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3 シウタ

シウタ


「ミリ軍曹殿! 脳にドーパミンがあふれ恐怖を感じておりません! 武装はマシンガンと、近接用のトンファーで宜しいでしょうか? 近敵しだい戦闘行動に入ります!」 


自分のテンションが上がって、こんな感じになっている。

ゲームの記憶が状況をトレースしている。


「奇遇だな、私もだ。脳内がドーパミンの嵐だよ。なぜなら運命だからだ。 そうだ、受け入れよう。 この歳まで恋愛ごとに興味なんてなかったが 『ミリさん、すみません? 武装は近接のトンファーでオートで攻撃態勢を取ってくれるんですよね?』」


「今、何を口走った? あー、そうだ。近接は適切に攻撃してくれるぞ。素人の場合は、緊急時でいい。乱射で威嚇するんだ。 そして、帝国新型は光学迷彩と不可視でレーダーに映らない。 シウタの 『種族の力』 に期待している。科学技術こそ最強だと思うが、やはり 『種族の力』 は馬鹿にできないな」


後ろから恐竜の様な気配に追われているのを察知しているが、レーダーには何も映っていない。


乗るときにこのヴォルテクスだったか、この機体の全体を見た。

ヴォルテクスの機影は、どこか人間の武道家を彷彿とさせる。筋肉を思わせる装甲は、美しいと思う。


そして、気配の方向に機体を走らせる。


最高だ、近接機体のヴォルテクス。

重量が乗った大地を蹴る音が一定のリズムを刻み、脚部のブースターを噴射させて、重厚な機体を軽々と前進させる。

加速にかかる重力がたまらない。


「ググッ、優秀だな。シウタ、もしかしてヴォルテクスの軍事関係の業者か? 新型を察知できるなら、勝目が出てきたな」


「いえ、食品機械の課長代理でした。恥ずかしながら今は無職ですね」 「全然いいぞ、養うから。いつも家に居てくれればいいからな、私以外の女と口を聞くなよ? あー、すまない。脳から出て来る台詞だ、なんだこれ?」


知らんがな。

機体の首を上げて空を見るが、何も見えない。

もう少しで、気配との邂逅だ。


「はははは、ミリさん。これ撃たれたら反撃で相手を落としていいんですよね。操作の感覚を取り戻してきました。いいですよね? そうだ、種族の力でしたか? セッガユーザーは、確かに種族の力だ。 今でも色あせない最高の作品達だ!」


返事を聞かずに前に出る。

軍の規律だったら、懲罰だろうか。

だが、今は無職でミンチになったら転生までついてくる。

今やらずにいつやるのか。


気配から砲撃の感覚があった。

直線状の砲撃から距離を縮めるために、斜め前に加速して動き着弾との時差でギリギリ交わすのだ。

そして、右前に動いたら偏差うちで狙わるのを回避するために左にへとジグザクに動く。

高機動の近接の常とう手段だろう?


