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4 シウタからミリュネ

シウタ


指示された拠点に向かうとミリ軍曹が、ペタペタと体を触って来た。


「もう拠点が近づいて来たか。あー、素敵な時間もいつか終わるのか・・・。あー、骨が痛い骨が痛い。加速が響いて、もうダメだ。すまない。もう感触が無いし折れて動けないし、制御できない片腕が暴れている。すまない。すまない」


と、言って体をまさぐる、ミリ軍曹の左手。

何がすまないのだろうか。 一般人の身体をまさぐるのは最低な行為だと思うが。

江戸時代だったらそんな手きってしまえと、お代官様は沙汰を下していると思う、だが全身骨折してこの戦闘を切り抜けた根性に救われた感じは否めない。


されるがまま拠点に着いた。

拠点全体は巨大な金属製の構造物で囲まれて。壁面は弾痕や焦げ跡が残り、攻撃を耐え抜いてきた感じがあった。外壁には砲台が設置されていて、迎撃用だろう。


まさに想像した通りの拠点、なんだか満足感がある。


ミリ軍曹がコンソールをいじり、通信をいれたのだろうか


「ミリュネ軍曹だ。ゲートを解放しろ。 中に入り次第状況報告を。 負傷者と、助力者一名が入る。担架と医療ポットを用意しておいてくれ」


うわ、軍曹、めっちゃカッコイイ。 軍曹っぽいくてとても良い。


あれ? 全然元気だよね、さっきまでのアレは何だ?

いやいや、邪推だ。つらくても毅然と対応しているだろう。軍曹っぽくてエモすぎる。


「ミリュネ軍曹! おかえりなさいー! 窮地でしたが、撤退に持ち込みましたねー。お見事にございます! 2機撃破、映像に映ってましたよ! ここの拠点も歓声で沸いています。 皆様! 王国屈指のヴォルテクス乗りのエース! ミリュネ軍曹の帰還であります!」


甲高い声がコクピット内に響く。


分厚い装甲で覆われた巨大なゲートが開いた。

エンブレムが上部にかかげられており、ネコの全身でお手をしているマークだろうか。意外にも可愛い。


そのまま入ると、見慣れない建物ばかりだが格納庫みたいな所に入る様に誘導が来る。

未来型格納庫と表現すればいいだろうか。 そこに入りようやく、ヴォルテクスの動きを止める。


やり遂げたと言う安心感か、異常なまでのドーパミンが切れたからか、助かったと言う安堵感だろうか。視界が揺れ、意識が保てない。集中力も体力も切れたのか。

視界が暗転する。 この感覚に覚えがある、夢中に徹夜でゲームをしていた時の感覚だ。

そうか、自分は夢中になっていたのか。


「ミリさん、ごめん。もう動けない。軍曹殿、後の処遇は、好待遇でお願い致します」


意識が薄れる最後に、心の火花を思い出した。

10代の頃や20代前半は、1日寝なかったりで、遊びやゲームに打ち込んだものだ。

このまま社会で働くだけの毎日につれ、夢中になれるものも無くなっていった。

きっと誰もが、いつも心の声が聞こえているはずだ。 人生はこれでいいのか。と。

男の子は、どこかで望んでいる、あの頃の心の火花を取り戻せたらと。 夢中になれる何かを。

だが、それよりも今の立場の向上だ。それがよりよい未来を獲得する事を子供でも知っている。

そして、ギャンブル、スポーツ観戦など代替えの心の火花なんていっぱいある。


でも違う、自分の心の叫びは埋まらない。今一度 『夢中』 を掴んで、心の底から心の火花を燃やしたいと思っているんだ。

歳もある、もう今あるスキルで戦わなければいけない。伸びに限界がある。

でも! もう一度、燃やしてもいいじゃないか。心の火花を!


