44 シウタ
こういうのをやってみたかった。
シウタ
「失礼しますー」
と、茶色のセミロングヘアが、つやっとした感じのサリ伍長。
健康的な輝きで、ナノケアの成果だろう。
未来のテクノロジーは偉大である、美容はどこまで進化し続けるのか。
そして部屋から カキン! カキン!
と、連続して響く、謎の金属音。
大使館カメラ多すぎじゃないかな、この金属音はメンテナンス音と言う事にしておこう。
続け様に、ゴソゴソとベッドの隙間を見られている気もするけど、望むような物は出てこないと思うよ?
ホログラム時代にベット収納スペースの本を探すとか、どうなってんねん。
時代は、未来ぞ。
銀河間にまたがる種族圏は、テクノロジーの進化により一つの 『繁栄』 の未来を手に入れているのだろう?
娯楽も学問も、エロすらも。
全てはAIによってエロが最適化と添削され 「不適切な表現はマシュマロン変換」 や 「過度なエロ」 は瞬時にフィルタリングされるおかげで、自分のエロ画像は出回っていない。
配慮に助かっている。
こんな銀河、ディストピアで刺激が少ないと思うでしょ?
でも、抑圧されるほどに欲求は膨らむ。
欲望や抑圧による破壊衝動は、抑制すればするほど残虐な形で噴き出したり、女性の方々は行動力として昇華され、種族をあげて筋トレに没頭し始めてらっしゃる。
それがこの銀河の傾向だ。
結果的に、裏マーケット的なアンダーグラウンドな文化が爆発的に進化し、プラトニックな関係性が極限までエロ化し、女性種族の方々は、常に性衝動によるドキドキが止まらない状態になっている。
抑えれば抑えるほど、燃え上がる。
自分も地球の仕事のストレスがヴォルテクスに乗る時、力のカタルシス(全能感)に感化され、機体を撃つのがやめられない。
あの全能感は、中毒症状がでるぐらいに気持ちいい。
撃ちすぎて脳のリミッターが悲鳴を上げても、まだ足りないと感じてしまう。
でも、ほんの少しだけ何かが違う気もするな。
思わず、そんな独り言が漏れる。
サリ伍長がこっちを見て、にこっと笑った。
「シウタさん、そんな見つめてどうしましたかー? えへへ、アイコンタクトいいですよねー。告白されちゃう感じですかー? こういうの、あこがれてましたよ! ・・・あれ? 違いますよねー? こんなシチュエーション、前やりませんでしたか? この後、確か人の家にランチャーぶち込んだ記憶が・・・、ウッ! 脳と心臓、落ち着いて下さいー! 確かに部屋で二人っきりは、成功しましたけども本当に一時の快楽のために、人生をかけてしまってえええええあああああ!」
ぬぬっ、同じ手は食わないか。
――
さて、和平大使は務まらなかった。
やった事と言えば、決闘での戦闘配信者。
アリーナ放映権とかで、めちゃくちゃ儲かったみたいだし、借りもある程度返せたと思う。
またヴォルテクスに乗る様な、お仕事を考えないといけない。
そうだ、ヴォルテクスだ。まだまだ乗るぞ! だめだったら、宇宙海賊をやる。
和平大使の専業配信なんてやってられない。
今ならわかる。職業ヴィチューバとか心病むわ、マスコットだって中の人がいるんですが!
そして目の前に立つのは、制服姿のサリ伍長。
「サリさん、お仕事のお話でしたか。丁度良かった・・・」
仕事の斡旋も相談したかったし、何より輸送艦を借りて宇宙ドッグに強襲をかけたい。
帝国の後ろ盾と銀河の人気があるから、ランチャーをぶち込んでも捕まりはしないだろう。
だって自分、男で銀河的貢献を沢山してますし。
そんな事を考えつつ、サリさんをジッと見つめ直す。
ワイシャツの薄い生地越しに浮かぶ、引き締まったウエストから流れるように続くヒップライン。
指でなぞれるような、鮮やかなカーブを描いている。
ん~?
いつもよりスカートが短いような。しかも、生地がやけに薄い気がする。
ファッションには疎いはずなのに、男はどうしてもこういう所に目がいってしまうのか。
実に愚かしい習性だと思う。でも、目は逸らせないのが現実だ。
薄手のシャツの胸元は、程よい丸みを柔らかく包み込みながら、自然と輪郭を際立たせていた。
さらに、その布地がわずかに透けているせいで、黒の下着がチラリと存在を主張している。
これは、男女共通認識で言うところの、勝負の時に気にする部分だ。
そして、しなやかな腰からすっと伸びる脚線美。見ろと言わんばかりの自信がそこにあった。
ああ、そういうことか。
仕事の話っていうのは、ついでで、これはワンチャンスを賭けたアレですか。
さて、どうしてくれようか。
半重力ベッドの上。
仰向けになりながら、腕の中にいるサリ伍長をちらりと見て、ピロートークをすれば全て解決ではないだろうか。
あの瞬間に頷かない事なんて、誰だってできない。
いつも夢に出る。 『ずーっと一緒にいてくれる?』 の寝物語で頷いたが最後ォオオオオオ!
