46 シウタ
シウタ
大型の旧式ヴォルテクスが爆煙を噴きながら静止した。
あっけない決闘の幕切れに、ホログラム通信が一瞬だけ静寂に包まれる。
「シウタ、気を悪くしないで欲しい。何て言うか・・・、そう言う所だぞ?」
「シウタさん、ごめんね? でも、そう言う所よね? 結婚後は働き方について、よく話し合いましょ?」
「アーレイン、やっぱり私は間違ってない。捕まえた方がいいね? 男性で人気があるからって自由にヴォルテクスに乗せたら、まずいよ」
通信が混線してバグっている。
コンソールを操作して通信を切ろうとするが、どうやら無理みたいだ。
誰かが干渉しているのか、回線がロックされているようだ。
しかし、混線したホログラム会話のバグはすぐに正常に戻る。
辺境連合艦隊のざわめきと怒号が通信されてきた。
「モガ大将が、こんなにあっさり! まさか、あの王子様が直々に出てくるなんて!」
「艦長、どうします!? えっ、王子!? おーい! 王子様だってよ!」
「マジ・・・ヘタに逆らうより、媚び売った方が得なんじゃね?」
「王子様は、白馬じゃなくて変態機体に乗ってくるのか。どうして現実は改変されるのか」
後退しかけていた連合艦は再び散開し始め、一部は焦りからか砲口をこちらへ向け出す。
通信に混乱している様子が映し出され、指揮系統が崩壊しかけているのがわかる。
「シウタ、撃つなよ、頼むから艦を撃つな。勝負は決した。ここからは誰も幸せにならない。 シウタ、この辺のモラルが分からない感じなのか? この争いの回収と今後の繁栄を考えたら、そうなるよな? そうなるよな?」
やはり、ホログラムが混線している。おかしい。
獲物は、狩る。遺伝子に生存行動として刻まれているはずだが。
狩ってはいけないと言うのもおかしな話だと思う。
ミリ軍曹がタイラントで接近しながら通信を入れてきた。
トンファーを収納しつつ、周囲を索敵している。
そして、ノクターンを軽く旋回させ、距離を取りながら辺境連合艦隊の動きを観察する。
あちこちでパニックが広がっているが、まだ戦意を失ったわけではなさそうだ。
そして 「頼む、誤射してこい・・・、誤射してこい・・・」 と、口から思考が漏れていたか。
「それって私にも誤射してくれるんですか・・・? いや、嬉しいわけじゃないけど、ちょっとだけ期待しちゃいます・・・」
「ああ、もう誤射されて楽になりたいってことですよね。わかります。私もいっそ弾が飛んでこないかなーって、よく思いますし」
「うんうん、その願いわかる気がする。でも、誤射されても誰も気づいてくれなさそうですよね・・・、余計に虚無感が・・・」
なんだ!? いつのまに囲まれた?! 気配が無さすぎる、この闇レディ達はなんだ!?
種族の力の何かもってるだろ! 気配遮断とか! 闇落ちとか!
周囲の連邦機の雰囲気にゾッとしながら打ち合わせを行う。
「うーん、ミリ軍曹、了解しました。一時休戦か、降伏してくれればこっちも手間が省けるんですけど」
その時、通信が割り込む。
どうやら連合の艦隊の偉い人が回線を開いてきた。
「ううっ、こんな馬鹿な! モガ様が負けるなんて!」
そして、艦の火砲が再びこちらを狙い始めた。
ホログラムのメインスクリーンに警告ランプが連続して点灯する。
ありがとう! そして、さようなら。
「アーレ大佐、連合はまだやる気みたいです! ありがとう」
通信を送ると、大佐の冷静な声が返ってくる。
「想定内ね。 はい? ありがとう?? リリア少将が主力艦を抑えているうちに、あなたたちは艦隊をけん制ね。 それと、ララス殿下がもうつくはずよ。 これで停戦しなければ、やっちゃってよいわよ。後は、権力でどうとでもなるわよ」
「「了解!」」
ああ、殿下。
そういえば、護衛していらっしゃいましたね。
聞き分けが良い子は好きだよ。
さて、けん制しますか。
戦闘艦のフォースシールドがどれだけのものか、指令ブリッジを狙ってひとつ、耐久性のテストと致しましょう。
ビームライフルを構え、画面越しに敵艦のブリッジを捉える。
ハハハッ、ヴォルテクスでもあれだけ綺麗な花火が上がると言うのだ。
艦の爆発の至近距離とか凄い映像美が見れると思う。
人は大きい花火を喜び崇め奉る、なぜか! 芯に響く痛快な音とピカピカする視覚効果が大好きだらだよ!!! ヒャアアアアアアア!!
