表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/69

52 シウタ 

シウタ


ミリさんとのデートも終わり、明日もお仕事だ。

この銀河の治安を守らなければいけないからね。


安全のために軍事拠点の星間ポートまで送ってもらい、そこでお別れの挨拶を交わす。


「今日は楽しかったです。ありがとうございました」


「ああ、私もだ、シウタ。 気を付けて帰るんだ、寄り道するなよ? 居住区まで帽子を取るんじゃないぞ。身バレしたら大変だ。でも、こういうのもドキドキして、特別な感じがするな」


それから少し間を置いて、ミリさんはふっと微笑む。


「この銀河で私達エースは普通ではない。この気持ちは、シウタが誰にも見せない顔を私だけが知っていると言うことだろうな。そう思うと、少しだけ誇らしく感じる」


めちゃくちゃカッコイイ事を言う。

まっすぐで、惚れるわ。


そしてミリさんは名残惜しそうに手を伸ばす。

引き止めたいのか、でも彼女はすぐに引っ込めて白いブラウスの襟元を軽く整えた。


その手をそっと握り、その青い瞳をのぞき込み問いかける。


「それで軍曹。この名残惜しそうな手はどうしましたか」


距離が、ふと近づく。

そして、誰かの心臓の早鐘が聞こえる。


――


「また連絡する」 と言い残して、星間シャトルへと去っていく。

背中越しに振り返らないその歩み、大変カッコイイと思います。


そんな彼女の背を見送りながら、考える。

せっかくの帰り道だ。

露店街のにぎわいを覗きながら、注意深く身バレしないように買い物をしていくことにした。


なんか喉が渇いたな。

コーヒーじゃない、もっとこう、ガツンとくるやつが欲しい。


と、思いながら店を見ていると静か後ろから声がかかる。


「こんばんは、王子様~? こんな夜に、こんな裏通りでなにしてます~? まさか、最強の恋人とはぐれましたか~?」


そこに黒いスーツに身を包んだ、緑髪の女性が立っていた。

ぎょっとして立ち止まると、その女性はにこりと笑顔を見せる。


「リューラーさん?」


「んふふっ、こんばんは王子様~。先日はお世話になりました~」


彼女は軽く指をひらひら振ってから、話を続ける。

服も相まって、キャラが変っている気がする。こっちが素だろうか。


「おかげさまで、サボテーンの花、大ブレイク中です。生産してる惑星は大助かりです! 自生してる星はまぁ、根こそぎハゲましたけどね~。

いや~、さすがは王子様。最前線で働く男性の旗印! この銀河を顔と雰囲気で一撃で動かす男! ほんっと、花束を持って走っただけで、これほど銀河が振り回されるとは思いませんでした~。さすがです!」


よくしゃべるタイプだ。

そして今日は姿も相まって、ちょっと胡散臭い感じがする。

最初に褒めから入るタイプ。営業職での経験からして、褒められると疑いから入ってしまう。

自分の営業もそうだからだ。

『褒める』 という行為には、相手の好感度を上げ、流れを自分のペースに持っていこうとする意図が、確実に含まれている。


「そうそう、王子様。 儲けさせて助けてくれたお礼と言ってはなんですが、例のブツを仕入れさせて頂きました。 寄って行って頂けませんか? 仕入れに苦労したんよですね~。繁華星の胡散臭いバーでめちゃくちゃ足元みられましたし~」


なんだか、あそこのボッタくりバーの話をしている気がする。


まぁまぁ、そういう事でしたか。

しかし、営業経験が脳内に囁いてくる 「そんな、今日昨日で好みを知った都合のいい儲け話(お酒) がある? 詐欺師はみんなスーツを着て笑顔なものだよ」 と囁いてくるが、身体は 「貸しになっても持って帰る。今日飲みたい」 と結論をだした。


「まぁ~。少しだけ、見るだけならいいですよね。 まぁ~、でも儲けさせたのは事実ですし。まぁ~、いいでしょう。 あ~、今日も花買って帰りたくなってきたな。チラッチラッ」


「はーい、ご案内~。王子様、こっちこっち」


気づけば彼女の後ろをついていく自分がいた。

案内されたのは、軍管理区域ギリギリ外の倉庫街。薄暗い通路を抜けた先、未来風な扉の前でリューラーさんが小さく 『ピュッ』 と口笛を吹くと、シャッターが自動で開いた。


これ、大丈夫?

