20 シウタ
この話は、アルコールの摂取を助長する事では無く、フィクションです。
お酒は適量にとどめましょう。百薬の長です。
シウタ
目が覚めた。
見える天井には、銀細工の装飾が施された高い天井だ。
豪華な銀糸に彩らた羽が所々のインテリアとして飾られていた。
何という豪華な装飾だろうか。
そして、転生時のフカフカ雲の上とは違う。
寝ているベットの感触的に自分は、まだ生きているようだ。
自分は、拉致られたのか?
そして、ここが帝国の艦と言う事がなんとなく想像できる。
「お目覚めですか? 『残虐騎士』 のシウタ殿」
柔らかく冷たい声に振り返ると、椅子に優雅に腰を掛けている魔族の姿があった。
白い髪に、青と白のオッドアイ。
ゴシック軍服と黒い羽が恐ろしい程、容姿を引き立てている。
これが種族格差か、何と完璧なスタイルだ。
どんなぞ情報媒体でも、大人の事情でひどい目に合っている事が多いのが魔族の種族だと思う。
「おはようございます。なぜ自分の拉致を? そしてここは帝国艦で宜しいですか?」
挨拶をしながら、体の状態を確認する。
骨も治っている、手足を拘束もされているわけでもない。
豪華なベットに寝かしつけられ、丁重に扱ってもらっているのが分かる。
アーレイン大佐の尋問の様な 『インテリア用、四肢もぎもぎ』 をされるわけではなさそうだ。
敵兵に優しくして良かった、与えた慈悲は自身に返ってくると言う事か。
「そう、お察しの通り帝国旗艦内の私の部屋だ。帝国部隊の旗色が悪くなったので交渉材料として、抵抗されそうにない人族を・・・失礼。シウタ殿を人質とさせてもらった。帝国の部隊退却の時に紛れての拉致ですね」
堂々と拉致を宣言する魔族。
アリエノールさんと言っただろうか。
アリエノールさんは微笑みを浮かべながら、卓上に置かれた銀製のカップに手を伸ばす。
その動作だけで、美しさすら感じる。
「帝国産の紅茶はいかがですか? フフフ。ワインもあるが、興味あるならどうぞ」
「ワインでお願いします」
何と言う事だ、脳が即決して返事をしてしまった。
帝国の誘導尋問、おそるべしだ。
「フフフ、さすが超級エースのお客人と言った所か。さすが判断が早いですね。敵陣だと言うのに、見かけによらず豪胆な方だ。・・・私もご相伴させてもらいましょう」
ワイン。ルビーの様に煌めく液体。
ベリーの甘酸っぱさに、かすかなバニラやスパイスのニュアンス
静かに口へ運べば、まろやかな酸味とコクが広がり、鼻腔をくすぐる。
ジュワッと広がる果実味の奥底に、ほんのりとした渋み。
熟成したアルコール成分が、胃腸へと無類の吸収率を誇る。
アッと言う間に体に脳にアルコールが回り、10分もしない内に出来上がる魔法の飲み物だ。
アリエノールさんは、手際よくグラスを棚から取り出し、ポンと、コルクが開く音と共に赤いワインを注ぎ目の前に差し出してきた。
鼻先をスッと抜けるアルコールの刺激、ルビーに輝く液体が生み出す 『チャポン』 という生命の音。
すべての感情が頭の中にきらめきながら津波のように、快楽の思い出が押し寄せる。
即座に手に取り、キューッとグラスを傾ける。
ワインでこんな飲み方は、品が無いなと笑われてしまうか。
地球育ちの田舎者なのだ、許して欲しい。
アルコールが胃に到達すると、先ほどまでの尋問の恐怖や捕虜となってしまった罪悪感が遠のいていくように思えた。
自分は、無敵だ。きっと今夜だけは、そう思える事だろう。
「お~、素晴らしいですね。この銀河に来て、はや100年。その様においしそうに飲む人族は始めてだな。では、私も失礼して」
彼女も赤い液体の入ったグラスを傾ける。
ゴクッゴッゴクッと、喉を鳴らせて。
「なるほど! 豪快ですね。 お酒を愛している方の飲み方だ」
さすが魔族だ、人間の上を行っている可能性があるな。
早くもじんわりと指先が温かくなっていく。
ささくれだった神経が溶け合うような感覚。
思考の隙間から、じっとりした幸福がにじみ出す。
――
飲んでしまった。
明日には、痛烈な後悔と頭痛が訪れるだろう。
でも、凄く気持ちいい。
恐怖や不安が全て何処かへ行ってしまったのだ。
脳がこの状況へ警鐘を鳴らしてくれているが、それすらアルコールが消してくれる。
なぜ自分は、捕まっているんだっけ?
