非通知電話を切るのはダレなのか?
…もしもし?
「……」
プツっ。
…もしもし?
「……だれ?切るね」
プツっ。
…もしもし?
「ああん?間違えてんじゃねーの?」
プツっ。
…もしもし?
「どちら様ですか、番号通知設定でかけ直してください」
あの、私…です。お話、いいですか?
「え、ごめんなさい、わかんないです…忙しいので切ります」
プツっ。
…もしもし?
「何?荷物?」
いえ、私は…お話が、したくて
プツっ。
…もしもし?
「………」
プツっ。
…もしもし?
「非通知には出ないことにしてるんで」
プツっ。
…もしもし?
プツっ。
…もしもし?
プツっ。
…もしもし?
「………」
返事が、ない。
でも、通話は続いている。
コトンと、小さな音がした。
通話は、続いている。
……久しぶりに、切らない人に、巡り合えたみたい。
ああ、ステキ。
なんて、幸運。
いたずら電話をしてきたやつに、通話代を払わせてやろうって思っているのね?
どれだけ高額の通話料金を払わせることができるか、ワクワクしているのね?
ありがたいわぁ…その、悪意。
嬉しいわぁ…その意気込み。
このところ、電話に出てくれない人が、多くって。
なかなか縁がつながらなくて……困っていたのよね。
一昔前は、間違い電話から縁がつながるなんてことも、珍しくなかったのだけど。
今は、非通知の電話には出ないって人が、ずいぶん…増えたから。
良かった、この人のおかげで…賄えそう。
最近、未練だけでしがみついてる私の悪意が…、ちょっと薄くなってきてたのよね。
最近、人様の悪意に便乗しないと…自分を保てなくなってきていたのよね。
やっぱり、命を持ってる存在って…貴いわ。
ほんの少しの悪意が、とっても力強くって…ほれぼれしちゃう。
危機感を感じない無防備さが、とっても魅力的で…ワクワクしちゃう。
やっぱり、生きてるって…素晴らしいわ。
つながった電話の先にいるだけなのに…こんなにも、パワフルなんだもの。
か細い電波の先にいるだけなのに…こんなにもビリビリ来るもの。
今すぐ…、あなたのもとに飛んでいくわね?
せっかく繋がった縁だもの、大切にしたいと思うわ?
せっかく出会えた悪意だもの、大きく育てたいと思うわ?
今すぐ、あなたの中に混じらせてもらうわね?
大丈夫よ、あなたの意気地のなさを吹き飛ばしてあげる。
安心して、あなたのくすぶっていた感情を燃え上がらせてあげる。
楽しみね、悪意を撒き散らすのが。
一緒に…心行くまで、羽目を外しましょうね?
……プツっ。