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28 シウタ

シウタ


サリ伍長が茶色い髪を揺らしながら駆け寄って来た。


その姿に目を奪われる。

何というか、未来を信じ、その輝きを全身で表現しているように思う。

彼女の笑顔に圧倒され、言葉が出る。


「サリ伍長、お疲れ様です。 何て言うか、素敵です。輝いてますよね」


人はこの輝きをいつ無くしたのか。

幼い頃、何かを作ることや誰かのために動くことが、単純に楽しかったはずだ。

時は流れてただ義務をこなすだけになった時、輝きを失ってしまったのか。

もう覚えていない。

男の子は 『何か』 を落としたことに気づき今でも探している。


そんな本心から出た言葉に、彼女は照れくさそうな笑みを浮かべた。


「えっ、えっ? なんですか?」


戸惑いを隠せない声。

ひと呼吸置き、勢いに任せて言葉を続ける。


「待ってました。サリ伍長が居ないと、抜け出せないじゃないですか。あの、二人で抜け出しませんか?」


言ってしまった。

これから起る先の未来を想像し、胸が高鳴る。


驚かせてしまっただろうか。

彼女が目を丸くしているのが分かる。


このまま引き下がるわけにはいかないのだ。

覚悟を決めて、さらに続ける。


「お願いします。少しだけ、一緒に抜け出しませんか?」


「・・・はい」


サリ伍長、本当に待ってましたよ。

夜の訪問が始まる。

たぶん、互いに好意はあるはず。嫌とは言わない、と信じたい。


今日かかされた恥の汚名を挽回しにいくんだよ。

女鳥ども、男を何だと思っていやがる。ヴォルテクスでこんにちは。

アイドルみたいな物も大変だ。人権なんて存在しない様に感じる。


自分は、たしかに許さんと言った。

ヴォルテクスでベルティア家から回り決闘前に委縮させて、ララス殿下を恫喝しにお邪魔しましょうか。


おそらく途中で二人の邪魔が入るだろうが、サリ伍長と一緒なら何とかなる。


「サリ伍長、とてもうれしいです。そうしましたら艦からの降下許可をお願い致します」


夜にノクターン(小夜)で、敵国デートだよ。とても贅沢でロマンチックだ。

メイン武器で皇居直撃貫通は、流石にまずいかな。

肩部ランチャーだけで十分だ。


好意を利用した罪悪感のせいか、ヴォルテクスへ向かう距離が遠く感じる。

伍長の笑顔が本当に輝いて見えた。


――


そして息をひそめるように、輸送艦のノクターンへ歩みを進める。

降下作業進めている、整備班をよそに2人で乗り込んだ。

伍長とは仕事仲間で部署は上司に当たる、不自然な事はまったくない。


そのままコックピットへと滑り込むように座り、小柄なサリ伍長は隣へ身体を寄せた。

2人の体温が狭い空間に熱をもたらす。


「・・・まさか、初体験がヴォルテクスの中になるとはですねー。昔、友達もそう言ってました・・・。学生の時は、ホバー・カーの中が多いみたいですもんね。昔は、プリンセスサイズのベットなんだろうって思っていましたけど、こういうワイルドなのも現実的で盛り上がりそうですよねー!」