目の前の美人魔族のアリエノールさんに聞いてみよう。
「ハハハッ、自分はどうして捕まっているんでしたか!?」
「フフフッ、殿下の名誉が傷づかないための対等な交渉としての捕虜だ。拉致成功して良かったですよ、失敗したら私の立場が危うくなってましたからね」
「ハハハハッ、そうでしたか! 拉致されて〇されるかと思いました」
アリエノールさんの蒼白い顔に赤みが差してきて、黒い翼がバタバタとはためいている。
そして、饒舌になってきた。
酒、なんと素晴らしい物だろうか。
「フフフフハハハ、そんな野蛮な事は、しないな・・・? いや、そうとも言えませんか、この艦の小鳥達の様子を見てみましょう」
爆笑しながら卓上の端末を操作していると、重厚感のある扉の前に、軍服姿の女性軍人達が群がっているのが映った。
思い思いに何かを叫んでいる。
「宰相! ここを開けてください!! 殿下は必要な犠牲だったのです! さぁ、煮えたぎるこの思いを 『残虐騎士』 殿にぶつけましょう!」
「宰相! 一人いじめはいけませんぞ! 超上玉の敵国の男騎士ですぞ! 無駄な消費は良くないですな、じっくりとねっとりと凌辱を!」
「ぬぬぬっ! 鬼才あらわる! 小生も負けていられませんな、逆に集団で思いっきり致しても良いのでは?」
「「「「うおおおおおおおお! 宰相、ここを開けて下さい!!!!!!」」」」
扉を叩く、女性軍人の群れ。
ゾンビハザードでも、この扉を挟んだ向こうの地獄絵図は表現できてないと思った。
なんだ、これ。めっちゃ面白いな。
「ハハハハッ、何ですかこれ? 世界の終わりでももう少し品性があるとおもいますよ! ハハハッ!」
「フフフハハハ・・・いや? ここまで酷くないと思ったが、想像を超えて来たな。ここを開けた瞬間、オーク(トッリー族)集団VS王子 の結末になる。どうなるか想像するに容易いですね。フフフハハハ!」
二人して、爆笑をこらえられない。
笑いながら、ドクドクドクと赤い液体を注いでくれる。
グラスギリギリまで注いでくれた、まさに幸福の分け前。
目いっぱいにグラスと心が満たされている。
「おお、すいません! こちらかもアリエノール宰相閣下に注がなければ」
ビンを受け取り、ドクドクドクと注ぐ。
卓上をチラリとみると、いつのまにかワインの空ビンが3本ぐらい転がっている。
「おお、これはすまないな。これからも、良しなに頼むよ。恐らくこの敗北で、和平に進むだろう。シウタ殿が簡単に捕まってくれたおかげだな。では、乾杯と行きましょうか。おお? これで何回目の乾杯だったか? フハハハハ!」
「宰相閣下! まったく分かりません! 「でもカンパーイ!!」」
二人ともごくごくごくごくと、チューハイより遥かに高いアルコール度数のワインを傾ける。
なんとなく、意識に霞がかかって来た。
そして、アリエノールさんの腕の端末からピーピーピーとアラームが鳴る。
「フハー、シウタ殿、こんな夜に緊急連絡だ。確実にお宅の連邦関連とうちのララス殿下の捕虜関係の連絡だな。まったく時間を弁えて欲しいものですね。ウハハハハ!」
「ハハハー、こんな時間に連絡なんて、絶対トラブルに決まってるじゃないですか。出ても地獄、出なくても明日に修羅場が地上に出現。確かに今電話に出た方が傷は浅い可能性がありますか~? ヒハハハハ!」
でも一応、捕虜の体裁は取っておいた方がいいだろう。
こんなに楽しく捕虜をやっていいわけが無いと、なけなしの理性が働いた。
「アリエノールさん、一応、捕虜の体裁的に手足を拘束してもらっていいですか~? 多分ですが、捕虜がこんなに楽しく飲んでてはいけないですかね?? ハハハハッ!」
「おお! 機転が回りますね、連邦のエースは優秀なお方だ! 承知しました、私も顔ぐらい真面目にしなければいけませんか! あまりにも苦渋と言える難しい状況なので、アルコールに頼りながらやってました感をださなければいけないな!! フハハハハハハ!」
アリエノールさんが手を振るとフォン! と、手足に光の輪のような拘束で縛られ、後ろのベットに倒れ込む。
なんというベットの柔らかな感触だ。
酔った人間を受け止める天使の羽と言っても過言では無い。
そして、壁にホログラムスクリーンが映る。
そのスクリーンには、怒髪天の形相のアーレ大佐が映っていた。
なんか、マジギレしてウケる。
大佐! 自分は捕虜です!
