24 シウタ
シウタ
そのまま、帝国の星間移動ヴォルテクス乗らせてもらい、アリエノール宰相に全員を拠点へ送ってもらった。
大気圏に入り、拠点特有の灯りが視界に入ってくる。
そしてミリ軍曹の 『タイラント』 が出迎えてくれたのだが、こちらが何を話しかけも無言で並走していた。
「ミリ軍曹どうぞ! ミリ軍曹どうぞ!?」 懸命に反応を伺うが、無言で速度をあわせられている。
何かの間違いで落とされるんじゃないかと、マジに恐怖を感じたが無事拠点へ着いた。
あれは、仲間外れな感じに怒っているのか?
自分と軍曹が交代の休みなのですが、そこをご理解頂いてますかね。
その不満は大佐にお伝え頂きたい。
でもマジにカッコ良かったなぁ。
アリエノールさんのヴォルテクス 『アケローン』
星間推進ユニットを積んでいて、超長距離航行を可能にしたユニットで黒い機体。
機体の翼はアリエノール宰相の翼をイメージしているのだろうか。
いわゆる、個人用の特別星間移動機体だそうだ。
地球で言う、国の偉い人達が乗る要人専用機みたいなものか。
「それでは、和平調印時にお会いしましょう。良い返事を期待しております」
その言葉を残し、宰相専用機は出て行った。
いつのまにか無言で後ろに立つミリ軍曹がなんか怖いので、振り向くことなく宰相を見送る。
後は、大佐に任せよう。
大佐なら、上手く軍曹に説明してもらえると思う。
男に説明させるのは、野暮ってものでしょう。
たぶん、そうであって欲しい。
――
和平調印まで後5日、拠点にまたサイレンが響き渡る。
またこりずに、帝国偵察部隊が来たのだ。
すげぇ根性だ。
一歩間違えると、前の様に血袋になるのが怖くないのか。
でも確かに恐怖より高揚感が勝たなければ、ヴォルテクスに乗れないよな。
たしかに殿下にヴォルテクス乗りの資質があるよな、根性だけは認めよう。
格納庫にダッシュで走るが、ミリ軍曹といつもの3人が珍しく言い争いをしている。
「うん? フェリシア、イーリス、ミラグロ。なぜ私を止めるんだ? いや、ぺろぺろしてもらいたいからって、いくら何でも後ろか見ているのはまずいだろう?」
おっ、なんだ。単機で出撃していいのか。
それでもいいぞ。
「確かに、私もアレはポ〇ノ画像だと思うが・・・。 いや! 何を言っているんだ! 出るぞ! 一機も落とせなくてシウタの悔しい表情の方が見たいだろう??」
「ミリ軍曹、そ、そうですね~。まぁ~、あり」 「ありよりのなしかも」 「恥辱にまみれる顔がみたい」
「「「それ、見たい!! 一機も落とさせない!!」」」
聞こえていますが?
地球の感じだと、君たち 「男子って野蛮よね」 と言われていてもおかしくない感じですけど。
先輩達の貞操観念とか大丈夫ですかね。
今日も少数部隊見たいですから、一つも渡す気はありません。
後でぺろぺろでも何でもしてやるわい。
見てろよぉおおおお!
どこかで電子音がピコンと鳴り、ホログラムが浮きあがる。アーレイン大佐の姿だ。
格納庫の一角に、ホログラムが浮かび上がると、大佐は不機嫌そうに首を振ってみせた。
「もう宇宙部隊は仕事してないわね。和平に際して、あれはお金貰ってるわよ。あっちがその気ならこっちもお話しましょうか。ミリ軍曹、シウタさん。殿下を拠点に誘導してちょうだい。
そもそも向こうの修理費用とかどうなっているのかしら? 殿下は血税をなんだと思われているのかしらね?
和平前にお話しをしましょう。連絡繋いでおくから、殿下ご一行の誘導をお願い致しますね。話し合いが決裂したら撃っちゃっていいわよ」
「ラジャー」
そういう感じ?
出来たら決裂を希望します。
決裂するタイミングは、お互い近距離がいいですね。
一度、近距離でこのビームライフルを当ててみたかったんだよなぁ。
どうなるんだろう?
