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31 シウタからミリュネ

シウタ



帝国の巨大演習場にて、通常はヴォルテクスの訓練に使われるその施設が本日だけは特別に『パレード演習決闘』の会場となっていた。

整備されたフィールドには、薄青いフォースフィールドの壁が設けられ、見学用のスタンドが周囲を取り囲んでいる。


そんな中、ベルティア伯爵機は羽飾りの装飾を施された華麗な機体だったが、すでに片腕を失い、脚部も動力部分が火を噴いている。

それでも必死に後退しようとブースターを吹かしているが、動きが鈍い。


その上から、ゴリッという操縦スティックに伝わってくる衝撃音を伴って、ノクターンが馬乗り状態で伯爵機を踏みつける。


「ひぃ・・・!! おたすけなさい・・・!!」


通信越しにベルティア伯爵が何か叫んでいるが、音声が割れていて意味は聞き取れない。


コンソールの破損が深刻なのだろう。

そのまま、ビームライフルを肩から外して構える。


ライフルの先端から淡い青白い光が漏れ、伯爵機のコクピットをしっかりと狙う。


伯爵機が焦ったように機体をひねるが、破壊されている脚部では逃げられない。

ノクターンの脚部でがっちりホールドし、もう身動きなんてさせない。


「ベルティア伯爵様。何か言い残すことがあるなら、どうぞ? 指先のトリガーは軽い。それを踏まえて生に執着する、心に迫る台詞が聞きたいですね」


黒光りしたビームライフルの銃口をコクピットのフレームぎりぎりにまで迫らせる。


終わりを悟った人間は、この画面越しの恐怖にどのような台詞を吐いてくれるのだろうか。

戦場とは違い、決闘は手心があると思って、〇なないと言う前提で来たのかな?


安心して欲しい、転生してもベルティアさんなら悪役令嬢としてやっていけるんじゃないかな。

そして、貴族としての矜持がある台詞が聞きたいと思う。


金髪ウェーブの伯爵は 『恥をさらすぐらいなら、撃ちなさい!』 と、気丈に振る舞うだろうか?

それとも、恐怖に震え目をつぶっているのか。


冷静な心に、ふと暖かな光を思い出す。

こういう尊厳を踏みにじるような事をすると、絶対に怒鳴り込んでくる相棒の存在が温かく感じるのはなぜだろうか。


でもミリ軍曹はまだ気づいてないので、数で劣っている戦闘を優位に進めさせてもらおう。


「と、伯爵。失礼しました。こんな台詞、相棒に怒られてしまいますね。 聞こえていますか、もしもし? ベルティアさん、コクピットを開けてくれます? 開けてくれたら撃ちませんから」


直接通信でベルティアさんに優しく語り掛け、コンソール操作で音声外部通信を選択し

「美しいベルティア伯爵様が撃たれ無残な肉片にされたくなければ、動くなよ?」 と、全域につなげる。


喜んで欲しい、これが君たちの想像する 『残虐騎士』 だろう?

そもそも勝手に脳内設定をつけるな。

撮影権はどうなっているんだ? 肖像権、パブリシティ権は?

未来でもSNS真っ只中の時代、どうせこのシーンも切り抜かれて銀河ニュースで放映される運命なのだろう。

もう開き直るしかない、未来へ来ても人間の習性は変わらないらしい。

アイドルやヴィチューバなんて人権侵害のるつぼみたいな職業がよくできるなと思う。


この一手で、多数の敵機が一瞬でも止まってくれれば御の字なのだが。


そして、自分を囲んでいた帝国ヴォルテクスの動きが一斉に止まった。

十機もの機体が間合いを詰めるのをやめて、ホバリング状態でこちらを伺っている。


大変宜しい!

