16 シウタ帝国
シウタから帝国
目が覚めると金属のタイルで目張りされた天井が見える。
動員令中なので、効率を優先するためにブリーフィングルームで寝泊まりすることになっている。
ここなら、いつでも出撃準備や打ち合わせが可能だと言う事だ。
しかし、男性配慮が先行して自分専用の部屋になっているが、ブリーフィングルームで泊まる意味があるのだろうか? 意味、無いよな?
そんな中、部屋の外の廊下から、やかましい声が響いてきた。
「ミリ軍曹・・・!? もしもし、ミリ軍曹!? 大丈夫ですかー?!」
これは、サリ伍長の声か?
「立ったまま燃え尽きてますかー? もしもし? 動いて下さいよー! もしもし!? 反応もないですねー? ちょっと! これダメですねー!? 大変ですー! 医療ポット行きですよー! 救護班! 急いで! ミリ軍曹が立ったまま、微動だにしません! 今帝国に来られたら詰みますよー!?」
「本当に動かない! これ、マジでやばいわよ!? ほら、誰か触ってみて!」
「ミリ軍曹!? シウタ王子専用ブリーフィングルームを守るためになんて姿に・・・!」
「あれ? ミリ軍曹に匹敵する女猫なんていなくない? 大佐かな? でも忙しくてそれどころじゃないよね? なんで?」
マジかよ。
あの後、ずっと廊下にいたのか。
ミリ軍曹が復活することを願うばかりだ。
そして、カラカラと自動歩行型ベットの歩く音がした後、部屋は静かになった。
えーと、改めておはようございます。
昨日から何も食べていない、肉が食いたい気分になった。
こんな気持ち初めてだ。昨日の激戦がお腹を空かせてくれたのか。
ベットから降り、プシューっと部屋を出ると目の前に立つアーレ大佐と目が合った。
金色の目に力は無く、目の下にクマが出来ており、銀髪ショートは乱れて疲れを感じる。
「おはようございます! アーレ大佐! 本日の指令、何なりとご命令ください! 必要とあれば、即座に敵兵を〇して、すぐに首をお持ち致しましょう! 大佐、指示をお待ちしています!」
そのお疲れの様子の大佐の前でビシッと敬礼を決める。
アーレ大佐は、ノってくれるからな。超嬉しい。
「おはようございます。シウタさん、昨日は、素晴らしい戦果でしたわね。後、敵兵は〇すとか言わないでね? 残虐よ? 無力化と言って欲しいわね。そしましたら、任務を与えます!」
さすが、役者が違う。
声には軽い疲れの色が混じっているものの、柔軟さは失われていない。
「まず、私の部屋で食事を取りましょう、話すことがあるの。まだ何も食べて無いわよね? 後で、サリ伍長とミリ軍曹が来るから・・・? あっ、来れるかしら? そうそう、シウタさん、貴方が肩入れすると、誰かが傷つくのを忘れないでね? 王子様」
「イエッサー。ぐぎぎ、イエッサー! イエス、マム!」
釘を刺してきたか。まさか、人の部屋覗いてないよな?
