41 シウタ
シウタ
帝国本部で、要人達が頭を抱えていた。
議題はもちろん、リリア少将の駆る「ラグナロク」をいかにして倒すか。
会議室でミーティングが行われていた。
「なるほど。 『ラグナロク』 が攻撃に移る際はランスを突出させるので、その一瞬だけシールドが無くなる。そこを私が打ち据え、払い抜ければいいんだな?」
「そういう事・・・、いいえ。攻撃に移る際、シールドの無敵が切れるので、そこを自分が撃ち抜く流れと言う事ですね」
「シウタ? 近接の私が叩くのが定石だろう?」 「ミリさん。ヴォルテクスはいわゆるアバター(自分の化身)だ。言ってはいけない言葉がある。取り消してください、今の言葉」
何度も同じ問題に突き当たり、会議はなかなか進まない。
無敵シールドが切れる刹那の時間、これが最大の問題だった。
想定どおり、脅威は無敵シールドと超エネルギー攻撃のプラズマランスだ。
弱点がゼロではないことはわかっているが、ミリ軍曹が囮になる間にリリア少将を仕留める。
そのタイミングとリスクが、どうしても折り合わないから困ったものだ。
こういう時の利益の分配方法を思い出す。
地球の時は、折半だったか。
仕方が無い、営業同士協力したら実績は折半で落ち着く所だろう。
「ミリ軍曹、折半でいきましょう」
「半分って事か? だからシウタ、刹那のタイミングを叩くから、半分に出来ないよな。そもそも半分ってなんだ? 何を折半するんだ? 頭と下半身の事か? 蛮族すぎるってば」
ミーティングが平行線を辿っている中、3人の先輩が割り込んでくる。
何か、名案があるのだろうか?
「ときめかない無味なイチャイチャが終わったら呼んでください。サリ伍長のところでデートプランを聞かないといけないですから~」
「お肉デートが好印象ルートみたいよ。王道でいこうよ、お肉の聖地巡礼ルートね」
「そうそう、デートで使う店を決めておかないと。シティホテルの近くがいいと思うな」
先輩3人は、会議室の片隅でサリ伍長と念入りに進行ルートを打ち合わせている。
「ここ良かったですよー! あと、ここと、ここ・・・この店もオススメですよー!」
こんな非常事態に、デートプランの話なんてするわけが無いよな。
勝つ前提で物事を進めるところは、信頼の証だろうか。
頭を抱えているところに、意思のこもった力強い声と自信に満ちた靴音が近づいてきた。
「シウタさん」
金の瞳に宿る強い意志が、こちらを射抜く。
アーレ大佐だ。
そばに来ると、自分の手を取って薬指をそっとなぞり、そのまま視線を逸らさずに3伯爵のもとへ戻っていった。
「ええ、指輪のサイズはこれで。伯爵方がおっしゃる通り指輪は帝国産の希少鉱石でいいわね。帝国側の参列者への連絡も段取りよくしないといけませんか。礼を欠いたら後が怖いですから、根回しをお願いしますわ」
「さすがアーレ騎士伯ですわ。心強いですわね」
「これは申し訳ない。気持ちばかり先行してしまって配慮が欠けていましたな」
「ああもう、私なら我慢できませんわ。さすがアーレ騎士伯、よく耐えていらっしゃる」
たぶん、これは決闘の段取り。
すごい手際がいいよね。
これさ、自分達が勝って、大丈夫かな?
何か巨大な陰謀や力みたいな物が蠢いている気がする。
信頼のおける味方に後ろから狙われているような。
例えるとインポス〇ターが紛れているとかじゃなくて、全員がインポス〇―な気もするし、精神的に追い込まれているのだと思う。
何か、不安だなぁ。
横目で相棒のミリさんを見やると、青い瞳が映えて、妙に慈愛を帯びているように感じる。
「ミリさん、ここから自分は助かりますかね?」
「えー、シウタ。決闘の話じゃないよな? つまり 『ここから助かる方法』 ってやつだろう? うーん、決闘、頑張ろうな! そ、そうだ、それが終わったら、2人だけで登山へいかないか。山から見える特別な景色を見せたいんだ。きっと気にいってくれると思う・・・」
詰んだかもしれない。
得体のしれない恐怖が襲い掛かってくる。
女神様、聞こえますか?
