33 シウタ
無理な飲酒は、やめましょう。
後、エナドリもやめましょう。疲れを感じなくする夢見る成分が入ってます。
シウタ
本来なら、アーレイン大佐とミリ軍曹、サリ伍長たちと合流してから会場入りする予定だった。
しかしアルコール摂取に対して、とても嫌な予感がするで、一人でこっそり会場入りすることにした。
会場の宮殿の天井は星々を模したホログラムが浮かび、まるで宇宙だ。
過去の文化と未来の性能が融合して、とても美しいと思う。
そして、部屋の片隅には、どうみても繁華星のバーテンダーがカクテルシェイカーを振っている。
思うに、どこを探してもバーテンは彼女しかいないのではないだろうか。
たとえ! ぼったくりでも、大変貴重な存在だと思う。
そして種族の名残みたいな、アクセサリーを付けている方々から遠巻きに熱い視線で見られていた。
楽しくアリエノール宰相と飲んでると言うのに、何だって言うんだ。
でも、覚えて置いて欲しい。
こういう懇親会で参加費の元を取ろうとしたらダメだ。
業界内で噂は早い、排水溝の様な音を立てて酒を吸い取る参列者がいる。と、恐ろしいレッテルを張られてしまうからだ。
「おたくのとこのショウタさん、まるで排水溝」 と言われないように、品位を持つ事が大事だ。
――
「シウタ殿。この度の勝利、本当に見事でしたね。ベルティア伯爵に降伏を迫るシーンなど、まさに圧巻でした。勝利のためなら手段を選ばぬ残酷で冷徹な判断、実に見事です。魔族の一員として迎え入れたいほどですよ! ウハハハ!」
えっ? そこ?
愛と勇気と、自己犠牲でエイリアン機を倒したことでは、ないのか?
再度、アリエノール宰相とグラスを交わし、琥珀色の液体を胃に流し込む。
喉が焼ける様な熱に伴い、天の星々が自分を祝福し微笑みかけているのがわかる。
知略や策謀の戦略を、残虐と言われては困ってしまう。
話題をエイリアンに持っていこう。
「そういえば、帝国の超級エース、凄かったです。仲間と命をチップにしなければ勝てる相手では無かったですね。ハハッ、トーストになりそうでしたよ。所でエイリアンと宇宙人何が違うんですかね?」
「ウハハハ、私にも分かりません。この銀河の存在ではない、私とシウタ殿もエイリアンでは? そして、アレは特殊ですからね。時代が違えば、神もしくはチーターと呼ばれている次元漂流者だ。他次元で悪役をやる魔族は、アレに遭遇すると高確率で生〇隷にされます。いわゆる、ク〇だ」
凄い言われようだ。
でもチートを使う存在は、そんなものかな。
チーターの物言いを聞いてはならぬ、悪・即・斬。
それが世界の理だろう。
だが、テンションが高いため、今の宰相のエイリアン発言に何か面白い切り返しをしたくなった。
懇親会での注目度が高い中、ドレスや軍服の方々が囲むようにこちらを見てるからだ。
どうせなら笑いをとりに行こうか。
「ハハッ。自分もエイリアンでしたか? いやー、道理で周りの視線が熱いわけですね。純粋な人間だと思ってましたが、宰相の素敵な羽見たいに、どこか生えてたりしますかね。どれ、何か熱くなってきました。ワイシャツを少し緩めて確認してみましょうか。エイリアンは生えてますかね? ハハハッ!」
ウケ狙いのつもりで襟元を軽く引っ張ると、女性陣の目が鋭く光る。
猛禽類の目をしている。狩をする肉食獣の目だ。
ディスカバリー徳目で、よくその目を見ているから知っているんだぞ。
ほろ酔い状態でもなんだか全身に危機感を感じる。
そして、なんか思った反応と違う。
宰相が笑いながらグラスを掲げる。
「ウハハハ! エイリアンの素質はありますよ。シウタ殿の戦闘スタイルは合理的で、残虐。私の銀河なら、村を焼き払い、勇者ギフト持ちの親兄弟を捕虜にしそうだな。ウハハハ! なおかつ、最終局面で親兄弟をぶつけ、勇者の戦意を削ぐまでやりそうですね。ウハハハ! えぇ、冗談ですよ。かつて魔王が存在した時代の非人道的なストーリだ」
「えっ?! 普通、そこまでしないんですか? ハーレムを形成する勇者に地獄を見てもらわないと面白くない。ハハハッ! さらにアンデット化して襲わせるまでやりますね。うちの銀河だと定番のストーリーですよ。ハハッ」
「じょ、冗談です。魔族の私でも恐怖を覚えてしまうな。どうも酒が足りないみたいですね、シウタ殿そのボトルを取ってもらっていいか? ありがとう」
何かを振り払うように、コポコポと注がれる琥珀色の液体を宰相が一気に飲み干す。
辺りを見渡すと、自分の胸元に視線が集まっている。
セレブの方々が微動だにしない。そんなに胸元が見たいのか。
でも、男女逆転の視点で考えると確かにそうだ。
男は、なんて愚かなのか。
だが、悪い気はしない。
美人さんを二度見しまう、あの原理と言う事か。
自己の肯定感を凄く感じる。
酔っているため気分がいい。
さらにワイシャツの襟元を開け、セクシャル的なポーズを取る。
これでいいのか? よくわからん。
そして、会場が凍り付き、周囲の人々がピタッと動かなくなる。
まるで石像のように静止していて、瞬きさえしていない。
あ~、外してしまったか。
リアクションが分からないな、気持ちよくお酒を飲んでいると言うのに盛り上がって欲しいものだ。
――
そんな懇親会の静寂の中、ふと視界の隅に違和感を覚えた。
学生服の少女が見えるのだ。
深い藍色のブレザーに、白いシャツスカートがひらりと揺れる。
ここのフォーマルな会場に場違いな地球の制服だ。
そんな少女が会場の端に立っていた。
その少女の存在は世界から切り取られた存在に見え、輪郭がくっきりと浮かんでいる。
こちらの視線に気づいたのか、ふっと小さく微笑んだ。
そして、ゆっくりと歩みを進めてきた。
この会場の誰もが、そんな彼女を気にしていない。
地球のデザインの学生服だと?? 飲み過ぎたか??