レーザー砲撃をギリギリで避けると、あたりに爆風と砂塵が舞う。


「うおおおおおお?! やるじゃないか! でも、コクピットの装甲が無いから当たったらどうなるかわかるな?!」


「ミリさん、当たったら許して欲しい。転生の時に責任取りますよ。でもいけると思います。もう射程圏内だ」


「そうか、責任取ってくれるのか。もう好きにやっていいぞ!」


ゲーム脳で申し訳ない。

でも、捕えたぞ。


「ははは、恐竜さんそこですか。恐ろしい気配ですね。ハハハハ! ソーセージの原料となれ!」


トリガーに手をかけ、左右の上についているボタンと同時に押す。

ズガガガガガ! と、凄まじい発砲音が大地を震わせ、閃光が空を切り裂く。

無数の弾丸は、敵機を容赦なく捉えた。


脳に直接、快感が来る。破壊と力のカタルシス。


何かで読んだ、人間が殺戮と破壊のアニマルって説、信じますよ。

人はこの破壊の衝動を押さえ、社会性と言う矛盾を得て暮らしているのか。


ギュウウウウウン! と金属がひしゃげる不協和音と共に、弾丸の雨が光学迷彩を見つけ、直撃するたびに透明だった機体が輪郭を浮かび上がらせ、装甲の一部が露出していく。


ドゴォンと爆発音、透明だった姿が完全に露わになる。敵機の装甲は蜂の巣のように穴だらけで、煙と火花を吹き出していた。


機体はフラフラと地面に落ちて来る。


そのまま距離を詰め、トンファーで殴りこみたい。

自分にこんな狂暴な面があったのか、と気づく。

地球の暮らしの日々のストレスがそうさせているのだろうか。


反撃に備え、いつでもスティックとフットペダルに足を添えている。

そして誰もが狙われている着地硬直に合わせ、打ち返すだろう。相手も素人じゃないはずだ。

機体系のゲームのセオリーが心に生きている。


敵機は、黒を基調としたメタリックな装甲で爬虫類を思わせるデザインをしていた。


「ミリさん、次の射撃攻撃をかわして飛び込んで殴りに行きたい。どのボタンとトリガーですか」


後ろの相棒をせかす様に、先ほどからギュッと挟まれているふとももをギュッと触る。


「あひぃいいいいいい! なんだこれぇえええええ! 許して! 今、入力したぁあああからぁああ、緑にロックオンしたら前後に倒してトリガーを引け!」


「承知致しました!」


案の定、敵機のトカゲは着地と同時に、手に持っている銃のビームを打ち出してきた。


わかる。

近接の圧力に負けて、撃ってしまうよね。

でも、その硬直が命取りだよね。


ギュッと左右によけ、加速重力を感じる。

そのまま飛び込み、トンファーで殴りつけると、ヴォルテクスのコクピットの隙間から金属片が無数に入り込んだ。


破損機体だったのを思い出した。とても、危ない。


ビームでコーティングされたトンファーがトカゲ機体の脇腹を貫き、轟音と共に吹き飛ぶ。

そのまま、後ろに走り少し、距離を取りながら機体へマシンガンを弾切れまで連射する。


ドン! と爆炎を上げて対象は沈黙した。


「対象は沈黙した。そこまでだ。 おや、震えているな。まさか、これだけ動かせて、初めてとはな。誰もが最初はそうだろう。 私も初めての感触だ。さて 『何でもする』 と言ったのを私は忘れてないからな? あー、戦闘がおわり脳が冷静になって、やり取りの計算を始めている。私は、こんな狡猾な一面があったのか」


体が震えている。

安心感か、脳のドーパミンが切れたからか。

それともこの現状に震えているのか。


自分を抱えている、ミリさんの手をギュッと握る。

片手だが、この安心感よ。人の温もりのなんとありがたいものだろうか。


「そうだ、式はどこで挙げようか。絶対幸せにするから『ミリさん、また敵意の気配が2つ来ます』」


終わりじゃないのか。


「まぁ、そうだな。結婚したら豹変するケースもあると聞く。まずゆっくりと、お互いを知った方がいいと思う。そうだな? 聞こえているか? 私の脳みそ? この辺が妥協点だぞ? シウタ、中隊規模が来るのは分かっていた。 こいつらはレーダーに映るか、2機か。 レーザーマシンガンのリロードをしておく。 おそらく、この新型の回収かサポートだろう。 一度引くぞ。追われた場合・・・、戦闘はやむを得ないだろうが」


「承知致しました」


心のどこかで追って来てくれないかと、思っている。

自分は、こんなに破壊を好む性格では無い・・・? いや、ウソだ。

いつも、FPSでもスニーキングゲームでも背後から敵を撃つのが好きだった。

思い返すと、ゲームは殺戮の本能があるから、人は面白いと感じるのだろうか。


――


ヴォルテクスが大地を踏みしめるたび、土埃が巻き上がり、地面が微かに揺れる。

ミリ軍曹の指示に従いにもう一つの拠点に向かい進む。


頭の中は、先ほどの戦闘の余韻で溢れていた。

記憶を思い返すと、ゲームセンターの筐体でしかこの勝利を味わったことが無い。


記憶がフラッシュバックする。

灰皿ソニックブームの修得者、台押しお兄さん。台パン語源のチンパンジー達。

そして、負けるのが趣味なのかとキレていい理由を虎視眈々と探す連コイン、プレデター。

いい思い出ではないね? ろくでもない、ろくでもない記憶だ。

思い返すと民度〇ソすぎる。


オンライン対戦ではだめなのだ。感じ方が薄いし、筐体より性能が悪すぎる。1フレームを見切ることに回線が追いついていない。正直操作性が〇ソ。技術は上っているかもしれないが、15年前の操作性と比べると、快適性が〇ソ。あんなもんできるか。

