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21 シウタ

シウタ


そのまま捕虜の取引が何事も無く交換された。

交換の際に皇女が遠くから何かを喋っていたが、良く分からないままに宇宙に戻る帝国艦を見つめていた。


さようなら、アリエノールさん。

平和が訪れた時、また飲みましょうね。

すぐ連絡入れますから。


――


そんなこんなで自分が今いる場所は、拠点の司令部にある特別会議室と呼ばれる場だ。

ここは普段の作戦会議室とは異なり、どう見ても尋問部屋である。

部屋の中は暗く冷たく、床は金属製のタイルで出来ており靴底が触れるたびに軽い音が響く。


何もしていません。

何もしていませんよ、アーレ大佐。

ここのセキュリティがザル警備だから拉致られたんですよね? ですよね?

発端の原因が悪いんですよね?

営業でクレームの嵐を耐え抜いた歴戦の自分に、論戦で勝とうなんて甘いんじゃないんですか?

楽しく帝国宰相と会話をしていたとしても、自分は悪くない。

悪くないと思います。


空気に緊張感が漂う中、自分を囲むようにアーレイン大佐、ミリ軍曹、サリ伍長が座していた。


「あの、昨日まで帝国に尋問をされていたのですが、ここでも尋問ですかね? なんか自分が信用されてないみたいで悲しいですね~?」


軽い取り調べで良く無いか? もっと自分の無事を祝いましょうよ?


こんな重々しい空気の部屋じゃなくてさ、もっと感動の再会みたいな陳腐に抱き合いましょうよ。

何て言うか、ハートフル溢れる動物映画の感動の再会みたいにできないかな。

いや、違うな。ああいう感動ポ〇ノ映画はイライラする。

アニマル達には、もっと争って欲しいと思う。


「シウタさん、ほんとうに無事でよかったわね、でも確認事があるよの?」


「無事で何よりだ、シウタ。でも私だったら敵国のシウタを捕まえたら、それはもう凄いな?? うん? じゃない、宰相と何を話した?」


「シウタさん、無事で良かったです。でも、本当に何もされてませんか? でも絶対おかしいですー。何をされて、どこまで話しましたかー? つまり、配慮して言えない事があると言う事ですか? ああああああ! 帝国ぶっ〇すしかありませんねー! 和平に激しく反対します!」


全員から心配の言葉をかけてもらい、全員が弾けんばかりの笑顔だが、内容がおかしい。


不穏だなぁ。

もちろん、隠さずに正直に話しますよ。

宰相と酒を仲良く飲んでいた以外、正直に話しましょう。


「意外にも、拉致の張本人のアリエノール宰相がかばってくれて、丁重に扱われましたよ」


「いや、ウソよね? 男騎士が帝国に捕まって何もされないとかありえないわよ? どこまでされたの? サリ伍長、ウソ発見器の電源を入れてもらえるかしら」


「アーレ大佐、ここは配慮して聞かない方が良いのではないですか。 ネトネトに脳が完全に破壊されます。私は、もうああああああああああ! 帝国ぶっ〇すぞ! 見てろシウタ、お前のためにコクピットを剥ぎ取り、恐怖の表情で固まった敵兵をソーセージの原料にしてやるからな!」


「アーレ大佐、すでに電源入ってます。もう脳が破壊される覚悟は出来ましたよー。質問を宜しくお願い致しますー」


あの?? れーぷ前提で話を進めるのをやめてもらえませんかね? 騎士道はどこへ行きましたか。

帝国士官と自分に全く配慮が足りていないと思う。


「あの襲われた前提は、やめてもらえますか。見ての通り無事ですし。宰相とお話したところ、この辺りで和平するそうですよ。そして、本当に何もありませんでした。和平に備えてお互い連絡先を交換したぐらいですね」


キリッっとアーレ大佐の金の瞳を見つめる。

ウソは言っていない。


「と、アリエノール宰相? 本人はそう言ってますが、本当かしら?」


テーブルに埋め込まれたホログラム装置が突然起動した。

空間にホログラムの光が浮かび上がり徐々に人影が形作られていく。


ウソだろおい。ウソだろ。

帝国とこんなに簡単に連絡が取れる分けが無いって、ハッタリだ。

冗談だよな、飲酒がばれるって分かってたら最初から真実を話していたぞ。

ねぇ? ズルくない? まだ謝れば間に合うか?

