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11 サリステア・フィオーレからシウタ

サリステア・フィオーレとシウタ


休日、そして初デート!

なんて素敵な響きでしょうか!


昨日の夜は目がさえすぎて、イマジナリー(想像上)の私が二人ぐらい出てきましたよ。


「どうしますかー? チューまで行きますかー? それとも1泊目で、れーぷ決めちゃいますかー?」


「待ってください。私に、そんな胆力がありますかー? それより会話の組み立て考えてますか? シウタさんの好みは調べて無いですよね? 不安じゃないですかー? もう、最初かられーぷして既成事実を作りませんかー?」


人心を惑わす悪魔のイマジナリーしか出てきませんねー?

どの選択も素晴らしいですねー?


あああああああ! ワクワクと想像が大変な事になってます!

私が身の丈を超える行動をしたのは分かってます。相手は、シウタさんですから。


ああ、もう気持ちが爆発しそうです! 心砕けてもいい! 一番星をこの手で掴みたい!


――


寝てるのか起きているのか、まどろみの中で目が覚める。

ささっと身支度を整えながら鏡の前で前髪を少し上げてみる。柔らかい印象になるだろうか。


そもそも、無茶なのは分かっている。

シウタさんは、簡単に手が届くような相手じゃないかもしれない。

デートの終わりにどんな結末を想像しても、恋焦がれている人と過ごす一日が始まるという期待が身を焦がす。

私だって、一番星を掴みたい。

こんな機会は滅多にないんだから、全力でぶつかるしかない。


人を物としか見ない様な実家も、今なら理解できる。

それぞれに燃え盛っていたのだ、身を焦がし続ける野望の炎が。

でも、私を破滅させる様な心の大炎に比べたら、そんな野望の火なんて今は小さく感じる。


鏡を見て、気合を入れる。

自己啓発方法だ。


「サリ! 良くやりましたねー。一番星が眠る時のデートの誘い、見事です! 自信と笑顔を忘れないで! よし、行きましょう。絶対、最高の一日にしてみせます!」


鏡の前の私に自信の光が宿った気がする。

私は、こうして気合をいれて物流部の長となってきた。

上長たるもの、凛としなければいけない。


――


彼の部屋の前で待機していると、胸が高鳴るのを感じる。

朝早いせいもあり、部屋の前には静けさが漂っていた。


チリリリンと部屋の呼び出しをしようか迷っていると、ドアがプシュー!と開いた。


「サリステア伍長、おはようございます。 でも、今日は休日ですね。サリさんと呼んでいいですか?あ、今日も前髪わけてるんですね、そっちの方が似合いますよ。 『ステア』 さん」


いつもの朝の狂気を感じる挨拶では無く、扉を開けたらジャンプスーツのリアル王子が出て来た。

とんでもない破壊力だ。この人を掴む気でいたのか、自信が揺らぐ。

心臓が 「しばらく停止します」 と、脳に伝えて来るが 「寿命を縮めていいから今、動け」 と返している。


「違いましたか、上官殿! 大変失礼しました! サリ伍長、おはようございます! 繁華星への前進を許可願います、サー!『その邪悪な挨拶はいけませんねー! サリでお願いします!』」


その静止の言葉にニッと笑うシウタさん。「了解しました、サリさん」


私、全然ダメだ。シウタさんについていけてないです! 

手玉に取られまくりですね。私にだって、それぐらい分りますー!


自分を持ち直して、シウタさんと星間シャトルポートへと足を進める。


「シウタさん、こっちですよ。朝食は着いてからにしましょうか。お勧めがあるんですよ」


「サリさん、ついに肉以外の食べ物ですか! 凄い嬉しいです!」


これは、いけません。すでにデートプランに歪が出ている。

『デート』 キーワードで量子コンピューターで検索すると 『おしいしいお肉のお店』 って出るのに。


星間シャトルポートの乗り場は、足元には微細な重力制御プレートが敷かれ、歩くたびに軽い浮遊感が伝わる。

壁際にはホログラム広告が宙に浮かび映し出されていた。


星間移動シャトルを前にして、シウタさんが言葉を失っていた。

私はてっきり、シウタさんもこの移動手段に慣れているものと思っていた。


「サリさんすみません。 少しそこの浮遊ベンチ見たいな物に座ってゆっくりと話しませんか? この感動で足が進みません。いま目の前にあるこの奇跡のテクノロジーに感動して動けません」


少しだけ服の裾を引っぱってくる。

何言ってるんですか、もうこれは私の事好きでしょう?