背筋が凍る。それぐらいの理性と分別はあると思いたい。
――
アーレイン大佐の執務室に入る。
黒い偉い人が座る机、客人用のテーブル。
壁には銀河地図見たいな物が飾られ、テーブルの上には銀のフォークとナイフ、おいしそうに焼き上げられたステーキと彩り豊かな 『普通』 のウネウネしないサラダ。
自分が想像した普通の未来の部屋がそこにはあった。
不思議だ。未来へ行ってもなぜ、古い文化をありがたがるのか。
10代の記憶が脳に囁く。
『食事はどうせ楽しまないから栄養満点の固形食、疲れたらエナドリ。どうせ部屋では、パソコンスマホしかしないから、無駄な虚飾はいらない。暖かく涼しければいいじゃない』 と。
若い時は、理想だった。でもそれはディストピアで、繁栄はそこには無いのが分る。
銀河の文化恩恵による繁栄の効果が凄い! 未来も、そう言う事だろう。
古い物はありがたいと言う事か。
だが、時はアラサー。
地球の部屋に飾っている文化をみて、姪からの一言 「おじちゃん、この女の子の人形どうして下着なの? ダメでしょ?」 と、心を抉る無垢な発言。
ちくしょう、絵画や石像はヌードじゃねーか。なんでいいんだよ、絵画の方が教育に悪いだろ。はやく規制してくれ。 古い物をありがたがるな。学として残して規制してくれ。
何かがフラッシュバックし意識を戻した後、自分の皿の肉にナイフを入れながら、視線をお疲れの様子の大佐に戻す。
こういう時、まずは仕事の話からは入らないのは常識である。
ビジネスマナー的、そして女性との会食的なマナーみたいなものだ。
「大分お疲れの様子ですね。大丈夫ですか? またこの度、色々とご配慮の程、ありがとうございます」
大佐は、口に少し付いた肉汁をピンク色の舌でチロリと舐め、色っぽくフォークを置いた。
「その気づかい、嬉しいわ。そうよねぇ、疲れた様子に見えるかしら・・・? ・・・そもそも? あのド腐れ宇宙艦隊のク〇共が生産拠点のマーセキン鉱石に寄生して、自分まで偉くなった気になってるわね。あぁ? このク〇忙しい状況は、誰が生んだのか分かっているのかしら。あっ、シウタさんの事じゃないわよ? あのガラクタの古い物にすがりながら進化しないゴミク〇。負けたらその栄華の日々も無くなることが分かっているのかしらね? ここ落とされたら連邦王国は繁栄できないわよ! 正直、帝国の方が正直やる気があるわね。そもそも将官システムがおかしいのよ・・・」
あっ、こういう感じ? いきなり地雷踏み抜いたか。
ゆっくり大佐と食事を取る機会が無いから、好む会話を掴めていない。
会話の切るカード間違えたみたいだ。
さて、どうするか?
「ハハハッ」 っと、苦笑いして切り抜けられるか?
「そうですよね!連邦王国〇すべし!」 と同調して大佐を持ち上げるか? この場合、愚痴が見当もつかない程、長くなるのが予想できる。
まてよ、価値観が逆転している。
拠点で唯一の男という自分の価値を利用して、ク〇ほども興味を持てない話題をするほうが悪いと、つまならさそうに食事をする最強のカードをここで切るか?
営業感覚だと、いつも持ち上げる所だが。
一応、宇宙部隊は味方である。悪くも言えないだろう。
よし、右から左に流そう。
自分の皿にフォーク差し込み、肉の一切れを口に運ぶ。
おいしいね。
「でね、拠点にゴリ猫しか居ないから何とかなるんじゃないかと思われてるから、ああやってすぐ引くのよ。あんなの味方でも何でもないわよ。ゴミよね」
あれ、宇宙部隊が悪い? なんかそんな気もしてきた。
やっぱり、拠点を生贄にしていた、ク〇共だったのか?
でもあれだけ帝国ヴォルテクスを拠点に通してくれるとか、自分にとって超ありがたい部隊です! と、口が裂けても、お疲れのご様子のアーレ大佐の前で言えない。
きっと、金属を引き裂く腕力で、生皮を剥がされ血祭にされる。
皮膚が再生する感覚を、医療ポットで味わう事になるだろう。
狂気の食事会を早く終えようと、自分の手元のナイフを動かすスピードが若干速くなった気がする。
「あっ! シウタさん。折角の二人きりの食事の時にごめんなさいね。聞いてくれてありがとう。少し気持ちが楽になったわ」
さすが、優秀と冷静を兼ね備えた上司。
察する能力が秀でている。
理想の拠点上長だ。これからも、大佐のためにバリバリ戦果を稼いでまいりますよ。
「いえいえ! アーレ大佐、自分で良ければいつでも愚痴ってください。その重荷、聞くぐらいならできますから!」
当たり障りのない、社交辞令で事なきを得る。
この会話で歓心を引けない事を気づいて頂けましたか。
アーレ大佐の体から喜びと安堵感、そして懐疑的な視線で金の瞳に見られた様な気もする。
悪いのはアーレ大佐ですよ、なんて目で見るんですか。
まったく、部下の前で愚痴は良く無いですよ。
――
食事を終えると、天井のインカムから「サリステア伍長、ミリ軍曹はいりますー」 と、声が聞こえて来た。
「どうぞ~」
プシューっと扉が開き部屋に入ってくる、黒髪ロングのミリ軍曹と茶色のセミロングのサリ伍長。
そして、ミリ軍曹が一瞬だけこっちを見て、上を向いた。
ずーっと薄ら笑いをしながら、天井を見ている。
「アーレ大佐、シウタさん。おはようございますー、ミリ軍曹が朝からこの調子で、医療ポットに直行させたんですけども、どこも悪い所は無いですねー。ミリ軍曹! 本当に大丈夫ですか!?」
「ダメ」
「いや、全然大丈夫ですよねー? 異常ありませんよー!? どうしたっていうんですかー、この調子で、帝国に負けたらシウタさんが〇されてしまいますよー! 絶対、2度も続いて超恨みを買ってますもん! 憎しみの象徴、抹殺の対象ですよー! 抹殺ならまだいいです、絶対れーぷ以上の事をされます、分ってますかー!?」
マジに何言ってんだ。マジに何言ってんだ?
