〈城主〉
「ご機嫌様、選ばれし諸君」
どこかにスピーカーでもあるのか、その声は部屋中に響いた。
声色は女性のものだが、感情を一切感じさせない声。どこまでも平坦なトーンで喋るその声は肉声というより自動音声のそれだった。確認にしようもないが、何者かが何らかの機器を操作して喋らせているのかも知れない。
「私はこの城の主人だ。仮に〈城主〉とでも呼んでくれ給え」
自称〈城主〉は、そんな事を宣いながら非常に機械的な『声』で「ははははは」と笑った。「は」が連続して続くだけの無機質な笑いは寒々しく、そして気味が悪い。
相手が何者か知れないのも、不気味さに拍車を描ける。
そんな空気に負けずーと言うより空気を読まずに喚いたのは、やはりあの青年だった。
「〈城主〉だか誰だか知らねぇが、コソコソしてんじゃねよ! こんなとこ連れ込んだのは、てめぇか!?」
「名乗りはさっきしたよ、〈ヤンキー〉」
「誰がヤンキーだ! ぶっ殺すぞ!?」
「それが、君の役職名さ。私の城において本名というモノは要らない。捨て去って貰う。それが嫌だと言うのなら」
〈城主〉の『声』が若干途切れ、その数秒後。
パン。乾いた破裂音が、この部屋に響く。孝宏たちのすぐそばで。
「銃口は、あちこちから君らを狙っている。撃たれたくないなら、互いの呼び方には気をつけ給え」
銃口。この部屋のどこかに銃があり、相手はいつでも、こちらを狙って撃つ事が出来るというのだろうか。先程の破裂音は、威嚇射撃だと、そうゆう脅し。
真実という保証はない。さっきの音がフェイクという可能性もある。機械音声で喋るような相手だし、今の発砲音だって作り物というのはあり得る話だ。
しかし、もし本当なら…?
重苦しい空気が漂う中、今度は別の者が〈城主〉に言葉を投げ掛けた。
「とりあえず、分の悪さは理解した。その役職名とやらは私にもあるのかね、〈城主〉とやらよ?」