37 シウタから先輩
シウタ
なんとかミリさんを背にして、捕まる寸前の包囲網からサリ伍長と離脱することができた。
そして、そのまま宇宙ドックに迎えに来ていた黒い羽を持つ専用機体星間移動機体 『アケローン』 に飛び乗り、帰還している。
ミリ軍曹の対応は、どうなるのだろうか。
自分と違い、色々とやらかしていないから大丈夫だと思うが。
宰相へ少女を元の星へ返した後の話を、リリア少将が魔石を拾った顛末などをいろいろと脚色つけて説明していた。
営業においても同じことが言える。
良いお客様には良いように説明し、厄介な客先のときには 『あの客がどれだけク〇ク〇か』 という話で上司や同僚と盛り上がる、それがヒューマニズム。
つまり普通に、戦争の英雄を捕まえようとしてきた。
アイドル的上級国民に対して、なんてひどい事をするんだろうか。
でも、地球の時そういう調子に乗っている方が捕まるのが、なんだか嬉しく楽しかったのを覚えている。なんとかモンも、もう一度ぐらい捕まってくれないかな?
でも自分がやられたら、マジにたまったもんじゃないな。
そんな白髪オッドアイで美形な魔族の宰相にご説明中だ。
元の次元に戻った少女の置き土産、超エネルギー体を少将が一人いじめにしていると言う事を伝えた。
「宰相、助けに来てくれてありがとうございます。と言う事で、捕まりそうになりました。宰相、リリア少将が良く分からないオーパーツを使って帝国に弓を引く気でございます。
この連邦の宇宙ドッグ、今やっちゃいましょうよ。 星間推進の出力を最大にして 『アケローン』 をミサイル代わりに突っ込ませて、わからせませんか? 今、宇宙ドックの機能を停止させれば、制圧は簡単でしょう」
宰相の美人の顔をニッコリと微笑んで答えてくれた
「うむうむ。そうですか。頭おかしいぞ。シウタ殿、貴方がなぜ捕まらないのか不思議で仕方ないですよ。
この銀河の種族、男性に甘すぎると感じませんか? ヴォルテクス騎士への残虐行為、伯爵家テロ、皇女誘拐罪、あと何でしょうか?
それでも捕まらない。この銀河は、ア〇しかいないのでしょうか? この銀河の男女数が違うだけで 『まぁ、アイドル的な男性だから、しかたないよね』 みたいな事になりますか? どの銀河でも、普通なら貴方はとっくに逮捕されておかしくないですよ??」
私、男ですけど。捕まるんですか?
受領系女子は捕まっていたけど。
「アリエノール宰相。そうですよねー、あの時に捕まえていればと思う時がありますー。家庭にいれて大人しくしてもらうしか無いですよね」
家庭は、牢獄と言う事か。
結婚は必ずしも幸せでは無いと思う。
が、この先どうしたらいいか、大佐と殿下に相談しよう。
サリ伍長は、伯爵家爆破と殿下誘拐の連帯責任者ですから逃がしませんよ。
「宰相、相談しましょう。大佐と殿下にご報告があります。おそらく、和平協定を連邦側が破ってくると思いますよ。 さて、連邦に戻ると処されそうだ。 どうしようか、アリエノール宰相。大佐の様に自分を雇いませんか?」
暗い宇宙の中 『アケローン』 は、光速航法モードに入った。
外を映すホログラムには、スターボウが見える。
それは、超高速で移動し観測者が見る星々の色。
――
「まもなく、帝国本土に到着する」
宰相が光速航法モードから通常速度へと切り替えた瞬間、機体がわずかに揺れる。
ホログラム画面には、帝国本土の巨大な宙港内部が映し出された。
ほのかに点灯する誘導レーンの先には、帝国の紋章が大きく描かれていた。
席に座りながらサリさんと二人で、その圧倒的な景色に感動している。
雰囲気に任せて今なら、さりげなく彼女の気持ちを確認できるだろうか?
