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29 シウタ

シウタ ~帰り際に囲まれて~


「こんばんは、ベルティア伯爵。今日は月が綺麗ですね。ハハハ、殿下を明日まで預かります。そこをどいてくれますか? どかないなら、このまま殿下を殴りつけます。

命を粗末にすると痛いんだと、二度としないようにク〇ガキをDV(折檻)して脳に教えないといけませんからね」


不穏極まりない発言をかまし、ホログラム通信越しにベルティア伯爵を脅す。


「シウタさん、帝国皇女を人質とか良く出来ますよねー。世界の敵にでもなる気ですか? この映像、銀河中に発信されていると思いますよ?

あれ? と言う事は、これ私も映ってますよね? ああああああああ! 私も明日から残虐騎士の仲間入りじゃないですか! これじゃあ、新しい彼氏とか絶対に見つかりませんよ! いさぎよく、結婚して責任取ってください!」


「あのの、お兄様。おひざに抱えて頂きまして、大変恐縮なのですが、何かおかしくないです? 言いたいことはわかります、余が不安定なのはわかります。

それでも余を賭けた勝負に出るのは余なりの理由があるのです。こんなに脳に快楽物質が溢れる程に出ていい物なのです? あの日、お兄様に治療を受けた日からいつも夢を見ているようです」 


なんだなんだ、どこから突っ込めばいいんだ。超うるさい。

操縦中に邪魔をするんじゃない。

家にランチャーをぶち込まれて、ブチ切れている敵機が目の前にいるんだぞ。


最大でも二人乗りが限度のコクピット。

自分とサリ伍長、さらに殿下までもが抱える様に加わり、まるで缶詰め状態になっている。


殿下はひざやら肘を押し込んでくるし、サリさんは謎のリズムで膝をぶつけて攻撃して来る。


操縦がマジに危ない。

命がかかっているんだぞ。分かっていますか?


そして皇居から帰宅中、ベルティア伯爵に囲まれている。

ならば殿下を有効活用しようじゃないか。


画面の視界越しに見ると、半円を描くように並んだ多数の敵機たちが徐々に間合いを詰めてきている。


そう。

ベルティアさんが乗って居る司令機と思われる、伯爵の紋章がついている機体にホログラム通信をしている所だ。


「少し騒ぎすぎではありませんか? 余をさらった代償としては当然かもしれませんけれど」


メンヘラのお前が 『さらえ』 と言ったんじゃろがい。ぶん殴るぞ。

お前、テラスから〇び降りたよな? マジに正気じゃないぞ。


ベルティアさんを脅迫するため、コクピットハッチを開けながら、膝の間にいる殿下の首に腕を回しそのまま手をグイッと捩じ上げるように抱え込こむ。


まさに人質を取る形だが、ここからどうしようか。


「サリさん、先の尖ったものとか持ってない?  これだけで十分な脅迫になるかな?」


共犯者のサリさんに聞くが返事がない。

隣を見るとサリ伍長が目をつぶって、耳を塞いでいる。


もしもし、伍長。

戦場で目をつぶっていては仕事になりませんよ。


そして、腕の中の殿下が少しだけ暴れる。


「あぶっ、なんでです!? 最高にエクスタシー!? 脳よ、だめです! 行かないで! なんでです!? 最高に気持ちいい!!」


と、言葉を残し首がガクッとたれ下った殿下が大人しくなった。


殿下は演技派か? ぐったりとしてた方が映りがいいよな。

従順で大変宜しい。

大使館へ戻ってもこの感じでお願いします。


処理しきれない状況の中、ベルティアさんの金髪のウェーブがホログラム画面に映った。


ほら、そこを退くんだよ。

敵機にやられるぐらいだったら、自分は殿下を害すぞ。


「本当に御せない、残虐騎士ですこと。人の家の玄関を爆破し、殿下をさらうとか悪の巨塔でありませんか?」


「ベルティア伯爵、決闘承諾の訪問ですよ。あまり自分を、舐めないで頂きたい。都合のいい男でも、ただの玩具でもないってことを殿下にも理解して頂きたい。と言いたい所ですが、この状況では信じてもらえませんよね」


この状況で説得力がないよな。

でも、白い塔なら見た事あるぞ。


「はい、殿下の命が惜しくなければ、どいて下さい。この状況、わかりますね? 後、殿下が自分から、さらえと言いました。そこだけは信じて欲しい。 人の家にランチャーをぶち込んで信じろとか何を言うかと思われていると思いますが、信じて欲しい」


「ベルティア、後でここの台詞シーンカットしておくのですよ」


殿下、お前は寝ていろ。


「もー、シウタさん。私はどうして、邪悪な現場にいてドキドキしてるんですかねー? 絶対これ、小惑星帯旅行効果(吊り橋効果)ですよね。はぁ~、ヘラる殿下の気持ちが分かります。これで手に入らなかったら、刺しちゃいます」


「ちょ、ちょっと、伍長。黙ってくれます? この状況で第三者の意識なのが意味わからない。これ、共犯ですからね。あと、殿下も中途半端に頭を回すのをやめてもらえます? 一触即発の空気を読んで欲しいのですが? 今、交渉中ですから黙っててください」


いや、もう、ここで伯爵軍を落とすか?