反応熱で撃たれた機体は赤く光り貫通すると思うんだけど。
まずは 『ノクターン』 に乗り込む。
「システム、オールグリーン」
操縦スティックに手をかけると、パネルのホログラムが次々と点灯し起動する。
どうせ会敵したら、聞き飽きたメンヘラ殿下の口上が始まるのだろう。
それでもこの青黒の機体とともに、飛び出す瞬間がとても心を高揚させる。
――
赤い空の下、ヴォルテクスが大気摩擦で赤く発熱しながら、降下してきた。
撃ちたくなるのをグッと堪えながら、殿下の口上が始まる。
もう、何度聞いたことやら。
「お兄様! 様子を見に戦いに・・・『ララス殿下、後5日程で和平調印です。新型機修理もただじゃないのでしょう? お迎えに上がりますわよ、せっかくですから拠点にお寄りになられては? そして茶番はやめませんか? どうぞ殿下、拠点でお待ちしております。 『残虐騎士』でしたか? 殿下の言うお兄様とミリュネ軍曹が迎えにいきますから、話し合いの意思があるなら武装解除してお待ちくださいね』」
「あっ、えっ?! あのあのあの、そんな急に困ります! えっ、今からですか? ついに余はお兄様に会えるんです? 皆の者、兵装をしまってください、偵察の任務を果たしましょうか」
地面に着いた帝国ヴォルテクスが、次々と兵装をしまい解除していく。
あ~、そういう事?
折角、狙ってあげてると言うのに、まったく。
大佐が言うには、これから帝国と 『超級エースの残虐騎士が囚われたが、帝国の説得によりお互いの利益と平和のため手を取り合い和平』 と言う、むちゃくちゃなカバーストーリーをやると言う事だ。
連邦も包囲されて困るだけだったし、和平の一手しかなかったのだろう。
そして主役は自分と拠点の幹部、ララス殿下とアリエノール宰相で和平巡回パレードをするそうだ。
頭おかしいですね? 誰がこんな頭おかしいカバーストーリーを信じるんでしょうかね。
まったく、イライラする。
と、思いながらトリガーに指をかける。
「だ、そうだ、シウタ。話し合いだ。今更偵察されても困る事も無いだろうし、向こうの皇女と交渉した方が得だろうな。
向こうも毎度偵察でヴォルテクスを破壊されていては堪らないだろうし・・・・? おい? おーい?? シウタ! ビームライフルをしまえって!! 撃つな撃つな! 無防備な相手をここで撃つな! 終末戦争を起こす気か!? おおおいいいいい!? ヴォルテクス乗りは戦闘中、常に戦闘記録の目があるんだと何度言えば分るんだ! シウタ!」
『タイラント』 が、あわててブーストを全開にし駆け寄って来た。
はっ、いつのまに!? ビックリした。
即座にビームライフルを背中にしまい、換装する。
「ノクターン?? お前、戦火が消えるのがおしいからと撃てと誘ったな?」
ノクターンは何も答えてくれない。
――
そして、そのまま二人で案内に向かう。
ミリ軍曹が通信を開き静かに声を発した。
「こちらミリュネだ。直接回線を使用している。貴殿らを拠点まで案内する、下手な動きは即座に破壊するからな。こちらには超級エースが二人だ。舐めないで欲しい」
武装を解除したヴォルテクス編隊が確認できる。
その中心に見えるのが殿下機だろうか。
帝国ヴォルテクス4機に囲まれたまま、『ノクターン』で礼のポーズを取る。
低い姿勢で脚部を折り、頭部を下げている「礼」のポーズだ。
赤い空に照らされ、装甲が紫に反射する。
普段が良くない印象だから、こういう時ぐらい紳士じゃないと。
またいつかアリエノール宰相に、偏向報道をされるか分かった物じゃない。
「殿下! 騎士が紳士様でおられます! ドストライクで脳があああああ!」
「早く放映なさるが宜しいかと、絶対バズります! バズりますな!」
「連邦の超級エースは随分と見せつけてくれますね・・・。胸キュンで本当にたまりませんね」
何か聞こえたが、偉いと思われる殿下に挨拶をせねば。
「殿下、初めましてで宜しいでしょうか。そして田舎者ゆえ礼儀をしらない事をお許し下さい。 いえ、初めましてでは無いですね、いつもコクピット越しに戦場でお会いしてますから。言えた口では無いですが元気そうなによりです。今後の和平を願いまして、改めて宜しくお願い致します」
「あぶう、あぶ えっ、あの。 余はあの、宜しくお願い、はい、シマス」
う~ん? 後ろから撃たれた相手には、話したくは無いのか?