肉に刃が通る、あの鈍く熱いあの感覚にご招待だ。
つまり貞操観念逆転の世界で致しまして、そっと耳にささやくだけ。
ヴォルテクス辺境遊撃隊や宇宙海賊取り締まりの仕事を紹介してもらい、輸送艦まで貸して頂ける最高の一手ではないだろうか。
「シウタさんー?? シウタさん! ヴォルテクスに乗れるお仕事ですが 『サリさん、先にシャワー浴びてきますね』 !!!!!???」
――
サリステア・フィオーレ
――
「私はそのまま、枕元に肘をついて彼を覗き込んでいた。ベットから見る彼の輪郭は、戦場での残虐さとは違って、どこか柔らかく見える。好きだけど、安寧とは程遠い人」
「そして、寝物語なピロートークですねー。 『ねえ、シウタさんから私は、どう見えますー?』 そんなことを不意に聞かれて、ちょっとだけ戸惑う彼」
ああああああああ! 最高すぎますー!!
そして出ましたね、イマジナリー私! 想像上の私達!
ついにここまで来ましたよー! 準備はしていましたけど、もう少しこうイチャイチャとこう、ありませんかねー!? どうなってますか!?
シウタさん、展開と理解が早すぎます。
待ってください、こんな事あります? 現実はBL本より、展開が早いですね。
こんなにも行動に直結するものですかねー!?
「話が早くて助かりますよ、私」 「早くしないと、朝まで9時間しかありませんよー!」
そうですねー。時間も無いですし、イマジナリーの導きに従いましょうか。
部屋にシャワーの音が静かに流れ続けている。水が肌を叩く音。
椅子に腰を下ろしたまま、組んだ脚の上で指先を絡め、手はじっとしていられなかった。
そわそわとタイトスカートの布地の感触を確かめている。
「どどっど、どうしますか? 私? こここここから先の経験が無いですが、どどどどど、どうします? 髪型チェックしましたか? もう脱いじゃいますか? ああああああ!どどどっど」
「落ち着いて下さい、もう一人の私! もしかすると、彼もわかっていて、こうして焦らしているのかもしれませんよー。そして今までありがとうございました、現実の私。今日でさようならですね、また来世でお会いしましょう!」
今まで、ありがとうございました。イマジナリー私。
今日でお別れですね。
『本能』 が後は任せて下さいと、心の扉を開いてくれました。
ふふっ。
そろそろ出てきてもらわないと、私が中に入いっちゃいますよー?
シウタさん、実は隠してましたけど、士官って強くないとなれないんですよ?
――
その瞬間
「緊急通信!」
室内のホログラム端末がけたたましく鳴り・・・
読めてますので、静かに切ります。
なんか、運命が全力で邪魔をしてくる気がしてきましたよ!
そんな障害、全力で超えて見せます!! 運命が全力なら、こっちも全力ですー!
世の中には、全てにおいて優先されることがあると思いますよ。
そして、扉も内から要人ロックしましたよー。
今日は、開きません。エネルギーシールドも展開済みです。
皆様、大変お疲れ様でしたー!!!!!
ああああああ! もう我慢できませんー!
服や下着ってこんなに邪魔でしたかねー!?
「ハイハイハイハイ! ポンポンポーンすっぽんぽん!」
「宇宙開百、科学が進歩しても全ての始まりは、すっぽんぽんでしたか。空が静かに青いですね、私達はこの永劫輪廻の中・・・」
まだ居ましたか、イマジナリー私。
ついに悟りを開きましたね。
そうですね、脱いでいるとガツガツしていて、なんか余裕が無い感じがしますよねー。
落ち着きましょう、私。
ギリギリまで機動力を隠すのが、お作法だそうですよ。
そして部屋にふわりと湿った熱気が流れ込んでくる。
その先に現れたのは、髪から滴る水滴を乱暴にタオルで拭うシウタさんの姿。
はい、そうですねー! これ以上、機動力を隠せません!
――
シウタ
――
「サリさん、やっと、ゆっくりできそうですね」
そうつぶやいた瞬間だった。
ギィイイイイイイインッ!!!