「そうですよー、今日やめにして自室デートにしますかー?」  「彼の部屋デートもいいですねー」


イマジナリー私、誘惑をやめて下さい!

そのプランは、うまくいかないと思いますよ! おそらくですけど!


でも時間が無い、まもなく朝一番のシャトルは出発する。

時間が無い事を伝え、自動ゲートからシャトルに入る。


「シウタさん。ここですよー」


シャトルの中に入りシウタさんを案内し、彼と並んでシートに腰を下ろす。

シートが体格を自動検知して、体を楽な体制にしてくれる。重力が無くなったような心地よさだ。


シウタさんは、出発前の窓の外をじっと見ている。

私も視線をそちらに移すと、港湾施設ならではの光のイルミネーションの様な光景が広がっていた。


「あー、凄い。あーすんごい。 感謝を込めて、女神様の祭壇の材料を買わなければ。祭壇の生贄が毎日必要ですね。何にしよう。なにこれ、マジやばい。宇宙ヤバイ。マジヤバイ」


あれ、王子様の様子がおかしいです。私の王子様はどこへいきましたかね。

そして、シウタさんがこっちを向いてくれた。


「なんだか信じられないですね。こんなに楽しい気分で星を渡れるなんて」


やっぱり超王子でした。

一日持ちますかね? イマジナリーの誘いに従い、午前中には特別なホテルへ誘いそうです。


「到着まで20分ぐらいですかねー、光速航法なのですぐ着きますよ」


「ああああああああああああ!光速航法! 次の休日一日これに乗っていますね! 最高かよ!」


・・・ヴォルテクス以外に、彼の興味を引けるものがあるとは意外ですね。

学習しましたよー。


――


シャトルが静かに着陸すると、カラフルな光、浮き上がるホログラム広告、行き交うネッコ族たちが視界いっぱいに飛び込んでくる。


「さ、浮遊タクシーで移動しましょう。」


周囲には無数の浮遊タクシーがぷかぷかと宙を漂い、乗客を待っている。

あちらは小型の黄色いポッド、こちらはシルバーの高級仕様。

どれも重力制御で地上からわずかに浮き上がり、無音でスーッと移動する。


浮遊タクシーに乗りながら必死に、考える。

朝に予約したのは 『お肉のおいしいお店だ』 どうしましょうか。

確かに、いつもと変わり映えしませんかね。


「シウタさん、軽いお肉と、お肉と、重めのお肉だとどれがいいですかー?」


相変わらず、窓の行きかう景色を見ているシウタさん。

聞こえなかったのだろうか。


「シウタさん、何のお肉がいいですかねー。選べますよー!」


今度は少し声を張って聞くと、シウタさんがようやくこちらを振り向いた。

先ほどまで景色に心奪われていた瞳が、今は私を見つめている。

やはり、お肉のプランは大成功ですね。


「すみません、聞いてなかったですね。お肉ですか? 軽いお肉、普通のお肉、重めの肉塊の何がどう違うんです? 原材料:肉 じゃ無いんですか? 食品表示法どうなってますかね。 あ、失礼しました。 あの~、贅沢を言うと添え物の映えがいいお店ですかね~、ハハッ」


あれ? 聞こえてましたよね?? どういうことですー?? 肉嫌いな方なんて、いませんよ??

シウタさんも好きじゃないですか。リサーチして知ってますよ? 毎朝昼夜、お肉を食べているって。


――


『お肉のおいしいお店』 の車受けにつき、スタッフに案内される。

そして、フロアに通された。黒檀のテーブル、柔らかな光、軍食堂とはまるで別世界だ。

でも、いつもの香ばしい肉料理の匂いが漂って安心する。


ふと横を見ると、シウタさんが私のために椅子を引いてくれていた。


「どうぞ、サリさん」


にこやかな笑みを浮かべながら、椅子を少し引いて座りやすくしてくれる。

王子ムーブがさらりと出てくる。


イマジナリィイイイ私、出て来て下さい!

