55 シウタからアーレイン
シウタ
向かい合う、二つの巨影。
もし素直に帰宅した場合、この酒造場は綺麗に地ならしされて、さら地になっていたと思う。
思い出すのは、地球の時の禁煙運動の流れ。どこも禁煙禁煙だよね。
次の廃絶の標的が酒になった場合、この様な弾圧を受けていたのだろうか。
未来は、幸せの形を変えている。人間なんて過去も未来も大して変わんないのにね。
そして、依存性があるエナドリも一緒だよ。
依存性がある、刺激が強く飲んで目が覚めて疲れが取れる。
絶対おかしい。
そう、エナドリが標的になった場合、喜んで廃絶運動に参加すると思う。
外国の様に、横断幕を掲げて町を練り歩くのは絶対楽しい。
そう言う事? 喧嘩は、同じレベルでしか発生しないと言う事か。
さて、目の前に立つのは 『タイラント』 だ。各部位の装甲が筋肉を彷彿させる近接機体。
関節駆動のレスポンスが異常なまでに速い。
鍛え抜かれたミリ軍曹の体が重力の鎖をちぎり、法則が仕事をすぐサボる。
対するは旧型装甲機体の 『レグルス』。
肉厚ソードの近接と実弾の鉄鋼弾のマシンガンタイプ。
『闘ゲキに出るなら、全キャラ練習して動き方ぐらい覚えておけ』
と、ギルテーィで3年間ボコられ続けた悪魔の様な友人が言っていた。
容赦なくボコボコにしてくる。あの辺の連中はシビアだよな、それとも上達するうえでボッコボコにされた下積みの経験から同じ目に合わせてくる、サイ〇野郎だったのか。
たぶん後者だと思う、一般人が追いつこうとすると3年かかった。
その助言に従い、惑星系アナログ脳ロボットでも近接が使える。
経験によるボコボコの下積みって大事だと思うよ。性格捻じ曲がるけど。
そして、ミリ軍曹は舐めている。
わかるよわかる。
彼女の性格から自分の好きな人が慣れてないゲーム一緒にやる場合、完膚なきまでボコボコにしない。ほんの少しだけ勝ちを譲るか、あるいは接戦に持ち込む。そういう人だ。
「なにこれ?クソゲー?」 と、秒でコントローラを投げつけられない様に。
と、どうしようかと、ミリ軍曹も考えているんじゃない? どこまでやったらいいのかと。
付き合いが深いから、何を考えているかわかる。
さて、本気を出させるか、舐めているうちに倒すか。
どうしようか。
――
ミリュネ・ベグハルト
――
とうぜん、私は悩んでいた。
これは決闘での戦闘で、同時にちょっとだけ恋愛問題でもあるのだ。
下手に本気を出して潰してしまえば、シウタのプライドはズタズタになるだろうな。
遠距離機よりは勝負になるが、それでも相手は旧型機。しかも、タイマンだ。
逆に手加減しすぎれば 「男だからって甘く見られてる」 などと、シウタの意地に火をつけるに違いない。
やっぱり男がヴォルテクスに乗るのは気を使ってしょうがない。
『シウタさん、絶対に工場の前に立ちふさがってくるから、ミリ軍曹受けてあげてね?』
と、アーレ大佐から言われているが、ララス殿下、フェリシア、イーリス、ミラグロの人選は合っているのだろうか。
殿下の提案は断れないだろうけども、既に3人がシウタを応援しだしている。
「シウタ君の頑張ってる姿すごく好きだよ! ミリ軍曹なんてやっちゃいなよ!」
「手加減して来るからそこがねらい目だよ! 油断しているうちに撃って撃って撃ちまくって!」
「ミリ軍曹は、どちらかと言えば押されたいタイプ。 油断しているうちに押し倒すのが紳士!!」
凄い盛り上がりだ。
まさに上司を敬う部下の鏡だな。この3人、ここに何しに来たのだろうか。
だが3人も元気が有り余っている様なので、倍の負荷をかけてトレーニング追加だ。
覚悟しておくんだな。
どうしたものかと、ほんの一瞬思案していたその時、ズガンッ!!
「うん?」
目の前の岩肌が、実弾の直撃で派手に弾けた。
「おい、まだ決闘は始まって――」
ひと言、声に出したその瞬間、今度は左脚部目掛けて、ズドドドッと三連射。
反射で機体を低く落としつつ、滑るように斜め後ろへステップアウト。
シウタは、機体の体制と角度を見て偏差撃ちの癖がある。
職業病のようなもので、もしもシウタと戦ったらとシュミレーションが出来ている。
もちろん、その後のシュミレーションは妄想の中でシウタを捕まえて抱きしめてコクピット内でチュッチュするシチュだ。
なんて、いやらしいんだ。
そして完全にシウタが狙って撃ってきている。
「シウタ?? いくらお前が男だからって決闘合図前に――」
ドドドドドドドドッ!!!