一瞬でも相手の動きを止められたのは、当面の目的としては十分すぎる成果だ。


さて、誰かさんがキレちらかして怒鳴り声が飛んでくる前に逆に怒鳴り込みますか。

だって、ほら。


「シウタァアア!!  『おーっと!!!  ミリ軍曹、そのまま敵を落としてもらっていいですか! 敵に止めを刺すのが戦場の掟ならばこそ! 騎士道も結構ですが、やはりここは武士道です! 決闘に出た以上、決着まで戦うのが戦場の習い。恥をさらすぐらいなら武名を守るため撃て! と、ベルティア伯爵もそう思っていますよ!』」


うるさいポップアップが矢継ぎ早に飛び出て来る。


「シウタ君? 邪悪すぎて明日から私達、帝国歩けないけど? 私達、仲間だよね」

「私達こんな悪名で有名になる事あるかな? 絶対飛び火するよね??」 

「責任取ってもらうしかない。婚約者は私達でどう?」


「なるほど。婚約者は私だな? シウタ、私ならお前を守ってやれる。どんな時でもだ」


ぬぐぐぐ、ミリ軍曹、男前すぎんか。

超カッコイイ。

なんか悔しいので、言葉には出さないが。


足元からカシューン! という音を立てて、コクピットハッチが開くと 「わたくしは降参いたしますわ! 撃たないでいただけます?」 と、聞こえた気もする。


そんな中、アーレ大佐のポップアップが呆れたように介入してきた。


「殿下、こちらへどうぞ。シウタさんあんな事を言ってますけど、撃ちませんわよ。帝国騎士たちに、撃ち込ませれば引きますから、その時に救出をどうぞ。帝国閲覧席にいらっしゃる、宰相にもお伝えしましたわよ。そのまま決闘の継続を各騎士に促して欲しいですわね」


その通りだ。

恐ろしいほどの、心の見通す力だ。

でも、帝国よりのアーレイン大佐だ。

変ってしまったな。自分は、とても悲しい。


そして帝国ヴォルテクスに動きがあった。囲んでいた帝国機は、一斉に武器を構える。

殿下か宰相に指示を出したのだろう。


だが動きを止める目的は達成できたし、そのまま押し込もうか。

陣形がこっちに有利に傾いたのを気づいてるか?

動きの止まったお前達をつるべ撃ちにしてやる。


すぐに操縦スティックを思いきり引き込む。

ノクターンのブースターが吠え、機体を跳躍させる。


直前まで立っていた場所に、敵のビーム弾が着弾し、激しい閃光と衝撃波が伯爵機を巻き込んだ。


ノクターンは馬乗りの姿勢から離脱し、宙を舞いながら後方へ飛び退き、ビームライフルの銃口を素早く敵機に向ける。


やるじゃん? 味方ごと、撃とうと思えば撃てるじゃん?

少年漫画でも味方ごと、撃ち抜いてたぞ。戦闘はこうじゃないとな。

そして、仙豆だ。食え。


ライフルの光を先端に収束させ、閃光を発射する。

帝国機が慌てて陣形を組みなおそうとするが、全てが遅いよね。


――


ミリュネ・ベグハルト


――


トンファーで頭部を吹き飛ばすと同時に、最後の一機が爆発する。

嗅ぎ慣れた破壊の煙の匂いが鼻をついた。


決闘は、今しがた終わりを告げた。

ほかの味方機も、あちこちでダメージを受けつつ動きを止めている。


私は操縦席で深い息をつき、ヘルメットを脱いだ。


「やっと終わったか。流石に大変だったな」


戦闘が終わった安堵感をじんわりと体に感じている。

だが、脳はシウタの事いっぱいだ。


今まで見て来た、どんなヴォルテクス乗りより非道。

全員が惚れていると言う気持ちを逆手に取られ、やりたい放題。

そして決闘中に伯爵機を人質に取る、魔族の様な所業。


更生させるには、どうしたらいいんだ?

分らせるにはどうしたらいい?


