役職名
「勿論だとも。この場にいる全員に役職名は与えてある。そして役職名とは、この場においての君たちの『名』となる。『名』が無ければ円滑なコミュニケーションは図れまい?」
「確かに名称は重要だね。だが、それならば単に自己紹介すれば済む話では?」
「それはいけない。この場、この城、その領域において〈城主〉が決めたルールは絶対だよ。従えないのであれば…」
「撃ち殺す、かね?」
「その理解でよろしい。私としても、そんな些事で君たちに消えて欲しくはない。ルールは守り給え。では、最初のルール。君たちには私から『役職名』という名の『名』を与える。以後、私の前と限らず、この領域にいる限り、与えられた『名』を名乗り給え」
「……承知した」
「よろしい。では『役職名』の発表だ。既に伝えた〈ヤンキー〉は飛ばすとして、先ほどから私と話しているそこのご老人。君は〈医師〉だ。次は、そうだな、先の二人を抜いて目を覚ました順で告げていこう。部屋の隅っこで縮こまっている君には〈オタク〉、次にこの場の紅一点には〈新妻〉、ワイシャツの男性には〈弁護士〉、この場で最年少のお子様には〈少年〉、聞いているのか分からんが目を瞑ったままのスキンヘッド君には〈坊主〉、そして最後に目を覚ました寝坊助には〈主人〉の『名』を与える。各自、自身の『役職』は把握したかな?」
孝弘はー否〈主人〉はまず自身に与えられたこの場における名を理解し、徹底する。もしうっかり本名でやり取りをし、それが〈城主〉の耳に入ると大変だ。その場で、どこからともなく銃弾が飛んでくる可能性がある。真実か噓かは別として、真実と過程して気構えはしておいたほうが良いだろう。
他の7人も、〈ヤンキー〉ですらとりあえずは黙っている。好き好んで撃たれたい者など居ない。
改めてこの場の7人ー〈主人〉を含めると8人の『役職名』と人物像を一致させる。
とりあえず、少なからず関わりを持った者から。
〈弁護士〉。〈主人〉が起きて最初に声を掛けてきた温和そうなワイシャツの男性。
〈少年〉。さっきの短いやり取りで得体のしれなさを覚えてしまった子供。
〈ヤンキー〉。出来ればお近づきになりたくない柄の悪い青年。
〈医師〉。矢面となって〈城主〉と話している男性。
それから、今の時点では一切関わっていない者達も、ちらりと確認。
〈オタク〉。言われて気づいたが、部屋の隅で膝を抱えるようにして座り込んでいる男性がそうだろう。
〈新妻〉。線の細さもあって儚げに佇んでいる大分若そうな女性。
〈坊主〉。今の今までー少なくとも〈主人〉が見た範囲、限りでは微動だにせず直立不動を保っている男性。
人となりは分からないが、人物と『役職名』は結び付けておく。
「さて、互いの名を確認した所でこの場は解散としよう。特に何かイベントをしようとも思っていない。ルールは追々伝える。この場はただの挨拶だ。後は好きに移動してくれて構わない。ぜひ、我が城を心ゆくまで愉しんでくれ、お互いに、ね」
〈城主〉のいい様に、筋がゾワリとした。
続けて〈城主〉はこう締めくくる。
「君たちを我が領域に招待した。愉しんでくれ給え」