港倉庫の違法取引見たいだよね。ドラマで見た事ある。

酒ってブツの取り扱いなのか?? この銀河終わってるな。


「さ、こっち入って~。ほら、秘密基地っぽくてテンション上がるでしょ?」


言われるがまま、倉庫に入ると

「ホントについてくるものかね? 王子様がこんな倉庫にホントに来るとはねぇ。 銀河のアイドルは夜の倉庫街がお好きって事か? 危害は加えない、その代わり大人しくするんだ」


聞き覚えのある低い声が背後から響く。

あ~、モガ大将だわ。

うすうすと感じていたけど、罠だったか。


「意外と、単純な手でいけるものやねぇ。 こんな簡単にこんなイイ男が引っかかります? 危機感って物を持たないといかんと思うよ~。 このままさらってしまって、この商売から足を洗うのも手と、心の良心が大音声でロックを歌ってるわ。や~、ガードがガチガチに見えて、実はスカスカだったとは。 でも、ウチ悪くないと思いますよ~。こんないい男がいたら誰だってこうします」


「この男には、借りがある。乱暴を働かない約束だぞ。何度も戦いで見逃してもらっている」


ああ、助かった。慈悲はギリギリ自分に返ってくると言う事か。

ノクターンであれだけモガ大将をいたぶったから、いつ〇されても文句言えないと思ってた。

少しだけ残虐だったかもしれない。その自覚はある。


振り返ると、赤銅色の髪の大柄な女性が腕を組み、じろりとこちらを睨んでいた。

犬耳のアクセサリーが目に留まる、モガ大将だった。


「あ、知り合いだったんだ。こちら、うちの仲間なの。ちょーっと変わってるけど、悪い人じゃないですよ」


それフラグです。

悪い人は、悪い人じゃないとみんな口を揃えて言うものだ。

地球で言う、何もしないからホテル行こう。と、いうやつかな。

ちょっと違うか。


「あ、そうなんですね。なんかすごく目力ある方だなって思ってましたけど。 で、自分〇されるんですか?」


まずは、相手の出方を見てみよう。


「あっはは! それは、もったいない。 とりあえず、通信が効かない星へ。 目的は、無限魔石や。あれがあれば、連合は救われる。 全ては帝国と連邦の交渉の場を整えるため」


「悪いようにはしないさ。それこそ王子様の様に扱う。さっ、こっちだ」


リューラーの仕草と、モガ大将の圧、そして妙に整っている段取り。

これは、もう完全に拉致計画だったんだと、自分でもわかっていた。

色々な所での接触はこのためだったのだろう。


そのまま足は倉庫の奥へ進んでいた。

中には、使い古されたジャンク船が停められていた。


ボディはかろうじて塗装が残っており、整備されている風ではあるが、どこからどう見ても 『緊急脱出艇』 にしか見えない。

ボロすぎる、宇宙の荒波に耐えきれるのだろうか。


「まぁ・・・、言いたいことはわかる。多少の癖はあるけど飛ぶよ。乗ってみれば分かるさ」


モガ大将がそう言って、ジャンク船のハッチを手で開けた。

その瞬間、倉庫の外から鋭く金属がひしゃげる音が響く。


ガンッ! ガンッ! ガコンッッッ!! ドグシャアアア!!


鋼鉄のシャッター、そして倉庫内が激しく揺れる。


拡声器越しに 「素手では、ぶち壊すのは厳しいわね。開けなさい、リューラー。身元は割れたわよ。そして、これは正式な警告よ」 と聞こえてきた。


アーレ大佐の声だ。

さすがだ、もう助けに来てくれたのか。

マジに借りが大きすぎて、どんどん頭が上がらなくなってくる。

そして、最近はそう誘導してくる節があるからなぁ。困ったものだ。


「うっわ~。早い! もう来ましたか。さすが冷静のアーレ。では、対応させてもらいましょか~」


リューラーさんが軽く手を振りながら、倉庫の制御パネルへ歩み寄る。

同時に、周囲に妨害電波が放たれた。


「いやぁ、王子様って本当に人気者やねぇ。こっちは命がけで口説いていると言うのに。もうちょっと放っておいていいと違いますか~」


そう言いながら、リューラーさんが手のひらをスライドさせると、天井から黒いスモークが吹き出した。


アーレ大佐の侵入を防ぐための時間稼ぎか。

その間に、モガ大将が自分の背中を軽く押したかと思うと意識が無くなった。


――


暗闇の底から浮かび上がるように、意識がゆっくりと戻ってくる。

最初に感じたのは、鼻をつく鉄と油のにおい、そしてどこか懐かしい埃っぽい空気。


あれ? ここどこだ? 地球に戻ってしまったか?