「サリさん、凄い宇宙港ですよね。・・・サリさんと一緒いたいです。サリさんは、どう思ってますか? いつもサリさんと、一緒にいられたらって思うんです」
茶色の髪をふわりとしながら振り返ったサリさんは、きょとんとした表情を浮かべる。
ほんのり頬を染めるように笑みを返してくれた。
「シウタさん・・・。 う、嬉しいです・・・? あっ! これ覚えがありますよー! シウタさん、前もこんな雰囲気の時に、やりましたよね?! 主語と言質を取りますよ、何をどこで一緒なんですか?! ああああ! ダメです! 疑い深くなってますよー! こういう雰囲気に疑いを持つようになってしまいました。 どうしてくれるんですか!?」
ちいいいいいいい。気づいているのか。
さすがサリ伍長だ、同じ手はくわないですね。
「えーっと・・・。 そうですね。で、一緒にいてくれるんですか? 捕まるときは一緒ですよね? 逃がしませんよ?? 当然、一緒にいてくれるんですよね? だって、捕まるときは一緒でしょ? まさか、自分だけ助かろうなんて思ってませんよね?? そんな顔して心配しなくていいですって。自分が全部決めてあげますから」
「わぁ~! 超束縛系の彼氏な本性を表しましたね! 現実はBL本よりひどいとは思いませんでした! 私一人で更生は無理だと言う事が分かりましたよー! シウタさん! いいですか!? そもそも・・・」
やっぱり怒られそうだ。
そんな時、救いの手が宰相から入る。
「あの~、よろしいでしょうか? そろそろ目的地に到着します。アーレイン騎士伯から連絡があって、このまま大使館に直行してくださいとのことです。殿下もお待ちのようですね。
シウタ殿、すみません。いちおう殿下の権力で、あなた方を逮捕しないように動いていただいたわけですから、まず殿下へご挨拶をお願いできませんか? こんなことを申し上げるのも何ですが、どうぞよろしくお願いします」
「「了解しました~」」
――
『アケローン』 は、広大な大使館に降りたった。
そこでは紫髪の殿下と銀髪のアーレ大佐が待っていた。
大佐と殿下に助けてもらったお礼を丁重にしなければいけない。
捕まる所を宰相に助けてもらった。
これは連邦とララス殿下のパワーバランスの問題だろうか?
それとも、戦争の英雄を安易に逮捕するのがまずいという判断だろうか。
ひとまず大使館に入り、一息つく。
まずは、ララス殿下にお礼を述べることにした。
「殿下、宰相、アーレ大佐。このたびは、連邦からの逮捕を救って頂きまして、本当にありがとうございました。
ちくしょう、危うく捕まるところでしたよ! 連邦のほうでは、オーパーツのような魔石が手に入り、リリア少将が巨大兵器を作る気満々です。
殿下、お願いします。帝国の戦闘艦を貸してください。宇宙ドックを破壊してきますよ! 一人で操作できる範囲の船でお願いします!」
「シウタさん? 落ち着いて? 貴方は何と戦っているのかしら? そう、リリア少将が貴方を捕まえようとしたら、連邦だと厳しいですわね。帝国より連邦で仕事しろと言われれば、従わないといけないところもあるわね」
殿下が机に肘をつくような姿勢で耳を傾け、紫色の髪をさらりと指先で払う。
「わかりました。 ベルティアの艦隊1つお貸し致しましょうか? 連邦宇宙ドックをお兄様の物としましょう。 その代わり 『ララス』 と呼んでもらっていいです? 新しい扉が開くと思うのです。
そうですね。エイリアン少女がオーパーツを持っており、その魔石をリリア少将が独占したと言う事ですか。
つまり連邦に帰るとひとまず逮捕されて、アーレ騎士伯が中枢にいない現在、連邦はリリア少将の思うがままでしょう。いい事を考えました。ここ帝国でお兄様は、好きな事をして暮らせばいいです」
優秀な殿下が出て来た。
そうかそうか。戦闘艦を貸してくれるのか、ベックバイパーの操縦は得意だ。
何度も宇宙要塞を破壊できそうで出来ない、ハードモードのシューティングを作った開発は本当に実機でクリアーしたのだろうか。
少し離れていた宰相が、こちらに近寄より耳打ちをしてきた。
その美人の吐息に少しドキッとする。
「シウタ殿、よく考えて欲しい。帝国最高権力者へのお願いをすると言う意味を。借りが思ったより、大きくなりますよ。借りを作ってしまうと帝国にエースがいない今、超級エースのあなたを手放さないでしょう。友としての最後の忠告です。これからは、仕事相手としてあなたを見ますからね」
聞きづらいにしても、ここにいる全員に意味は伝わったのだろう。
この耳打ちに殿下が目を細め笑っていて、パープルの瞳がきらりと光っている様に見えた。
おっ、殿下やるなじゃないか。
ここで宰相にキレちらかさないとは、持ってるな。
カリスマ性に好感が持てる。
さて、どうしようかと、思っている所、サリ伍長から相槌がはいる。
「シウタさん、繁華星で営業の就職もできますよー。一緒にやっていくのもどうですかー?」
なるほど~、また営業に戻るか?
