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45 シウタ

シウタ


人は昔、そらを海と表現したか。

黒い海で、静かな宙域をただいま航行中。


輸送船のエンジンの静かな唸りが、ノクターンとは違って優しく体に響く。

振動もほとんど無い、人にやさしく進化している。

星間航行ユニットの空間を裂くような移動もいいけど、こういうのもいいよね。


目の前のスクリーンが映すのは、星々の粒と、その奥に見える遠くで燃える宇宙ドッグ。


これは、大変だ。

ノクターンで一掃しなければ、いけない。

いくら連邦のお尋ね者だろうと、義理は果たそうと思う。


リリア少将の拠点となる、宇宙ドッグが中隊規模に強襲をかけられている。

確かに、あの魔石は欲しい。そもそも自分も恩恵にあずかる権利がある。

何しろ拉致られたうえ、少女の帰還を手伝った。

魔石の権利を放棄するから、捕まえるのをやめてくれないかな? と、交渉をしてみよう。


連邦へのとりなしを求めるため、隣で一緒にホログラムで状況を見ているミリ軍曹に話しかける。


「ミリ軍曹、これを助けて今までの事がチャラになりますかね。あれから罪状で連邦機撃墜も追加されていると思います。

ハハッ、帝国でも破壊活動に精を出してましたよね。 冷静に考えると、ランチャーぶち込んだベルティア伯爵の許しが無ければ、国家的テロリストだったりしま~うあああああ!」


途端に、色々な思い出して身震いがする。

たまに寝る前に来る、記憶のフラッシュバックだ。


「そうだな、チャラは難しいんじゃないか?

私を迎えに来るのに、大分落としていたしな~。もちろん、あの時は心の底からシビレたぞ?  そ、それに、二人でこの銀河から逃げる手もあるな。二人でひっそりと銀河片隅の未開惑星で肉屋を開くんだ、どうだ?」


「ええと、ミリさん。小規模の食料品店って、実はかなり難易度高めなんですよ。

場所とお客さんの数と、競合の状況が噛み合わないと厳しいんです。

脱サラして参入した方々、残念ながら6割ほどは失敗してしまうんですよね。 特技を生かした仕事の方が幸せに 『はい? はい、わかった、わかった、もういい』」


あっ、生返事だ。

ミリさんが、話題振ったのにどういう事?

思ったより大変! って仕事、沢山あると思います。

そして、ヴィチューバ―の引退理由の一つである。

でも、あれだけ 「頑張ります」 って言ったはずだ。腹立たしい。


「いいかしら? ブリーフィングを始めるわよ」


背筋ピンと伸び、金の瞳がキラリと光るアーレ大佐。

自然と雰囲気が戦闘モードに入る。


ホログラム映像を囲み、エースの二人、ミリ軍曹と自分。そしてなぜか殿下が同行している。


殿下は、迷彩シールドを搭載している新型機体と言えども腕がイマイチなので、後から来る帝国の輸送艦で来ればいいとは思うが、今回の事でお世話になっているので殿下の意思に文句は言えない。


「宇宙ドッグを囲んでるのは、辺境連合。独自の自治惑星みたいなものね。

宗主国は、連邦と帝国に属している所が多いわよ。 目的は、あの無限魔石。あれがあれば辺境連合のエネルギー問題が解決できると思うわよ。あの決闘を見て、このタイミングならワンチャンス奪えると思ったのね」


うん、あの魔石自分のじゃないかな。そんな気がしてくる。

昔から秘宝や神器を巡って、人々は争ってきた。

『歴史は繰り返す』 と、言う事だろうか。


「それと、戦闘艦と違い輸送艦は狙われると一瞬で動けなくなるから、サリ伍長の輸送艦に誰か一人護衛についてほしいわね」


「なるほど。ララス殿下、貴方にしか頼めない事がある。 殿下に何かあってはいけない。ここの護衛で自分の帰りを待ってて欲しい。迷彩シールドで姿を消してズドン! 完璧ですね。 宜しくお願い致します」