まだ2杯目だぞ。
意識はしっかりしているし、副交感神経をリラックスさせ好感度が上がっており、酒のいい所が出ている。
少女は一歩、また一歩と近づいてくる。
謎の恐怖にグラスを握る手に力が入る。
「ハハッ! アリエノール宰相閣下、あそこ、部屋の隅に学生服の少女がいませんか? ほら、あそこです。場違いですよね? 帝国の方ですか? 自分、酔っ払ってるんでしょうか?」
部屋の隅を軽く指さす。
「?? 学生服の少女?? 私には、見えませんよ?? ウハハハ! 学生服か、100年前には着ていたな。あの頃は、契約の夢があった。どんな契約者が私の前に現れるのかと夢が一杯でしたね。 ・・・これは愚痴を失礼した! 酒がまずくなりますね。 つまり、シウタ殿。それは飲みが足りないのでは? 思考に陰りがあるからそういう雑念が生まれるのです。ウハハハ!」
その通りで、天才の発想だ。自分は、よき友人を持った。
「おお! 宰相閣下の言う通りです。乾杯といきましょうか!」
「「ウハハハ! カンパーイ!!」」
ショットグラスを傾けるが、異様な雰囲気の学生服少女の幻覚が消えない。
こっちにまだ歩いてくるし、その黒目と目が合い、身体に戦慄が走る。
まだ、飲み方が足りないと言うのか。
摂取量を上げるため、バーテンさんに大ジョッキを催促し、その中に液体がコポコポと満たされる。
これなら、気持ちいいまま朝を迎えることが出来る。
「ほぅ・・・、人族も侮れないものですね、私も続かなければ」
大ジョッキの高濃度アルコールがドン!ドン! と目の前に置かれる。
そしてバーテンは断りもなしに、胸元をホログラム撮影している。
皆様、酒が邪悪ではなく、このバーテンが邪悪なのを理解してもらいたい所です。
今日にさよならを伝え、明日におはようをつげる、満たされた大ジョッキ。
レゾンテトール(存在本質)を十分に満たしている。
では・・・、宰相。 「あい、きゃん、ふらい」 「ゆうきゃん、ふらい」
「「カンパーイ!!」」
大ジョッキがぶつかるその時
「アリエノォオオオオオオオルウウウウウウゥウウウウ!!」
「シウタァァアアアアアアアアアアアアアアア!!」 「「シウタさん! いけません!! ダメですよ!!」」
会場に大音声が響き渡り、天井に浮かぶホログラムの星々が吹き飛んだ。
制服少女もビクッ! と足が止まる。
あれ? 学生服少女、幻覚じゃないんだ。
だが、お三方。
一足遅かったな?