これやってますよね、やってますね!絶対やってますって!

王子すぎて危機感を覚えます。


「これは、経験多数ですねー。いくらなんでもこの王子の動きは経験無しでは出来ませんよ。私は数多いる女猫の1人でしかないのかもしれませんー。この瞬間の最高で儚い仮初の幸せを享受しましょう」

「これやってますねー。何百人ともやってますって。こんな紳士、想像でしかいませんよねー。一番星の一番を掴むなんて、はかない夢でした。と、言う事で、私ともやりましょうー」


幻想の存在が私の幻想を木っ端みじんに砕いてくる。


シウタさんの会話のリードで、仕事場中心の話題で楽しく時間が過ぎていく。

話題がヴォルテクスに切り替わった時だろうか。


「ヴォルテクスが」 「ヴォルテクスで」 「ヴォルテクス」


そろそろ、店をでましょうかー。

政治とお金とヴォルテクスの話題はデートで厳禁ですよ、シウタさん。

デートの教科書にもそう書いてあります。


「ここは上司の私が出しますねー」 


「ぐっ、その言い方はずるく無いですか? そう言われたらごちそうになります。サリ伍長」


一番星で王子のエースが、礼をしてなおかつ、笑顔も向けて来る。

お金の力、何と素晴らしい。


これは、最高に気持ちいいですねー。同じ使うお金でもこうも価値が違うとは。

アーレ大佐の気持ちがわかりますー。


――


一緒に買い物にも行く。完全にショッピングデート。

銀河の文化が交差するショッピングエリア、通路の壁が透過ディスプレイになっていて、足元にマップやフロアの案内が映し出されていた。


「酒あります? 酒」 「サリさん?? 聞こえていますか?」 「えっ? マジにこの星に酒売ってないの?」 「もしもし? サリさん何か怒ってます? えっ? 何? 未来はタバコの次は、酒が悪者だってか?? エナジードリンクが良くて酒がダメだってか??」 「なになになに、未来世界って禁酒なんですか?? はぁああああ?! あの女神、許さんぞ」


酒はデパートにはありません。

ネッコ族が遺伝子的に弱いからですねー。そして、酒は悪です。

星のどこかで細々と売ってはいるようですが。


あー、シウタさん飲む人なんですねー。ショックですー。


「でも、好き」 「超、好き」


そんな事は、分かってますよ。私。


――


最初は、不穏な空気になりながら、楽しくショッピングデートが終わった。


この後、私は少し実家へ用事がある。

この心の大炎を持ったまま、話に行かなければ。もう覚悟が決まっている。

お金も立場も欲しい、お互いに損はさせない。流通物流関係の事なら何でもできる。

ようやく対等に話が出来るが、時間が限られている。なりふり構っていられない。

虎視眈々と女猫達が、シウタさんを狙っているのだ。


まずは、シウタさんに一度、宿泊するホテルへ行ってもらわなければ。


さて!

後で賭けにでてホテルに突撃するか・・・、もう一度デートを挟み距離を縮めて次回にするか・・・。


イマジナリーは、もう何も言ってこない。答えは出ている。

全てがいい感じだった気もする、思い出がもう眩しく輝く、黄金体験。

嫌な記憶が何一つ無く、桃色に改ざんされている。


ありがとう、私の脳みそ。

心臓は 「対価の寿命を頂いたぞ」 と、何か不穏ですけども。

安い対価ですかね。


決まりですかねー。

次回が妥当だと思う。こう見えても私は流通部の伍長で察しがついています。

今は仕事絡みの 『好き』 であって、彼が私自身を好きというわけではないのでしょう。

シウタさんの営業力に騙されている所がありますね。

きっと次はもっと自然に好きになってもらえるよう頑張りますー!