「シウタ、お兄様ァアアア!? お話聞いておられましたか?」
通信画面の端に紫のララス殿下が映る。
迷彩シールドで姿を隠しつつ、潜んでいるのだろう。
「シウタ、お兄様! ねぇ、今、聞いてました? 聞いてませんよね?
ずっと敵艦なんて見て撃とうとしちゃって。どうして、いつもそうやって余から気持ちをそらすんですか!?
アハハ、お兄様は強いし、みんなから王子って呼ばれて、余としてもそれ自体は誇らしいんです。
でもね、そのたびに余は心配しているのです。わかりますか?
帝国、連邦、器物破損及び皇女誘拐、そして無限魔石の争奪?
自由に暴れまわるお兄様のせいで、余がどれだけ配慮をしているか! わかりますか!
ハイハイと聞いてるフリだけで、心のどこかでは余のこと、邪魔だと思ってませんかぁ・・・」
これは、いけない。ヘラっている、メンヘラモードに火がついている。
放置すると出る病気だ。感情が小出しじゃなくて、ボルテージが一気に頂点へ行くのが特徴だ。
刺された古傷の尻部分が痛みだしてくる。ここで 「チッ」 と、舌打ちをしようものなら、いかれる。
ビームライフルを下げ 「ララス殿下の御心のままに」 と、言っておこう。
「・・・このあと余の部屋に来てくれますよね? 約束ですよ?
来ないなんて言ったら、アハハ、わかってるよね?
たまには本気で怒りますから。怒ったらどうなるか、試してみます?」
「グアアアア、刺された古傷が痛む! もちろんララス殿下の御心のままに!」
ララス殿下は釘を刺すように迫り、頭の回転も速い。
宙域の隅に、ララス殿下の機体が姿を現した。
迷彩シールドを解除し、全ての宙域にホログラム通信を開く。
「余はララス・セレナーデ・ミア・マルカトール。どうか、話を聞いてください。ここから先の衝突は無益かと」
ホログラムに映る戦闘服の殿下、敵味方ともに一瞬だけ争いをやめる。
「帝国、連邦、それに辺境連合。勝負は決しました。これ以上の争う必要があるのですか? もしオーパーツをめぐる争いならば、これ以上は対話で解決策を探すべきです」
周囲にはまだ敵意が充満しているが、殿下の声音には迫力があった。
感情のボルテージを振り切ってるからだろうか。
頷く以外の選択肢は、無いと思う。ここで断ると君たちの惑星が、焼尽と化すと思うよ。
「この場で退く勇気を示してくれるなら、余も手助けとして手心を加えましょう
もし抗うつもりなら、余はやむを得ず新たな決闘を受けて立ちます。リリア少将、いいですか?」
向いた砲口も、順番に下がっていく。
「殿下、そうはいかない『買収、根回し、ばら撒き、キックバック、アーレイン騎士伯の辺境送りの件ですが』」
「あー! 連邦軍、退却だ! 殿下の顔を立ててここまでだ! 私の連邦に喧嘩を売るとは、辺境連合よ、覚悟しておくといい! このラグナロクが戻った際、後悔させてあげよう。どんな言い訳が聞けるか楽しみにしておくよ」
「「「リリア少将、承知致しました・・・」」」
と、闇レディ達もご納得の様子。
そして連合艦隊からも通信が入る。
「承知した、救助活動に入らせてもらう」
戦艦が渋々とエンジンを止め、艦首をこちらへ向けて停戦の意思を示す。
少し前まで敵意を向け合っていた相手同士が、搬送指示をし合う姿は、どこか不可思議な光景だった。
未来の世界は、精神的に向上している。
そこへ横づけするように、タイラントが接近。
「シウタ、輸送艦で帝国に戻るといい。私は連邦の宇宙ドッグで仕事をしてくるよ」