おい、宰相。本当の事言わないよな。

僕たち私たち、スポーツマン精神にのっとり丁重にベットに縛られ、大人しくしてたもんね??


「いえ、朝まで笑いながら酒を飲んでたぞ。2人で一緒に同じベットで寝たマブダチですね」


映し出されたのは、白髪と青と白の瞳を持つ女性。

黒いゴシック軍服に包まれ、肩には金糸で縫い込まれた羽の意匠が輝き、美人でスタイルが良い女性魔族。

どうみても、アリエノールさんです。本当にありがとうございます。


「アリエノール宰相、詳細をありがとう。そうしましたらこのまま和平に向けて話を進めてもらえるかしら。連邦の英雄で闇落ち系アイドルをほぼ無傷のまま返してもらったし、そちらも面目は保てたのではなくて?」


「そうだな。停戦後そのまま和平が好ましい。正直、制圧には戦力的にきつい所がある。和平後に包囲を解き魔石の流通を再開させましょう。では、追って連邦上部に詳細を送らせてもらいます。では失礼致します」


プツンとホログラムが切れた。


そして、ミリ軍曹に肩に手をポンと置かれ、謎の不動の力で何一つ動くことが出来ない。

サリ伍長に手首を掴まれ、マジに手がもがれそうだ


「・・・シウタさん。しばらく、他部署へ慰問含めた広報を命じます。不平等が無いように、段取りをサリ伍長宜しくね。後、ミリ軍曹、強化と性根の強化のためバキバキに鍛えてあげてね」


「いやで 「「了解!! 覚悟してくださいねー!」」


――


それから数日後。

結局、帝国側の拠点制圧が厳しいと言う事で停戦する様だ。


停戦はしたが帝国のとの和平までまだ時間がある、出来たら攻めて来て欲しい所だが。

またヴォルテクスに乗りたいのだが、何とかならないだろうか。

そもそも停戦なんて、都合のいい時間稼ぎだろう?

そんな物は無いと地球に居た時、嫌と言うほど近代史で学んでいる。


停戦関係の会議でアーレイン大佐に同席を求められ、大佐の隣に座っていた。

司令部のホログラムテーブルの中央には、帝国の宰相が投影されていた。

そして殿下と呼ばれる存在が紫の髪をなびかせ、ホログラム越しにアーレイン大佐と話す。

そして背後には、帝国士官達が誰かを探しているような面持ちで控えていた。


まったく何だって言うんだ。

「ここに立っていて、たまに笑顔をくれればいいですわよ」 と、言われている。

まったく人を何だと思っているのか、でも、アーレイン大佐に対して 『捕虜酒で一杯』 の件があるのであまり強く言えない。


仕方が無いので早く終わらないかなと思いながら、営業スマイルでホログラム画面を見つめていた。


「本当に素晴らしい破壊力です。うふふ、お兄様はどうしてこんなに魅力的なのですか?  はぁ~、一時でも捕虜となり帝国の物になったなんて。あぁ、なんて尊い。この映像、帝国でもずっと記録に残しますわ。だってもう一度、何度でも見たいですもの。ねぇ、どう思います? 記録に残していいですよね? ねぇ!」


殿下の視線が一瞬狂気を帯び、ホログラム越しにアリエノール宰相へ向けられた。


まるで夢見る少女のように呟いているが、たぶんイッちゃってる。薬とかやってんのか?