光の速度が地球一周に約秒0.13秒。それから液晶への表示遅延。オンラインで得たのは劣化した未来で、あの頃はもう絶対に戻ってこないんだ。

そうだ、100円がかかる勝負に意味があったのか。

命をチップにした久しぶりの格別な脳内ドーパミンに泣けてくる。


密着して後ろに座っている全身骨折のミリさん。

自分の肩にあごを当てて、首筋に息を吹きかけて吸おうとしていて数分前まで理想の軍曹だった存在に聞き返す。

そうだ、ダルがらみと言う事にしよう。

緊急時だし、お世話になっているので強く言えない。


「この世界は、素敵だと思いませんか? ミリさん、あの改めて自己紹介をしたいのですが」


「フーッ、フーッ、いや、大丈夫だ。シウタの事なら何でも知っている」


何を、今さっきあったばかりでまだ何も知らないでしょう。

自分は、中距離~遠距離型が好きなんですよ! 嫌って程、近距離から中距離と戦ってきたから動かせますがね?!


はぁ~、近距離使いはこれだから。

脳みそ筋肉か。


お腹に当てられていたミリさんの手をどける。


「あー、なるほど。教育が必要か。確かに、自己紹介は必要だな。私が、ミリュネで、誰がシウタか。今一度分らせる必要があるな」


軍曹っぽいけど、なんかヤバイな。

会社務めの時のキレた、部長の雰囲気がする。

立場から詰めれられそうで、怖い。


「ミリさん。もう大丈夫そうですか? あの~、自分ですね。この星に来たばかりで、生活基盤が無いんです。 助かった仲と言う事で、あの~、その。軍曹殿。何か、お仕事はこの星でありますでしょうか? 田舎者の就職希望者です」


「うんうん、大丈夫だ。何も心配はない。このミリに任すと良い。こう見えても、屈指のヴォルテクス乗りでな、うん。私と暮らそう。では無くて、えー、人族の男は私の近くで暮らすと良いだろうな。ああ、そういう意味では無いぞ? 単身で連邦王国に職を探しにきたのだろう? たしかに! 男ってだけで即採用だが。では、ないな? せくハーラーるの価値観の違いがある、すまない。連邦王国のネッコ、イッヌ族は、男性が珍しくてな。 もうなんだ、上手く説明できない。 好き、私の目の届く所に就職しよう、これだけヴォルテクスに乗れれば採用だよ。シウタ」


うわっ、超うれしい。

確かに、好きになるわ。軍曹殿。

自分も好きだわ。でも女性としてでは無いかもしれない。

すまん。


そんな事を話していたら、後ろから気配があった。


来た、来た、来た。

レーダーにも敵機表示のマーカー映っている。


「ハハッ、ミリ軍曹、追っ手を倒すとどうなりますか、敵は完全撤退ですかね?」


「楽しそうだな。新型がやられただけで撤退ものだろう。どれだけの被害がでるか計算できないからな。中隊は多くて6機、大破機体の回収を合わせたら、2~3機が動けるだろう。 2機だ。シウタ。やれるか? あー、一緒にミンチでもいいぞ。最後の瞬間まで肉が一緒だしな」


サイ〇パスってませんか、軍曹殿。

でも、やりたい。やりたい。


「やりたいです。ミリ軍曹殿。こままだと追いつかれるのでしょう?」


「シウタ、すまない。 加速が人族に合わせた加速になっている。まだ出力がでるのだが、今の私も、シウタも耐えれないだろう? あ、私はやりたいぞ。私は、拠点に戻れたらすぐ治療ポットでなおるからな。治ったらすぐやるぞ」