せっかく、未来銀河へ来たと言うのにヴォルテクスに乗らないのも面白くないよな~。
でも、ヴォルテクス関係の営業もいいよな。
常に新型とか乗れるしぃ~、最前線で働けるって事でしょ?
めちゃくちゃ良くない?
「シウタさん、一度持ち帰って考えた方が良さそうですわよ。思っているよりも重い内容だと思うの、ゆっくり考えましょ? この銀河に来てから、貴方は良くやっていると思うの。いえ、やりすぎたのよね?? やりすぎたのよね、シウタさん??」
アーレイン大佐、自分の味方に何てことを言うんですか。
「いえ、やりすぎて無いです。アーレ大佐、サリ伍長。そしてミリ軍曹の信頼に答えようとした結果です。 ですね? 拠点はそれを黙認するところがありましたよね?」
「「ぐぬぬ」」
はい、論破。
そして、論破して何が意味あるのか、絶対次は倍で返して来るだろう。
はやり、口論は負けるぐらいで丁度いいと思うが、ヴォルテクスの仕事の事だから言わせてもらおう。
そして、アーレ大佐のおっしゃる通り、一度持ち帰ろう。
営業の 『一度持って帰って考えます』 は、大体すでに決まっている。
即答だと見栄えが悪い。
さてと! 話は、大体まとまったな。
「とにかく! 今の連邦で仕事はしたくありません。ミリ軍曹にも声をかける必要がありますね。彼女は義理堅いから無理かもしれませんが、声ぐらいはかけないと怒ってしまいますからね。集団圧力で 「ノー!」言えない状況を作るのもありですね」
さて、軍曹の外堀を埋めて行かないと。
「皆様、ありがとうございます。一度持ち帰って、検討しようと思っておりますが。少しお時間頂きますね」
――
ライザ・フェリシア
――
私はライザ・フェリシア。
軍学校を首席で卒業したヴォルテクス乗りだ。自分でもそこそこ強いと思っていたのだけど、ミリ軍曹という超級エースの現実に触れたり、非現実的なシウタ君と出会ったり。
そんなふうに、つらくも楽しく日々を過ごしている。
エイリアンと決死の決闘後、私のホテルの部屋で、同期のイーリスとミラグロで一緒にホログラム端末をいじりながら、特にやることもなくゴロゴロと余暇を過ごしていた。
「ねぇ、この王子見てよ、コクピットを撃つときの表情。真剣で残虐っぽい表情良くない~?」
それぞれがシウタ君のお気に入り映像を見せ合いながら、ちょっとした自慢大会をしている。
撮影は先輩の特権だよね?
本人に、同じ戦場に立っているの事を学校時代の友達にマウントを取りまくっているなんて、知られたら怖いけど。
「それ、いいよね。私これかな」 「ふふ、見てコレ。王子の肌着の画像」
「「エロ画像なのに消されてない!!」」
消されていない。
ミラグロが、闇サイトにいくら払ったのか気になる。
完全にポ〇ノ画像だね~。
そんな話で盛り上がっていたところ、端末ホログラムに通話が入る。
お気に入りのシウタ君の写真から、通話画面へと移行してしまい少しイラッとする。
画面には軍関係の表示。誰だろう?
