選ばれし者
遠い昔、銀河系にて……
銀河帝国の圧政に立ち向かうべく、結成された反乱軍であったが、戦況は反乱軍側が劣勢を極めていた。
帝国の軍隊はこの銀河において、屈指の強靭な肉体を持つ種族で構成されており、一人で反乱軍の兵士三人分の戦力に相当する。彼ら反乱軍を待っていたのは一方的な蹂躙であった。
だが、反乱軍は多大な犠牲を払い、帝国が研究中の究極兵器の試作品を奪取することに成功した。しかし今、帝国の戦艦が逃走中の反乱軍の宇宙船を捉え、続々と兵士を送り込み、反乱軍の指導者であるルローラ姫を捕縛しようとしていた。
絶望的な状況に見舞われた。しかし、どんなに苦しい時でも瞼を閉じさえしなければ、希望の光を見つけることができるのである。
『シンニュウシャ! シンニュウシャ!』
『損傷度三十五パーセント!』
けたたましいサイレンの音が鳴り響き、赤色に染まった船内。通路を走り、姫が向かった先は脱出用ポット。その胸に抱えているのは、そう、希望。しかし……
「コォフュュュ……どちらへ行かれるのですかな、姫よ」
「……相変わらず、独特な呼吸音ですことね、将軍」
「コォォォ、このマスクを外して思いっきり呼吸してみたいものですが、空気が悪いようなのでね。あなたのその反抗的な目つきのせいかな?」
「将軍、ご冗談はほどほどにお急ぎを。まだ船内に敵兵士が残ってますので、油断は禁物コォォォフュュ」
「部下もなんですね」
「コォォォ同族なのでね。さ、あなたが腕に抱えているそれを、こちらに渡していただけますか?」
「それ、とは……?」
「コォォォォォ……そんな布でうまく隠せているつもりですか? あなたが、我々から奪ったものをお持ちであることはわかっています。さあ、返していただきましょうか」
「それほどまでに恐れているのですね。あなたがいう究極兵器、その存在を……」
「ふっ、有用だとは思っていますよ。超人的な力を持ち、そして、どんな種族とも心を通わすことができる。敵対惑星に送り込み、内部から敵勢力を壊滅させることも可能でしょう」
「あの子は兵器などではありませんよ。優しい心で育てれば、悪を挫く正義の光になる」
「御託は結構。さあ、こちらに渡して、な、ない! どこへやった! まさか」
「ええ、すでに脱出用ポットに乗せて、船外に送り出しました。ふふふっ、残念でしたね」
「コォォォォォォ……だが、ポッドにはワープ機能はなく、長距離航行もできない。つまり、行き先は一つしかない。隊長、今すぐに隊を率いてあの星へ向かえ。兵器を見つけ出し、殺すのだ。現地住人もろともだ」
「了解しました。念のため、既にあの星について少し調べておきましたが、どうやら活動するのに、この呼吸器も宇宙服も必要なさそうですフュュュ」
「ふん、バカンス気分でしくじれば、貴様と部下の命はないと思え」
「りょ、了解です!」
「さあ、姫、一緒に来ていただきましょうか」
「ええ、人質なり見せしめの処刑なり、お好きなようにどうぞ……ですが、あなた方鬼畜どもは必ずや報いを受けることでしょう」
銀河の行く末はどうなるのか。脱出用ポッドはその青い惑星の川へ落ち、そして、どんぶらこ、どんぶらこ……。