「ミリさん、色々とありがとうございました。 次の休みデートしてくださいね、後で連絡しますよ」
まんざらでもない様子で、ミリ軍曹はブースターをふかして去っていく。
――
サリ伍長の輸送艦が帰還口を開いていた。
「シウタさん、お疲れ様ですー。さすがですよねー! 帰還できます。どうぞ!」
「了解」
ブースターを安定出力に調整し、機体を後方へ旋回させる。
輸送艦の格納庫が大きく広がり、内部の誘導ビーコンが明るく点滅しているのが見えた。
ノクターンを格納庫へ降り立ち、コクピットから降りたところで、アーレイン大佐が労いに来てくれた。
「お疲れ様、シウタさん。救助も間に合って本当によかったわ。増援が来るまでもなかったなんて、さすがね」
大佐がその金の瞳で、いたずらっぽく笑んでいる。
「ええ、ありがとうございます。 少将への貸しにもなりましたし、即座に逮捕されずに済みそうですよ。 ハハッ、まさかと思いますけど、そんなに逮捕したいんですかね」
軽く笑ってごまかすが、ドキドキしている。
あれだけ騒ぎを起こしているのに、帝国や連邦の手配からうまく逃れられていたのは、大佐の裁量もあったのだろうと、今ならわかる。
「とりあえず、今はゆっくり休んで。また動きがあればお知らせするわ」
「大佐、いろいろありがとうございます」
大佐と自分がニッコリと笑み浮かべ頷き、そして大佐は忙しそうにホログラム端末を片手に別のブースへ向かっていく。
そんな会話をしていたら、ララス殿下の機体も帰還し、コクピットから降りて来た。
紫の髪が揺らしながらこちらに歩いてきており、周囲の整備班たちが一斉に道を開ける。
「お兄様、お疲れ様です。相変わらず、凄かったですね」
「あ、殿下お疲れ様です。さ、殿下の部屋へいきましょうか」
殿下の紫の瞳が大きく開かれる。
「えっ!? お兄様!? 輸送艦の部屋と言う意味じゃないですよ!? そもそもプリンスサイズの半重力ベッドも無いじゃないですか! こう、もっとラブロマンス的な展開を期待してたのですが。 このままですか!? 粗野プレイ!? さらに監視もされて監視プレイもついてきます!? あああああああ! 脳がおかしいです! そして、余の品性が行為を邪魔をしてきます! 余の心の準備がまだ・・・」
「ほら、いいからいきましょう」
殿下の手首を掴むと、ビクッ! と反応があったが、すぐに従順についてきてくれた。
そういえば、前も殿下の手首を掴んだな。
このままねじりあげて、ベルティア伯爵の人質に使った気がする。
いや、皇女誘拐なんてしていない、殿下がさらえと言ったんじゃい。
「ええと、そうですね、行きましょうか。邪魔が入るのが予想できますから、あまり悠長にもしていられないですし? ちょっと意外というか、お兄様ったら急なんですから」
驚いた殿下はまばたきを繰り返し、明らかに落ち着きを失っている様子。
マッハで機嫌が良くなるから助かる。
そして、かまってちゃんイベントを終わらせよう。
ドーパミンが切れたし、少し休みたい。
まずは、殿下と仕事のお話をしなければならない。
自分の必要とされそうな連合と言う火種があるじゃないか、連邦の超級エース貸し出しておりますよ。
――
部屋前の帝国の従事兵が 「あ、あの、殿下のお部屋に入るなら」 と声をかけるより早く、ドアを勢いよくスライドオープン。
殿下の手首を掴んだまま、部屋の中央にあるふんわりしたクッションへ一緒に腰を下ろす。