何となく、答えは出ている。

1人ではダメなら、3人だ。

仕方が無い。お互い協力して叩き直すしかない。

調子に乗らせておくのも、シウタのためにも良くない。

シウタ、覚悟しておくんだな。もうどこにも逃がさないし、これからは厳しくいくぞ。


決意を込めてシウタのノクターンの方を見る。

演習場の曇り空が、ノクターンの薄青い装甲を淡く照らしている。

その機体の肩口には、焦げ色の痕がくっきりとこびりついていた。


シウタは大丈夫だろうか。怪我なんてしてないよな?

今すぐ降りて、しっかり確認したい所だ。

無茶ばかりするから、どこかに傷や打撲があるかもしれない。

とにかく身体のあちこちをチェックして、痛いところがあれば手当てしたい。

ヴォルテクス乗りは、強がりだから傷を隠すケースが多いからな。


直感が 『厳しくいくって何? 脳みそ大丈夫? 沸騰してない?』 と、信号を出して来るが問題ない。

おそらく、沸騰している。


「シウタ、大丈夫か?」


通信が入る。


「ええ、おかげ様で何とか無事ですよ。ミリ軍曹も被弾しました? でも、大丈夫そうで良かった。

軍曹、聞いて下さい。もしかして人質を取ったように見えましたか?

あれは違うんです。戦略です。そう戦略です。 ハハハッ、自分が本当に撃つと思いましたか? そう思われるなんて心外ですよ~、ミリ軍曹。自分達の仲じゃないですか。

騎士道って、大切ですよね~。自分もそう思います。抵触しない範囲でおさえてみたんですよ。ほら、結果的に人質を撃ってないで、戦闘を有利に進められたでしょう?

鬼謀、策謀、知略。そもそも戦国の武将たちは・・・」


はぁ~、口が回る。腹立たしい。

私が舌戦が苦手と言う事を分かって丸め込もうとしている。

アーレ大佐やサリなら上手く返している所だろうが、上手くできない。


全力で脳を駆動させ、返そうとした矢先、コクピットのモニターに新たなポップアップが飛び込んできた。


連邦オペレーターからだ。


「少将、リリア少将からの通信です 緊急連絡とのことです!」


オペレーターの声が少し震えている。


「ん? リリア少将だと?」


嫌な予感しかない。

たいてい、少将からの急ぎの呼び出しはロクでもない話だ。


通信を受けると、ポップアップにリリア少将の冷ややかな緑の瞳が映し出された。


「ミリ軍曹と王子様、そして実働部の3人。聞こえるかい? 決闘はまだ終わりではない。帝国側から汎用機での飛び入りがある。連邦は、和平に伴い帝国の超級エースへの協力を確約した。そもそも殿下の意向でね、王子様がどうしても欲しいと言う事で連邦も協力させてもらったよ」


背中に冷たい汗が流れる。

どう考えても、連邦少将が殿下に帝国宰相に買収されている図が浮かぶ。

また、平和になるとすぐ利権で争うのか。

あの魔族ならやりかねないと思うが。


少しはアーレイン大佐を見習え。

私は少将のやりかたについて行く気は、まったくない。


帝国の超級エース。

この銀河にゲートワープで迷い込んだ、侵略型エイリアン。

銀河の一定の法則を無視するぶっこわれの存在。

アレは言葉を理解するが、見たものの本能的敵対心を煽る。


よく、少将がコントロールできたものだ。


「帝国の汎用機って、量産型ですよね? その機体で超級エースが挑んでくるって、どういうことなんです?」


「シウタ、いい。少将に話しかけるな、私が対応する」


聞くだけで血圧が上がりそうな、買収女郎の話だ。

私のシウタが汚れるように感じてしまうのは、気のせいじゃないだろう。


「相変わらず、嫌われたものだね。それぞれに立場と仕事があるのを理解してもらいたい。あちらの言い分では 『ついに帰還への運命値を手に入れましたぁ! 協力しますよぉ!』 だそうだ。