連射。
いや、フルバースト!!
全て躱すが、跳弾が機体の装甲をかすめ、警告音がピピピと鳴り出す。
この野〇が。マジに王子様だからって何してもいいと思っている節がある。
「おい! その性根叩き直してやる! よし私が勝ったらお前を抱きしめるからな!」
この勢いで一晩と言えないのが、私の経験の無さだろう。
「軍曹ォオオオオオ! ぐぬぬぬぬぬ! 弾が当たらないッツ! 思考を読んでいるな! ここから先は遊びじゃないですよ、覚悟はいいですね!」
さすがに構えを取り直した。
低く構え滑るように地面を駆ける。
「はい、決闘開始! お兄様頑張ってください!」
ララス殿下の合図だ。
ここを破壊して、モア君をやさしく捕まえて帰る任務のハズだったが趣旨が完全に変わったと思うぞ。
そして、ほんとにシウタは満足させてくれるいい男だ。
少しだけ、口角が上がる
『タイラント』 は、砂塵を巻き上げ地を蹴る。
機体は一直線にシウタへ突進した。
――
アーレイン・フリュグリッド
――
旗艦の中央室に設えられたホログラムスクリーンが、複数の戦況映像を映していた。
現生惑星、35-C。
砂を巻き上げる二つの巨影。旧式装甲機 『レグルス』 と、格闘特化型ヴォルテクス 『タイラント』が対峙し、先ほどから実弾と装甲片が飛び交っている。
おかしいわね、ガチでやり合っているわよ。
でも機体性能差でミリ軍曹が有利なはずだから、いい感じに戦闘は終わるんじゃないかしら。
シウタさん、なぜわざわざミリを怒らせたのかしら? 本当に戦闘大好きよね~。
ミリも手加減は、するだろうから無事に終わると思うけど。
「ええ男やん~。私が敵に回ったんが間違いやった? こうして引き込めば味方になってくれたのかもしれんのか~」
その横、透明な監獄に収容されているのは、元諜報員にして産業スパイ、リューラー。
彼女は拘束具付きの椅子に腰かけたまま、ホログラムを見つめ呟きながら指先でホログラムの端っこをなぞっていた。
「いや待って、あれ決闘ちがいます? ほぼ痴話喧嘩?? でもわかる、あんな顔で 『この工場を守りたいんです』 とか言われたら、女やったら一発で落ちる。あの王子はずるい。善人ぶってて、実は一番タチ悪いやつやで。くそっ、惚れてしまうやろ!」
産業スパイリューラーが捕まった。
辺境連合とは、連邦と帝国の銀河政体の支配から外れた周縁惑星群による、ゆるやかな同盟体制ね。低資源・高重力・文明も1世代遅れ。
もとは難民や旧植民地の集まりにすぎず、産業もなく自治権は限定的。
ほとんどの惑星は一次産業と自給自足で命をつないでいる状況。
だったはずなのに、今や状況は一変していた。
現生惑星。かつて銀河の地図の隅にあった小さな点は、銀河中から熱視線を浴びる価値を持ち始めていた。
「で、どうするの? 今や辺境連合ブーム。 シウタさんが結果的に辺境に価値を発生させたわよ。こんな旧世代の兵器をどうのこうの処理をしている間に、どんどん価値が上がっているわよ~」
現生惑星は、ただの辺境ではなくなっていた。
「辺境に夢を見てる人間が、銀河中に山ほどいるわね。でもあの星に巨大兵器が眠ってるだなんて、口が裂けても言えないけど」
「まさか、王子がさらわれた時のアウトドア動画がここまでとは~、行きたい旅行先ベストランキングに入るなんて。でも、皆様騙されていると違います? 現生惑星に男の子なんてモア君しかいないんよ」
リューラーの緑の瞳の奥には、どこかほっとしたような影があったけど、それどころではないわね。
えっ、現地に男の子いないの?? どういう事なの、お金貸して欲しいわね。
「で、本題なんですが。アーレイン様、取引をしませんか?」
辺境惑星に男の子が居ないと言う事実に絶望し、緑髪に冷たい視線を向ける。
「内容によるわよ、提案だけどうぞ」
「このままいけば、モガ大将の隠していた、旧世代の超兵器、デスブリンガーが発掘されてしまう。モガ大将が知ってるのは、ほんの一部。起動コードも、エネルギーもまだ欠けてる。でも、あるにはある。あの惑星の地下には旧世界が埋まっている。技術、兵器、記録。本来なら誰にも知られず、朽ち果てていくはずだった」