初体験には間違い無いか。

皇居と伯爵家に恫喝目的でランチャーをぶち込む事なんて、人生でそうそうないと思う。


コックピットのホログラムにはマップが映し出され、伯爵の居場所と皇居の位置関係がくっきりと表れた。


「伯爵住居と皇居は場所が割れているからいいよな」


「?」


そう呟いて、操縦スティックに手をかける。


さて、夜の帳を抜けて破壊の一歩を踏み出しましょうか。


偶像アイドルでいて欲しいだと? 舐めるなよ。


――


空には衛星月がやわらかな光を落とし、その光がヴォルテクスの装甲に淡く反射していた。

視界の下方に広がるのは、ところどころに輝く、街灯や建物の明かりだけだ。


ノクターンはさらに高度を上げる。

雲海を抜けた瞬間、衛星月の光が驚くほど鮮明にホログラムを照らす。


「マジで、綺麗だ」


「エヘヘ、シウタさんも月に負けてませんよ。でも綺麗ですね。特別な人と一緒だからそう見えるのでしょうか」


操縦席に身を寄せながら外の景色を見入っていた。


そんな時に、ホログラム画面へ友軍の通信がピーピーと入る。

未来の機械と言えども、空気を読まない無粋な無機物だと感じる。


「グググッ、サリに出し抜かれたのか。ググググッ、飛行テストはもういいだろう! 遠すぎるぞ、おい! あまり遠くに行くと帝国軍が来るぞ。戻ってこい、早く戻ってこい! ヴォルテクスのコクピットで何をする気なんだ! ああああああ! ああああああ!」


ポップアップがもう一つ重なる。


「コクピットは、ラブ〇テルじゃないのよ!? 早く戻ってきなさい! 最初が特殊プレイだと脳の奥に深く刻まれ、その性癖に生涯、引っ張られる事になるのよ!? 今後の性活に大きな・・・」


サリ伍長が無言のまま、手を伸ばしコンソールを操作するとコクピットは静かになった。


士官の権限って凄いな、自分も役職が欲しい所だ。


――


そのまま飛行を続ける、目的地はもう間もなくだ。


勝手に訪問に来て決闘を強制的に受けさせる、よくわかった。

今度は自分が強制的に訪問をしてあげるのが筋ってものでしょ?

ご挨拶のランチャーでノックだよ。


そして、隣に座るサリ伍長がもじもじと落ち着かない素振りを見せ始めた。


「あの~、シウタさん。山奥の交通手段が無さそうな所に行っても、大丈夫ですよ。もしもの時もこの星は、どこまででもホバー・タクシーはきますから。安心してくださいねー。 ここまで来たらもそろそろいいんじゃないですか~?」


そのまま頬に、チューチュードレインを仕掛けて来るサリさん。


そんな彼女を横目に、目の前にはゴシック建築が夜の闇に浮かび上がっている。

片手でランチャーシステムのロックを解除する。


暗闇の中で静かに高度を下げると、伯爵家の中庭を見下ろせる位置で、アクセルとブーストをバランスよく操作しホバリングを始める。


「あの・・・、シウタさん。私準備完了です~」


「了解しました。ランチャー準備完了」


モニターのターゲットロックが緑に点滅し、屋敷の華麗な石門の入り口を捕捉する。


ドン!


夜の闇を切り裂く爆音とともに、ランチャーから放たれた砲弾が飛んで行く。

次の瞬間、伯爵家の正面玄関が凄まじい爆発に包まれた。


石造りの扉が砕け散り、破片が夜風に乗って舞い散る。


隣から発狂する声が聞こえると思いきや、落ち着いた声が聞こえる。


「・・・やりましたね、シウタさん。はぁ~、こんな展開になるとは思ってました。でもこれでお互いの心は繋がっているのが分かりました。シウタさん、これ貸しですからねー?」


諦めと達成感を含んだ答えに驚いてしまう。


おおう? 逆に惚れてしまうわ。

趣味に理解がある彼女だ。現実に存在したのか?

この感じなら、一緒に居られそうな気がする。

何より手放すには惜しい存在だと思う。


「・・・ありがとうございます。サリさんとの関係を真剣に考えて答えを出したいと思います。まずはここを切り抜けたらですが」


サリさんが静かに頷く。


「承知しました。早速、和平初日に国際問題ですね。アーレ大佐を飛び越して、守銭奴のリリア少将にお任せしましょうか。で、セクハラされた事でもあったんですかー?」


「まぁ、そんな感じですね」


廃墟のようになった正面玄関へ向け、さらに数発撃ち込もうとするがセンサーに反応が走る。


屋敷からサーチライトが闇を引き裂き、警報のサイレンがけたたましく鳴り響く。

伯爵家の敷地から火線が走り、ノクターンをかすめるように光弾が飛び出してきた。


「うわああああ! さっ、シウタさん。満足しましたよね? 帰りましょう。 人の家にランチャーぶち込んで、相手が無事に返してくれると思いますかー? 早く逃げましょう!」


「ハハハッ、サリさん。もう少し付き合ってくれませんか? 折角ですから、近くの殿下の皇居にもぶち込んできましょうか」


――


全速力で、皇居に向かっている現在、後ろから追っている気配と機体マーカーがある。


ベルティアさんだろうか?