「フェリシア先輩、こんばんは~。今大丈夫です? ハハッ、何されてましたか?」
うん、シウタ君? 昨日も使ったシチュ(事態)だし、幻聴かな?
最近、この手のドッキリが流行っている。
「えっと、シウタ君詐欺かな? 軍で流行ってるみたいじゃない? もしも、シウタ君から通話がかかってきたらシチュでしょ??」
「ハハッ、シウタです。どうも。戦場を何度もともにしていると言うのに、先輩ひどくないですか?
そうそう。フェリシア先輩達と、デートのお約束が気になってですね、いつ誘ってくれるのかと我慢できなくて、こっちから通話をかけてしまいました。ハハッ、お許しください~」
その一言を聞いた瞬間、私は背筋の力だけでベッドから跳ね起き、空中を蹴ってトイレへと猛ダッシュ。
士官候補生訓練で鍛えていて良かった
イーリスとミラグロが ドン! と、空を蹴る私を口を開けて見ているが、そのままトイレに直行しドアを閉める。
「あっ、あははは! ご、ごめん冗談だよ。誰もが思う 『もし王子様から、拠点のお仕事関係で通話が来たら』 のシチュが流行ってるんだよね。 そ、それでど、どどどどどう?」
デート? 時のアイドルがデートの誘い?
もしもしもしもし、詐欺ホログラム広告でももう少し現実味があるよ。
「あの、先輩達明日、空いてます? お食事・・? いえ、帝国ヴォルテクスの展示場いきませんか? あー、ニクリョウリーがこの銀河のデートの定型文でしたっけ。あー、ニクリョウリ食べた後、帝国、ヴォルテクスの展示場行きましょう」
デートだね。
学生の時 「ねぇ、今度デートしてよ?」 と、言ってみたものの、笑顔で頷く男猫のスルースキルを食らい続けて、デートの約束なんて信じていなかった。
「もちろん。誘ってくれて超うれしい」
「イーリス先輩と、ミラグロ先輩の都合はどうでしょう?」
「2人は、都合が悪いみたいだよ。 シウタ君に悪いから私が行くよ。明日いっぱい楽しもうね」
瞬時にトイレのドアが、ドクシャァアアア!と 折れ曲がる。
イーリスとミラグロが怒鳴り声を上げながら突撃してくる。
「フェリシアアアアアアアアアアアア! 出ておいでぇええ!」 「おら! トイレから出て来い! デスマッチだよ! 明日行けるのは、勝残った一人だあぁあああああ!」
シウタ君は通話越しに笑っていように感じる。
「あ、大丈夫そうですね。明日朝先輩方を迎えにいきますね~。おやすみなさい」
通話が切れると同時に、緊急通信ホログラムのアラームが鳴り出す。
でも、今はどうでもいい。だって、デートだよデート!
画面には 「我が連邦政府は帝国に正式な決闘を申し込む」 なんて文言が出てるし、リリア少将が何か吠えている。
うるさいうるさい、決闘ならもう勝ったし!
美容院の予約しなきゃ! 超、恋愛をサボっていた!
デートの服がない! つける小物も持ってきてない!
命を賭けた付き合いをしたから、わかるよ。シウタ君の習性が!
そう、ヴォルテクス展示場でテンション上がったまま、チェックイン!
これは、出来るよ! 展示場後、私達がヴォルテクス!
会話の組み立ては、ヴォルテクスや戦場の話で大盛り上がりのはずだ。
ただし! 私達のヴォルテクスの時につける下着が無い! 買わなきゃ!
「協力しようよ! 私、服いくよ! 下着だれが行く?!」 「私、アクセサリーとコスメ!」 「じゃあ、下着!」
「「「さぁ、やるよー!!」」」
人生が超楽しいよ!
私たちは慌ただしく明日の準備に取りかかるのだった。
いつもありがとうございます。
今週は3回更新目標に。




