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32 シウタから

シウタ


地面には、爆発クレーターがいくつも刻まれ、今だに火花が散乱している。

ここは 「決闘」 の名残をそのまま残した荒涼とした空間となっていた。


そんな中、戦場のフォースフィールドの端が不自然に歪んだ。


「シウタ、来るぞ! エイリアンは未来予知をしてくるからな! 3人はシウタのサポート、シウタは私のサポートに回れ!」


「「「了解!!」」」


通信越しにミリ軍曹の声が震える。


何だって言うんだ、だからと言って量産機で勝てると思っているのか。

まだやれると言うのは、ありがたい話だ。

飛び入りは大歓迎だぞ。


でもマジに、エイリアンなのか?

エイリアンなんて宇宙ホラーの代名詞だ。


ピギャー! と言ってお腹から飛び出て来る、今でも残るミームの擬音。

手の指の間をナイフで突く 『指の間トントン』 を真似する若者が続出したが、怪我人が出て社会問題に。

90年代の教師の 『顔面ドンドン』 の力により、その遊びは無くなったとされている。

まだ、教育の力が火を噴いていた時の話だ。


そして帝国量産機が、うねる様な音を上げながら突っ込んできた。


装甲に特別な装飾はなく、帝国軍の定番フレームに見えるのにブースター操作に緩急がある。

量産機が加速するたび、砂煙が巻き上がる。


自信はあるのかもしれないが 5:1 相手に突撃は、安直過ぎないか?

先ほどの決闘と同じことを仕返しさせてくれるとは、帝国も粋な計らいだなと思う。

1体を囲んでぶっ叩くゲームはいつだって人気で、本能や遺伝子に刻まれてる面白さだ。


「はいはい、いらっしゃいませ~。ご注文はビームライフルの弾でらっしゃいますか? たっぷりとご用意をしておりますよ。はい、ありがとうございました。また来てくださいね~」


どこかのバーテンダーのセリフが脳裏に浮かぶ。

照準が機体を捉え、青白い閃光が一直線に伸びる。


だが、命中したはずの一瞬。

汎用機はすでに姿勢をずらしており、ビームは空を切るようにかすめていく。


直ぐに標準を絞り、偏差撃ちを2発、3発と撃ちこむ。

が、まるで相手が予測しているかのようにブースターの噴射タイミングを変えて避けられる。


着弾地点の砂煙をかき分けるように、汎用機はさらに距離を詰めてきた。


ほぉ~ん? やってくれるじゃないの。


「シウタ、気をつけろ! 読まれてるぞ!」


刹那のタイミングで読まれるわけが無いだろうに。

軍曹の近接ロマンも結構だが、現実は遠距離の方が有利のハズだ。


この感覚、覚えがあるな。

いわゆる 「チート」 に準じた相手をしたときの、あの嫌な感じだ。

1フレーム目で判断、2~3フレーム目で対応してくる、結果そのものを捻じ曲げているかのような反応速度。


理論上は出来るかもしれないがそれは、ダメだ。

人は歴史を積み重ね、少しづつゲームの精神性を向上させてきた。

理論上できても、人が出来ない行動はチートと定義されたはずだ。


と言っても、これはまずい。相手はチートだ。

数の優位でごり押しして、囲んでぶっ叩くしかない。


汎用機は、両手に小型ヒートソードを握る。

二刀流だ。

揺らめく熱波をまとう刃、カッコいい所が許せない。


そして、仲間一人でも落とされたら致命的だ。

こうなったら友情、努力、勝利のチームプレイで倒すしかない。


でも、どちらかと言うと、個人プレイが目立つチームだと思う。

ミリ軍曹は単機で撃破数を稼ぐ所があるからなぁ。

今日ぐらい協力するとしましょうか。


溜め式砲撃ランスのヴォルテクス・エクリプスに通信を入れる。 


「イーリス先輩! まだ撃たないでください! エクリプスは溜めに時間がかかる、絶対に攻撃を救護のみに使ってください! 自分がけん制しますから!」


「了解!」


「ミラグロ先輩、中距離でビームマシンガンでけん制をお願いします。狙われたら援護と救護をしますから、攻撃して相手の手数を奪ってください!」


「了解だよ!」


「フェリシア先輩、後ろに通さないで下さいよ。期待してます。宜しくお願いします!」


「了解よ!」


そして、最後に。


「ミリ軍曹。伝えたい事があります。貴方がいなければ、今日、自分はここに立っていない。こうみえていつも感謝してるんですよ。こういうセリフは中々に戦場の空気が後押ししてくれないと、恥ずかしくて言えないですね。さて、続きは、あのチート機体を倒してからですか」