この銀河で詰みました。
――
そんな牢獄の中、ララス殿下が決闘声明の記者会見に迎えに来てくれた。
紫の長いドレスが光沢をまとい、夜会でも行くのかと言う様な服装。
長い紫髪が揺れている。
「お兄様、そろそろ広報の場に来ていただけますか? お伝えしていた。決闘用帝国プレゼンテーション時間が迫っています。こういうふうに一緒にお仕事できるなんて嬉しいです」
ああ、もうそんな時間か。
帝国にお世話になってるし、働かないと。
一度、会議室を後にする。
『アケローン』 の修理費も稼ぎたいし、連邦機体を大量破壊したぶんの費用も払わないといけない。
お酒も飲みたいし、金は要る。
一度、ヴォルテクスでの活動は趣味にして、営業活動で稼ぎ借りを返さなければ。
簡単に稼ぐ方法として 「肌を露出してピアノ弾いた動画」 を出すという案。
宰相に話してみたら 「まさに魔族的発想。なんかズルくないですか?」 と苦笑いしながらもお墨付きを頂いた。
地球の時、アレを見た時に、この世の不平等を身に染みて感じたものだ。
ともあれ、殿下ににっこり微笑み返す。
客先の太さ次第で、営業は天使にも悪魔にもなるのは地球時代から変わらない。
魂はいつの間にか、業績と引き換えに売り払っていたようだ。
「殿下、行きましょうか。今日はよろしくお願いします。 そのドレス、どうしたんですか? 髪色と合っていて素敵ですよ。誰かが選びましたか? 宰相チョイスですか?」
こういうときは、とりあえず褒めて会話をつなぐのが常套手段だ。
でもいつもの、ゴスロリファッションの方が個人的に好き。
帝国の偉い人はゴシック調を好む傾向があるよね。
「あ~、え~と。そう来ましたか。最高です、権力最高です。頑張って会話カードを考えてきたんですけど、もう全部吹き飛びました。 えへへ。リリア少将も後、10回ぐらい魔石拾えば、この時を繰り返せると思うのです。出来たらこの、このセリフの回数まわしたいです」
なんかアプローチの仕方、違ったかな。
やり直そうか。
「え~、殿下いきましょうか。ドレス姿には、エスコートする文化とかあるんですか? 田舎者ゆえマナーには疎くて、何となくしかわらかないので遠慮なく言ってくださいね」
「そうですね。エスコートには、きつく腰に手を回して頂いて、手にチュッチュ・・・。え~と、パートナーはララスと呼び捨てにするのが基本ですよ」
「無理」
優しく下手に出るからと言え、調子に乗るんじゃあない。
性格はお見通しだ。
――
記者会見まで2人で歩き会場についた。
『婚約発表!! ラブラブ会見会場』 その邪悪な文字を目にした瞬間、思わず二度見した。
「ここです、宰相が司会を務めますので宜しくお願いします。後、台本を読むだけで『いや、部屋違うだろ』」
「えっ?」 「入る部屋違うでしょ? 『銀河を賭けた世紀の決闘!』 と、心燃える台詞あたりが並ぶはずですよね?」
(チッ。どうせ逃げれないのに)
お前、今、舌打ちしたか? 行動原理がお見通しだぞ。
体と心の距離が近くなると、そろそろ本性が出て来るはずだ。知っているぞ。
そして、部屋の中から物凄い違和感の気配を感じる。
「ぐぬぬ、宰相の言う通りでした。あからさま過ぎですか。そうです、隣の部屋です」
再度案内された部屋の上には 「決闘会見」 と書かれている。
そして、金色に光る幾重もの羽の装飾が施された黒檀の扉。
これだよ、これこれ。
一呼吸を置き、会場の扉を押し開ける、そこに並べられていたのは、大量の花束。
華やかなホログラム装飾に包まれた中、報道陣もいつしか興奮の面持ちで誰もが口をそろえて叫ぶ。
「「「ご結婚おめでとうございます!」」」
そっと扉を閉める。
ごめん、殿下を見誤ってた。
ここまで、マジにやってくるのか。
落ち着け、ここでキレるとメンヘラの思うつぼだ。
「お金や機体、権力でお兄様かばっているのは、誰?」 と、身体での支払いを要求してる可能性が高い。
価値観が逆転している事を考えると、そうする。
自分だってそうする。
殿下にキレ返されるか正論で論破されるのがオチだ。
この件については、宰相もついている。勝ち目はゼロだ。
目標を整理するんだ。
お金を稼ぎ、借りを返す。 なぜなら帝国は、自分を取り込もうとしている。