めちゃめちゃ怖い事言わないで欲しい。
普通に戦闘してただけなんだけど、マジに何。
「ダメ」
「ねえー! 正気に戻ってくださいよー! これでは、2番目も狙えませんよ! ミリ軍曹!」
「・・・」
ずーっと、薄ら笑いをしながら天井を見ている。
心ここにあらずだ。
アーレ大佐が前に出て来る。
「・・・まぁ、ミリ軍曹は、意識があるならいいわよ。おそらく次陣が来るまで治っていると思うわよ。さぁ! 大まかなブリーフィング始めるわよ~」
「「了解!」」
机の上にホログラム画面が浮かび上がる。
――
帝国の猛攻にさらされ、見事撃退した、生拠点A-112。
アーレ大佐が戦況マップに視線を落としていた。次の帝国の攻撃が、第一陣を凌駕する規模で来る事は、予想できる。宇宙部隊の脆弱さが看破されたからだ。
そして当然、戦略として超級エース、ミリュネ・ベグハルトの対策をしてくることだろう。
だがまさに神の采配、ランダムなゲートワープに巻き込まれた超級エースの人族が突如拠点に現れたのだ。
「これは最高についているわよね、帝国の拠点の戦力分析が甘いわよ! ミリサリ、シウタさん!」
戦況有利に喜ぶ、アーレイン大佐。
そんな事は、つゆ知らず。
帝国は圧倒的な軍事力によって、銀河に覇を唱えるべく動き出した。
帝国は連邦王国の生命線ともいえるマーセキン鉱石の流通を遮断すべく、宇宙航路の封鎖を断行。
魔石の最大生産拠点A-112。これを手中に収めることで、帝国の支配は揺るぎないものとなる。
生産拠点を襲撃するなどの局地攻撃を展開、その戦略は着実に成果を上げており、戦線として硬直状態になりつつあった。
わが軍の帝国の将校たちはその小さい勝利に胸を躍らせ、さらなる攻勢を仕掛ける。
だが!