返事はなく、通信の向こうで息をのむ音がした。


日頃の感謝を、言葉で伝える。

社会に出てからようやく気づいた大切なことで、とても難しい。

どんな状況であれ、感謝を伝える事は後回しにしては良くない。


――


「未来予知が何よ! 一気に溶断してやる!」


フェリシア先輩がヒートソードを振るい、相手を狙う。

相手が読んでいたかのように腕を上げてガードするが、高温で装甲が溶けはじめた。


「ここで終わらすぞ! 私はシウタの続きのセリフを聞ききたいんだ!!」


軍曹が瞬時に踏み込み、ガキン! と音を立ててヒートソードに激突する。


その背後からビームライフルを発射。

瞬時に敵機が二人を受け流し、流れるように閃光を回避し、力点を利用した凶刃が二人に襲い掛かる。

まるで踊っているかの様だ。


「これが決め手だッ!」


救護に 『エクリスプ』 の超電磁ランスを高速で射出する。

相手コクピットを貫く勢いだが、予知したかの様に、超高速電磁砲も当たらない。

宙返りをしながら避ける、曲芸を見せる。


相手が何を読もうと、手数で押し切るしかない。

先ほどの一連のコンボで動きが鈍ったところを、ミラグロ先輩のビーム連射が後方を塞ぎ、逃げ場を完全に断った。


よしよし、囲んだな。


「一斉射撃だ! スコア稼ぎの思い上がった自己中エイリアンに帰還してもらうぞ!」


「「「了解!」」」


スコア自己中と言う暴言が心に刺さり、わずかに痛みを覚えたが、ビームライフルを連射モードに切り替え、光の弾を叩きこむ。


衝撃音が演習場に響き、爆発からエイリアン機がブースターから火花を吹きながら動きを止めるのが見えた。

やがて、見えなくなり煙の塊へと沈み込む。


「「「「やったか!?」」」」


少しの間、場を包む沈黙。


直後、隣を固めていたエクリプスが、唐突に砂塵の中で弾き飛ばされ、後方で煙が上がる。


遅れて視界に映るのは、装甲の一部が剥げ、ブーストを限界以上まで酷使し、猛突進してくるエイリアン機。


思わず下がり、機体姿勢を整えようとした瞬間。

敵機が、狂気を感じる直進ブーストの尾を引きながら、小型ヒートソードが閃光をきらめかせてこちらのコクピットをめがけて突き刺してきた。


ノクターンに焼け焦げたような穴が開き、コクピット越しに伝わる高熱。


敵機が止めを刺そうと、もう片手を刺そうと身を乗り出したその刹那、自分はブースターを逆噴射させ、相手機に覆いかぶさるように姿勢を崩した。


これを期待していた所もある。

まったく攻撃があたらなかった場合、やるしかないと思っていた。


敵のヒートソードをコクピットからギリギリ外す形で密着し、抱き合うように機体を抑え込む。


金属のボディがぶつかり合い嫌な音が響き、敵機が振りほどこうとしているのが伝わるが力の限り押さえつける。


「お前の動き、読めたわけじゃないが。強敵を倒すときは、これが一番だ。地球の少年はこういうのを見て育つからな。格上に勝つための自己犠牲の方法だ」


焦げた装甲の隙間から火花が散り、コクピットに警告音が絶えず鳴り響く。


分ってる、分ってるってば、ノクターン!

この世界は、死ななきゃ安いんだ!

命の価値はあっても肉体の対価は、無いようなものだぞ!