ここで落としてもいいが、楽しみは明日に取っておきたい。


皇居までもう間もなくだ。

とはいえ、アリエノール宰相に一言くらいは連絡をしておきたい。

あのお酒をもらっておきながら、礼もなしというのはさすがに気が引けるからな。


「シウタさん!?!? 追われてますよ!? 何してるんですか? 戻りましょうよ!十分でしょう! 人の家にランチャーぶち込んで無事に帰れる方がおかしいんですよ。早く戻りましょうよ。あれですか、皇居にランチャーとか人生投げ捨てたいんですか!?」


サリ伍長がコンソールを操作しようとし、操縦ステックに手を伸ばしてくる。


「サリさん! やめてください! サリさん! 落ち着いて、今自分からコントロールを奪うと、大切なサリさんの命の保証が出来ない。大人しくしててください! それが嫌ならここで降りろとか、山の中の行為目的のドライブみたいな最低な台詞を吐くこととなってしまいますから、大人しくしててください! 目をつむっていればすぐ終わりますから! ララス殿下の家に仕返しに威嚇でランチャーぶち込むだけですから、何も人を狙うってわけじゃないですから! 本当に命の保証はできませんよ!」


「いやいや、何を言っているんですかシウタさん! 皇居にランチャーぶち込む方が危ないでしょう! 正気じゃないですって! えっ、大切・・・。 いやいやいや、騙されませんよ! 大切な人って言葉を出すタイミング、間違いすぎですよ! 最低な台詞にDVバイオレンス彼氏どころじゃないです! こんな犯罪行為からされる告白なんて最低ですよ!」


あーうるさい。うるさい。

お互い付き合う条件として、男のやる事に口を出すなって言う話を入れた方がいいな。


喧騒の中、ホログラム端末から捜査してアリエノール宰相に通話をかけると、フォン!とホログラムが浮き出て、通話に出てくれた。


「ウウウハハハ、シウタ殿。酒を堪能しれくれたか? こっちはもう、だいぶやってるぞ。 さっき連絡が来たが、ベルティアの家にランチャーぶち込んだのでしょう? ウハハハハ。舐めるな、そういう事か? 最高に暴力的で笑えますね。 まぁ、中々に男性の騎士、ヴォルテクス乗りの扱いと言うのも難しい所があるからな。 終わったら飲みに来るか? 歓迎するぞ友よ。ウハハハハ!」