丁重に取引をお願い致します!!
――
「ご無沙汰しているわね? アリエノール宰相?」
ベキッ、バキッ! と金属が引き裂かれる不協和音と共にアーレ大佐がホログラム画面に浮かび上がった。
何かツボに入ったのだろうか、フルフルと笑いを堪えながら真面目な顔をしている宰相閣下。
笑いを堪え苦悩している顔に見える。
その役者っぷりは、まさに天下を取る才能の塊だ。
「ククッ、アーレ大佐、ご無沙汰しております。また貴方が交渉役でしたか。連邦の能力で言ったら当然か。そんなにシウタ殿が心配ですか? 安心してください、協力的で元気にされてますよ! フフフハハハハ!」
笑い方が邪悪な魔族そのものだ。異世界のまさにステレオタイプの魔族だ。
捉え方で煽っている様にも聞こえるのもポイントが高い。
お酒でテンションが上がっているのが分る。めちゃくちゃ面白い。
と、ベットで寝ながら横になり事の様子を眺めている。
ベコォッ! ドコォッ! と異音が画面から聞こえ 「ちょっと失礼」 と、アーレ大佐が画面から消えた。
「ミリ軍曹、暴れないで! 機材壊れちゃうから! ララス殿下の人肉焼き鳥なんて誰も食べたくないわよ!! そんな事をすると無事に返してもらえ無くなるわよ!!」
と、聞こえ、何をしているかシュールな状況がありありと想像できる。
再び、アーレ大佐が画面に戻って来た。
「さて、アーレ大佐。今更ですが、こちらの捕虜のシウタ殿をお返しする条件についてお話しますか? フフフ」
「貴方が返すのは当然ですわね。捕虜交換の条件は協定で定められている。帝国が無謀な要求を突きつけるつもりなら、それなりの覚悟をしてもらうわよ」
そして、カメラが切り替わり、見覚えがある少女が映る。
頭に銀の羽飾りをつけた紫髪の少女だ。
「アリエノールよくぞ、交渉まで持っていきました。さすが宰相です。そしてシウタお兄様は、本当にお元気ですか?」
ホログラムが自分にズームしてくるが、当然寝たふりだ。
上の判断に任せるから、はよ助けて・・・、いや、助けなくてもいいけど。
交渉決裂して最悪の場合、アリエノール宰相の右腕として働くから。
なんか、上手くやっていける自信がある。
ホログラムに豪華なベットに拘束されて寝かされている、自分が映っているだろうか。
「ああっ、頭が! 豪華なベット、敵国の騎士、拘束、この三つの真実が導き出す答えは一つです。 あああああああああああああ! アリェノォオオオオオオル、丁重に扱われているといえ、余が捕まっていると言うのにおまええええええええええええええええええええ! 許しがたいプレイですぅうううううう! はぁあああ?! おまえは一体誰の従者だと・・・」
静かに、画面が切り替わった気がする。
「宰相を刺激しないで欲しいわね、ここで身内が宰相を煽るかしら?? アリエノール宰相、穏便に、穏便にいきましょう。 明日、朝一番で協定により捕虜を戻すから。なんなら、贅沢させて返しますから。これ以上、シウタさんに何もしないで欲しいわね。 この先のネトネトを見たい気持ち、心の扉の中の悪魔が全力で出ようとしているわ。さすがの手腕ね、アリエノール宰相。丁重に殿下ご一行をお返しするわ。同時にシウタさんの返還を要求します」
「承知した、では明日引き取らせてもらおうか。詳細は送っておく。シウタ殿、何か言っておくことはありますか?」
フォン! と急に拘束が外される。
が、酔っているから話す事も特にない。
とっても元気です。
「フフハハハハ! 特に無いそうだ。 明日無事を確かめてみればいい。では、殿下の事はお頼み致しますよ」
鬼の形相をしたアーレ大佐の顔を後に、通話が切れた。