深呼吸して、静かに笑みを浮かべる。


「シウタさん、今日はありがとうございました。楽しかったです。また誘っていいですか?」


「こちらこそありがとうございました。本当に助かりました。ええ、自分からだと立場上ミリさんを誘いにくいので。また誘ってくれたら嬉しいです。サリ伍長」


そのままシウタさんをタクシーに乗せる。

別れる道を歩き出だし、別のタクシーに乗る。

笑顔がいつまでも心の中に浮かんで消えない。


――


シウタ


――


このままホテルに来てくれたら、拠点に内緒の事が出来たと思うがどうだろうか。


サリ伍長からのデートのお誘い、好意があって誘ってくれた証拠である。

このままサリさんの好意に押きられ拠点に内緒の一晩ぐらいを期待していたが、話して一日付き合ってみると、純粋でびっくりした。

当然、立場上自分から誘う事は出来ない、完全に事案でアウトだ。職場コンプライアンス的にばれた時に 『良い寄られた』 と言われれば抹殺対象だろう。逆なら 『同意があった』 で解決だと思う。


おそらくサリさんは、段階を踏んだ形ですかね。健気だ。

価値観が逆転しているので、やっぱり男女間の駆け引きは、男が有利だと思う。


先ほどホテルにチェックインした。そしてすぐに酒が飲める、バーとラウンジを探した。

なんという事だろうか、この未来ホテルはラウンジもバーも無い。

全部、未来フィットネスクラブになっていた。


この種族はこれ以上、ゴリ猫を作って銀河征服でもする気なのかぁああ?


酒は、悪の未来なのか。

エナドリ、貴様も道連れにしてやるぞ。絶対にだ。


怒りを収めるため、ホテルの窓の景色を見る。

未来世界の風景を見て、気持ちを落ち着かせなければ。


目を疑った。

信じられない、外に「B.A.R」 の文字がある。


バーだ、酒を飲むところ。

心を繋ぐお店、一人で酒を飲むには寂しい時に行く所。

つまり、超気持ちいい。

酒、胃と小腸で素早く吸収され、血液を通じて全身に運ばれ経伝達物質ドーパミンが増えることで、多幸感、快感や幸福感、気分の安定や高揚感、血管の拡張と、後なんだ? 超気持ちいいは、言ったか。 そう、超気持ちいい。


うおおおお!


透明なガラスチューブ型のエレベータに乗り込み、シュポンと一瞬でグランドフロアに着く。

そのまま走り出し、「B.A.R」 の光目掛けて、扉に飛び入る。


女性バーテンダーが二人、冷静な手つきでグラスを磨いていた。

その手は止まる。女猫店員二人が驚いた顔でこちらを見つめた瞬間、警報がなり、後ろのシャッターが閉まる。


「はい、お客様閉店です。 お代はいりませんよ~。大人しくしてくださいね~」


「先輩ナイスです! 天才ですね。 はい、叫んでも無駄ですよ~」


え、マジになに。色々と速攻すぎんか?

酒は? 泥酔したら、やっていいから!


えっ、マジにやられるのか。

この星の酒場の民度どうなってんねん。


次の瞬間、シャッターが吹き飛んで、見覚えのある銀髪で私服姿のアーレ大佐が助けに来てくれた。


「邪悪な酒場でビーコンが発信されて駆けつけてみれば、お前達潰しますわね」


待ってくれ、貴重な酒場を潰さないで欲しい。



ありがとうございます。


未来の街をイメージしたら、空飛ぶ車、飛び出る広告、透明な筒の半重力エレベーターしか思い浮かばんかった。なんて、貧相な想像だ。


昔の未来想像だと、子供叩き教育ロボットとか、不正解の子供に電流を流す椅子とか飛び出るテレビか。

昔の人は、とんでもねーもん想像するよな。

最高に面白い。


意外にも昔が望むのが執事ロボットか。

ロボットは、御用聞きってイメージがあったんだなぁ。

人間以上でありながら、人間を裏切らない忠実な存在か。

今も、これは変わらないか。


AIが進化した未来に繁栄の図が浮かばない。

繁栄とはならないから、やっぱり試験管で作られる人類世界だろうか。

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