「お兄様? 記録を、記録を残すこと許していただけますよね? あぁ、許してくださらないなら、直で小太陽ミサイルを拠点に向けて発射します」


マジにこれが、惑星破壊ミサイルのスイッチを持っているのか。

権力の集中も問題だよな。背筋がゾッとする。


昔、付き合っていた彼女と同じタイプだ。間違いない、メンヘラだ。

実害があった自分は、メンヘラの生態に詳しい。

『今から刺します』 と仕事中にリアルタイムで実況してきて、全てを欲しがる存在。

気軽に地雷と系言われるが、リアルではそんな言葉で片付けられない。

そして無視すると 『連絡が無いので今からカットします』 と、マジに詰んでいる。

もう、キャパオーバーで、結婚に希望が持てない。

そう、地雷には触らないのが一番だ。

笑顔のまま、無視しよう。


「はい、殿下の仰せのままに。それで和平後の話だが、和平の証としてシウタ殿を帝国大使とするのが一番の条件ですね。絶対今後とも上手くいきますよ。アーレイン大佐、連邦上部ですでに決定が出ている。その方向で動いて欲しいのです」


ヘラっている殿下をよそに、アリエノール宰相が淡々と話を進めていく。


そして、アーレイン大佐のショートヘアの銀髪が逆立ち始める。

連邦上部に何か触れられない苛立ちみたいなのを感じた。

大佐の偉い立場なりに、苦労があるのだろう。

部下を大事にする中間管理職は本当に大変だと思う。


「おお、和平とはなんと素晴らしい。残虐騎士殿が和平大使とは、光と闇が合わさり最強ですな」

「大使は殿下の権限で招集ができます。毎秒、お呼びになられてみては?」

「一人いじめはいけませんぞ、毎晩夜会といきましょう」

「もちろん、毎夜開催でございます。お昼の会も追加するべきでは?」

「ついでに和平記念のアクセサリーも売り出しますぞ。もちろん、大使のデザインで!」

「和平をテーマにした銅像を作り、大使がモチーフを務めるというのはどうでしょう!」


帝国から凄い前向きな発言が飛び出る。マジに商魂たくましい。

拠点を巡って争っていたとは思えない。なぜもう帝国で働くことになっているのか。

職業選択の自由とか、この銀河にそういう発想はないのか? 狂っとる。


「・・・後は、上部と取り決め致します。では失礼致します」


と、アーレ大佐が一方的に通信を切り、司令部の連絡は終わった。

そして大佐の怒涛のラッシュ、言われなき暴力が防音用の金属壁を襲う。


「ド腐れ上層部がぁああああああ!! 絶対に金をもらいましたわね!! ああああああ!」


無呼吸の連打を繰り返すアーレ大佐を見つめながら考える。

タイコーの達人もビックリの無呼吸連打だ。


でも 『和平大使』 とかの仕事は、いい所でやめよう。

営業系だから向いているかも分からないけども、ヴォルテクスに乗れなくなるのはいやだ。


でも戦争が無くなり、ヴォルテクスに乗る機会も減るのか。

だとしたら、次の仕事は警備とか星間海賊とか捕まえたいな。

星間海賊なら宇宙のチリにしても問題ないだろ。


――


色々と考えが決まった次の日。

いつ転職してもいい様に、肉体強化のためトレーニングルームへ向かう。

着ている物は全身にフィットし、ボディラインを強調するスポーツ系のシャツだ。


トレーニングルームに足を踏み入れると、自動補助が付いたトレーニング器具やシミュレーション設備が整っていた。


未来でも鉄の塊を持つのがトレーニングなのか、どういう事だ。

いやでも、医療ポットがあるんだから科学で筋肉ぐらい簡単につかない物だろうか?