「お兄様ぁ!? なんでしょうか、凄い投げやりの感じが。確かに、余から逃げれはしませんし逃がしませんが、こうもガツガツとやられるとですね、どうしたらいいか・・・」
「失礼しました。ララス殿下。いろいろ面倒なので、一気に済ませたくて」
軽口を叩くと、殿下はプルプルと肩を震わせる。
「キマシタワァアアアア! まさかのワイルドプレイですね! これも最高で、新しい扉が開いてしまいます! 高貴な余がこんな逆れーぷの憂き目に! あああああああああ! 胸が燃え上がり、脳が焼けます!」
殿下はふいと顔をそらし、紫の髪をサッと払いのける。
が、その細い指先をそっと握りしめ、軽く引き寄せる。
紫の瞳がこちらに向かい、どことなく期待のしている気がした。
「ララス殿下、いいですか?」
殿下は小さく頷き、視線を伏せる。
その指先がほんのり震えているのを感じながら、唇をほんの数センチ手前で止めて、耳元で小さく囁くように言葉を発する。
「ところで、殿下。オーパーツの件と連合艦隊遊撃の件でお話がありまして、そうですね、超級エースのお仕事いりませんか。給料に対して成果を10倍あげてみせますよ」
その瞬間、殿下の身体がピクリと跳ねる。
殿下の頬が真っ赤になる。
明らかにキスか何かロマンチックな流れを期待していた、口を開いたまま言葉を失っていた。
だって殿下と寝た場合、家柄があるから逃げれないし、逃がさないでしょ?
後、情緒関係で大変な事になるのを知っている。
まだ結婚したくないの、ヴォルテクスで遊んでいたい。
「お兄様? ねぇ、余のこと見て下さってます? なんで仕事なの!? でもこんなにドキドキ初めてです。そうですか、分かっててやりましたね? 余はからかわれましたか」
耳元から顔をはなすと、スッと殿下が、恨めしそうに目を細める。
「ええ、お兄様。もちろん望むようなお仕事があります。宰相に段取りを組ませますから、望むようなお仕事が出来ると思います。
超級エースで、銀河の男性地位向上の旗印で人気アイドルですからね。 帝国は、お兄様を支持致しますよ。 騎士伯とサリさん、ミリ軍曹に助力を仰ぎましょう・・・。 そうですね、余だけではきっと上手くいかない。法律も4人までに変えますから」
おお、さすが殿下。優秀だ。
仕事ゲットだぜ。
そんな部屋の中にアナウンスが流れる。
「おとりこみの所、失礼致しますー、宰相から連絡が入りましたよー! 繋ぎますねー!」
おおい!? 見られていたのか?! でも、サリ伍長の船だもんな。
仕方が無いか。
そして黒羽のシュルエット、魔族宰相アリエノールさんのホログラムが机に投影される。
「ウハハハ! ついにアケローンが修復を終えたぞ。 やはりこの機体こそが帝国の至宝ですね。儲けた資金でさらにパワーアップだ。真・アケローンと言って過言ではないですね。
さぁ、シウタ殿。星間航行ユニットを解放し、この宙域を駆け抜けよう。もはや誰も、私のアケローンを止められないでしょう」
宰相が魔族の感じを出して盛大に笑っている。
無限に広がる暗黒の海を照らす、その光が宰相の手に戻ったのだ。
うらやましすぎる。血管きれそうなぐらいうらやましい。
「自分もちょっとお金稼いで、ノクターンもパワーアップさせよう」
「お兄様、お任せください。何も心配する事がありませんよ。お任せくださいね」
なるほど。
殿下の期待に応えて行かないと大変な事になりそうなのは、誰でもわかる。
いつもありがとうございます。
ラブコメしすぎてもダメ。
配分が難しいですよね。