酔っぱらって上機嫌な宰相。

さて、報告しなければ。


「宰相、お世話になっております。 これから皇居にもランチャーをぶち込もうと思ってまして、その前に色々とお世話になっている宰相に一言断ろうと思いまして、えぇ。」


「なるほど、業務時間外だ。私は通話に出ていない。おやすみ、シウタ殿」


通話が切れる。

まさにサラリーマンの鏡だ。

保身なくして立場無しですよね。


隣で静かになって、プィッと横を向いて目を合わせようとしないサリさんに話しかける。


「よし、連絡オッケーです。サリさん、怒らないで機嫌を直してくださいよ。サリさんに嫌われたら、とっても悲しい」


「はぁ~、恋は脳のバグですね。諦めようと思っても諦めきれない私自身が情けないですよねー」


どこか切ない台詞だ。

視線を合わせないままでも気持ちが伝わってくる。

横を向く彼女の肩を引き寄せようと、そっと手を伸ばす。


――


夜の皇居は、不自然なほど静まりかえっていた。

伯爵家にランチャーぶち込んで皇居に向かっていると言うのに、警戒態勢など皆無といってもいい。

人の気配が無く、とても不気味だ。


ノクターンが皇居の中庭へ静かに降り立つ。


「やけに静かですね。嫌な予感しかしません」


と、その通りだと思うが、恥をかかされた上はやる事はやらないと。


人を巻き込むことなく効果的に屈辱を与えるには、どこにぶち込むかが一番いいかと考えている所に、広大な城の様な建物に人の反応がある。


拡大してみると、月明かりの下で不気味に光りどこか人間離れして神秘的な紫の髪の女性。

テラスの先端に立つララス殿下の姿が見えた。


これは、ヘラっている。

暴漢が空を駆け皇居に向かっていると言うのに、これは正気の行動では無いと断言できる。


脳が警鐘を激しく鳴らしている。


「あ、サリさん。 やっぱり帰りましょう。これ罠です」


「シウタさん、私もそう思いますー。 同性としてあの姿に背筋が凍る様な危機感を感じますよー、帰りましょう」


ララス殿下がテラスで立ち尽くしているのは、きっと自分達を待っていたからに違いない。


テラスの上で、殿下がゆっくりと口元を上げる。

そのままテラスの縁に足をかけ、そのまま身を乗り出すようにして、遥か下へと視線を投げる。

風が吹き抜け、殿下の衣の裾を揺らしていた。


「「いやいやいやいや! 何を!!」」


殿下の本質を忘れていた、メンヘラだ。

こいつはやる。


脳に昔の嫌な記憶が全てフラッシュバックする。

「おう! 〇び降りれるもんならやってみろ!」 と、言ったが最後、やる。やつらは、やる。

いくら理不尽でもひたすら謝りつづけ、機嫌をとるしかない。


その瞬間、ララス殿下は躊躇なくテラスから身を放した。


やりやがった! ク〇がよ!

そして理解した。あの時、助けられた味をしめていやがる!


「殿下っ!」


サリさんが思わず息を呑む。


迷わずヴォルテクスの操縦スティックを握り、想像の通りで体がすぐに動き、ノクターンが飛び出す。

メンヘラ殿下と運命が交錯ターニングポイントする。


考え方を知っているぞ!

命をチップにすれば、全てを独占し愛されると思っているのか!


ク〇の様なブースターが閃光を描き、機体が殿下の落下速度に合わせるように減速し、腕部をわずかに伸ばす。

そして月明かりの下、殿下の衣がふわりと広がり、ノクターンの腕部に抱え込まれる。


「殿下! 大丈夫ですか!?」


サリさんが通信越しに呼びかける。

ホログラム画面に映る殿下は微かに息を乱しつつ、月光に照らされた瞳は虚ろに瞬きしていた。


「アハハハ! アハハハ! 勝った! お兄様はやっぱり、余を助けるのですね! そういう事でしたか! さ、余を中へ入れてください。 ここで余を放り出したら、戒厳令で指揮権発動してアリーナと大使館を徹底的に攻撃します。 その後、私の地位と引き換えに貴方達を捕まえられるなら安い物です。 拒否は許しません。いきましょう? 大使館は、賓客室を兼ね備えているハズですから」


やっちまった、理解させてしまった。


絶望で目の前が暗くなり、手で顔を覆う。

でも隣のサリさんの体温がほんのりと温かい。




いつもありがとうございます。


ラブロマンスのラブコメにどうしてなるのか。

製作時間かかりすぎでやりたくない。


そしてなぜそうなるのか、わかったぞ。そしてサクッって1点。

その望まれる形と言われる極力ストレスフリーを心掛けるとやっぱりラブコメとか恋愛系になるってば。


ちょっと作者は生々しくて真似できない、あのなろう特有のいじめの描写は必要なんだってば。

評価はできないかもしれないが、物語全体を考えると必要になってくると思う。

どっかで展開を下げないと飽きられてしまうし展開もラブコメ以外に出来る。

たしかに読みたい物かはわからんけど。


でもストレスを評価できないとすると、望まれるものは恋愛ものになってくるんじゃないかな。


解決策はいつも読んでくれている貴方様が、ユーザー登録をして評価をする以外ないんじゃないでしょうか。

つまり、まずは練習で作者の作品に星5をつけてブクマすればいいと思います。

まずは、メール登録からお願いします。はい。


テラスの罠。ララス殿下


挿絵(By みてみん)





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