無限魔石があれば動くと言う兵器。
何かの間違いで動けばパワーバランスは崩れて、またこの銀河が荒れるわよね。
「それを、あなたは知っているのね」
「ええ。現地の地下マップも一部だけなら、提供できる。ただし」
そしてリューラーは視線を上げた。
「この件に関して、王子を巻き込まないこと。そして、連邦・帝国のどちらにもこの惑星を軍事的に譲渡しないこと」
「ふぅん。いいけど。それで、あなたスパイをやめるつもり?」
「うん。やめる。王子のおかげでそんな事をする必要が無くなった。少しでも王子にこの恩を返さないときっと一生後悔する。 さらった非礼の上、このような恩を受けて何もしないわけにはいかない。何も返さんのは、筋が通らへん」
そうよね~、辺境連合のフィーバータイムだもの。
「いいわよ。まずは資料を見せてもらうわ。成立までは、あなたの待遇を少しだけ改善しておくわ」
「助かるわぁ、大佐ぁ。やっぱシウタ王子の次にいい女や、惚れてまう~」
そうよ、私はいい女。
じゃないと、シウタさんに釣り合わないわね。
そうしているうちにスクリーンの中は進み、レグルスとタイラントがついに交錯し、爆風と砂煙が空を切り裂いた。
『レグルス』 が装甲をまき散らし片膝をついていて、肉厚のソードは折れ実弾は底をついている様子がうかがえる。
勝負あったわね。
さすがにタイマンではミリ軍曹に勝てないわよね。
そして、決闘の口上の通信が開くかと思いきや。
「フェリシア先輩! 何でもします! 何でもします! ヒートソードを貸してください! イーリス先輩、ビームマシンガンも貸してください、一晩二晩でも何でもしますから! ここで倍プッシュ! 負けてられないあああああ! クソッ! 機動性が悪い! 殿下、いや、ララス! 機体を貸せ! 何でもしてやる、自分に力を貸せえええええええええええええええ」
「礼儀も足りていない、でも自分の物の様な呼び捨てが脳にキます。何か危ない薬でもやったかの様な幸福感があります。このプレイでいきましょう。 ええ、お兄様。もちろんオッケーですワァアアアアアアアアアアアアア! アリエノール、アリエノール! 余のサポートを! 魔族の技を教えなさい!!」
「ハイイイイイイイイイイ、ミリ軍曹。いい上司でした! でも、これで無敗伝説も終わりですね! お覚悟!」
「もちろんよ! 借りるだけでなく全てを奪っていって!」
「あれ、私は? まぁ、私達友達だし。分けてもらえるよね」
安心して。想定内よ。
ちゃんと、こうなった場合の手を打ってあるわ。
ホログラム通信で宰相と3伯爵に緊急連絡を入れる。
「勝負がありましたわね。回収をお願いします」
応じるのは、羽のシュルエット、アリエノール宰相が浮かび上がる。
つづいて、金髪ウエーブのベルティア伯爵およびグランツ伯爵とオーベル伯爵だったかしら。
「フハハハ! すまないアーレイン騎士伯殿。私も雇われ宰相な物でして。このテンションの殿下には物言えぬ。すみません、成り行きを見守るしかできませんね」
「アーレ騎士伯殿、プランBの婚礼発表をお願い致しますわ。言質が取れまして銀河全体に放映されていますわ」
「何でもするとなりましたか。言霊を頂きましたな。いやはや、さすがにドキドキが止まりませんな」
「そうなると、その場で致すとなるでしょうか、やはり戻ってから、いやコクピット内と言う手もありますね」
まずいわね。
でも大丈夫、これも範囲内。集団れーぷされる前にマジに早く助け出さないと。
あの人数を医療ポットも無い野外プレイは〇んじゃうわね。
「サリステァアアアアア伍長オオオオオオ! シウタさんがヤられるまえに助けにいってええええ!!!!!」
「私、傷物でもネトネトでも愛する事ができるんよ。きっとな、集団で致された後、弱ってると思うねん、ここで優しい言葉を・・・・」
やるわね。
リューラーも暫く、拘留されてなさい。
いつもありがとうございます。