何て言ったって腕がいいからな。後、逆転価値観的に 『男』 だからと言う事じゃないと思いたい。
自分みたいな超エース騎士は欲しいだろう。
帝国へ就職するとしても、アーレイン大佐、ミリ軍曹、サリ伍長に恩と借りがあるから、不義理にならないようにしたい。
返さないといけない恩と借りがある。
今は帝国へ就職は、ちょっと時期尚早な気がするな。
よし、帝国のアピールしつつ殿下の機嫌を損ねず決闘を終わらす。
後は、結婚要求と言う人生の牢獄は極力避けて、身体で支払いつつ問題を先送りにする。
なぁなぁの関係になれば、これ以上の関係性を進めようとは、言わない。
人は、どこか 『まだ人生の選択肢があると思うから、結婚に縛られるのはどうだろうか』 と、心が囁くものだ。
決まりだ。
隣でじーっと虚ろな目で、自分の行動を観察している殿下の目を見つめ微笑みかける。
「殿下。いえ、ララスと呼んでいいですか? 結婚とは急な展開で驚きました。 ララス、結婚すると制限が出来ますよね。 もう少し、この関係性を楽しみませんか?」
ドン! と、殿下が何かにはじかれた様に髪を揺らしながら、2歩3歩と後ろに下がる。
「キマシタァアワァアアア! お兄様のおっしゃる様にいたします! 余は早計でした。さぁ、お兄様いきましょう。アリエノール、聞こえますか! プランBに切り替えます!」
やはり、宰相も加わっていたか。
もともとこの場は、リリア少将との死闘を臨むための決闘宣言を公式に表明する場。
決闘会見のはずだ。
再度、扉の中に入ると、報道陣のカメラが一斉にこちらを向く。
そして、アナウンスが始まりアリエノール宰相が壇上に立ち口上を始めていた。
「ただいまより、決闘に関する会見を行う。要約するとだ。他次元のオーパーツを手に入れ、決闘最強機体で決闘をしたいと言う事だ。もちろん、帝国の婚約決闘システムに従い、シウタ殿の自分自身を賭けた決闘になります」
目の前の会見テーブルの上には婚姻届けみたいな物が用意されていたが 『もやもや』 と共に消えていった。
「では、シウタ殿。お願いします」 と、アリエノール宰相が促してきた。
原稿はいらないかな。
「えー、縁とは分からないものです。今はかつての敵であった殿下とこうして一緒に・・・」
言葉を紡ぐと会場は一斉に静まり返った。
無数のドローンカメラがシャッターを切り、煌びやかなフラッシュが瞬く。
――
決闘当日
大使館の食堂のホログラムディスプレイのニュースには
「銀河史上、最高のロマンス!」 「全宇宙が見守る壮大な恋物語!」 「星々が祝福する、奇跡の恋物語!」 「銀河を揺るがす宿命の恋!」
のテロップがこれでもかと言うほど、詰め込まれていた。
これは逃げれない。諦めよう。
パートナーシップを優先して、駆け引きを楽しむとしようか。
正直、パートナーシップより、やる事やったらゲームしていたい。
でも、構わないとガチキレられて、ゲーム機を窓から放り投げられた理由も今ならわかる。
ゆっくりとカップを持ち上げ、アーレ大佐に入れてもらった紅茶を一口含む。
これからの決戦に備え、冷静にならなければならない。
対面にはララス殿下。
殿下は朝から、ずーっと近くで自分を観察している。
特有の行動、どこでも一緒モードに入ったか? 観察しているだけなら良しとしよう。
そして、決闘の時間が迫る中、大使館の外では決戦に向けての最終調整が進められていた。
後ろから 「シウタさん、少将の命だけは確保してくださいねー」 と、にこやかに言ってきた。
サリ伍長から最近なんか物騒なセリフが出て来てる。
アーレイン大佐は、無言で、自分の肩に手を置き静かに頷いた。
やっていいって事かな。アーレ大佐の無言のメッセージだ。
最後に、ミリ軍曹と先輩達と3伯爵が迎えにきてくれた。
「・・・行くぞ!」
心に火花が灯る。
勝利と言う事をゲームで知っている。
幸運の女神様は、無愛想でめったに微笑まない偏屈な神様で、勝利の女神様は戦いを重ね死線を潜りぬき、用意周到な人の背中を必ず押してくれるって事を。
それぞれが機体へと乗り込み、決戦の刻へと向かう。
いつもありがとうございます。
勝利は確定しております。




