7日目 ー午前、約束の思い出ー
7日目。12月24日。
奇妙な夢を見た。
そのことは覚えている。でも、どんな夢かは具体的に覚えていない。ただ、覚えていることは、誰かと約束したこと。
「約束か……」
上半身だけを起こしながら、自身の小指を見る。
「約束」
笑顔で、彼女は小指を立てる。
その笑顔はなぜだが、安心出来た。
あの風景を、あの声を、あの顔を、そして、僕のその時の心情を思い出す。
「そういえば……」
その記憶の中に、可笑しな点を見つけた。
「…………………」
その疑問を頭の端にやりながら、リビングへ向かった。
朝食時を過ぎ。
瑠璃の提案通り、全員で外に出ることになった。
「一週間という時間で、何でこんなに施設が多いんだろうね」
行った施設など、一つや二つ程度。ここには、もっと他の施設がある。またここに来れればいいのだが……。
本日は、遊園地に来ている。なぜたくさんの施設があるくせして、ここを選んだのか。
理由はさまざまだ。行ったことがある人も居るし、行ったことがない人も居る。行ったことのある人は楽しくて、行ったことのない人は好奇心。
全員が納得いく場所ということで、遊園地になった。
ただ……。
全員で遊ぶことが少々嫌と言いますか……。
嫌いな人が居るというわけではない。断じて、そうではない。
彼女に、今は顔を合わせたくないのだ。
…………………。
だというのに。
「…………………」
「…………………」
何だろう、この気まずい雰囲気は。
遊園地に到着後、お化け屋敷に向かった。瑠璃が最初に行きたいと言ったからだ。特に最初から行きたいところというのはないため反対はなかった。順番は気にしない。それに、お化け屋敷は入場門の近くにある。
お化け屋敷はレベルが選べるようでイージー、ノーマル、ハードがあった。ここに怖がりが居ることを知ってもなお、瑠璃は全員ハードを強制的に選ばされた。それも全員でぞろぞろ行くわけではなく、二人ペア。一人でもいいと言っていたが、そんな一人で行くような人は居ない。
じゃんけん、という何とも運任せなもので……。
しかも、瑠璃が考えただけに、男女別でじゃんけん。男と女のペア。
最初に行ったペアが浩一と薫。次に奏音と圭。泰志と純恋。瑠璃と一斗。そして……、僕と麗那。
最後に僕らが入ったわけだが……。
一切の会話なくして、通り過ぎる。
気まずい空気が漂うが、これを果たして彼女が感じているかと言うと否だろう。
細い道に暗い場所。少々密着ぎみの僕と麗那。
ドキドキが半端ない……。
「彼は■■なの?」
「そうだ」
「なぜ、それを隠してるの?」
「皆が恐怖するからだ」
その答えには納得いく。でも今までの菅智史の性格からして、その答えが来るとは思わなかった。もしかしたら私達が思っているより、菅智史はいい人なのかもしれない。
「じゃあ、どうして私に隠さなかったの?」
「隠してはいた。だが、訊かれては仕方ない。怪しいと思われるくらいなら、明かしてしまった方がいい」
「みんななら、そのくらいで恐怖をしないと思う」
「それ程、アイツらの絆は深いかもしれないが、秘密は秘密だ」
どうやら、正直なことを言いたくないようだ。
「彼の、為?」
「…………………」
答えてはくれなかった。でも、これが本当の理由なのだろう。
彼と二人きりになって思い出した。彼が■■であること。
でも、私は約束した。
後悔なんてしない。
例え■■でも、私は恐怖を感じない。
絶対に。
横目で彼女を見る。すると、彼女は真剣な表情になっていた。こんな顔、初めて見たかもしれない。
それはそうと、話題を探さなければ……。
「あー麗那?」
名前を呼ぶと、無垢な顔がこちらを向く。その顔を直視することが出来ず、ゆっくりと視線を外した。
「泰志と遊園地に行ったじゃない?」
「うん」
「その時、お化け屋敷に行ったの?」
遊園地の中にもたくさんの遊戯がある。お化け屋敷に行かなくても、一日中楽しめるだろう。
「うん」
「どれを選んだの?」
「ノーマル」
「怖かった?」
「…………………」
その質問をした僕が馬鹿だった。彼女にそんな質問など愚問だ。
「あー、ごめんごめん」
「いえ」
会話が途切れる。
瑠璃はどうやって会話しているのだろう。
そういえば、麗那と二人きりで会話をしたのは、あの時くらいだった。