ぐぐっぐぐぐ、たしかに。

戦場、素人であるし、加速重量が、かなりキツイ。

近距離機体だもんな、本来の加速がこんなもんじゃないですよね。


うーん、最速で、一機に格闘で致命を決めればやれなくはないか。

「ミリ軍曹、好条件での就職を希望します。やってみます。もう少し出力を上げてください」


「はいはい、家庭内就職に案内だな。最速で1機落としが条件だ。無理だったら、手傷を与え離脱だ、良いな?」


「ラジャアアアアアアアア!」


と、同時に機体を反転させる。

物凄い重力がかかるが、脳からさっきより多くドーパミンが出ている。

高揚感以外、何も感じない。


赤いマーカーに向かい突っ込む。

レーダーにも映るし、気配も分る。


砂塵を巻き上げながら進むと、敵機は、ブースター音を響かせながら素早い軌道で間合いを取って来た。

距離が一定に保たれる中、敵機のビームライフルが十字砲火をしてきた。


空に浮きながらの中距離射撃は、硬直を生みませんかね?

反動ってご存じか、未来でも物理エネルギーの法則は無視できないと思います。

遠距離の高機動のフォルムはしてませんよね。 見た感じは、鉄人形だ。

射撃時は、地上に居ないと不利じゃないですか? 法則は、法則ですから。


1発目を潜り抜けて、2発目を片方から変速撃ちをされるも飛びあがり、前に加速する。

3発目を避けると射程範囲に入った。


連射でマシンガンを撃ちっぱなす。

こうなったら、後ろ向けて逃がさないからな。

友軍をサポートするように、もう1機体は動くだろう?

本命はもう片方だよ。


マシンガンで相手の装甲を削っていると、もう一方が距離を詰めて相方と引き離そうとしてくる。

引き離そうと、前進運動ご苦労様。

教科書の様な動きだな。


「ミリさん! 軽い被弾覚悟してください!」 「気にするな。シウタの首筋の方を見ているから」


えっ、なんだ? 気にするな! だけ聞こえた。

後は、脳が聞かないようにしている。


マシンガンの方の手でコクピットを隠し、片方に狙いを変え突撃する。

威嚇で軽いバルカンみたいなのが飛んでくるが、この距離でビームはうてないだろ?

ブーストダッシュで飛び上がり、一気に間合いを詰めた。

ビームライフルを蹴り上げトンファーを突きさすと、装甲が砕け、光と爆発の中でその機体が地面に落ちていく。


左にブーストを出し、救援のビームライフルを避ける。

焦らないで安心して欲しい、次はお前だよ。


落ちて行った相方の方にマシンガンを向け、決定的なとどめを刺すふりをする。

「ハハハハハハ、向かうしかないでしょう」 「それは、正直ダメだが。そういう無慈悲な一面も好きだ」


どうした、軍曹。

できたら、もっと叱って、褒めて欲しい。

これで、足りてるのか近接使いに聞きたい。


敵機の慌てた様子を感じた。

ブーストで距離を詰めて来て、敵機体の近接の振りおろしをぎりぎりまでひきつけ避けて、回転しながら頭部を破壊する。


ゆっくりと落ちていく機体に、マシンガンを乱射し爆炎が起る。

これで決着だろう。


「任務完了! さて、ミリさんこれから、どうしたらいいですか?」


「シウタ、見事だ。十分な戦果だ。帝国は撤退するだろう。拠点に帰ろう。敵新型にやられすぎて、次の救出部隊を相手にする余裕はない。痛み分けで決着だ。 ヴォルテクス乗りの誓いに乗っ取り、敵機は回収させてやれ」


良くわからんが 「承知致しました!」

誓いとか超かっこいい。


そして、おっしゃる通りだ。

死体蹴りは、道義に反する。

のか?


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― 新着の感想 ―
やはりオンラインはゴミ。機体がユーザーについてこないとかね
トンファー!? アファームドか!? 軍曹はアハァーンムードになってるが!
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