おそらく、トレーニングの過程の精神性が大事なのだろう。この銀河の文化的な事と言う事か。

前の繁華星にも至る所にフィットネスジムがあったし。


だが異様を感じたのは、そこでの全員の視線だ。

自分を舐めるように見ている。とても圧力を感じて、ここにいづらい。

拠点ただ一人の男である自分は、どう映ったのだろうか。


「ここは男が来るところじゃねーんだよ」 とか、言われたら後で、そいつを軍曹にミンチにしてもらおう。

平等な社会を目指しましょうね。


皆、口元を押さえ、視線をそらそうとするが何かうまくいっていない。

そして部屋全体にダンベルをグアシャアアアアン! と落とす音が連鎖していた。

とてもうるさい。


そのまま部屋の端でストレッチを始めるが、全員が囲んできて通信端末を取り出してきた辺りで、雰囲気がおかしいと感じる。

何だろう、自分が地下アイドルで囲まれているようなそんな感じだ。


「王子様、もっと太ももの筋肉を強調して貰っていいですか? パシャパシャパシャ」

「筋肉に触っていいですか? そして私のトレーニングパートナーそして、永遠のパートナーになってください!」

「肩甲骨の動きやばくない? ラインがえぐい、これ無料で使っていいの?」

「トレーニングスーツに性癖を完全に破壊された。責任取って結婚して?」

「私のフォームを見て、触って直して? ううん、王子フォームを治すのをお手伝いするね」 


完全に見世物だ。

ワンチャンスを狙われている気もする、まさに性的消費の真っただ中だ。

とんでもない事になってきた。トレーニングルームは、ミリ軍曹の監視下のハズだ。

マジにトレーニングどころでは無い。ヘールプ! ヘルプ! 助けて!


球体の監視カメラに目線をちらちらと送ると、ミリ軍曹がすぐに音の壁を越えてソニックブームを出しながら駆けつけて来た。


「フーッ、フーッ。丁度今、司令部に殴りこんでこの映像を消させたぞ。万が一、性的消費をされる恐れがあるからな。後、撮影したお前ら、ここで私のトレーニング用のサンドバッグにされるか、撮影動画を消すか選んでいいぞ? そもそも、こんな暇があったらもっと筋肉を追い込め!」


全員がチッと舌打ちをしながら、端末をいじっている。どうやら、消している様だ。


ですよね、誰だってグロ画像になりたくないですもんね。

ありがとうミリ軍曹。アイドルにはそれに伴う警備が必要ですよね。


「後、シウタ。お前が悪いと思うぞ。何だその服は。足首と鎖骨出ている服はアウトだと言っただろう。そもそもだ、もっと控えめで肌が見えない服が良いな。パイロットスーツなんていいんじゃないか?」


このシャツ、支給品なのだが? 解せぬ。


搭乗服を着て来いとかマジかよ。サウナスーツどころじゃないだろ。

あんな重い装備を着て動いたらすぐに倒れそうだが。


あ! ジョークか。場を和ませようと冗談を言ってくれたんだな。

でもミリ軍曹の冗談って笑えないんだよな。


「ハハッ、ミリ軍曹。それ冗談ですよね?? ジョークにしては笑えませんよ」


「?? 冗談に聞こえたのか?? ほらシウタ、着替えて来い。40kmのランニングから200kgのバーベルで進めるぞ」


ミリ軍曹は真剣だ。なんとなく心が通じているから分る、これはマジに言っている。

おそらく脳まで筋肉じゃないかなと、最近感じる事が多い。

軍曹にとっては、この異常な空気を改善するための最適解がパイロットスーツなのだろうか。


こんな展開アニメで見たことあるわ。

搭乗服とか修行中に着ける重りと大した変わんねーだろ。

そして、修行後に脱いだらパワーアップなんてしないと思う。


さて、逃げよう。マジに〇されるわ、コレ。

トレーニングで〇されなくても、医療ポットで治された後、トレーニングに〇される。

心が通じているから、これから何をされるか想像できる。


「ミリ軍曹、ちょ、ちょっと失礼します」


ここで逃げた先に未来は、あるのだろうか。


――


格納庫の片隅で震えていると茶色のセミロング、サリ伍長が目の前にヌッと現れた。


ここはカメラの死角なのに、どこで見つけたのか。

思わず、褒める言葉が口に出てしまう。


「えっ、凄いですね? サリ伍長、良くここが分かりましたね。どうやって??」


「どうやってって聞きますかー? 私がシウタさんの気配を感じ取れないとでも? ふふっ、そんなの当然じゃないですかー。さっ、私がエスコートしますね。シウタさんの1週間の行動表を端末のスケジュール表に入れましたよ。まずは、トレーニングからですねー」


可愛い笑顔のままで、冗談のような軽い口調だが背筋が冷たくなる。

本気で自分を追跡してきたのだという確信がある。


お巡りさん、ストーカーが沢山います。

助けてください。


でも、拠点でのお巡りさんの権限はアーレ大佐と言う事。

事実が自分を追い詰める。



いつもありがとうございます。


明けましておめでとうございます。

今年も宜しくお願い致します。


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