「頼む! このまま撃って!! 遠慮したら、一生恨みますよ!」


全力で叫びながら、赤く発熱する視界。

敵機のヒートソードの激しい熱がコクピットを溶かしてくる。


「負けたくない! 力を出し尽くせノクターン!!」


答えるように、ノクターンのフレームがうなるような振動を発し、余力を振り絞ったブースターが吹き上がる。

金属がきしみながら、敵機を拘束しつづける。


「各員! シウタを愛してるなら、撃てーっ!!」


ミリ軍曹の合図に合わせ、全力の火力を集中砲火だ。


軍曹、ありがとう。

勝った。

後は、祈ろう。


ビームの掃射が敵機の装甲を打ち砕き、砲撃ランスから放たれた閃光が敵機の腕部を吹き飛ばす。


轟音と共にエネルギープラズマが巻き起り、視界が全て遮断される。

そのまま吹き飛び、コクピットの中を熱と共にシェイクされた。


ノクターンはすでに制御を失い、敵機から弾かれるように地面へ倒れ込む。

衝撃で意識が遠のいていく。


最後の映像で見えたのは完全に動かなくって、火花を散らしながら崩れ落ちるエイリアン機だった。


――


「シウタ、シウタ! 聞こえるか!?」


通信じゃないな。

コクピットの外から、肉声が聞こえる。


ミリ軍曹が即座にノクターンの元へ駆けつけ、外装のロックをこじ開けようとしているのか。

熱でフレームが歪んでおり、通常の手順では開かないと思う。


ガコッ。


すげぇな。


半ば壊すようにして開いたコクピットの中で、朧気の意識でぐったりとしながら外を見る。


「シウタ、無茶ばっかりだな」


ため息混じりにつぶやきながら、焦げたスーツの自分を持ち上げられた。

かすかに息をしているのを耳元で確認されると、小さく頷いた様に感じた。


「・・・ハハッ。以前と逆のシュチュですね。助けられる方か。・・・おやすみなさい。・・・ミリさん」


なぜか穏やかな気持ちになり、視界が暗転する。

そのまま、意識を手放した。


――


目が覚めると、医療ポットの中でコポコポとしていた。


ピー! というアラームの音と共に目覚めると同時に、外の扉が開く。


勝って、生きたのか。

最高の強敵。そして、超楽しかったのを覚えている。

命をチップにしたドーパミン、本当にこの世界に来てよかったと思う。


でも、無茶して心配はかけられないな。


だって、ほら。

この世界には、泣いてくれる人が多いから。


その足音が聞こえてくる。


高身長が繰り出す、ブーツの硬質な音。

続いて、タタタッと軽快な底の薄い靴の音。

そして、コツ、コツと落ち着いたリズムで、どこか余裕がある様に聞こえる音。


3人の足音と共に、安心感が沸いてきた。


その後ろから、ガン!バタン!ドタン! とってもやかましいのも聞こえてくる。

大体、予想がつく。


何故か分からないが、また会える嬉しさに喜びが心を満たす。

羽織っている物が布切れ一枚な事を忘れ、再会へと抱き着きに行く。


――


――


――


帝国の本土で行われた決闘。

それは連邦と帝国が共に開催し、騎士達の武威を証明する場でもあった。


銀河中の種族達が見守る中 「残虐騎士」 の汚名がついていた、パイロット:シウタ。

生産拠点を巡る争いでは、幾多の敵を討ち、味方をも震え上がらせるほどの残虐な行動を取ったと言われていた。

その姿は、まさに血に取りつかれた残虐な騎士。


今回の決闘は、単なる騎士同士の見せ合いに留まらなかった。


エイリアン。

銀河的に見ても特異で、未来予知すら行う超生命体。

帝国の量産機を操って参戦を要求したのだ。

連邦と帝国は、この飛び入りを認めざるを得なかった。


その瞬間、全銀河が見守るビッグイベントへと発展する。


残虐の王子。

ヴォルテクス乗りで唯一の男性。

帝国騎士たちを倒していく姿は、噂通りの汚い手段を使う残虐な脳が沸騰しそうな程に闇落ち王子。


これでいいんじゃない? この方向で誰が困るのか? ヒール(悪役)が輝く方が、視聴率が伸びるんだよ。 更生させるな。 汚い手を使うプリンスとか最高だろうがよ! ドストライクで脳があああああああ! これ何かおかしくないです? でも、暗黒面に落ちた騎士とか最高ですわね。