なんて、考えたら後ろの肉ソファーと言えばいいか、大柄のミリさんに体重を預け意識を失った。


最後にググっと片手で抱き寄せられ、「任せろ」 と、耳元で聞こえただろうか。


――


ミリュネ


――


「おーい! 救助来てくれ! 全身の骨が折れてるから自力で降りれない」


「了解ですー」


コクピットの外から軍服姿のサリステア、通称サリ伍長の顔が見えた。


「さすがですね! 軍曹! さすがゴリ・・・、いえ、私達はネッコですもんね! 全身骨折しても撃退できるものなんですねー。さすゴリじゃなくて、さすがです軍曹!」


小柄なサリがコクピットに入ってくる。


絶対この状況に驚くだろうな。

自力で動けないのが二人だ。


私と視線が合うが、片腕で抱きしめている、シウタに目線が行く。

その後、視線が宙に浮き、もう一度、私とシウタを見る。


「え、現実ですか。 ホログラムですか? サクセロイド? 軍曹、男に飢えて、ついにヴァーチャルに手を出してしまったんですか? いえ? ヴァーチャルよりやばい設定って存在するんですねー」


そう思うよな。

私も、見た時はそう思ったぞ。

乙女な私のために、セクシャルモンスターが最後を見届けに来たのかと思った。


「いや、待ってください。おかしい。おかしいですって。 現実だとしてですね。 『骨折は本当だ。早く降ろせ。この男、シウタにセクハーらるしたら、骨が治った瞬間ヴォルテクスで関係者をミンチ肉にしてソーセージの原料にするからな。サリ、特別だ。ばれない内に客人用の居住区で寝かせろ。初の出撃体験では、この様な事が良くあることだ。そして、強すぎるな。明日尋問だ。大佐に聞かれても明日まで話すな。大佐がなんかしたら、ここではもうヴォルテクスに乗らないと伝えろ』」


「フォアアアアアアアア! なんですかこれ! 現実の男ですか! 了解しました! 軍曹殿! っていうか、王子? いや、絵本やBLの王子でもこんなエロくないですよね? えっ。昏睡れーぷをしない方が不作法と言うか。れーぷ? なんですかこれ? 倫理観が仕事してくれないです。脳が謀反を起こしてます」


絵本とBL比べるな。

子供たちが泣くぞ・・・? いや、ネッコ族のガキはませてるから喜ぶかもしれないな。

そして、私がおかしいんじゃなかった。 安心した。


「いいから、仕事しろ。お前も骨折るぞ」


訓練と称した骨折は、良くあることだ。


私は降ろされ、そのまま歩くベットに乗り、テクノロジーの結晶の医療用ポットに入る。


私なら1時間で治るだろう。

ポットに入ってすぐに治った後、サリ伍長から状況報告を聞き、客人用の居住区に向かった。


――


冷たい金属の床に横たわりながら、私はいつしか眠りに落ちていた。

廊下の隅に取り付けられた窓から、かすかな光が差し込み始める。


シウタが身体目的の山猫達に襲われるのでは、と思いドアの前で座って居たら、いつの間にか寝ていたようだ。


「どうかしている」


一言つぶやき、本当にそう思う。

私の脳みそは、どこに行ってしまったんだ。


腕の端末を触り時間を見ると7時を指していた。

起こしてもいい頃だろう。

シウタは、夕方から何も食べていないはずだ。軍食堂へ連れて行かなければ。


さて軍曹権限で、扉を開けるとしよう。

しかたないよな。しかたない。

部屋への連絡方法も限られてるし、しかたのない事だ。


そうだな?

王子様にお目覚めのキスをしなければならない。


ドアに腕の端末を当て、ロックを解除すると同時に扉が開いた。


そこには 1枚医療用の薄着を羽織ったシウタが立っていた。


「ああ、良かった。ミリさん。 身体大丈夫そうですね、良かった。 来てくれて助かりましたよ~。カードキーが無いので、この姿で締め出しを食らったら走り回る事になってましたよ。ホテルでは良くあることですかね、ハハハ! 助かりました~。おはようございます、ミリさん。昨日は本当にありがとうございました」