「ッ!?」
部屋から空を切る音、そして、窓の外からも空を切る音が響き渡る。
反射的にバスローブの一枚が脱げないように必死で掴む。
ドガァアアアン!!
爆発音が聞こえ、部屋を揺るがす
窓の外を見ると、大使館の壁が爆発四散していた。
「マジに何?!」
気がつけば、サリ伍長がすでに目の前に立っていた。
瞬間まで椅子にいたはずなのに、距離を詰めている。
「運命が! 銀河が! 観測点の邪魔をしてきます! ああああ! 大使館にランチャーは、読めませんでしたよー?! なぜ観測点になると歪みが発生しますかねー!? 私の邪念ですかねー!? もぉおおおおおお!!」
あ、そのアニメ大好き。
この銀河でもその概念があるのか。まだ時空間まで科学は発達してないみたいだし。
それと、また今度になりそうですかね。
「大使館、大丈夫ですか!? 連絡ホットラインを繋いでも、アーレ騎士伯とミリ軍曹の苦悶の叫び越えしか聞こえません!
つまり、ネトネト。大使館、叫び声、お兄様。考えられることは一つ。
ああああああああああ! サリさん! サリですね! んんんんんん! サリィイイイイ!!!
でも仕方ない所もありますか。オフィスラブ! 一緒にいる時間が長いほど、有利。 余はどうして、皇帝に生まれこのような恋愛の機会が少ないのでしょうか!?
後、連邦の宇宙ドッグが辺境連合に強襲を受けています。無限魔石が、より、サリさん! お兄様の感触を教えてください!」
あー、殿下の機体か、早口で何言ってるかちょっとわかんない。
お仕事かな? 喜んでいきましょうか。
時間が無い、愛情表現を簡略化しなければ。
目の前に立つサリさんに腕を伸ばして抱き寄せる。
息を呑む音がすぐ耳元で聞こえ、そのままそっと、首筋を噛む。
「さて、お仕事みたいですね。宇宙遊撃、宇宙ドックにランチャーと同時に達成できそうです」
「・・・恋愛って難しいですよねー」
サリさんが首筋をさすりながら、ふっと微笑む。
「体では答えが出るのに、心ではそうは行かないです。気づいたときにはもう手遅れ・・・、ですよね」
――
緊急警報が鳴り止んでから、ほんの数分。
殿下は、なぜランチャーをぶち込んだのか。誰にもわからない。
殿下を含む、全員が食堂に集まっていた。
「で、シウタの感触は、どうだったんだ」 「で、シウタさんの感触はどうだったのかしら?」 「えっと、こんなネトネト聞きたいけど、聞きたくなくないです?? こんなの聞いたら脳が破壊されるのが目に見えてませんか??」
「そうですねー。じっとりとして、首筋が熱く・・・「「「ああああああああああ! これ以上は聞いてられない!!!」」」
緊急時に何してんの。
宇宙ドックに行こうよ、サリ伍長の輸送艦でさ。
星間航行アケローンは、修理中なんでしょ?
連邦宇宙ドッグがただいま、無限魔石目的でテロリストに襲撃中。
ラグナロクは大破で、アーレ大佐とエースと士官が軒並み居ない。
「で、助けに行くんですか? 自分はぜひ行きたいです」
「もちろんだ、シウタ。私は行くぞ」 「あの魔石は、放置できないわね。救援に向かって、次回の決闘でアレを取れば、いいと思うわよ」 「お兄様が行くならいきます」
「エースが居なく、ラグナロクが大破している状態で、なおかつアーレ大佐が居ない状態で応戦はきつい、と言うか詰むよな」
「補給は正常に行われています。艦の状態も良好です。輸送艦はすぐにでも発進可能ですよー」
上機嫌なサリさんがニコニコしながら答える。
メンケアの効果は、上々だ。
そして、殿下の方を見て、話しかける。
「えっと、殿下。宰相無しでこられるんですか? まぁ、自分が守りますから大丈夫ですかね」
「こういうのもいいですね。余も行きます。連邦にいい貸しになると思います。いきましょうかお兄様。で、ヤッたんですか? 後で上書きしてくださいね」
皇女様、デリカシーってご存じか。
「ミリ軍曹、シウタさん、少将と連邦に恩を売っておきましょう。とっとと、襲撃を蹴散らして、魔石を頂く算段を立てましょう」
よし、アーレ大佐が来るなら勝利は確定かな。
「「「了解!!」」」
輸送艦、搭乗完了。
戦いは、まだまだ続く。
いつもありがとうございます。
何とか、次章につなげたい。