メイン武器なしで20機ならいけるか?


そして、腕の中の殿下が提案をしてくる。


「お兄様、ベルティアだけ連れて行きます? それなら当事者同士でお話できますね」


何言ってんだ? 殿下も当事者ですが?

銀河全体の大衆の前で、自分に何をさせたか覚えてないのか?

教育が必要のようだな。


「まぁ・・・、確かに」 そうかもしれない。

話し合いが必要かもしれないな、特に殿下には。

甘やかしていい事が無いと思う。


殿下がニッコリと笑い、ベルティアさんに話しかける。


「ベルティア、貴方だけついてきなさい」


その言葉と同時にスーッと伯爵軍が左右に別れ、伯爵機が殿下へ礼のポーズをする。


それが、格好良くて何か悔しかった。


――


大使館のゲートが静かに開き、ヴォルテクスが滑り込むように着地させる。


息をつく間もなく即座にコクピットを開け放った。

缶詰め状態からようやく解放され、外の夜気を深く吸い込んだ。


「はぁ~、少し抜け出す夜空のデートが大冒険になりましたよねー。シウタさん、あの返事はゆっくり考えてくださいー。私もゆっくり考えたいと思いますから」


サリ伍長は大きく伸びをしながら、機体から降りていく。


なんか、こっちが飽きられ捨てられそうなセリフだ。

これから、サリさんのご機嫌を頑張って取るとしようか。

この職場、ライバルがいないのが良いよね。


一方、ひざの上にはまだ殿下がちょこんと乗っている。

手を差し出してエスコートを求めているようだが、襟首を掴んでぐいっと引きずり下ろした。


事前にアーレ大佐へ連絡を入れていたおかげで、正面では大佐とミリ軍曹が出迎えていた。


「シウタさん。伯爵家、爆破の映像がニュースで流れてたわよ。殿下もいらっしゃるからまずは中へ。外交特権でシウタさんを逮捕はさせないから、話し合いましょ? ふぅ、うちの王子がどんな性格か分かったかしら」


「シウタ、さすが私が惚れただけあるな。思っててもアレは出来ない。明日は派手に暴れようか」


「「でも、シウタさん。サリ伍長と一緒の内緒ごとじゃなくて、一言、言って欲しかったわ」」


怒られると思いきや、理解がある。

『今からランチャーぶち込んできます』 とは、一言も言えないだろうけども。


「そうですね、おっしゃる通りでした。反省してます」


二人に向かって頭を下げる。


そして、連邦の方がリベラルだな。

帝国は男女観の考え方が古いと思う。


後ろの暗がりからヴォルテクスのエンジン音が聞こえた。

どうやらベルティア伯爵の機体も続いて到着したようだ。


夜の帳の中、全員で大使館へ移動した。


――


『ここでホログラムニュースをお伝えします』


室内に入るや否や、ロビーの大型ホログラムスクリーンが目に飛び込んできた。

ニュース番組が映し出されており、大々的に報道されているのは「皇女拉致」の衝撃的映像だ。


『速報! 残虐騎士、皇女を誘拐! その衝撃の瞬間のホグラム映像を独占入手!』


画面には黒いオーラを纏う自分が、コクピットを開きながら殿下の首を腕でホールドし手首を捻じ上げている姿が映し出されている。

「今日は、月が綺麗ですね」 と、セリフを吐く月の下で輝く自分が映し出され、このシーンだけがMAD動画の様にリプレイされていた。


「うわぁ~不祥事を起こしたアイドル、みたいな映像になってますねー。あ、私、映ってない! 完全消去システムで削除されたんですか? よかったー!」


不祥事は誰が起こしたんだ? 自分か?


「殿下、このベルティア家の技術を惜しみなく使いまして、これの作成をいたしましたわ」


後ろではベルティアさんが金髪を揺らしながら、嬉しそうに報告していた。


「ベルティア、貴方にこのような才能があったとは思いませんでした。貴方を軽く見ていた所があったかもしれません、余を許して欲しいのです」


「殿下! 何と言うありがたいお言葉でしょうか」 と、殿下と抱き合うベルティアさん。


ここは、地獄か。

先ほどの人の話聞いてましたかね、男は玩具じゃねーんだよ。


その内容はさらに過激なテロップで彩られている。


『明日、決闘。 帝国に裁かれる残虐騎士を見逃すな!』


なぁにこれ?