「ハハハッ! 来ましたか。だが、もう遅い。大ジョッキは自分の手の中だ。 ダメと言われて、やめるなら警察は必要ないと思いませんか? はい、大佐、軍曹、伍長。お手を拝借致します。本日の 『聖騎士就任』 おめでとうございま~す。かんぱーい」
大ジョッキを傾ける刹那、全てがコマ送りになりヴォルテクスに乗る時の心の火花が灯る。
意外にも、ララス殿下の出だしが早い。
次にミリさん、アーレ大佐、少し遅れてサリさんと、恐ろしい速度で地面を蹴ったのが確認できた。
そして、4人突撃に制服少女は身の危険を察したのか横に飛び退く。
ララス殿下が宙を疾走してくる。
紫髪を、なびかせながらの突撃だ。
そして殿下は、何を怒っているのだろうか。
「アリエノォオオオオオオルゥウウウウ! お前は、一体誰の従者だと思っているんです!? お兄様とワイシャツ半裸、お酒からの絡みですか!? あああああああああ! 許せません! まさに魔族! やはり欲望の際限をしらず、わきまえをしらない種族でしたか!!」
早い、トッリー族は早いんだな。
そしてそんなに宰相につらく当たらないで欲しい。
殿下に内弁慶属性も追加だな。メンヘラで内弁慶、たまに皇女。
どうみても完璧な地雷物件です。本当にありがとうございます。
「あああああああ! 余の足が動かないのです! お兄様の胸元が尊すぎて、余の足が石化していきます。ああああああ! 胸元を目に焼き付けるのです。 と、脳が警鐘を鳴らしています! 口惜しいですが、余はここまでですね。後を頼みました」
殿下の足がとまった。
さらにジョッキの液体は、自分の口元へと近づいていく。
爆速のミリさんが、もう目の前まで迫っている。ジョッキは間に合うだろうか。
「セクシャルモンスターめ! 男が公衆の前に肌を晒すとは、何を考えているんだ! そもそも、誰の物だと思っているんだ! シウタ! にしても・・・ワイシャツからの肌チラ、エロすぎないか。 あっ」
一番早く到達するミリさんかと思いきや、足が止まった。
「シウタさん? 人に聖騎士の称号受け取りを頼んでおいて、アルコール三昧とは心が痛まないのかしら? ほら、そこにその邪悪なジョッキを置いて欲しいわね?」
鍛えられた実力で駆け寄る大佐のセリフ。
ぐはっ。大佐が強敵すぎる。
ジョッキの手が一瞬だけ、ひるむ。
だが、ここまできたら止まる事はできない。体がアルコールを欲している。
とっさにワイシャツを片手で脱ぎ捨て、宙へ放り投げる。
ワイシャツが宙を舞った瞬間、女性たちから歓声があがる。
舞い上がったワイシャツは、スローモーションのように回転しながら、ひらひらと落ちていく。
そして飛んでいったワイシャツを追い、小競り合いという名の激戦が始まる。
「それ、私のものよね! 私に飛ばしたのよ! この冷静のアーレを舐めないで欲しいわね!」
まさに結婚式のブーケトス。
大佐の向きが180度変り、ワイシャツのブーケトスに参戦を始めた。
残り一人、サリさんだ。
茶色のセミロングを髪を揺らしながら走っている。
「バーテンさん! その邪悪なアルコールをはたき落としてくださいー! 繁華星のバーのお店を大きくしたくないですか? フィオーレ家の力を使えば、明日にでも可能ですよ!」
サリさん?
からめ手は、ズルく無いですか?
即座にバーテンさんの方に注意を向ける。
「ヒヒヒ、フィオーレのお嬢様。この王子様の肌着一枚の映像を売れば、酒場どころか星が買えますよ~。 このホログラム端末、なんとかエロ削除を逃れました。良ければ、一緒に星の政策に加えませんでしょうか?」
バーテン、何してんだ。
サリ伍長もバーテンの方に足を向けるな。
本人の目の前でエロ商談するな。
まぁよし、外敵要因は消えた。
いただききます。
大ジョッキを口元へと近づけた、その時。
不気味な雰囲気がまとわりつく。
「少しいいですかぁ? この世界のシウタさん、こんにちは。運命値が足りまして、ようやく私の次元に帰れそうです」
地球の学生服を着た少女が隣に立ち、自分を見つめていた。
じっと見つめられれば、吸い込まれるような感覚を覚える。
「お願いします、お話しませんか? もしも断わったら、この星々を灰塵に代えて、あなたを頷かせるしかありませんので~、お願いします。話を聞いて下さいよぉ。私が姿を出すと、この銀河の方、恐怖におびえて上手くいかないんですよねぇ」
エイリアン少女が、ぶっ飛んだセールストークをかまして来る。
自分は、頷き話を聞くこととした。
目の前の宰相は、恐怖で固まっていた。
――
「シウタ殿、このモヤモヤの中にお入りください。私の部屋へ繋がっています。こんなの酔いも飛ぶ。 自由を与える代わりに干渉しないとしているのに、接触してくるとは意外だ」
宰相が出した、黒いモヤのような空間。
さらわれた時も含め、これに入るのは2度目か。
そこから微かに風が吹き出し、懐かしい匂いがした。
意を決し、モヤモヤの中に足を踏み入れる。
すると、目の前には豪華な壁画が広がり、棚には高級そうな酒がずらりと並んでいる。
ほほぅ、出来る人の部屋という事か。まるで貴族の私室みたいだ。
宰相まで上り詰めれば、好きな酒が揃うってことか。
そして、一緒にもやもやに入ってきた少女は振り返って問いかける。
「で、この世界のシウタさん。どうやってこの銀河に来ましたかぁ?」
いつもありがとうございます。
頑張っている所ではありますが、時間が取れない週は少し大変でございます。