ララス殿下は、一拍おいて深い息をつく。

紫の髪がわずかに揺れ、呆れているのは、気のせいだろうか。


「余が護衛に回れ、ですか? お兄様は本当に、勝手な・・・」


殿下は言いかけて、ぐっと言葉を飲み込み、額に手を当てた。

どう言い返すべきか迷っているように見える。


たしかに、言い変えると 『あいつは置いて来た、戦いについてこれない』 をオブラートに包んだだけですからね。

言いたいことはあると思う。


「・・・わかりました。 これが終わったら余の部屋へ来てくださいね。 話したいことがあるのです、断るなんで言わないですよね?」


「はいはい、承知致しました」


よしよし、いい子だ。素直な殿下は好感が持てる。

輸送艦周辺で、自分の活躍を見てて欲しい。

ここへ来て護衛なんて出来るか、ミリ軍曹と落としまくるんじゃい。


「こういうふうに、部屋に誘うのか。はぁ~、最初の頃のシウタが良い子ちゃんしていた時、誘っておけばよかったかな・・・」


「ねぇ、シウタさん、大丈夫? 一貫して権力を甘く見ている節があるわよ?? そうしましたら、気を付けて下さいね。 少将の救援に間に合うと良いわね」


「「了解!!」」


二人の声が重なり、ブリーフィングは一旦終了。

それぞれが、機体へと乗り込む。


――


レバーを押し込み、エンジンの出力を徐々に上げる。

一気にフルスロットルへ、ノクターンの背面から白熱したブースターの光が尾を引きながら噴き出す。

艦の出口を抜け宇宙へ飛び込むと、一瞬だけ無重力の感覚に違和感を感じたが、すぐに慣れた。

ノクターンは加速し、燃える宇宙ドッグの方向へ突き進む。


宇宙ドッグが近くに見えた時、閃光が不規則に弾けている。

シールドは何とか動作しているようだが、ヴォルテクスが群れている。

その機体は、統一感のない塗装と肩部分の種族エンブレムを見せつけていた。


いい外見じゃない~。 喜ばしてくれたお礼に、命は残しておいてあげましょうね~。

さて、お帰り下さい。リリア少将は、まだギリギリ味方ですからね。


スクリーンには、視線を投げた先に3機の敵ヴォルテクス。どれも宇宙ドッグにエネルギー砲を構えている。

立て続けにビームライフルのトリガーを3度、連続で引く。


射線が赤の軌跡を描きながら、敵ヴォルテクスの装甲を貫く。

一瞬の静寂の後、それぞれの機体が爆炎を上げ、沈む。


そして、左の視界を何かが一瞬で横切る。

赤いブースターが暴力的なほどの閃光を残して、暴風のように通り過ぎた。


ミリ軍曹のタイラントだ。

これは、大変だ。ゆっくりなんてしてられない。

宇宙ドッグに向けて、援軍の口上を述べる。


「リリア少将、先日は、大変お世話になりました。こちらノクターン。これより支援に入ります、助けに来てあげましたよ。 ハハッ、自分が、いや、ノクターンが撃ち抜いたエネルギー駆動部分が大破してラグナロクが動けないのでしょう? ハハハッ、ざまぁ・・・では無くて、連邦でも自分の扱いに配慮して頂きたい所ですね」