目を開けると、頭上には錆びついた鉄骨、古い工場のような天井。

自分は、年代物のパイプベッドの上に寝かされていた。


早く銀河に戻って、ノクターンでリューラーとモガ大将をブチのめさなきゃ。人は、巨大なビームライフルを向けられたらどんな表情をするのだろうか。

そう、転移ゲートが存在するのは転生時に確認できている。

地球のストーンヘンジやピラミッド、マヤの儀式場、古墳や神社のパワースポットから戻るとしよう。後戸の扉は、長野県だったか? 洋画でドラマ化した 『スター門』 から行ってもいいな。


でも、たぶん地球では無い。他の惑星だろう、状況があまりにも雑だ。


腰を上げ、あたりを見回していると耳に、カン、カン、と何かを叩く軽い音が届いた。

その音を辿って通路を抜けると、作業着姿の少年が大鍋を磨いているのが目に入った。そして、もう一人、小柄な少女が台に登り、器用にホースで透明な液体をタンクへ移している。


「こんにちは、ここどこですか?」


思わず声をかけると、二人はぴたりと動きを止めて、同時にこちらを振り向いた。

少年の目がぱぁっと輝いた。


「あっ、兄貴! 起きた! 兄貴って言っても、兄貴じゃないか。そうでした、捕まってきた人でした。でも、兄貴の様な気がします。 これが本物の英雄ですか、マジ凄いですね。憧れます。あ、あのいつも応援してます。握手してください!」


そして、少女がさらに食い気味に迫ってくる。


「違うよ、本名がシウタさんって言うんだって。モガ姉ちゃんが王子様って呼べって言ってたよ。 でもほんとに王子様? 違いますよね? お兄ちゃん、そうだ。お兄ちゃん。いまから、大きくなったら結婚の約束していいですか? 今、付き合っている人いるんですか? ねぇ、今彼女いるの?」


ミリ軍曹が言ってた、この銀河の種族の女性は大体マセでいるって。


「えーとですね。情報量が多い。というか、ここどこですか。通信、全然通じないんですけど」


少女がぺたぺたと足音を立てて近づいてくる。そして、マグカップを差し出す。


「これ、お酒。大好きだって聞いてます。試作中の 『星スペシャル』 どうでしょうか? モガ姉ちゃんが定期的に来るので、今日から一緒にここで暮らします」


「酒?」


「そう。酒造り」 「この星の生活は、この堕落的で邪悪な液体を作るしか産業が無いのです」


少年が無表情のまま言い、少女がとんでもない事を言い出す。


マグカップを受け取り、中をのぞき込む。

薄い金色の液体。ほんのり甘い香りと、何か得体の知れない刺激が鼻をかすめた。


クンクン、これは安酒の香りだ。

店の前の手の消毒液と香りが大差ないからよくわかる。

大型ショッピングモールの入り口に、大人達が座っている理由の一つだと確信している。

なぜなら、アルコールの臭いがするからだ。


通信機は沈黙したまま。大佐にもどこにも繋がらない。

ここは連絡も届かない、 孤立した現生惑星なのだろう。


「あの、これってもしかして、君たち強制労働とかですか? だとしたら、ヴォルテクスでこの星を火の海にして新しく帝国で統治してもらいますけど」


そう尋ねると、少年と少女はきょとんとした顔を見合わせた。


「え? 労働っていうか、日課です。 星を火の海にですか! とてもカッコイイです! 残虐騎士のセリフありがとうございます。そうそう、シウタさんの乗るヴォルテクスカッコイイですよね」


「うん。普通に作らないと、ご飯も食べられないし、モガお姉ちゃんも怒るし・・・」


少年は褒め上手だ。そして児童労働か、許せんな。

でも、未来は教育とかどうなっているんだろう。

ホログラム端末で学習なんてなんでもできちゃうし、差し引いて考えようか。


モガ大将が連れてきた理由は、まだ何も語られていなかった。

だが、この酒の匂いと、この子供たちの労働の状況は理解できた。


さて、ここを救いたい。

なんとなく、未来を想像できる。

空を埋める様な大艦隊で、星を焼け野原にしてくる邪悪な帝国から守らないといけない未来が見える。


まずは、飲もう。

そして、マグカップを一気に傾ける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