血袋状態にして何度も撃破してたら、さすがに嫌われるかな。敵同士だしな。
でもさっきまで、口上たれてたじゃん?
「そうしましたら、いきましょうか。 自分が警戒して、軍曹に着いて行けばいいですよね?」
ミリ軍曹のホログラムが即座に反応する。
「はぁ~、私もこういう紳士な態度に騙されたんだよなぁ~。なんて男を好きになってしまったんだ・・・。了解した、ついてこい」
解せぬ、あれだけ自分にセクハラをしておいて騙されたとな。
まぁ、いいか。
「了解! ついていきます!」
――
そして4機のヴォルテクスが一直線の隊列を描いて飛んでいた。
ブースターの光が尾を引くように閃き、編隊は加速していく。
そんな中、血まみれの出会いと戦闘のシンパシーを強烈に感じ、反応が薄い殿下に話しかけまくっていた。
心のどこかでは『相手はメンヘラだぞ? 気をつけろ』と聞こえてきている。
「殿下、あのですね~。決して後ろから撃ったわけでは無いんですよ。あれが正規の出撃で初でして、初心者プレイみたいなものでしてね~。 ほんと無事で良かったですよ。あれ必死で助けたんです。あれが限界なんです、分ってくれます?」
「いやあのの、あのののの」
「でも、殿下あの時の帝国映像おかしいですよね? アリエノール宰相、捏造したでしょう。 あ、でも殿下意識が無かったですもんね。覚えてないですか~。ハハッ」
「あぶっ、あぶう。いえ途中から意識あって。あのののすみません」
「あっ、そうでしたね。それで、骨とか良くなってるんですか? あ、ここに偵察に来るたび殿下がビーム爆発での轟沈されていますが、あれって大丈夫なんです? 自分が言うのも何かおかしいかもしれませんが、ハハッ」
「あははっ、お兄様、コクピット直撃を意識的に避けて下さってますよね? あ、大丈夫です・・・」
反応がある以上、話しかけまくって深い反応を探る営業テクの一つ。
地球だと陽キャや男が、女性に使う技にも似ている。
外国だとアイスブレイクって言うのか?
後はゆっくりお話しを致しましょうか。
「良かった、笑ってくれた。自分、嫌われているのかと思いましたよ~。いや、撃ちあう敵同士ですから、嫌われていても不思議で・・・ 『はぁあああああああ?! そんな事ない、好きにきまってます! そうですよね、お兄様? ねぇ、そうですよね。そうなんです! ぜったい好きですから! 敵同士ってのは表向きだけで、本当はすっごく気になってるっていう。って、言わせないでください!』
これは、いけない。いけない。
地雷系だったか?
そして、殿下の取り巻きの君たち? このイッちゃってる殿下へのサポートは?
「「「・・・」」」
「あっ、はい」
――
拠点に着くと銀髪のアーレイン大佐が出迎えてくれた。
「ようこそ殿下」
アーレイン大佐が礼を取る。
「アーレイン大佐、お久しぶりです。アリエノールから話は聞いています。そういう事でしょう? 部屋でお話致しましょうか、ここの拠点の勇敢な人材を誰一人損させることを許しません、余の名に懸けて。アリエノールとも連絡を取りますので、ぜひお話を致しましょう」
殿下は小さく頷いて、紫の髪がふわりと揺れた。
誰だよ、この優秀な皇女は。
何処かですり替わったか?
