤字で出ない箇所が出て来るんですね。
後、少し先の未来、自動AI校正まだか。はよ。