エイリアンの言っている事は良くわからんが、断る理由がない以上、こちらは受けざるを得ないね。軍曹、王子様、そもそも決闘を受けたのだろう?」


「・・・そもそも。少将が受けたのは帝国超級エースが来る時点で、連邦としてはまた視聴率と話題性で儲けが跳ね上がるからでしょう? ク〇が。そして、これを受けないでエイリアンが機嫌を損ねて怒り、生身でこられたらシウタを守れるか分からない。分かった、ここで受けるとしよう」


「懸命な判断だな、失礼する」


通信が切れ、思わず拳が空を切る。


ここに来るのかエイリアン。

帝国との戦争前に一度だけ見た事がある、アレは人の形をした何かだ。

この銀河中の人々がそう思っているハズだ。


「フェリシア、イーリス、ミラグロ! 全力でシウタのサポートに回れ! シウタ! アレは未来予知みたいな事をしてくるぞ! 全ての上を行く補助システムが相手と思え!」


「「「「了解!?」」」」


「シウタ。強敵だぞ。例え儀礼的とはいえ、お前に婚約届を書かせたりするものか。全力で私を援護してくれ」


同時に、大佐のポップアップが画面に沸く。

焦りの混じった大佐の声が、やりとりの騒音に紛れながらもはっきりと聞こえた。


「こっちは現在、殿下をとっちめてる最中よ。丁度、宰相が沸いてきてお話中だけども! 残念なお知らせがあるわ、本当にあのエイリアンが来るわよ! ここで退けば、この先どうなるか分からないわ! シウタさん、今度こそ正々堂々と撃破して未来を掴んで!」


大佐の忠告は、確かに的を射ている。

そして遠くの煙の向こうに帝国汎用機体の影が見えた。


タイラントのブースターの出力を再調整しながら、私は思わずつぶやいた。


「まぁ、仕方ない。徹底的にやるまでだ。シウタ、そうだ。これに勝ったら・・・、デートしないか?」


言えた。言えたぞ、驚くくらい素直に口をついて出た言葉だ。

戦場の高揚感に任せて、言えたぞ!! 私、よくやった!!


そして、ここで断られたらデート前にシウタとの既成事実を作ることになるな。

これは、もう仕方が無い事だ。ここまで煽られてキレない方がおかしいと思うぞ。


「ミリ軍曹、フラグってご存じですか?」

「ここで、デートの誘いは、縁起が悪いですよ」

「デートぐらいならいいんじゃない?」


「ハハハッ、ぜひ行きましょう。軍曹からのお誘いですから、エスコートを期待してますよ」


本当に性格が悪い男だ。

グググッ、経験が無いのを分かって言っているのだろうな。


思わず小さく笑ってしまう。

まずは、とにかく徹底的にやるまでだ。


すでに帝国演習場は先ほどまでの決闘で十分に荒れ、焦げた金属臭と砂塵が充満している。

空間が不自然なほど歪んだかと思うと、量産機体の単騎が遠くから突っ込んできた。


一般的な帝国量産タイプのフレームと見紛う装甲だが、どこか異様なオーラをまとっている様に見える。

塗装のパターンなのか、光の反射具合かまるで装甲が生きているようにうねって見えるのだ。

遠くから見ても明らかに普通ではない挙動。

装甲が生きているかのような不気味さを感じる。


「フェリシア、イーリス、ミラグロ! 位置取りを変えろ! 来るぞ!」



いつもありがとうございます。


カクヨム様に投稿だけ始めました。

読んで知ってもらえたと言う、動きとなりました。

1か所だけだと限界があると言う事と、自分なりに解釈と納得が出来るようになりました。

このランキングのグレーゾーンにイライラするのは、よくない。

ラブアンドピース。ヘイトコントロールを上手くしないといけないね。


でも、人間工学的だと、人は物を放り投げだり八つ当たりする生物だと思う。

昔、ファコンや、スーファミ、プレステのコントローラを投げるみたいにだ。

でも自分が悪いんじゃなく、クソゲーが悪いんじゃないかな。クリアー出来ねーゲームってなんだよ。


それから月日は流れたが。よくマウスにもバンバンとやる。

人は、なんて愚かなのか。


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