「それじゃ、シウタ。一緒に取り巻きの方々を持て成すとするか。接待用に色々もってサリ伍長も来ると思うぞ」
「おっ、いきましょう、いきましょう。帝国のヴォルテクスの話も聞きたいですし」
「えっ? お兄様、どちらに? どちらにいぃいいいいい!? いかないで!」
「殿下、また帰りを送りますから。実りある時間をお過ごしください」
と、紳士風に一礼をする。
地球で培った挨拶は、通用するだろうか。
「あぶぅ、余は閃きました。 アーレイン大佐、お兄様と引き換えに開拓星3つのお渡しで如何でしょうか。私達も実りある話を致しましょう」
2人は、執務室へ消えて行った。
――
そのまま、ミリ軍曹と帝国パイロットを応接室に通す。
軍曹が居れば、相手に暴れられても安心だ。
ヴォルテクスの中に常備してあるのだろうか、取り巻きの3人は黒のジャケットを羽織っていた。
「しかし、シウタ。今までの拠点襲撃者を目の前にすると不思議な感じがしないか?」
ミリ軍曹もいつの間にか着替えたのか、いつもの軍服を着ていた。
なぜ、自分だけパイロットスーツなのか。
自分は、どちらかと言うと親友な感じがします。
今まで、撃ち合った仲ですから。
同じ趣味の方々で敵のチームってぐらいの感じがする。
「意外と、親友ってイメージがつよいですね。もちろんミリ軍曹と幾度も死線を越えた感覚、心が繋がっている感じとは違いますけど」
「なるほどな。そして平気でそういう事を言うのか、シウタ。だが、なぜその先を求めることが出来ない・・・」
うーん、タイミングじゃないですかね。
詳しくは分かりませんが。
応接室の部屋の中央には大きなソファセットが配置されていて、その周囲には小さなテーブルがいくつか置かれ、来客を迎えて談笑するのに十分なスペースがあった。
3人は部屋の隅で固まって居て、黒いジャケットにあしらわれた羽飾りからは黒い鳥のイメージを感じた。
「3人の素敵なヴォルテクスの騎士様、お願いします、立たれていてはこちらも落ち着きませんよ。良ければゆっくりと帝国ヴォルテクスのお話を聞かせて頂ければと思います」
「シウタ、好きそうな話題だな。おかしな方向に行ったら途中で止めるぞ」
そりゃ、折角だから帝国のヴォルテクス乗りに聞かなきゃ損でしょうよ。
「そ、そんな! 敵であった私達に情をかけて頂けるとは、どう見ても紳士様ですわ! 残虐騎士と評価した、あやつを生かしてはいけません。焼き鳥にしなければなりませんわ」
「浮かれすぎですぞ、ベルティア殿。とはいえ、私もここまで賛辞を述べられるとは予想外ですな。 くこ、く、むむ、婿に来られないか? 領地を全て交換しても惜しくは無い」
「ふふふ、そうです。家族のように誘ってきますよね。あれ、そうでした。私の旦那でした」
帝国にも、いきなり結婚を強制してくるちょっとおかしいのが多いのか?
ミリ軍曹にそっと、耳打ちをする。
「軍曹、なんかおかしく無いですか? 帝国のヴォルテクス乗りってこんな感じで情緒とか思考が直結厨なんですか?」
「これが普通だな。シウタがなんだろう、悪いと言うか。ごめん、そうなる。そうなるんだ、シウタ。現に今耳元で囁かれているだけでもうヤバイ。私が先に進めないのは、こういう所なのだろうな。脳が耐えてくれない。そしてもう少し囁いて欲しい。フーッとしてもいいぞ」
なんなんだ。
軍曹の耳元にフーッと吹きかけて、3人の方に向き直る。
すると、ミリ軍曹はなぜか動かなくなった。
「あの、帝国のブースターってどうして赤いんですか? 連邦は青いじゃないですか、気になってたんですよね。 教えて頂けませんか?」
「それは・・・」 「あれは・・・」 「これは・・・」
「えっ! そうなんですか、すごーい! 素敵ですね! 尊敬しちゃいます!」
地球だとキャバクラ―とかの最強文言だ、これで喋らせるのはどうだろうか。
貞操観念が逆転している未来世界にもつうじるのだろうか。
「魔石燃焼時の帝国の赤いスラスター光ですわ!」
「機体後部のエンジン内に魔炉エンジンが組み込まれており、炉が稼働すると赤い稲妻のようなオーラが発生するからですな」
「また戦場で真紅の光が飛び交う様子は、敵に恐怖と畏怖を植え付けるという狙いがあります」
効果は、抜群だ。そのまま頼む。
とても楽しい時間を過ごしている時に、丁度サリ伍長が入ってきて軽食を準備し始めた。
ヴォルテクスの話で、大変盛り上がっているためかサリ伍長が逃げようとしていたので、ソファーの隣をポンポンと叩き座るように促すと、手だけが逃げようとしていたように感じたがサリ伍長の体が隣に座ってくれた。
大佐、殿下まだまだお話しください。
これからがいい所です。
でも、これは、どう考えても大佐の帝国へ移行の算段ですよね。
綺麗に辞めていきそうですよね。
はぁ~。
いつもありがとうございます。
これぐらいの話の進みで良ければ投稿ペースは二日に1回にできる気がする。