後で一緒に仲良く酒を飲んでました! と、ばれるのが、なんか凄い怖い。
黙っておこう。
通話が終わり、こちらを見て邪悪な笑みを浮かべる宰相閣下。
「フハハハ! では騎士様。 連邦の騎士がいかに強いかを見せてもらおうか!」
戸棚から、琥珀色の液体が入っているビンが見える。
間違いない、ウィスキーだ。未来のウィスキー。
夢にまで見る黄金の液体。
「クッ、望むところです!宰相閣下! 「かんぱーい!!」」
帝国の夜はもう少しかかりそうだ。
――
豪華なベットから身を起こす。
横を見るとアリエノール宰相がワイシャツ姿で隣で寝ている。
スタイル良し、寝顔すら美人、まったく隙が無い様に見える。
いや? 違うな、酒に弱いのか。
大丈夫だ、この様子なら勢いで致していないと思う。
健全なお酒の席だったと思う。何かあったとしてもお酒のせいだ。
人の自制と理性を奪う悪魔の飲み物だ、許して欲しい。
激しい頭痛と後悔が体に押し寄せる。
宰相も頭を押さえ起き上がる。
ポゥと緑色に手元が光ったかと思うと、こちらを向き話しかけて来た。
「二日酔いを治すスキルだ。必要ですか?」
自分のスキル弱すぎかよ、なんでもスキルで解決できるのかよ。
最強のスキルだろ、それ。
はぁ~、転生したら最強でしたとか、ク〇見たいにチョロイ人生をやりたいものだが、人生と言うのは上手くいかないものだ。
「お願いします。そうだ、宰相閣下、連絡先交換しませんか?」
「もちろんだ、和平後すぐ連絡しますからね。昔お忍びで行ったとき見つけた連邦の繁華星にいいバーがあるんです」
――
服が無いので、そのまま帝国の黒いゴシック調の軍服を着せられて、宰相と一緒に扉を出る。
そしてすぐに、羽飾りをしている女性軍人の方々に囲まれた。
「ぬぬぬっ! 帝国の軍服が似合いすぎですな。昔からここに王子様が居た様な安堵感。そうだ、焦る必要もない、これからずーっと一緒なのだ」
「帝国の軍服、これは暗黒面に落ちた英雄と言えますかな? 脳神経が焼かれる尊さですな。こんなピッタリ性癖がはまる男性は初めてで・・・」
「大切なお客様。着こなしも素晴らしい、もう少しゆっくりしていきませんか? こちらに帝国産の茶葉が・・・」
「うちの部隊で、お給料を10倍・・・、100倍まで出せますが。終戦後お話致しませんかな?」
「おい! ずるいぞ! 抜け駆けか!」 「うちは1000倍まで出す! 家も土地も売るぞ!」 「ぬぬぬっ! ならば私は貴方を宰相にしてみませましょう!」
未来へ行っても、どこも男女比率が違う職場はこんなものなのか?
そういう男女比率に対する優遇があっても本人の退職で職場が大ダメージを受けるのが現実でしょうが。
サッと宰相が手を振ると辺りは静かになりそのまま、出口へ誘われた。
――
帝国旗艦から放たれた回収シャトルが、連邦拠点A-112の降着エリアにゆっくりと着陸した。
外にでるとアーレイン大佐を先頭に、ミリ軍曹とサリ伍長が整列して待機していた。
アリエノール宰相が、紫髪の殿下と帝国ヴォルテクス乗りを迎えに向かい、自分は3人の元に駆け寄った。
3人共、手を広げていて飛び込んでくるのを期待しているようだが、一人に肩入れは出来ない。
サリ伍長とアーレイン大佐の腰に手を入れ、ミリ軍曹に飛び込む。
3人を平等に抱き着く形でどうだろうか?
「「「大丈夫ですかー? 何もされてないか!? うん? アルコールの臭いがしますわね??」」」
やべぇ、ばれそうだ。
無理やり嫌がる所を飲まされたと言えば何とかなるか??
アルコールハラスメントは絶対だめだ!
貴方様、良いお年を。
アルコールが入った状態です。
推敲は年が明けてからで如何でしょうか。