下着当然の笑顔で紳士対応。 間違いなく、セクシャルモンスターだ。

脳のボルテージが、上がり切り。扉を思いっきりガシャアアアアンと締める。

冷静になるのだ。


扉の奥から 「あああああ! すいません。ミリさんと激戦を生き残ったと言う、強烈なシンパシーで距離感とかつかめなくて、礼儀が必要でしたよね。すみません」


「シウタァアアアア、服を着るんだぁあああああああ! 二の腕、足首、首筋、胸、全部アウトォオオオオ! だ! お前は、一体何を考え誰の物だと思っているんだ・・・? いや、脳よ、ここまでだ。うん。服をきて、食事に行こう。シウタ。 今日は、話し合いがメインの一日だ」


さすが、ヴォルテクス乗りの私だ。ちゃんと軍曹が出来ている。

感情のコントロールは、出来る。すごい爽やかに朝食に誘えたと思う。


「承知いたしました。置いて頂いた服が未来衣装ですか。こういの憧れます」


未来衣装? 誰が置いたんだ? あいつか、サリ伍長か。良く持ってた・・・、じゃない。趣味のコスプレか?


シューと扉が音を立てながら開いたそこには、ジャンプスーツのシウタが立っていた。

葉を編み込んだような薄い繊維で作られてて着用者の体にぴったりとフィットしつつ、胸もとが開いてあり首元から、つま先まで一体化してボディラインを強調していた。


シウタは、頭ひとつ私より小さいが。

なんだろうか似合っているとか、そういうのを考えたらダメだ。

意識を持っていかれる。 この男はモンスターだ。


一緒に食堂へ向かう。

誘ったはいいが、気が重い。

部屋で一緒に食べるべきだったか。


正直言って、治安が良くないのだ。どう考えても一人で歩かせられない。

肉食の女猫の群れに、男を放り込むようなものだ。 拠点でたった一人の男だぞ。

どうなるか、想像に容易い。サキュバス族だってもっと品があるだろう。


軍曹権限で、ボコボコに女猫どもを教育しても、聞いてくれるだろうか。

無防備な人族でなおかつ、超上玉。 エロでセクシャル。あとなんだ? カリスマと誘因性の何か。 可愛いし触りたい。えーと、セクシャルは、もう言ったか。なんだこれ?

見ただけで脳が仕事を放棄するのだ。

後、少しだけシウタに慣れて来た。


庇護と職を求めてきたようだが、謎が多い男だ。ヴォルテクスの操縦がうますぎる。

大佐にも呼ばれているし、後で話し合いと尋問だ。


あー、尋問したいな。 軍曹権限での尋問だ。

と、気を抜くと、脳が身体を乗っ取ってくる。ほんとに危ない。


昨日のお礼や軽い会話と今日の予定を話し合いながら、食堂へつくと相変わらずの喧騒が聞こえる。


「肉っ、肉ゥウウウウ!」 「おい! その肉全部取る気か!? このクソまずい豆を食って食事が済むとか思ってんのか? てめぇ、ぶち〇す!」  「おい! ボケども! パンも取れよ! 〇すぞ!」 「これが本当にパンか? どう見ても昨日の破損外壁だろ。後で、第一拠点の補修材にしてやるわ! 食って欲しければ肉を挟め! ボゲェ!」 「うるせぇえええ! 補修材で顎の力を鍛えろ!」 「ひゃあああああ! 昨日の撃破映像見たか!!」


品性の欠片も感じられない。女猫のたまり場だ。

昨日まで、私もコレと同じ存在だったとは泣けてくる。

我々は、肉体だけ鍛えても良くないのかもしれない。


3人ぐらいボコボコに教育したら静かになるだろうと思っていたが、私達が入ると急に水を打ったように静かになった。


食堂の全員がこちらを見ている。

男を連れているのだ、ガン見するだろうな。


そのままシウタと食事ラインに並ぶと、ごにょごにょと会話が聞こえる。


「ヤダ、ちょっと。私、お腹空かない。今日サラダしか食べれない」 「豆は畑のお肉よ」 「ほら、このパンも補修材の他の事に使えると思う。後でぶちこんであげる」 「上品なおネコ様、おこのやろうですわ」 「あら英雄の軍曹様ですわ。お連れしてる紳士様はだれかしら」