と、銀河の世論が一気に 『ヴォルテクス乗りが一人ぐらい残虐でもいいよね、男性だし配慮しなければ』 と、更生をあきらめた時だった。


決戦の様子は、全銀河に中継されていた。

残虐騎士とされてきた王子が、仲間と共にチームプレイで最強のエイリアンを倒し、観衆の度肝を抜いたのだ。


息をするのも忘れるほどに、自己犠牲で決めた大戦闘。

倒れたエイリアン機の前で、抱きすくめられ気を失いっている姿は、まさに聖騎士にふさわしい。


その聖騎士を中心に肩を寄せ合うチームメンバーの姿が映し出され、轟くような歓声が演習場を満たした。


銀河中の決闘運営委員会は、規格外なこの成果を正式に認め 「聖騎士の表彰」 が決定する。


銀河連邦、そして帝国の代表者ら、各国の代表者がシウタ王子たちを迎える事となった。


SNSではさまざまなマッド動画やファンアートが溢れかえり、銀河ホログラム史上かつてないほどのフィーバータイムを起こしている。

かつての悪名は一夜にして塗り替えられ世界中で真の騎士は彼だった、という声が絶えない。


帝国皇女や連邦の少将も賛同し、今やシウタ王子は「残虐騎士」ではなく聖騎士として讃えられることになる。


「お兄様、あなたの闘志と仲間への信頼、そして勇気ある決断。これまでの汚名、すべて払拭するのに十分すぎる成果だと言えましょう」


~銀河決闘委員会議事録より~


――


シウタ


――


そんなこんなで今、要請があり、夜会パーティの懇親会に来ている。


『聖騎士の表彰』 だそうだが、嬉しくない。

辞退を申し出たが、アーレイン大佐が代わりに受け取って貰う事となった。


地球感覚で言うと 『聖女』 の称号みたいなものか?

拳で解決する主人公ばかりだ。


別に聖騎士とか要らない、多分ろくなことにならないだろう。

そもそも、ヒール(回復)の性能が弱すぎるし。

肩書は欲しいと思うが、ヴォルテクスに乗る以外の仕事が増えそうだから嫌だな。


とはいえ、今日は少し期待もある。

いつもの3人の監視がないうちに、こっそり早めに会場に入っている。

各国の要人が集まるこのパーティ会場なら、簡易的なバー・カウンターがあるはずだ。

そして繁華星の、どこから見てもあのバーテンダーがシェイカーを振っている。


あの3人が先に入った事に気づき、捕まる前に一目散にカウンターを目指す。


自分が一人で行動しているのに、気づき驚いた、女性の種族の方たちが次々と声をかけて来る。


「聖騎士殿、ダンスはいかがかな?」 「ダンスは、セクハラでは?」 「いや、その発想がセクハラでは?」


「田舎者め、密着のそういう雰囲気を悟らせないで優雅に踊るのがダンスだぞ。ダンスはいいぞ?」 「天才の発想ですね」 「いえ、そう思っている時点でダメでは?」


「なんだと? 決闘を申し込む」 「分かりましたわ、ダンスを申し込む権利ですか。受けてたちましょう」 


あれ、許された。

ダンス何て出来ねーぞ。小学生の時もそんな授業あったけど。

日本以外だと、イギリスでもあったかな。

外国も変んなかったな。

子供でもああいうのは、恥ずかしいから、国が変ってもやっぱり恥ずかしい。

みんなモジモジとする授業だった。 今思うと、何だ? あの授業は?? 


「ちょっと、すいません」 と、手で前を切る動作をしながら、バーカウンターへ走る。


「王子様、いらっしゃいませ~! どんなカクテルにいたしましょう?」


気前よく声がかかる。

この前、店舗れーぷしようとした女猫さんとは思えない。


そこへ、横からすっと割り込む影があった。


「フフハハ、当然、ロック10フィンガーだな? お疲れ様です、シウタ殿。この度は、殿下の件で色々と助かった。礼として何か報いたいのですが、何を望みますか?」


おお、アリエノールさん。これは、どうもどうも。


「でも、まずは。乾杯といきましょうか。アリエノールさん」


「ええ、賛成ですね」


「「カンパーイ!!」」


大きく乾杯の声を合わせ、ショットグラスを合わせた。



いつもありがとうございます。


落とした分、頑張ってみました。


次の更新が金曜~土のどこかになります。

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