一拍置いてリリア少将から呆れた様な返信が来る。

あいかわらずのイケメン少将だ。


「相変わらず口が悪いね。 まさか、助けに来てくれるとは、信じられない。ミリ軍曹を引き入れるため連邦機を落とした、お尋ね者とは思えないよ」


なるほど。評価は最悪なのか。自分、数が少ない男なのに? 信じられない。

殿下の庇護や大佐の配慮無しで、この銀河で暮らせなくなってきたな。

この先、大丈夫か? ヴォルテクスに乗りたいだけなのに、どうしてこんな事に。


そして、次に捉えたのは、敵機に囲まれて窮地に立たされている連邦機が3機。

通信を繋ぐと虫の息のような通信がノイズ混じりに聞こえてくる。


「あの、どうせ誰も聞いてないだろうし、放っておかれるとわかってるんですが、誰か助けてくれませんか・・・」

「あーあ、こんな陰キャでいい事なんて無い人生でした・・・。それでも、誰かが助けてくれるって信じちゃダメでしょうか・・・?」

「はぁ、こういう時に限って誰もいないか。あー、私なんか助けても仕方ないのか。だーれーか、助けてー」


周囲には敵ヴォルテクスが四方を固めており、連邦機は逃げ場を失いつつあった。


この感じなら敵機を横取りして、助けて良さそうだ。

怒るようなタイプじゃなさそうだな。


「お任せ下さい」


ビームライフルを構え、その銃口を連邦機の背後に迫る敵機へと向ける。

瞬時に発砲、はじけるように爆散。敵機の胴を貫き、破片を散らしながら宇宙の闇へ飲まれていく。


クリア。

そして、連邦機3機がほぼ同時に救助信号を送ってくる。


「もう、大丈夫ですよ。 一度引いて下さい。それと出来ましたら、この前落とした、お味方さんにお伝え出来ますか? 『大丈夫でしたか? 機体を弁償しますから』 と」


サポートするように、敵機をサーチしながら連邦機の前に出ると通信が開く。


「全然、大丈夫じゃないですね・・・。胸が、心が痛みます・・・。一緒についてきてください」


「弁償は弁償でありがたいですが・・・、誠意を見せて欲しいですね・・・。誠意とDVDですね・・・」


「ごめんなさい、全然大丈夫じゃないです。胸の奥が苦しくて、一緒にいてください・・・。放っておかないで・・・、誠意を見せてください・・・」


なんだ、これ。

このまとわりつく感覚。戦場でも味わったことが無いこの強烈なまとわりつく感覚は。

かなりの強敵のオーラを感じる。 これで、窮地だったとは思えない。


「シウタ君、うちの親衛隊をたぶらかさないで欲しいな。

ふぅ、アーレインにこんこんとお説教をされているよ。 誰もが、オーパーツの力を手に入れたら心の内の欲を解放したくなるものだろう? シウタ君ならわかってくれると思っていたがね。まぁ、おかげで時間が稼げた。ラグナロク出るよ」


破損機と言え、ラグナロクに出られたら困ってしまう。

宇宙ドッグに、2、3発ぶち込むか?