最重要拠点A-112 を急襲するも帝国機数が足りず、毎回、正々堂々とボコボコにされてグウの音も出ない。いつも、恥をさらすだけの始末。
正式に宣戦布告も出していないと言うのに、これでは連邦の士気を上げるだけだ。
ついに新型投入を決意し、ミリュネ・ベグハルトを戦線離脱とさせることに成功した。
神話上のゴリラの化身と呼ばれる女猫の撃退。大金星である。
だが、喜びもつかの間、破損機体での奮闘による最終的に敗北。撤退を余儀なくされた。
意気消沈とは、このことである。
再度、成果を誇張し新型投入のお伺いをするが、最高に叩かれた。
「恥さらし! やめろ! 恥さらしが!」 「どれだけ帝国の威光に泥を塗れば気が済むのだ!」 「負けるのが趣味なのか? ゴリラ相手に無理だって!」 「時期見て宣戦布告できっちりとケリをつけるんだ!」
「相手はゴリラだぞ!? 布告後に移動型要塞を投入するため、帝国の精鋭宇宙部隊に予算を回せ!」
つらい。生きるのがつらい。突き上げの的だ。
宰相と言うのも辛い立場だ。
あまりにも反対意見が多いので、帝国で法を超越した存在の一人、殿下にご協力頂くことになった。
幸い、ヴォルテクスに興味がおありだ。
そそのかして、ご同行を願った所 「余の同行ですか? いいですよ」 と快諾して頂いた。
殿下は、クィーン(女帝)の 『種族の力』 を引き継いでいる。
帝国主軸の種族のトッリー族で、異を唱える物は存在しない。
再び、新型を投入してみた所、狙撃の変態が増えていた。
画面に映る、次々と落ちていく帝国機。そして地獄からの使者、ミリュネの突撃。
そうだ。ゴリラが増えている。
神話上の生物が増えてたまるか。
今日も、また私は酒に逃げるしかないのか。ワインを直で1本、一息で開けるとしようか。
次目覚める時は、朝だろう。
突き上げの台詞を想像するだけで、胃液がせりあがってくる。
皇機に搭乗している殿下に撤退を進言して、戸棚からワイン取り出す。
気持ちよく気絶する準備が出来た。現実は、どうして私を認めないのか。
でも、様子がおかしいのだ。
紫に染まる変態狙撃機体が、ホロクラム画面を追ってくる。
そして、私達の画面にその黒光りするライフルを構えた。
「なんだあぁあああああああああ!? 何!? なんなの!? は?! マジ〇す気なの?! はぁ!? 人の心とか無いの!? やめろおおおおおお!」
叫びも空しく、無情にもビームが外部コクピットカメラに直撃し、貫通していく。
その様子を見て絶望に身を震わせる。
終わりだ。私は、終わりだ。
殿下を連れ出し、害した責任。もう終わりだ。
この宰相に上り詰めた努力、この特権、調度品に囲まれた上級の暮らし。
全てが水泡に帰すのか。
連邦のド腐れ外道機め。
はぁ~、女魔族に生まれて100年。
魔族学園を出て、魔族ゲートで帝国に呼ばれてから才覚と才能と努力でここまで上り詰めたと言うのに。
私の処刑を皮切りに、戦争へ突入だろうか。
まだ殿下の映像がホログラム画面で映っているが、見てられない、まるで血袋だ。
そしてカメラが動き、赤い空が映った
そこには人族の男が映っていて、緑の光が包み、殿下を回復している様子が映る。
こいつは、変態狙撃のパイロットか!?
外道な行動とは裏腹に、回復してくれているのか?
おぉ! 一命をとりとめたのか、ありがたい! 私の首が繋がった!
でも、エグイな。もっとちゃんと回復してあげたら? 骨バラバラでは?
やはり外道は、外道か。
だがその時、魔族の種族の力 『高速演算』 が働いてくれた。
天啓がおりて来た。この映像は、使えると。
その後すぐに、あの映像を少しいじって、プロパガンダ映像を出したら帝国の全てが動いた。
皇帝まで動いた。
保身用に出した映像だったのに、異常な反応だ。
正常な判断では、無いと言える。何かがおかしい。
でも、ゴリラ見た後だと、おかしくも無いかもしれないか? 戦意無く逃げ出す機体を、後ろから撃つ残虐非道のスナイパー。
「〇せ! 〇せ!」 コールが起こってもおかしくない、非人道的な行動だ。
だが、何か違う。ほんの少しだけだが何かおかしい。
皇帝からも勅令で 「絶対に生かして捕まえろ」 と頂いた。
帝国世論は、あっという間に一気に決着に傾く。
――
そして、目の前にいらっしゃる、帝国の一人娘のララス殿下の様子もおかしい。
テクノロジーの結晶の医療ポットで、殿下は瀕死の状態から完全に治ったはずだ。
「お兄様にお会いしたい・・・。余に生き別れたお兄様がいらっしゃったのです。お兄様、私を実の妹だと知りあのような事を致すなんて。アリエノール宰相、さぁ、戦争をしましょう」
頭がどうかされている。
だが、お体に異常は、何一つない。
お兄様はいない。殿下あなたは、一人娘です。
いつもありがとうございます。
うむむ、キレがいまいちだ。
書いている時の感情によって内容の流れが激しく変わる。