凄い意識が高い会話が聞こえてくる。

ぐぐっ、この品性もない野良猫たちに、ボキャブラリーで負けているだと。

私も、学びが必要なようだ。


カウンター越しに。炊飯班長の前に注文を付ける。


「班長、二人とも昨日から何も食べてないんだ。 私から天引きでいいから追加で何か頼む」


あたふたと、シウタがしている。


「あ、ミリさん。何から何まですみません。ここの通貨すら持っていなくて。 異世界転生も大変で、生活基盤なしに立ち行かないです。 あの~、何とかして返しますから」


いいんだ、いいんだ。気にしてくれ。

恩に着せたいからな。まったくなんのために奢ると思っているのか。

人族だと男性が女性におごるんだったか? それぐらい知っている。

連邦王国では、価値観が逆だ。


炊事班長が返事をしてくれる。


「おい! 二等兵、ジャングル行って肉がある原生生物狩ってってこい。お前、ハンター好きだっただろ。許可する。 貢げ、この男に全てを捧げろ。 この星の生き物を生体レーダーで探知し全狩してやれ。そして、私達を覚えてもらおう。この炊事班を!」


「おい、ずるいぞ!」 「そもそも肉料理しかまともにできないだろうが!」 「炊事班ふざけんな! 鍋の底に沈んでいる肉以外の物体はなんだ? 金返せ!」  「パンぶちこむぞ!」


カウンターを軽く叩く。


ドガァグシャアアアアアアアアアン! と、爆音が食堂に響く。


全員の方に振り返り、優しくお話をする。

シウタの前だ、詰めて恫喝して、こいつらを医療ポットに直行させて、怖がらせても良くない。

職場はクリーンなイメージが大切だ。何のための広報部隊がいると思っているのか、あいつらにも仕事をさせよう。


「おい、まだ暴れたい奴はかかってこい。いつも言っているだろう。品性を持てと。 炊事班長、いいから肉を出せ」


辺りに、沈黙の帳がおりる。

シウタの目が、尊敬のまなざしだ。


そうか、そうか。今のは軍曹ぽかったか。

どうも、昨日から軍曹としての行動に期待している感じがある。

やっぱり、軍曹として品性ある行動を好むのか。困った王子様だ。


すぐに2kgの上質なステーキがホカホカと二人分出て来た。

これは、うまいぞ。


付け合わせでパンを手に取るが、すぐに置く。

これは、武器だ。緊急時の武器になる。まずいし固い。

私でも固いと思う。人族では食べられないと思う。


「さ、席に着くぞシウタ。 食べたら、大佐の所で尋問・・、面談だ」


「ミリさん?? 朝食にこれは・・・? えっ? いや? あ、上司の大盛頼めよ! おまえ若いんだから! 系ですかね。 はい、頑張ります。やりますよ、ミリさん。やればいいんでしょう。やりますよ。奢りの手前、自由に注文できないパターンですか。 喜んで食べます!ミリ軍曹!」


なんだこれ? 選択肢間違えたか?

ここまで完璧だったじゃないか。 どうしようか、男の扱いとか分からない。

人生で鍛錬と訓練しかしてこなかったし、どうしたらいいのだろう。

どうやればこの男をモノにできるのか。

王国の人気恋愛相談配信者でも見てみるとしよう。



さて、お読み頂きありがとうございます。

楽しんでもらえると自分も嬉しいです。

基本週2回、遊びに行く予定の週がなかったら3回の更新をしていきたいと思っております。


そして、別世界から来た貴方様、いつもありがとうございます。

ある意味での転生、おめでとうございます。お待ちしておりました。

さて、労力を使って評価を押す力の凄さを感じてくれましたか。

もちろん押さなくても、見て頂いた事に感謝です。お陰様で、次回作に繋がりました。

好意は増幅する。 そうでしょう? もう一度、それを証明して欲しい。


つまり、評価を押してもいいって事よ。




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まだエピローグだったんか面白すぎて下痢漏らした
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