と、思いながら、相棒のミリさんの方を確認する。

エネルギートンファーで敵ヴォルテクスの群れに突入し、敵を粉砕しており、次の瞬間には二機目を捉えている。


うかうかしてられない、敵の数に限りがあるんだぞ。

アクセルを踏み、レバーを思いっきり前に倒す。


――


リリア少将が呆れたように溜息をつくのが通信越しに聞こえた。


応急処置が終わったのか『ラグナロク』が出て来た。

ラグナロクの装甲に宿る赤黒い魔石の光が、不気味なほど輝く。

修理が完全でないため不安要素は多いが、少将の手元にあるランスはまだ猛威を振るえるはずだ。


「アーレイン・・・、感謝する。ミリュネ、シウタ君、助かったよ。 破損機体、無事帰還を確認したら、報告しろ。オーパーツ目的のア〇どもは私が締める」


通信回線が開いた瞬間、アーレイン大佐の声が聞こえてきた。


「リリア少将。遅かったわね、もう少しまともな治世をしたらどうかしら? オーパーツを手に入れたからと言って。現場を軽く見ているようでは・・・」


「ノクターン、右だよ!」


直後、リリア少将が警告をくれる。

飛んでくるビームを素直に回避し、すぐに撃ち返すと、花火が上がる。


「見事だ、敵主力艦の前に私が立てばこの戦いも終わるだろう。ならず者の連合艦隊も主力艦ごと吹き飛びたくないはずだ」


そうね。チート機体を前に、めったな事はしないと思う。


「シウタ、あらかた片付いたぞ。そっちはどうだ?」


ミリ軍曹の通信が割り込んでくる。

タイラントは、依然として敵の群れを蹴散らしながらこちらへ流れるように接近してきた。

トンファーを一閃し、最後の残して置いた一機を爆発させた。


最後まで、大事にとっておいたおいしい機体を落とすとは。

これが、すき焼きだったら戦争になる。肉文化だと言うのに、どうして配慮してくれないのか。


「お疲れです、ミリ軍曹。そろそろ連合艦隊が総退却する所にとどめを刺してきますね」


「シウタ、どうしてそうなる。 あの辺境の連中は粘るぞ。闘志がある、おそらく、そういう事をすると艦ごと特攻してくると思うぞ? 見逃してやるんだ」


直後、アーレ大佐からホログラムのポップアップが入る。


「シウタさん、状況を聞かせて。そちらはどう? それと、ララス殿下が来てることを、内緒にしててね。リリア少将を驚かせたいの」


殿下が、護衛してるとか聞いたら驚くよな。


「えっと、了解です。 ラグナロクがいよいよ出て、このまま主力艦の降伏を狙うようです。こっちは敵機を蹴散らして、敵艦と戦闘をしようと思案している最中ですが、連合の艦が下がる気配はありません」


そして、宇宙ドックの近くでは、さっき救助した連邦3機が不自然にうろうろしている。


帰還しろと言われても、まだついてきている。

ホログラムスクリーンに表示される通信要請がやたら多い。

なんか、まとわりついてくる。


「あの、すみません。やっぱり怖くて引き返せなくて。その、少将の推しと王子様の共闘に一緒に行ってもいいですか・・・?」

「怖いのと興奮で頭が真っ白・・・・。でも私、推しと王子様のタッグが見られるなら、何があっても行きたいっていうか・・・。ご一緒していいです・・・か?」

「引き返す度胸もなくて、本当に空気読めないですよね私・・・。でも推しと王子が並ぶところなんて、そうそう見られないんです。ごめんなさい、一緒に連れてってもらえませんか・・・?」


戦闘中だというのに、なんかメンタルを削りにくる台詞。

これを相手にしている少将スゲーな。同性のパターンを熟知していないと出来る事じゃないぞ。


敵旗艦へ向かうのは、タイラント、ノクターン、ラグナロク、こんなの見たら絶望すると思う。

結果、降伏以外手はないよね、連合機の回収あるから見捨てられないはずだ。

もし、逃げるようだったら、地の果てまで行って止めを刺す。


――


連合の艦隊が後退を始めたかに見えたそのとき、通信に太い声が割り込んだ。

ホログラムに映し出されるのは、豪快に見える犬耳の小物がついている大柄な女性だった。


「ほぅ、ここまで我が艦隊を翻弄してくれるとはね。だが、いいだろう!

銀河の王子言われる実力、直に見せてもらいたい! 決闘を申し込む!」


連合旗艦からブースターを吹かし機体が出撃して来た。

そのヴォルテクスは旧式っぽく、異様なカスタムが施されているのが見て取れる。


「おい、シウタ、とか言ったか? 知っているぞ。 それに、エース、ミリュネ。

それら全部まとめて、ここでケリをつけようじゃないか!

わたしモガ・ダリ。わたしが辺境連合の大将として最後に立ちはだかる壁だ!」


猛々しく腕を振り上げ、挑発するようなポーズを決めた、その瞬間。


ノクターンのトリガーを無言のまま引く。

最初の射線を、モガの機体は肩を前に出して辛うじてガードしたように見えた。

しかし、即座に二発目のビームが赤い閃光を放ちながら連射される。


決闘受諾い致しました。

そして、さようなら。


あっけない幕切れに、静寂が一瞬だけ辺りを包んだ。



いつもありがとうございます。

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