僕はある本を見つけた。何となく気になって読んでみた。
でも、それを読んだのが間違い。
恐怖が止まらなくなった。
内容はこういうものだ。
この世には人類の敵、怪物が居る。そしてその怪物に勝つべく人類は戦い、勝利を手に入れた。だが、一体の怪物は一人の少女に化けていた。そのことにより次々に怪物が増え、この世界はよく戦う世界へと変化した。
誰が、怪物に化けているかわからないという状態。
それを読んでなぜか、僕の心は恐怖という色、一色だった。
怯えて怯えて。
体が震え、自分が誰かに笑われている感覚に陥った。
それが堪らなく怖い。
「隆? 大丈夫か?」
浩一が心配そうに顔を覗く。
「あ、ああ……。大丈夫……」
作り笑いをして答えた。持っていた本を背中に隠して。
そして夜。夢を見た。
「お前は誰だ?」
声が聞こえた。聞き覚えのある声、浩一だ。
「僕は、隆だよ。及川隆」
「嘘だ! 隆はお前じゃねえ!」
次に聞こえた声は圭だ。見回せば、九人全員居た。真っ暗闇の中で、疑いの目で僕を見て来る。
「僕は隆だ!」
「じゃあ、その姿は何だよ!」
「え……?」
自身の体を見ると、本にあった写真のものと似ていた。いや、同じだった。
僕の体は怪物になっていた。
皆の方に手を伸ばす。置いて行かないで、と。
だが、その行動は僕を孤立させた。
「待っ!」
起き上がる。
本を読んだ時と同じ感覚に襲われる。
コンコン。
扉のノック音が聞こえた。
それを聞いて恐怖が増す。
誰だ?
誰であろうと、今誰かが僕の目の前に現れてしまえば、その人が怪物と思ってしまうだろう。
信じたくない。
ここに居る誰かが、怪物だということを。
勿論、この中に怪物が居る、なんて情報はない。でも、今の僕はそうとしか思えなくて。みんなを疑ってしまって申し訳ないけど、そんな僕の心は冷静ではない。
コンコン。
再び扉のノック音。
「開けるよ」
扉が開かれる。
「……!」
そこには一つ年上の少女、麗那が居た。
「どうか、した?」
怯えたような瞳で彼女を見る。僕は彼女の質問に答えられない。
いや、聞こえなかった。そんなことよりも、今この状態に動揺している。
麗那が近づいて来た。幻覚だろうけど、その時の彼女は笑っているように見えた。
彼女が僕の頬に触れる。
ビクッと体を強張らせる。
「大丈夫?」
麗那は僕のことを心配してくれている。
だが、そんな言葉も聞こえていない。
何も言わずにいると、麗那が僕が読んだ本を見る。
「もしかして、誰かが怪物だと思ってる?」
冷静な声で本を見ながら僕に問いかける。その問いは、僕の耳に聞こえた。
僕は頷く。頷いただけなので、彼女に伝わっているかどうかはわからない。
「誰が……怪物かわかるの?」
恐る恐る尋ねる。
「教えてほしいの?」
「…………………」
知りたいような、知りたくないような……。
でも何となく。
何となくだが、誰が怪物か予想はついた。
決して、ここに怪物が必ず居るなんてことはないけど……。
可笑しいじゃないか。
みんな、それぞれの病を持っているというのに。
僕だけが。
僕だけがないなんて。
そんな思考を巡らせていると、麗那が僕の方に向く。僕と視線を合わせて。
「約束」
笑顔で、彼女は小指を立てる。
その笑顔はなぜだが、安心出来た。
ほぼ無意識にその指に絡ませる。
「たとえ、怪物でも私は恐れない。助けるよ、あなたを」
僕の考えを聞いたように僕と約束する。
麗那が絡ませた指を離そうとする。だが、その小指を力を入れて握る。
「じゃあ、僕は」
恩を返すように約束を取り付ける。
「キミの病気を治すよ」
「……!」
驚いた様子で目を見開く。その後、クスリと微笑む。
「うん」
「うわっ!」
そんな回想をしている途中、骨だけの人が視界に映る。いきなりのことだったので驚いた。もしかしたら回想していなくても驚いたのかもしれないけど。
「ビビった……」
いきなり出て来るのは心臓に悪い。
落ち着きを取り戻し、道を進む。驚くのはいつも僕で、麗那はビクリともしなかった。
ただ、お化け屋敷で恐怖を感じなかった。恐怖より驚きが大きかったのだ。
お化け屋敷を出て、みんなと合流。その後、昼まで遊んだ。
浩一を中心に昼飯を準備する。
談笑しながら昼食を済ませた。
そして午後一時頃。
事件が、発生した。