大体、こうなると予想ができたけども、実際見るとやべぇな。

脳を破壊する気か。


そして、ヤバイ。

いつものヴォルテクスから降りた時の眠気が来た。

だいぶ慣れてきたが、まだどうしょうも無い眠気がある。


そこにアーレ大佐とミリ軍曹が現れ、話を始めた。


「殿下、ベルティア伯爵、うちの王子様の事を分かって頂いたでしょうか」


ミリ軍曹がニヤリと笑う。


「うちの王子様は、強烈だろう? 簡単に言う事を聞くと思っていたら甘いぞ」


すると、殿下がどこか得意げに微笑む。


「王子、たしかに余とピッタリな二つ名ですね」


そしてベルティア伯爵は金髪のウェーブを揺らしながら、話始めた。


「むむむ、シウタ騎士様。確かに配慮が欠けていたかもしれませんわ。でもですね、どちらかと言いますと、殿下がのり気で『ベルティア、黙りなさい』」


「・・・」


おお、話せば分かってくれるのか。

話が早い。


「あっ、でも決闘はしましょう。殿下、ベルティアさん。もう予定に入ってるのでしょう? 気に入ってるんですよ、ベルティアさん。根性が良いと思うんです。殿下もベルティアさんも、ヴォルテクスに乗っている貴方達は凄く素敵です。そこは敬意で答えたい」


「気に入ってくださるんですね。嬉しいですわ、残虐騎士様。根性がいいと褒められるのは嫌いじゃありませんが、その敬意は明日の勝者に対して捧げてくださると嬉しいですわ。それと家の修理代は頂きますからね」


すまん、ノクターンを得た事により、過激な報復になった。

今は反省している。


そして隣に居たミリ軍曹の裾を引っ張り、耳打ちをする。

眠気が限界だ。


「ミリ軍曹、ごめん。意識が限界です。帝国にこの弱点を悟られたくない。上手く寝室へ連れてって欲しいのですが」


まぶたが今にも落ちそう。

高速道を運転している時のどうしょうも無い眠さに似ている。


ミリ軍曹が静かに頷く。

そして、口を開く。


「それじゃ。シウタと寝るから、この辺で失礼させてもらうぞ。すまないな、超級エースの私の特権だ。失礼する」


その一言に、大使館ロビーの空気が凍りつく。


軍曹?

それ、大丈夫? 弱点もろ分りじゃない?

まぁいいか。限界だ、肩を貸して欲しい。


ミリ軍曹に支えられると、全員がざわめく。

そして、夜の廊下を何とか歩き出す。


アーレ大佐やサリ伍長、殿下やベルティア伯爵までもが、何やらあれこれ話しているが聞き取る余裕は、まったく無かった。


――


そんな、地獄のニュースの余韻を夢でうなされながら、それでも朝はやって来る。

頭の中ではMAD動画が繰り返し再生され、グコグコ動画の初期の様なカオスを思い出す。

まるで脳がトリップしているかのような感覚に襲われる。


なんだか外が騒がしいのでベットから起き上がりカーテンをそっと開けると、視界に飛び込んできたのは大使館の敷地外にまで溢れかえる人だかりだ。


さらに遠方からドローンの姿が大量に浮かんでいる。

ホログラムカメラを携えた記者やギャラリーが、お祭り状態でパシャパシャしていた。


なんだろう。

また殿下を人質にしなければいけないのだろうか。


即座に着替えを済ませロビーに降りると、サリ伍長が疲れたように微笑んできた。


「視聴率100%で、銀河中の目がこちらに注がれている感じですねー。これ、どうなっちゃうんでしょう?」


どうなるんでしょうか。

朝食後に朝食を済ませたら、アリーナに 「ノクターン」で向かうとしようか。


2人で食堂へ向かうと、今日の大使館の料理は豪華なビュッフェスタイルだった。


テーブルの中央には巨大な皿が鎮座しており、その上には見るからに何かの大きな肉塊が見える。

照りのあるソースがかかり、スパイスの香りが鼻をくすぐるが、元はどんな生物だったのか分からない。

牛でも豚でもこんな姿形はしていないと思う。


手が少し震える。

おそらく帝国の珍獣か何かを調理したものに違いないと思う。


「シウタさん、お肉おとり分けておきましたわ。今日の打ち合わせの会食としましょう?」


アーレイン大佐のありがた迷惑な手際の良さにビビり散らかし、奥を見ると笑顔で手を振ってくるミリ軍曹と目が合い、控えめに手を振る殿下の姿が見えた。



ごめん。


ストーリーが崩壊してきた。

力を振う時にそれなりの理由が無いと、なけなしのストーリーが崩壊してしまう。

力を振う時にはそれなりの文量による理由付けが必要だったんだ。

その辺を分からずに書くと、大変な事になってきた。

こうなるとは、思っていなかった。この作品、上質なラブコメじゃないですか?

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